【死んで、生きて死んで、生きて・・・】 二章
なぜか気持ちいい。ふかふかしていて、いつまでも寝ていられそう…。
寝ていられそう…。
「ーーーーッ!」
刹那、俺は目を覚ました。
視界に入るのは知らない天井。ーー俺は過呼吸になりながら、周りを見渡す。
そして、俺は呼吸を整え始める。
「うぅっ…痛い…」
心臓あたりに激痛が走った。ーーたぶん、爆発の時に一番攻撃を食らった所だからだろう。
でも、肉眼で見える傷は全て治っていた。
それから俺は、自分が寝ている所がベッドだと確認する。
「ここは一体どこだ…?」
そうつぶやき、起き上がる。ーー俺はベッドに座ったままの状態で周りを見渡す。
すると、ベッドの横に置かれてある椅子に、座って寝ているあの金髪の少女がいた。
ーー金髪の少女は、気持ちよく寝ていて、寝ている姿は本当に美しかった。月明かりの下で眠り、金髪を輝かせる少女。起こすのも惜しいぐらいと言いたいが、ここは起こさないでおこう。
俺はそう思って、ベッドから降りる。
「にしても、ネクタイを締めたまま寝るのは結構きついな…」
そう俺がつぶやいた後、ドアが開く音がした。
「どうやら起きたようですね。お客様」
ドアをゆっくり開け、部屋に入っていたのは、メイド服を着たショートの黒髪で、瞳が青い女の子だった。ーーでも、その女の子は俺を睨みつけるように見ていた。
「あぁ…お世話になりまして…」
俺は頭を下げる。
「いいえ。主様があなたを運んできたので、私は何も…」
主様。ーー多分、アリアの事だろう。
「でも、何か一つはしてくれたんだよな。まぁ…その…ありがとうございました」
俺は再び頭を下げる。
「それじゃあ。俺はここで退散させてもらうわ」
すると、メイド服の子は黒髪を後ろの方へとはらう。
「そうですか。それではお出口までご案内いたします」
黒髪の少女はそう言って、ドアをさらに開ける。
「あぁ、どうも」
「お荷物は主様の横に置いてありますので」
黒髪の少女は金髪の少女の方を指をさして、そう言う。
「あぁ…すみません」
なんで謝ってんだ俺?
「それでは、お出口に案内いたします」
そう言う黒髪の子は、多分、さっさとせい、と言いたいのだろう。俺は早歩きでドアの方へ向かう。
俺が部屋を出た時、自分は気づいていなかった。黒髪の子のブルーの瞳が、彼の名前と同じ、瑠璃色に光、怒りに満ち溢れたパワー、殺気を放っていたことを…。
「それでは。道中ご気を付けて」
黒髪の子は頭を下げる。
「あぁ。本当に助かった。それじゃあ」
俺は開けてあったドアから城を出て、町に向かった。町は暗闇に包まれていて、光は騒がしい店の看板を照らすための光のみ。まるで、都会の居酒屋が並んでいるようだ。
酒を飲み、騒ぎ、暴れる。外から店をのぞいていると、そんな姿も確認できる。
だが、こんな怖い道を歩く時には、その騒がしいのが勇気づけてくれるようなものだ。
これはこれでいいな。でも…さっきから寒気と殺気に満ち溢れるような何かが…。
また、あの路地裏の男か…? わからない。でも、まずい状況になっていることには変わりない。これは、さっさと逃げないと…。
「これは本当に、命懸けだな…でも、今じゃないと…」
俺は息を飲み、急に走り出す。
「やっぱり。誰かにつけられていたかっ! これはさっさと逃げねぇーと」
少し、後ろを振り向いた時、湾曲した剣が見えた。さすがにこれは危ない。
「これはまずい。さっさと逃げないと」
足音がゆっくりじゃない。ってか、聞く限り人間じゃない走り方。
普通ならタッタッタッなのに、タタタタタタと聞こえる。これは絶対に…。
「ーーっ!?」
刹那、上から何かが降りてきて、剣を上から下へと振った。
「なんで…なんで…」
「理由なんてないんですよ。あなたは最初から怪しいと思っていたのです。いつか主様を殺すような人の目をしていますからね。でも、もう安心です。もうあなたをこの手で」
そして、光る瑠璃色の目をこちらに向けーー
「ーー殺したのですから…」
「本当に…まったく…」
俺は、そうつぶやく。朦朧としている中、どうにかつないでいる意識だが、その場にあおむけになって倒れ、だんだんとつかんでいた意識も薄れていった。
多分、俺は、この異世界をあまく見すぎていたのだろう。…ぞれじゃあ、じゃあな。俺の異世界ファンタジー物語。
腹部がものすごく熱い…じゃなくて痛みに襲われるが、もう死ぬんだ。関係ない。最後ぐらい耐えようと思う。ってか、何も感じねーや。本当に怖いぜ。死ぬときってーー、
刹那、倒れている瑠璃の背中、心臓部分を狙い、剣が突き刺さった。
鈍い音を立て、剣が瑠璃の体を貫通した時、彼の意識、息はぴたりと止まってしまった。周り一面、血だまりになり、瑠璃色の目をした者は、もうどこかへと消えていってしまっていた。
「ーーじょうぶ」
聞こえる…誰かの声が…聞こえる。
「ねぇっ! 目を覚ましてっ!」
聞き覚えのある女の子の声だ。
「お願いっ! 目を覚ましてっ!」
なんでだろうか、女の子は泣きそうな声で俺に起きてくれと訴えてくる。
あぁ…………俺死んだんだ。
でも、目は少し開いた。
眩しい。そして、黄色い髪がゆらゆらと揺れている。どうやら、目は生きているようだ。
最後に見たのは瑠璃色の鋭い、殺気にあふれた目。あんなのを見て、この世界に生き続けようなんて、だれも思わないだろうな。
でも、俺は…この世界を…この異世界景色を堪能したい。ってか、一体何を思ってんだ俺? 急にそんなことを思って、馬鹿?
今は、さっさとこの世界からおさらばすることを優先しよう。
この世界に、俺が邪魔だという人がいるならば、この世から消え去って、その人の幸せを天国から願っていればいいのだから…。
そんなことを考えている瑠璃は、また意識が朦朧とし、暗闇に包まれていく。
本人はここで終わりだと思っているが、この世界きて、この世界の精霊に触れ、この世界で自分を大切にしてくれている人を作ってしまった以上、この世界からは出られないことは彼は知る由もない。
そして、瑠璃は暗くなる意識の中、何かに押されて、暗い場所から明るい場所へと戻されていく。
死ね、生きろ、死ね、生きろ。
一体どっちなんだよ。神様よぉ。
そして、瑠璃はまた同じ天井を眺めていた。
「あぁ、やっと目を覚ましたのねっ!」
今度は、ベッドの横から、俺を上から覗き込むように金髪の少女は俺を見る。
「どうにか」
すると、聞き覚えのあるドアの開く音がする。
「主様。昼食の準備ができました…その方は?」
俺は起き上がって、その声のする方を見る。
すると、青色の瞳、黒髪のショートにメイド服。ーー昨日会ったあの少女だと分かった。
「この人はね。迷子なの。お金も持っていないし、この場所もよく知らないし、どこか変だしっ!」
最後のは失礼だろっ! …と口に出して言いたいところだが今、良く解らない恐怖に襲われている。
昨日のあの、瑠璃色の目を思い出しただけでも手が震えるのに、この子を見た瞬間に体の震えが止まらなくなっていた。
「どうしたの? 寒いの?」
そう声をかけてくる金髪の少女。
「あぁ、ごめん。少し思い出したくない過去が頭の中に映像として流れてしまって…」
俺がそういうとーー、
「えいぞう? 何それ? 新しい言葉?」
そうだ。この世界には最近のスマホやテレビなどないのだった。
でも、こんなにいろんな危機にさらされているのに、よくもまぁ、スマホは無事なんだよな。ーーでも、圏外。それに、充電が半分。これはいつまで持つかだな。でも、俺は一つだけ良いことをしていた。いつも持ち歩いているコンセントにつないで充電する、充電ケーブルを持ち歩いていたため、何かしら充電方法さえ思いつけば何とかなるだろうに。
この世界は異世界。魔法とか何とかでなるであろう。
まさに、備えあれば憂いなしだな。
「あの…さっきから何かたまっているの?」
「主様。お客様はまた過去のことを思い出されているのでしょう。ここは部屋に置いておいて、先に昼食をすましてください。それでは」
黒髪を揺らしながら、少女は部屋を出て、ドアをバンッと勢いよく閉める。
「今日のエノどこかおかしいわね。でもまぁあ、ここは昼食をさっさと済ませてきますか」
金髪の少女は一度、ため息をつく。
「それじゃあ、寝てて待ってね。昼食は持ってくるから」
そう言って、金髪の少女は椅子から立ち上がる。
「あぁ、ありがとさん」
そう言って、俺はまた天井を眺める姿勢に戻り、そして考える。ーー昨日の夜の瑠璃色の目をしていた人型の何かを…。
「一体何だったんだろうか。あの目、あの言葉…」
でも、何も手掛かりなしで俺を殺した犯人の特定は無理だろう。いつかまた…いや、近いうちに俺を殺しに来るであろう。それまでに、どうにか…。
そして、急に足音がして、今俺のいる部屋のドアの前に立ち止まり、誰かがノックをする。ってか、なんで俺は部屋の外の様子を見れるんだ? なんだ? これも異世界ファンタジー世界の何かか?
「ねぇ、入るわよ」
声の正体はあの金髪の少女だった。
「あっ、はいっ!」
と、俺はベッドから急いで降りて、ドアを開ける。
「あぁもうっ!」
金髪の少女は、なぜか頬を膨らましている。
「なっ、なんでしょうか?」
そう俺が問うとーー
「病人っ! じゃなくて…けが人は寝て待ってないといけないでしょっ! 腹にあんなに深い傷を負っていたんだから、本当に休んでおかないといけないのよっ!」
なぜか、俺は説教されているような気分…。
「はい…すみません」
瑠璃は苦笑いをして、謝る。
「でも、まぁあ…ありがとう」
そう言って、金髪の少女は唇を尖らせ、どこからどう見ても怒っている表情のまま部屋に入る。
「にしても、俺は立ち名前も知らないのによくここまで話せるようになったな」
そう俺が言うとーー
「確かにそうね。まぁ、名乗らなかったのは礼儀としてあれよね。ごめんなさい」
金髪の少女はそう言って、椅子の横に置いてある机に、料理が乗っている皿をトレーから移し置き、こちらに体を向けて、頭を下げる。
「いやいや、こっちも名乗っていなかったし…まぁあ、ごめんなさい」
俺もそう言って、頭を下げる。
「さて、こうやって頭を下げていても名前がわかることなどないっ! それじゃあ、ここで自己紹介会っ! …いやっ、なんかおかしいな…まぁあ、自己紹介をしあおうではないかっ!」
そう言って、瑠璃は腕を上げ、天井に向かって指をさす。
「何? 天井に何かあるの…まさかっ! ネズミっ!?つい最近追い出したばっかりなのに」
なんか話がズレいているような気がするのだが…。
「ネズミではないです…」
まぁあ、俺がネズミみたいな存在だということはわかっっているのだが…学校でさんざんネズミ男とか言われたしな…目が細いからっていう理由で…。
そして、瑠璃は一度ため息をつく。するとーー、
「えいっ!」
金髪の少女は、瑠璃の口の前で音を立てて手を合わせる。
「えっ? 何? 急にどうしたの?」
そう瑠璃が金髪の少女に問う。
「ため息なんてついちゃったら、幸せが逃げるんだってっ!」
「いや、自慢そうに言っているけどそれは現実ではありえっ」
俺は、途中で口を閉じた。
彼女に現実では起こりえないことだと言おうとしていたが、これも彼女の優しさ、ここはしっかりと受け止めておこう。
「急に口閉じちゃって、どうしたの? 何か言いかけていたような気がしたのだけど?」
瑠璃は目を閉じ、笑みを浮かべる。
「…何でもない。それじゃあ、お先に自己紹介をさせていただこうかっ!」
瑠璃はそう言って、一度深呼吸をする。そしてーー、
「俺の名前は夜空瑠璃っ! 名前から暗い感じだがっ! 俺は全然暗くない性格だっ! しかもっ! なんでこんな名前を付けたのかは俺にも親にもわからないレアケースだっ!」
そう自慢げに言う瑠璃を見て、金髪の少女は、笑みを浮かべる。
「名前から暗いとか決めつけるなんて、おかしい! 一体君の国はどこなの!」
金髪の少女は笑いながらそう言う。
「そこまでおかしいか?」
でも、少しうれしいな。俺の名前だけでこんなに笑ってくれる人がいてくれるなんて。
まぁあ、名前じゃないと思うのだが…。
「すー…はぁ~」
金髪の少女は深呼吸をしーー、
「夜空瑠璃。…覚えたわ。私の名前はアリアよ。オペラとかで言うアリアと良くみんなから言われるけど、たぶんそうなんだろうねっ!」
「いやいやっ! そんなに明るい笑顔を見せてオペラのアリアとか普通に言うやついねぇーぞっ! ってか、誰だっ! そんなことを言うのはっ!」
一人って…結構つらいのだぞ、そんなことを彼女に簡単に言う奴なんて、許せぬ。
「まぁあまぁあ、落ち着いて、るり」
「え…?」
「えっ? 名前間違えた…?」
「いや、別に違ってはいないのだけれど…」
他人に、名前で呼ばれたのは初めてだ。だから…少し…。
「じゃあ、るりって、これから呼んでいい?」
彼女がそう俺の問う。
瑠璃は再び目を閉じ、笑みを浮かべーー、
「あぁ、いいよっ! 俺も、これから君のことをアリアと呼ばせてもらうっ!」
そういうと彼女ははにかんで、人さし指を唇に当てる。
「うんっ! 私はアリアと呼んでくれてもいいよっ! よろしくね。るりっ!」
アリアが見せた美しい笑顔。俺はいつの間にか、その笑顔に惚れそうになるが、頭の中に何かが割り込んできて、変なことを考え始めた。
人は、なんでこんな笑みを浮かべることができるのだろうか。ってか、俺はいじめられっ子で、コミュニケーション力がないはず。なんだよ。結局俺はそこら辺の物語の主人公なのか?
だけどまぁあ、別にいいや。コミュ力ゼロで最低底辺人間でも、最悪、ここまで人と話し合うことができたなら。本当に考えがコロコロと変わる自分だが、俺はそんな自分のままでいいと思っている。
どうせ、どうやっても、どうあがいても、どう苦しんでもどうもがいても俺には主人公の座なんて取れないのだから。
でも、人生という物語は、必ず主役がいないとだめなんだ。だから、一人一人に物語がある。
その物語の展開、ストーリー、すべてを考えるのはすべて自分なんだ。だから、生きている人や虫、動物も皆、だれもが主人公なんだ。
だから、俺も、主人公らしく生かせてもらう。
「これからもよろしくな、アリア…」
俺はそう言って、少し笑う。
「何がおかしいの?」
アリアは顔を傾げ、そう俺に問う。
「いや、何でも」
「なんで泣いているの?」
「なんでもないっ! さっ、今は何をしにこの部屋に入ったんだっけアリア?」
俺はそう言って、アリアがここに来た本当の目的を思い出させる。
「あっ、そうだった。こんなことをしてるうちに料理冷めちゃうっ!」
瑠璃はアリアが慌てる姿を見て、笑みを浮かべる。そして、今立っている所から、窓の方を見た。
「今日も真っ青だな…」
そう言って、瑠璃はベッドの方に戻っていった。
近いうちにまた殺されるかもしれない。でも、今は誰に殺されるか、いつ狙われるかがわからない。だから、いつ殺されてもおかしくない状況にいるわけだ。
どうして、俺がこうやって何度も生き返っているかは、良く解らない。ただ、アリアの何かを俺が持っているから、場所と命の危険性を知って、俺が倒れている現場に駆け付けられたんだと思う。
暗い海の中、意識と同時に奥へ、海底へと沈んでいき、海の底に体が触れた瞬間、俺の命はないだろう。
「何ぼーっとしているの?」
アリアはベッドに座っている俺を見て、そう言う。
「少しね。考え事を…」
そう言って、何もない天井を見て、俺は何かを考えていた。
自分が何を考えているのかがわからないのに、考えていた。学校でも、友達がいなかった俺は、いつも何もない天井を見て、何かを考えていた。まさか、この異世界でも同じようなことをするなど考えてもいなかった。
前と変わらぬ自分。異世界に来て何かが変わるかなと思ったが、何も変わらなかった。
さすがに、ここの期待はだめだったかとこの世界に来て何度も思った。
何度も死んで、何度も生き返る。死ぬときは自分だけが苦しんで、もがいていればいい。
でも、生き返るときは、必ず、誰かが悲しんでいる顔を見ないといけない。
それは、俺にとっても、相手側にとっても、苦しいことだ。悲しいことだ。
だから俺は、死の真相を突き止めたい。もう人の悲しむ顔なんてごめんだ。笑って過ぎていく毎日と、涙を流し、泣き叫び、苦しむ毎日、どっちが自分、人にとってはいい?
俺は決まっている。人は笑って暮らせる毎日を送る。そして、俺は苦しみ、絶望の淵に浸る方を選ぶであろう。一生、死ぬまで…。
「そういえば、最近エノがさ、君のことを知らないっていうのよ。最近紹介したばっかりなのになんででしょうね?」
急にアリアがそんなことを言う。
「まぁあ…それは俺が嫌いだからじゃないかな…?」
俺はもが笑いをして、そう返答する。
まぁ、実際学校では裏で人を侮辱するっていうのが一番嫌いだった俺は、クラスメイト全員の前でーー、
「俺の悪口なら、小さい声じゃなくて大きい声で、本人に聞こえるように言ってくれっ!
さすがに、裏であーだこーだと言われると胸糞悪い。お前らももう大人に近いのだから、言いたいことははっきりと本人に言ってくれ、それか本人に聞こえるように言え。以上だ」
ーーんなことを言ったな…今思うとそれが話し相手もいなくなる日々の原因を作ったことだったかもしれないな。
まぁ、友達なんて、いた方が苦労するし、人一倍に苦しまなければならないし、ならいっそいない方が楽なんじゃないかと思ってしまうよ。
まぁあ、それは友達がいる人からすると、強がりな意見だなと思ってしまうのだろうなと俺は思っている。 …そうだ、俺は強がりたいんだ。
刹那、俺の意識は急に黒に染まった。そして、ーー、
「あっ…また俺死んでしまった…………」




