【二人で一つの力】 十三章
精霊殺しに戦いを挑むことになった俺は、覚悟を決めてアリアの城の前に立っていた。
前には精霊殺しの集団。多分、その中にはカゲロウもいるかもしれない。
この世界に来て最初に倒した精霊殺し、あいつの正体は分からないまま。ーー串刺しになって倒せたって、思い出したくもない。
だけど、それ以上に痛々しい勝負となるであろう。
この量といい、俺の戦闘能力といい、全てが低く俺は瞬殺だろうな。
本当に、この世界はおかしすぎる。
でも、今はそんな弱音を吐いている場合ではない。
「ベラトリックス団長、このまま歩いて突っ込んでいった方が。走ったら止まれなくなってしまい、魔法で殺されてしまいます」
レルスはそう言いながら歩いて、精霊殺しとの距離を少しずつ詰めていった。
ベラトリックスさんもレルスと肩を並べて、精霊殺しとの距離を縮める。
「んじゃあ、戦闘開始と行きますか」
俺は、まだこちらに気付いていない精霊殺しの集団を見て、
「おいてめぇら! 一体人のとこんで何してやがる? まっ、理由を聞いてもお前らを倒すことには変わりはない。この敷地に入ったことを後悔させてやる。行くぞ二人っ!」
精霊殺しの集団は一斉にこちらを向き、俺が話を終えたらベラトリックスさんとレルスは瞬にして俺の隣から消えて精霊殺しの集団を剣で切っていく。ーー二人が消える瞬間、ちょっとした爆風のような風が吹いた。
「クッソ、目に砂が入った!」
俺は目をこすって、砂を取り除く。
「団長、後ろの方」
レルスは剣を振りながらそうベラトリックスさんに言う。少し遠くにいた俺も聞きえるほどの声だった。
「あぁ、やっとお出ましだな」
そうベラトリックスさんが言う。そして、ベラトリックスさんの目線の先には城の大きいドア。その前の階段の真ん中に立って、不気味な笑顔で俺たちを見ていたのはカゲロウだった。
「いやいや、実に面白いですね。血を出し戦い、倒れ立ち上がっての連鎖。実に滑稽です。ですが、勝負を挑んできた方々…三人の方は血も涙もない。血も流していませんし、疲れてもいない。手下を殺されている私からしたら、それほどいらだたしいことはありません。ですから、今からあなた方をあの世に送ることにしましょう」
言いたいことを全部言ったのか、カゲロウはニヤッと笑う。
カゲロウは結構強いと思うが、こいつの本気を見たことのない俺からすると、恐怖でしかない。だが、今ここで引き下がるわけにもいかない。だから、
「あぁ、殺せるものなら殺してみやがれこのクズリーダー」
俺はカゲロウを睨んでそう言う。ーーカゲロウは舌の横を噛んで、口から血を出す。そして、怒っている表情になった。
「あなた、私を怒らせましたね。実に不愉快っ! なら、あなたを殺して差し上げよう」
そして、カゲロウは瞬でナイフを取り出し、俺の方へと投げてきた。ーーその投げられたナイフはとてつもなく速かった。
避けれないというピンチ。諦めかけていた時だった。
「大丈夫ですか瑠璃殿?」
レルスが細い剣の刃で俺の方に飛んできたナイフを防いだ。ーーレルスの並外れた身体能力などを考えると、あんなナイフを防ぐことは簡単だろう。
「失せろ邪魔者。今は私とその少年との勝負なのです。首を突っ込むなクズ」
カゲロウは怒った表情でレルスを睨みつけ、握った手から血が出てくる。ーー長い爪を手の平に押し付けて、爪で切れた所から血が出てくるのだろう。
「いいえ、私は引き下がることはできません。瑠璃殿の護衛についている限り、私はこの方をお守りします」
レルスは剣を片手で持って構え、カゲロウを睨みながらそう言う。
「邪魔がぁ、邪魔がぁ、邪魔者がっ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
カゲロウは怒り狂い、明らかにまずいオーラを放つ。ーーそのカゲロウの狂気は、俺たちに牙をむく。
「忌々しい奴らめっ! あぁ~あぁ~あぁぁぁぁっ!!」
カゲロウは言葉を発していくたびにひどく狂い始める。
「おいおい大丈夫かよあいつ。前からおかしい奴だとは思っていたのだが、おかしい以上となると」
俺はそう言って、後ずさる。
「予想以上に狂っていますね。少し、私も心配になってきました」
レルスはそう言って、カゲロウを見る。
ベラトリックスさんも、ずっとカゲロウを見ていた。
「いろんな意味で痛々しい奴だ。だが、私たちが引き下がるなどあり得ないことだ。ここはあいつを殺して後にした方がいいだろう。レルス、手下を含めてあの狂気野郎を排除するぞ」
「はっ!」
ベラトックスさんと、レルスは剣を構えてカゲロウと戦う準備をする。
「こいつを倒すと、この世界に革命が起こるかもしれない。ここは頼んだぞ二人」
俺は他の策を考えながら、二人にそう言う。ーーせめて、カゲロウはこの手で始末したい俺は、どこからか隙をついてカゲロウを殺そうとしていた。
散々苦しめられてきた。何度も痛い思いさせられた。そして、アリアを殺した。だから、俺はカゲロウを絶対に許せない。許しちゃいけないんだ。
「二人とも、あいつらをボコせっ!」
俺はこぶしを空の方へと上げる。
「あぁ、言われなくても殺りますよ」
ベラトリックスさんはそう言って、深呼吸をする。
「瑠璃殿がそうおっしゃるなら、私はあの者には容赦はしません」
そうレルスは言って、キリっとした目つきでカゲロウを見る。
その二人を後ろから見ている俺は、こぶしと手のひらを当てる。
「んじゃあ、いっちょっやるかっ!」
そして、俺はカゲロウの方を見る。
「死ぬ準備はできましたか。さっさと終わらせてやるっ! あぁぁぁぁぁっ!」
カゲロウは叫んで、手のひらじゃあ収まらないほどの大きさの岩を魔法で宙に浮かべ、銃弾のような速さで俺の方に飛ばしてくる。
しかも、これが何十個となると避けるのも防ぐのも厳しい。
「初っ端から死んでたまるかっ!」
俺は地面に置いてあった剣を足で拾い上げて剣先を真下にして縦に構えた。
「ーーあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
次は、俺の叫び声が響いた。
そして、宙に浮いて銃弾のようにこっちに向かってくる石は剣にぶつかり、落ちていく。だが、何十個もあると防げない石も出てくる。ーー剣で防いでいる所に関しては何もなっていないし、傷一つすらい付いていない。だが、剣で防げてのは顔面と体の真ん中一直線だけだった。
肩は切り傷ができて、石が体に当たったところは青く変色していた。ーー石が体に当たった時、異常な熱を感じた。もしかしたら魔法で石の温度を上げて飛ばしていたのかもしれない。瞬の事だったため、考える余地もなかった。少しでも冷静になっていれば、石が変色していることに気付けただろう。
「大丈夫ですか瑠璃殿?」
「ーー俺は大丈夫だから攻めに行けっ!」
心配そうにして近づこうとするレルスに俺は叫んだ。
「今は、俺の心配をしている暇なんてあるか? 今俺をかばって守っている暇なんてあるか? 答えは簡単だろう。答えはノーだっ!」
今戦っている二人の内一人が抜けたら、この勝負には勝てなくなる。俺のことで、俺のせいでこの勝負を勝てなくなるのは嫌だ。
それに、この怪我ぐらいすることは覚悟していたことだ。
今までの努力を灰にしたくない。だからーー、
「俺は何度だって立ち上がってやる。だから、俺にかまわずあいつを殺しに行けっ!」
頭、腕肩と血を流し、吐血しながらも俺は立ち上がる。
「ここまで無理をさせてしまった。それは、私のせいだろう。最初から本気で挑んでいたら、こうなることはなかったはず。非常に反省している。だが、今は前のことを考えて後悔している場合ではない。今からは本気を出す!」
レルスはキリっとした表情から一変、ガチで怒っている表情に変える。ーー眉間にしわを寄せ、歯を食いしばり、剣を強く握る。
そして、強く握った剣先をカゲロウに向けて、
「狂気にさらされた男、カゲロウ。私は、お前を倒す」
はっきり言って、俺は奴を倒せなさそう。
俺ができることは、手下を殺し、カゲロウの手を読むこと…あぁ、なんで俺はそんな重要なことを忘れていたんだ。
「レルス」
「なんでしょうか瑠璃殿?」
「考えを共有できるような魔法なんてないか?」
すると、レルスは一度剣を下におろし、あごに指を当てて記憶を探る。
「えぇ、心当たりは」
そう言って俺の方へと視線をやる。
「それは今使えるか答えてくれ」
するとレルスは超絶に怒った表情を変えて、笑みを浮かべる。
「えぇ、もちろん」
メリット、デメリットを聞きたいところだが、今はそんなことをしている暇なんてない。
「なら、その魔法を使うぞ。俺の考えをお前に、お前の考えは俺に」
俺はそう言って、レルスを見る。
「わかりました。それでは」
レルスは目を閉じ、深呼吸をする。
ベラトリックスさんは剣を振り続けて、俺たちを守っていてくれている。だから、今は敵一人俺とレルスに近づいてくることはない。そして、
「ーーコネクトっ!」
レルスが『コネクト』と言った瞬間、俺の頭に別の考えが入ってきた。
「ん、瑠璃様が考えていることがわかりました。私もそれに協力させてもらう」
俺と考えを共有、つまり『コネクト』を使ったレルスは、俺が知っているカゲロウの情報をすべて知った。
まず、俺にはカゲロウの周りに煙のようなものが見える。その煙は、カゲロウが魔法を使う時に変色していく。
たぶん、色は魔法のタイプを表しているのであろう。そのえも共有させた。
レルスが戦っている時でも脳内で考えられたこともすべて俺にも伝わってくる。
俺は、ただカゲロウの周りの煙の色を見分け、その色からタイプを読みレルスに頭の中で伝える。
二人で一つ、俺はレルスを頼りにもしているし、早すぎる信頼もしている。
命がけの賭け、緊張もするし少し怖い。だけど、俺は生きて帰ることを自分に約束する。
今ここで死んでたまるか、もうカゲロウの好きにもさせないし、あんな奴の前で弱い姿を見せたくない。だからーー、
「俺は最後まで本気で挑むっ!」
そして、レルスは微笑んで、瞬のスピードでカゲロウの目の前に来た。
「この世にもう、戻ってこないでください」
そして、レルスはカゲロウの方から斜めに剣の刃を入れた。
「そんな一切りだけで、私が駆逐されると…? まだでぇすまだなのでぇすっ! ワタシはまだ生きていますのですっ! あなたたちを殺すまでは死なないのですっ!」
一度カゲロウから距離をとるレルスだが、少し余裕があるような顔をしていた。それはなぜかも、俺は『コネクト』を通じて知っている。
だが、そのレルスの考えは時間差で起きる。だから、その起きるまで俺たちは絶えてはいけない、耐えないといけない。
死の淵に自ら立った俺たちは、その淵に落ちないようにしなければならない。だが、今はバランスが取れていないのと同じ状況。
バランスが取れた時は、死の淵から一度離れられたも同じだ。だから、今はバランスを必死になって取るしかない。
「瑠璃殿、来ますっ!」
「ーー私が、この私が負けることなど許されないのです! 神は私に言うのです。この世を支配しろと、この世を滅ぼせと、この城に住む少女を殺せとっ! 私は神の言う通りにやっているだけですっ! あぁぁ~あぁぁ~あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うるせぇよ。あんな叫び声を聞いていたらこっちまでおかしくなりそうだ。さっさと終わらせたいが、まだ駄目みたいだな」
俺はレルスの方を見ながらそう言う。
「えぇ、もう少し時間がかかるようです。…あの肉体にどんなけの魔法を付けたんだ?」
レルスはそう言って、歯を食いしばる。
「これはまずいという状況。しょうがない。レルスと瑠璃様、ここは私に任せてください。多分、分かりませんが、移動中の馬車が襲撃されている可能性があります。馬は一頭だけ、門の所に隠しています。それを使ってください」
そう言って、ベラトリックスさんは剣を構えてカゲロウの方を見る。
「でも、それじゃあベラトリックスさんは」
「ーー大丈夫です。剣聖団になん十年もいて、死にかける事は何度もありましたし慣れています。特に、精霊殺しとなると」
ベラトリックスさんは眉間にしわを寄せる。
「レルスっ!」
俺はどうするか、全てレルスに任せようとしていた。ーーそれはなぜか、俺が選択すると、誰かが死ぬかもしれないからだ。ーー誰かが死んでしまうという恐怖がトラウマになって、俺は自分で選択することすらできなくなっていっていた。
「瑠璃殿、私はカゲロウが死ぬところを見届けなければなりません」
俺とレルスが考えた戦闘方法が、レルスをこの場に縛っていた。
カゲロウが剣一振りで死ぬとは思っていなかった。だから、剣でカゲロウに傷が入った時、レルスは魔法を使って精霊をカゲロウの体内に入れた。ーー普通の人間の場合、精霊が入ってすぐに死んでしまう。だが、カゲロウは体内に何か呪いの類に入るようなものがつけられていた。ーーこれも魔法だ。
その呪いは何個も絡まっていてほどけない、つまり解けにくい。だから、レルスの入れた精霊はてこずっている。
「精霊を入れたのは私です。精霊をカゲロウの体内に入れた。そして、死ぬようにした。奴が死んだ時、精霊も一緒に死んでしまう。精霊を送り込んだ私は必ず奴と精霊たちの最後の姿を見なければならない。ですから、私はここに残ります」
レルスはそう言った。
レルスが使った精霊は、死者から取ったもの。死者から無理やりとった精霊の最後も見届けずに行くのは無理だった。精霊を人からとる。それは、人の死を表すことにもなる。
精霊を取ったことで、生き返るかもしれない人物まで殺したレルスは、罪悪感に押され、色々な気持ちに押し潰されそうになっていた。
俺はそんなことも知らず、今の場に立っている。
「俺も残ろう。元はと言えば、俺が全ての原因だ。だから、俺はあいつの最後を見届ける。そして、俺はあの二人の元へと戻る。約束、したもんな」
俺はリアと指切りをした小指を見る。
「本当にまったく、粘り強い奴は嫌いだし、カッコつけるやつも嫌いだ。だが、二人ともしっかりとした理由などを持っている。なら、私はもうここから逃げろとももう言わない」
ベラトリックスさんは少し呆れ顔そう言う。
「もう茶番は終わりましたか、ワタシはさっさとあなた方を殺したくて殺したくてしょうがないのですっ! さぁ、決着を付けましょうか。アハハハッ! アーハハハ八ッ!」
「クッソ奇妙な笑い方だなチクショウ。二人とも頼んだぞっ!」
「ーー瑠璃殿っ!」
「ーー瑠璃様っ!」
剣聖団の二人に今、倒れられちゃあ困る。だから、俺が少しでも時間稼ぎをしてっ!」
「今死ぬのは勘弁だが、今はこうするしか方法はねぇっ!」
俺の運次第だ。生きて帰れるか、死んで変えるかそれか、生き返るかっ!」
「ストーム!」
今はコネクトでレルスとほとんどの物が共有されている。なら、大丈夫。
すると、強風が起きて数秒したら砂嵐が起こった。
「瑠璃様、あれは気付いていない様子。レルス、あの魔法を教える時に言ったのか? コネクトの状態でも、魔力を共有されないって」
ベラトリックスさんはレルスにそう問う。
「まさか、ここで使うとは思っていなかったですし、私はあの魔法を教えた覚えがありません」
二人はなぜ俺がこの魔法を知っていたかなんて知らない。俺はただ、漫画とかで覚えた用語を言っただけだ。ーーただの英語…。
ちなみに、俺が他の魔法を使うことは絶対にできない。この魔法ができたのは俺にもわからない。
それと、この時の俺自身は強風を起こす魔法、『ストーム』しか使えないことを知らない。この世界でもほとんど忘れられた魔法。使う者はほとんどいなかった。
そして、俺が起こした強風はやがて収まり、カゲロウの正体もしっかりと見えるようになっていた。それから、俺は、
「瑠璃殿っ!」
レルスは、カゲロウが目をこすっているのを確認して、とっさに倒れた俺の方へと寄ってくる。
「クッソ…悪い。体が動かねぇ」
レルスは少し慌て始めた。
「とりあえず。ヒール!」
レルスは俺の回復を始めた。すると、体が軽くなって動かせるようになった。
「とりあえず体を動かせるほどには回復させました。瑠璃殿立ってください。すぐにカゲロウは魔法を撃ってきます。今カゲロウが目をこすっている間に」
俺はそう言われてすぐに立ち、ベラトリックスさんの方へと戻った。
結局、俺は二人の足を引っ張っただけかもしれない。だが、少しでも時間を稼げたらという部分ではしっかりとできた。ーーカゲロウは目をまだこすっている。砂が結構入ったようだ。
「レルス今しかないぞ」
ベラトリックスさんはそう言って、攻めに入る。
「ーーはっ!」
すると、レルスは俺の方を見て、
「瑠璃殿は少し休憩していてください。ここからは私たちが攻めますっ!」
レルスは瞬の速さでカゲロウの元へ行き、カゲロウの体に傷をつけていく。
なかなか目からとれない砂のおかげで、まだカゲロウは目をこすっている。俺は、魔法を使ったとたん倒れたため、目に砂が入ることはなかった。レルスたちは砂嵐が起こる範囲外にいたため、目に砂が入るのはまぬがれた。
「あぁーあぁーあぁぁぁぁぁぁっ! 私の血がっ! ワタシの肉がぁぁぁぁぁぁぁっ!」
カゲロウは、叫ぶ。叫んで叫んで叫びまくる。
「ってか、うっせーよほんとっ! 少しぐらい黙ってろっ!」
俺はそう言って、腰にある腰にある剣を出して構える。
「瑠璃殿、ここは少し下がっていてください。後から攻めてきてくれれば、出番だけはしっかりと確保しておきますので」
レルスはそう言って、笑みを浮かべる。
「あぁ、そこっとこは譲れねぇ場面。主人公がかっこよくボスを倒すのはお約束っ!」
そう言って、俺も笑みを浮かべる。
「さて、私の精霊たちがあなたを殺すまでに、私と瑠璃殿でお前を討つ! フェバリットアステリアっ!」
レルスがそう言うと、剣が星のように輝きだした。
「なんだかすごそうな技が出てきたな! 異世界パネェな!」
そして、レルスは瞬で動き出してカゲロウのの近くに行き、剣をとてつもない速さで振る。ーーカゲロウは何度も切られ、血を流すが、まだ倒れる気配がない。
「クソ、まだ倒れそうにねぇ。一体俺はどうすればいい? 考えろ考えろ」
俺は頭をフル回転させ考えた。
ベラトリックスさんは手下の方の応戦で手が離せなさそうな状況、そしてレルスはカゲロウを切って離れて攻撃を避けてまた近づいて攻撃を繰り返している。
「あぁクソ、全く思いつかねぇし。俺がもっと最強主人公だったら…」
何々だったら、そんなことばっかり考える俺。俺の頭の半分はそれが占めていた。
だが、レルスはしっかりと出番を作ってくれると言った。だから、その言葉を信じて俺はここで待つしかない。
だがしかし、レルスが何度カゲロウを切っても倒れる気配がない。さっきとあまり変わらぬまま。だけど、変わった点はある。ーー何度も切られたせいか、カゲロウがだんだんと抵抗できない程弱り始めていた。
「ワタシはっ! ワタシはここで死んではならないのですよっ! 神にっ! 神にっ! ヴァァァァァァァァッ!!」
またさらに狂い始めたカゲロウ。もうそろそろ危険だと俺は思って少し後ずさるが、レルス、ベラトリックスさんを見ると、自然に俺は前へと歩き始めていた。
二人が汗と血を流して戦ってくれているんだ。なのに、俺だけとっととおさらばなんて考えられない。
「俺は…お前を殺す」
俺はそう言って、カゲロウと目を合わした。
「その勇気がどこか湧いてるのか、私が知りたいほどですが今はそんな状況ではありません。とりあえず、さっさと死んでくださいっ! アハハ八ッ! アッハハハハッ!」
レルスがちょうど離れた頃、カゲロウは俺の目を見てそう言った。
「瑠璃殿、もうそろそろです」
俺に近寄って、レルスはそう言った。
「あぁ。そろそろ始めようか、俺たちのダンスをっ!」
あとから少し恥ずかしくなる台詞を言った俺は、この時は勝負に集中していたため、恥ずかしく感じることはなかった。
「もう少し、速く剣を振るとしようか」
レルスはそう言って、再び攻め始めた。ーー先ほどより剣を振る速さは断然に違った。
しっかりとは見えないが、一振り一振りがしっかりとカゲロウに当たっていて、カゲロウを弱らせている。そして、
「あぁ~あぁ~あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
カゲロウが叫び始めた瞬間、急に地震が起きてどこからか大きい岩が落ちてくる。
「これはまずい。二人とも、頭上注意だっ!」
俺はそう叫んで、二人に注意をする。
「少しこれは手間がかかる。瑠璃殿、一度下がりましょう。カゲロウの魔法が使える範囲外に行かなければ、落ちてきている岩で死んでしまいます」
レルスはそう言って、俺の方を見る。
「あぁ、確かにそうだな」
そして、ベラトリックスさんもやってきた。
「精霊殺しの手下は、落ちてきた岩で大体死にました。とりあえず、今は範囲外に」
そう言って、三人はカゲロウから少し距離をとった。
「あぁ~あぁ~あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
カゲロウはずっと叫んでいた。
「瑠璃殿、もうそろそろ精霊たちがカゲロウをあの世送りにします。出番が欲しいとなれば、この落ちてくる岩を避け、カゲロウの胸に剣を一突きしなければなりません。ですが、これは危険です。ですから、今回は私に任せてください」
レルスはそう言って、俺の前に出て剣を構える。
「とまぁ言われても、諦められない…とかは言えない。ここは諦めるか。でもまぁ、今はコネクトでつながってんだ。二人で一つという状態だ。頼んだぞ」
俺はそう言って、レルスの肩を弱くたたいた。
「はい。任されました」
それから俺はレルスの後ろに戻り、レルスは剣を空の方に上げた。
「再びこの技で行こうか、私と瑠璃殿の力で!」
レルスは剣先をカゲロウに向ける。そしてーー、
「フェバリットアステリナっ!」




