【約束。必ず生きて帰ってくること】 最終章
俺は今、広い草原で馬に乗っている。
馬は剣聖団のイルが操っている。俺は後ろに乗って、精霊殺しの奴らが放ってくる爆発魔法の爆風を浴びて、飛ばされそうになるが、馬につかまってどうにか耐えている。
馬車はイルさんに任せて、俺は精霊殺しを引き付けて、ガラスの塊を投げる。ーーガラスの塊は、今いる草原の五分の二を焼け野原にする威力だ。
だから、俺は命を懸けて今手に持っているガラスの塊を投げないといけない。
馬車から距離をとるのに少し時間が必要。あと、精霊殺し全員のターゲットを俺に向ける必要もある。
その二つを早く済ませて、穏やかな生活に戻りたい。
穏やか、安堵の日々なんてできないけれども、一度落ち着く時間が欲しい。
毎日命懸けでやってきたんだ。少しぐらい休憩してもいいだろう。
次の季節は氷。ーー冬だ。
リアと約束した通り、俺は必ずリアの元に帰って三人で雪景色を見るんだ。だから、俺はアリアを連れてリアの元へ帰る。ーーそれが約束だからな。
「瑠璃様、アリア様の馬車の横に着きました。アリア様っ! アリア様っ!」
イルがアリアの名を呼ぶと、アリアが窓のようなところから顔をひょこっと出してきた。
「イルさんっ!? それにるりっ!? 一体ここで何をしているの?」
「ーー話はあと、それよりリアは城かっ!?」
約束、リアは城で待っていると言った。もしかすると城に残っているかもしれない。
「えぇ、城に残ると言っていたわ。それより、危ないからるりも早く馬車に乗ったら!」
と、アリアに言われるが…、
「すまない。それはできん。その代わりに、イルさんが馬車に乗ってくれる。イルさん、後は頼みました。馬車はこのまま止まらず」
俺はそう言って、イルさんから鞭を受け取る。
「えぇ、必ず」
イルさんはそう言って、馬車に移った。
「どうして…」
アリアはそう小声で言う。もちろん俺はしっかりと聞こえていた。
だが、俺は無視して馬車から離れていった。
「さぁあ、ここからお前らとの勝負。ここは遠くからでもいいところを見せないとな」
俺は精霊殺しの軍団を見た後、アリアが乗っている馬車を見る。ーー馬車はだんだんと遠くなっていき、小さくなっていく。
少し、心配だが、イルさんがいるから安心だ。
「精霊殺しどもよく聞けっ! カゲロウは俺の手によって死んだっ!」
俺がそう大声で言う。
だが、風の音で何も聞こえなかっただろうと思っていて、もう一度叫ぼうと後ろを見た。
そしたらーー、
「うっわっ! あんな言葉を言っただけで精霊殺しが一人残らずとここっちに来るとは、少し予想外だったなっ!」
精霊殺しの団体は、アリアの馬車の追跡をやめ、俺の方へと走ってくる。
「これ…本当に倒せるのか?」
少し心配もしながらもそうつぶやく。
「いや、こんなところで弱音を吐いている暇なんてないだろう。少しでも時間を無駄に使っちゃあいけねぇ。
精霊殺しを一度の場所に集めて、倒す方法。
言葉通り、一網打尽にしたい。
一つだけ、考えは浮かんでいた。それは、俺が精霊殺しに殺されて、そして、ガラスの塊が地面に落ちて、塊が強い振動によって爆発する。
生き返りの力を頼りにするしかない。
「もうこれしかない…」
俺は馬を止め、その場に降りた。
「お前は逃げろ、ここは危ない。ここまで乗せてきてくれてあんがとよ。ほれ」
俺は馬の尻を叩き、逃がした。
「さてと…いっちょやりますかっ!」
そうつぶやくと、猛ダッシュで走ってきた精霊殺しと目が合う。
「さぁ、お前らのリーダーを殺した男、それは俺っ! 夜空瑠璃だっ!」
そう叫ぶと、精霊殺しは俺を囲んでナイフを構えた。
「さて、ここからは俺もお前らも生きては帰れねぇよ。俺の場合は、一度死んで変えるがなっ!」
そして、俺は精霊殺しがナイフを投げると同時に地面にガラスの塊を叩きつけた。
すると大爆発が起きた。
その頃、アリアは馬車を止めて、俺がいる方向を見ていた。
アリアは、ものすごい爆風を感じただろう。その他の人たちも、イルさんも。
みんな、ただただ燃え盛る炎と黒い煙を唖然として見ているしかなかった。
「はっ! るりっ!」
俺の名を呼んで、爆発現場の方に向かって、真っ先に走っていったのはアリアだった。
「アリア様っ! 危ないですっ!」
イルさんはそう言って、アリアを止めに入ろうとする。
「止めないでくださいっ! るりは私の大切な人、大切な人を見殺しにそろって言うのっ!? とにかく私を止めないでくださいっ!」
そう言い残したアリアは、走って爆発現場に向かった。
イルさんは、アリアの言葉に、アリアの顔を見て何も言えなかった。
自分の過去を思い出し、イルさんはアリアを止めるのを断念した。
アリアは涙を拭い、走った。
走っている時、何度も俺が死んだと思っただろう。だが、その考えを無理やり押しのけて、生きていると自分に信じ込ませた。
そして、爆発を思いっきり食らった俺の視界は真っ白になり、耳鳴りのような音が耳を支配していた。ーー怪我したところだろうか、ものすごく熱く感じる。
「……君は、本当に命を大切にしようとは思わない人なんでしょうね。誰かのためにならこの命を全て捧げます状態。まぁ、君の物語が進むなら、私は何も言わないし注意もしない。ただあきれるだけ。でもまぁ…あれしかみんなを助ける方法はなかったと思うわ。それじゃあ、頑張って。各々は君に感謝する気持ちでいっぱいだろうに。早く戻してあげないとね」
黒い煙のような物体が一人でごちゃごちゃと喋っていた。
そして、俺の視界は漆黒の黒から眩しい白い光へと変わった。
「……るり! ーーるりっ!」
誰かの声が聞こえる。この声は、もしかすると…。
「目を覚まして…目を覚ましてよるり…」
俺の頬に涙を零して、そう俺に願うのはアリアだった。
声は聞こえている。抱きしめられているのもわかる。でも…体が動かせない、口が開かない。意識はまだ少し朦朧としている。
もう少し、もう少し待っていてくれ…俺はもうすぐ君に話しかけることができるだろう。
そして、俺はまた意識を失った。
さてと……そろそろ再起動とするか…。
「……んっ」
俺は体全体の痛みを覚えながら目を覚ます。
「るりっ! るりっ!」
俺の名を叫ぶ声が再び聞こえ、俺は覗き込むように見てくるアリアの姿を目にする。
ーーアリアは瞳を潤し、俺を見ていた。
「一体…俺は…」
そうつぶやき、起き上がろうとする。
「いっ!」
急な痛みが襲い掛かり、俺は声を出す。
「大丈夫? まだ寝ていた方がいいんじゃない?」
アリアは慌てて俺を寝かそうとする。
「それはありがたいのだが、少し座らせてくれ」
俺はそう言って、座る体制になる。
「それで…大丈夫なの?」
アリアはそう言って、涙をぬぐった。
「あぁ、どうにか…な」
俺はそう言って、周りを見渡す。
「他の奴らは大丈夫だったのか? それと、アリアも大丈夫だったか?」
俺は馬車に乗っていた人とアリアの安否を確認する。
「えぇ、馬車の人も私も大丈夫。…一つるりに聞いてもいいかな?」
アリアの言葉に、俺は首をかしげ、
「ん?」
と声を出す。
「どうして…どうして、るりは城に残らずにどこかへ行っちゃったの?」
アリアの部屋に訪れた時、話はのちにすると言った。ーー多分アリアは、一度落ち着いた状況になったから。だから、何があったか、俺は一体どこに行っていたのかを聞きたのであろう。
「ちょっと、俺の力が必要になるって言われて、城を出ざる得なかったんだ」
と俺は後頭部に手を当てて、アリアにそう言う。
「まぁあ、俺の力のことについては大体想像つくだろう。でも、俺がその力を持っているとは限らない。もしかするとにするか。もしかすると、その力が精霊殺したちのことにかかわっているかもしれない」
俺は胡坐をかき、下を向く。
「これから先、生きている限り俺は精霊殺しと戦う日々を送らないといけないかもしれない。奴らとは出会わないようにすることは、決して避けられないことなんだ…」
俺は口をへの字にして、眉間にしわを寄せる。
俺がこの、『リフレインの力を持っている限り、俺は精霊殺しと向き合って殺しあわないといけない。
今回、精霊殺しの一番上のカゲロウを倒せたのは運が良かっただけかもしれない。
誰だったか忘れたが、重要警戒の精霊殺しがあと七人いる。傲慢、強欲、怠惰に色欲。憤怒と嫉妬。そして暴食。
カゲロウのような奴が、あと七人となるともう先が見えなくなってくる。
いつ殺されるか、俺は毎日死のきわどい位置にいる。
「……るり、難しい顔をしている。でも、当り前よね。精霊殺しが関係する事となると色々と難しいよね」
アリアはそう言ってうつむく。
「まぁあ、精霊殺しが襲ってきた時は、その時に対策を考えればいい。今精霊殺しがいつ襲ってくるかとか考えていると、毎日警戒して過ごさないといけなくなるからな。その時…その時のことはその時に考えよう」
俺は顔を上げ、アリアを見る。アリアも顔を上げて俺を見る。
「今は、少し休憩しようや。俺は少し疲れた。身も心もボロボロ。少し休憩する時が欲しい。今は、リアのリアがいる城に帰って、休憩しよう」
俺は笑みを浮かべそう言う。
「……」
アリアは少し俺を見つめて何も喋らず、一度目を閉じてうなずく。
「そうね。そうしましょう。…私も疲れたわ。何もしていないけど疲れた。るり、私たち一度休憩しましょうかっ!」
アリアはそう言って、笑顔になる。
「あぁ!」
俺はアリアの瞳を見る。ーー二人の瞳にお互いが映る。
「さてと。城に戻るとしますか!」
俺はそう言って、立ち上がる。
「ってか、今立って大丈夫なの? もう少しここで休憩してからの方がいいと思う。星も綺麗に見えるし、私は少しここで星を見ていたいとも思うし…べっ、別にあなたと見たいってわけじゃないけど……」
俺は、少し驚いた様子でアリアを見る。
そして、俺は顔をかしげて笑みを浮かべてその場に座る。
「本当ならば、リアとアリアで見ようとしていたんだが、まぁあしょうがないっか」
俺がそうつぶやく。
「えっ!? そうなの!?」
アリアは驚く。
「だが、星っていうものは時間が経つにつれ場所も変わってくるし、見える星も変わってくる。だから、リアとアリア、そして俺と見る時の星は違うと思うよ」
少し意味が解らないことを言って、俺はアリアの方を向く。
でも、一ヶ月経っただけでも見える星は変化する。
数秒に肉眼では確認できない程の短い距離を移動する。
でも、移動しているには変わりはない。星をずっと見ていても、その時にしか見れない位置でもあるということだ。
空を見上げた時、星を居た時、それはその時にしか確認できない。
前と同じ位置で見るなんてこと、到底かなわないだろう。
「綺麗だね…」
アリアが不意にそうつぶやく。
「…そうだな。一つ一つ輝いてる」
そう言って、俺は輝く星を見ていった。
「にしても、俺がいた所と同じ星を見れるのは、この世界で一番喜ばしいことだな…」
俺はそう言って、現世の思い出を思い出せるものの二つ目を見つけた。
「んじゃあ、もうそろそろ帰るとしますか」
俺はそう言って立ち上がる。
「そうね。馬車の方も準備ができそうだし」
そして俺はアリアに手を差し伸べた。
アリアは俺の手を取り、立ち上がる。
そして、俺とアリアは馬車の方へと歩いて向かった。
歩いている時も、俺は星を見ていた。先の見えない草原だから、一番端の星も見えた。
その星はきらりと綺麗に輝いていた。
俺にとって、アリアやリアのように……。
俺は、あんなようには輝けないだろう。
そんなことも思いながら俺は馬車まで歩き続けた。
馬車までの距離が長く感じると思っていたが、意外と短く感じていた。
もう少し、アリアと肩を並べて星を眺めていたかったが、みんなが待っている。だから、今はみんなの所へと早く行ってあげないと。
それに、城に戻ったらリアも待っていてくれている。
だから、早く戻ろう。
俺たちの家に。
アリアと俺は馬車に乗り、フォーマルハウト領をに向かって進んでいる途中だ。
アリアは寝ていて、御者さんは真剣に馬を動かし、俺は後部の方に座ってずっと星を見ていた。
「ぐへへ~そんなに食べれないよ~」
急に変な笑い声が聞こえたので、その声をする方向を向くとアリアがいた。
「食いしん坊かっ!」
と俺は小声で言う。
意外なアリアの姿を見て俺は頭に焼き付けてしまった。
まぁ、そんなうれしい姿を見た俺は笑みを浮かべてアリアの寝顔を見る。ーーアリアは笑顔で寝ていて気持ちよさそうだった。
こんな安堵して寝ているアリアを始めてみた。ってか、寝顔すら初めて見た。
安堵して夜を過ごせた日なんて、全然なかった。
夜を過ごす時は毎回死んでからか意識を失っているか、生き返った後かになる。
ほんとひでぇもんだ。
でも、まぁあ俺は寝ていないんだがな。
まだ安心して寝れないんだな。ーーまだ少し安心できない状況下で、そしてまだ精霊殺しが残っている今
決して安心などないんだなと俺は思っている。
でも、ほんのたまには安堵していてもいいかもしれない。
ずっと走り続けて、精霊殺しの情報をつかんでまた走ってを繰り返しの日々。いつかはこけて当分は歩きや休憩しかできなることもある。
だから、たまには立ち止まって、しっかりと準備をして精霊殺しを倒していこう。
それじゃないと、日々のストレスや疲労が精霊殺しとの戦いの途中で出てきてしまうかもしれない。
これから、自分の身をボロボロにするようなことばっかりの日々が続くであろう。
だから、たまには休憩して、精霊殺しのことをして、それからまた休憩しよう。
それができないのなら、最初っからゆっくりと歩いて、地道に情報を得て戦おう。
まぁ、『リフレイン』の制限時間があとどれぐらいかわからない今、あまり安心などできないのだがな。
だけど、命がある限り、何があろうと俺は立ち上がって精霊殺しと戦うだろう。
『リフレイン』の力が続く限り、何度でも立ち向かう。
「瑠璃様。もうそろそろアリア様の城に着きます」
御者さんがそう言う。
「あっ、はい。ありがとうございます」
レルスとベラトリックスさんは先にプレアデス団の城に戻ったらしい。
基地やアジトなどではなく、城だ。
まぁあ、この世界最強の人たちだから、城を持っていてもおかしくはないだろう。
そして、俺はアリアの近くに行ってアリアの体を少し揺らす。
「アリア、アリア。起きてっ!」
と、言う。
すると、アリアは目を覚ます。
「ん…ふわぁ~。……って私、寝ていたのっ!?」
アリアは起きてそう言う。
「いや、おもっきし寝てたし。しかも寝言もいってたよ」
俺は笑みを浮かべてそう言う。
アリアは頬を膨らまして俺を見る。
「もう知らないっ!」
「ーーって、理不尽。どうか許してくださいな~」
俺はそう言って手を合わせる。
「まっ、まぁあいいけど」
アリアは顔を少し赤く染めてそう言う。
「瑠璃様、到着いたしました」
御者さんがそう言うと、俺は、
「あっ、ありがとうございました。アリア、戻ってきたぞ。さっ、帰ろっか」
そう言って、俺は先に馬車から降り、アリアの方を見た。
「うん、そうだね」
アリアはそう言って、笑みを浮かべる。
そんなアリアに俺は手を伸ばした。
「ありがとう」
アリアはそう言って、馬車から降りた。
そして、アリアは先に城に戻り、俺は御者さんと話していた。
「すみません。こんな格好までさせて、城まで運んでいただいて」
俺は御者さんにそう言う。
「いえ、これが仕事ですから。アリア様に御者さんまで剣聖団だと知られるとまずいですからね。特に私、イルだと知られたら」
そう、ここまで馬車を動かしていたのは馬とイルだった。ーーイルはフードをかぶって姿を隠していた。
そして、アリアが城に戻ったことを確認して俺は話しかけた。
「それでは、私はここで。瑠璃様もどうかご気を付けて」
イルはそう言って馬を動かせた。
「気を付けて~」
俺はそう言って、馬車を見送った。そして、
「瑠璃様っ!」
と言って、誰かが後ろから抱き着いてきた。
そして、俺は後ろを向いて、誰かを確かめた。すると、
「ってリアっ!? ってか、良かったよ本当に」
俺はリアの姿を見た時、安心した。
カゲロウがこの城の前に居た時、リアに何かがあったのかと心配で心配でしょうがなかった。
「瑠璃様は約束を守ってくれました! 守ってくれましたっ!」
そう言って涙を零すリア。
「あぁ、約束はしっかりと守る男なんでな」
俺は笑みを浮かべてそう言った。
「まぁ、リアもこうやって生きていてくれていることだし、少しの間は休憩するか」
俺はそうリアに言う。
「…はい。休憩しましょう」
リアは一度俺から離れて涙を拭い、笑顔でそう言った。
そして、リアは俺の肩に自分の肩を引っ付けて、城の中まで向かった。
その後は三人でいろいろと話したり、一度城に帰ってきた時に離せなかったことを離したり、リアに怪我の手当てなどをしてもらった。
そして、今。
この城に、光が灯るようになっていたのだった。
そして、三人の笑顔が再び戻った。
俺は、少しの間だけでもいいから何もないことを願いながらアリアとリアと話していた。
まっ、そんなことが叶うことなど到底ありえないのだった。
「さて…私を倒したあの者どもに復讐をしなければ…あぁ…あぁ…あぁぁぁぁぁっ!」
第一章 完




