【命を懸けてでも守り抜く】 十二章
アリアの部屋の前。
俺とリアは話をするためにアリアの部屋を訪れようとしていた。
「んじゃあ、ノックするぞ」
「はい。ノックするのには許可はいりませんよ瑠璃様」
そして、俺はドアに三回ノックした。
「アリア、少しいいか?」
俺は少し声を出して、入室の許可をもらおうとする。
「うん、いいわよ」
そう、応答の声が聞こえたため、俺は「失礼します」と言って部屋に入った。
「大丈夫だった? 怪我なかった?」
アリアは落ち着いた様子で、俺の方へと駆け寄ってきた。
「何言ってんの? 怪我がないかとか、それはこっちのセリフだ。んで、怪我はなかったか? 顔に泥なんて付けて、一体何があったんだ?」
俺はアリアの顔に付いた泥を、ポケットから出したハンカチでふき取りながら、何があったかを聞く。
「話せば長くなるの」
アリアがそう言ったが、俺には時間の余裕がなくなってきていた。ーーベラトリックスさんはまだこの城の近くにいるはず。遠くに行くまでに追いついて協力しないと。
「わかった。…アリア、あとでしっかりと話してもらってもいいか?」
自分から話を聞きに来て、色々と失礼だけど俺には時間がない。早くベラトリックスさんの所へと行かなければならない。
「うん。いいけど、理由を聞いていい?」
そうアリアが言ったとたん、俺は斜め下を向き、口をへの字に曲げた。ーーきっと理由を言ったら止められるに違いない。
そんなことが脳裏を過り、つい口ごもった俺は視線を横斜め下にやる。
「少し野暮用があって、そっちの方に手を回さなくなってしまって。俺も、後でしっかりと話すから」
そう言って、俺は笑顔を作りアリアの目を見る。
「そう…わかった。また、何かあったら言ってね」
アリアはそう言って、笑みを浮かべる。ーーその笑顔を見ると、少し安心する。
「それじゃあ、少し行ってくる」
俺はそう言って、アリアに背を向けた。
背を向けた時、アリアは表情を変えた。ーーどこか心配そうで、暗い感じになっていた。少し出ていた手も俺には届かず、そのまま俺を見送ることしかできなかった。
だが、そんなアリアの姿を俺は知る由もなかった。
「失礼しました」
俺はそう言ってアリアの部屋から出て、早歩きで廊下を移動し、城の出入り口に向かう。
「アリア様が止めるかもしれない。そうでも思っていたんですか瑠璃様?」
そう俺に問うのはリアだった。ーーアリアの部屋に一緒にいたが、存在を忘れていた。
「うん。まぁあ、そう思ってしまった。だが、ここで止められるわけにもいかないし、俺自身がここで立ち止まることもできない」
もしも、俺がここで立ち止まったらまた死ぬ。周りのみんなもだ。
俺は、できれば誰も死なせたくない。だから、そのために俺は戦わないといけない。
「瑠璃様は少し、急ぎすぎているかもしれませんね」
リアはそう言って笑みを浮かべ俺の方を向いてくる。
「これが終わったら少し休憩しましょう。次の季節は氷。この城から見る雪は綺麗ですから。また、あのベランダで、アリア様と瑠璃様、そして私と一緒に見ましょうね」
リアはそう言って、なぜか一粒の涙を零す。
「…」
俺は黙る。ーー一度目を閉じ、深く深呼吸をした。
「じゃあ、それも約束に追加な」
そう言って、俺は笑顔でリアに言う。
「はいっ! きっと見ましょうね!」
この世界での季節は春から冬、秋に夏という順番になっている。ーーこの世界では、桜は春で氷は冬。ーー氷と書いてひょう。秋は枯れ、夏は夏季と現世と変わらぬ言い方。
俺がこの世界に来た時は、桜が散りかけていた。だから、春の桜に至るわけだ。
そして、もうすぐ氷に入ろうとしているところ。ーーブレザーはもうボロボロになりかけていた。現世での学校では校則違反だが、中にパーカーを着ていた。
異世界に来て、今まで気付かなかった俺も、少しのろけていたようだな。何度も来たり脱いだりしているのに気付かなかったとは。
って、そんなことを考えている暇なんてなかったな。
「んじゃあ、話も終わったということで俺は行ってくるな」
色々と考えたり話したりしていると、城の出入り口の前まで来ていた。
そして、俺はリアにそう言って腕を上げ、手のひらを見せる。
「本当に行かれるのですか?」
リアは心配そうに俺を見て、そう言う。ーーやはり、心配なんだろう。
「あぁ」
俺はそう言う。
「…」
リアはうつむく。
「俺は大丈夫だよ。心配などいらんし、帰ってくると約束した。リア、お前は俺が生きて帰ってくると信じて待っていてくれ。それじゃないと、運悪くポロっと命おとしてしまうかもしれねぇーし」
俺はリアの頭に手をそっと当て、顔を近づけてそう言う。ーーリアは心配そうな顔をするが、その表情から無理やり笑顔に変えた。
「はい、わかりました」
リアは頷く。
「ん。それじゃあちょっくら行ってくるわっ! アリアの事、頼んだ」
俺はそう言って、リアの頭から手を離す。ーーリアは「あぁっ」と声を出し、まだ足りませんといいそうな顔をする。
「んじゃあ、この城に侵入できそうな所は全て、凍らせておいてくれ」
俺はそう言って、リアに背を向けた。その刹那ーー、
「必ずですよ。約束ですよ。私はここであなたを待ち続けます」
リアは急に俺の背中に身をゆだね、そう言う。ーー俺は、そっと肩に当てられたリアの手を握る。
「あぁ…必ず」
そして、リアとの話を終えて城から出てきた俺は、周りを見渡して驚く。
「出てきて早々、死体だらけかよ」
俺はそうつぶやいて、恐る恐る階段を下りていく。
「瑠璃殿」
誰かが俺を呼んだ。ーー俺は名前を呼ばれ、声のする方を見る。するとそこには、俺より年上だと思われる若い青年が立っていた。もちろん、知らない人。
「…あんた誰?」
初対面の人、しかも俺より年上だろう。
「あぁ、失礼。私はプレアデス団所属、レルス・カストルと申します。どうか、お見知りおきを」
そう言って、丁寧にあいさつをして頭を下げる。
「剣聖団。ということはベラトリックスさんの…」
「はい、部下ということになりますね。本当は、ここに私と同じ団のイルが配属される予定でしたのですが、ベラトリックス団長が別の場所に配属させたようで、代わりに私がここに配属されました」
と、このレルス・カストルという青年は言う。
「あ、はい。それで、れりゅっ!」
俺は緊張のあまり、舌を噛んだ。
「レルスだけでいいですよ、瑠璃殿」
と、おっしゃるので問答無用でレルスと呼ばせていただく。
「それじゃあ、レルス。今の状況はどうなっているんだ?」
そう呼び捨てで俺は名を呼び、タメ語で今の状況を問う。
「今は、精霊殺しの手下だと思われる奴らを倒しているところです。ん…?」
レルスは説明した後、急に目つきを鋭くして剣に手を当てた。
「どうしたんだレルス?」
そう聞いた刹那、
「ーーはぁっ!」
剣を急に出し、俺に背を向けて剣を振り、門の方へと刃と同じ形をした光が瞬で飛んでいき、そこに立っていた精霊殺しの体は真っ二つに。
「いや~精霊殺しには気付かなかった。にしてもグロいな。助かったよレルス」
俺はそう言って、城の出入り口前から精霊殺しの死体を見る。
「いいえ。あなたたちをお守りするのが私の仕事ですから。それで、これからお伺いしようとしていたのですが、瑠璃様はどうして外に出ていらっしゃるのかを聞いても?」
レルスは、俺にそう問う。
「あぁ、実は精霊殺しとの戦いに参戦しようかと」
「ーーだめです! あなたは城に戻ってアリア様をお守りくださいっ! そして、自分の身を守ってください!」
レルスはそう言うが、俺はもう引き返せねぇ。俺にも意地がある。だから、
「悪い。それは聞けない頼みだな。俺は精霊殺しのトップを戦場の全線に出させるほどの力を持ってんだ。それに、今まで何もしてこなかった分、ここで…。だから、俺は何を言われようが戦いに行く」
俺はそう言って、レルスを避けて階段を下りて行った。
「瑠璃殿」
レルスが俺の名を呼ぶ。俺は立ち止まり、振り返る。
「なんだ? こっちはもう時間がねぇし、早く済ませてくれ」
俺はそう言って、眉間にしわを寄せる。
「本当は問答無用で城に投げ飛ばすところなんですが、私もあなたがやってきたことについては今回はやむを得ない。精霊殺しのトップとなれば…私も同行いたします」
レルスはそう言って、俺の横に来る。
「最初の言葉については、聞き捨てならないのだが、もう時間がねぇ。行くぞ」
今の俺は時間がない。早くこの騒ぎを終わらせないと。
「そういえば瑠璃殿。馬車の用意ができたと部下から聞いたのですが、どういうことですか?」
そうレルスに俺は聞かれ、説明をする。
「今、アリアたちの城には、リアとアリア以外に王都で生き残った者がいる。その人たち、アリアとリアを含めて安全の領に送ってもらう」
そう俺が言うと、
「リージェル領ですか? まぁあ、向こうにお金を支払えば死者を出しても守ってくれるだろう。でも、城のルール的にそれはアウトになりませんか?」
「死者を出してでもって…。そのルールについては破らせてもらった。以上」
正直、お金が来るなら人の命なんてどうでもいいと言っているような。一体どんな支配者だよ。
「とりあえず、避難してきた人々は安心して任せておいといていいか?」
俺はレルスの方を見て、そう問う。
「えぇまぁ、もちろんですが…」
レルスは少し不満そうな顔をしてそう言う。
「それじゃあ、向かうか」
俺はそう言って、城の門に体を向けて歩いた。
「はい。瑠璃殿」
そして、俺の後ろからレルスがついてくる。
俺が持つ剣は一つ。ハッキリ言ってこの剣で俺は精霊殺しから身を守ることができるのかが心配だった。ーー剣の扱い方は少し知っていたが、この世界では通用しなさそうだ。
「瑠璃殿、少しお伺いしたいのですが?」
歩きながら、レルスは俺に質問してくる。
「なんだ?」
俺は振り向かず。前を向いて歩きながらレルスの質問を聞く。
「精霊殺しのトップと戦うのは決定事項。でも、一体どこで戦うかがわからないのですが?」
レルスはそう言って、首をかしげる。
「とりあえず、ベラトリックスさんと合流しない限り、何も始まらない。だから、一度ベラトリックスさんの所に行って、話し合って戦闘開始だ」
作戦の大まかな部分だけ言って、俺はベラトリックスさんを探す。
誰かの力を借りないと戦えない。誰かの力があってこそ俺は今生きている。ーー結局は、俺一人じゃ何もできないってことだ。本当に、屈辱だ。
一度捨てようとした命。それに神は怒ったのか、俺にこんなことをさせて…。
一体何が楽しい。きっと俺を苦しめるつもりだろうに。
「とりあえず、大体の作戦は承知しました。まずはベラトリックス団長を探すところからですね。門を出てからというもの、そこらから視線や殺気を感じます。もう精霊殺しは私たちを狙っていますね」
レルスの言葉に驚き、考え事がぷつりと切れてしまった。
「もう精霊殺しが…。気付かなかった」
俺は周りを見渡すが、精霊殺しの姿はない。ーーだが、嫌な感じはしていた。
視線、俺たちに向けられた殺気、感じ悪いものを多数感じる。
「瑠璃殿。そろそろ精霊殺しをあの世送りにしますか? それとも殺りますか?」
「ーーどっちも意味は変わんねぇよ! まぁあでも、ここはさっさと片づけた方がいいか。精霊殺しを排除するか」
俺は少し震えている手で剣を抜いて構える。
「瑠璃殿、少し私の後ろに」
レルスにそう言われ、俺は言われた通りにレルスの後ろに立つ。
そして、レルスは目を閉じて深呼吸をする。
「敵が一人二人…………数百人」
「ーー桁がすごく上がったような気がするけどっ!?」
俺は周りを見渡し、ここに何百人の精霊殺しがいるんだなと思う。
「まぁ、このぐらいの人数なら簡単です」
「このぐらいって言ったなっ! 今いる剣聖団でも百はいかねぇよ!」
俺は恐怖のあまりか、頭がおかしくなっているようだ。
「まぁあまぁあ、少し見ていてください」
レルスは苦笑いで俺を落ち着かせて、思いっきり剣を地面に刺した。ーーレルスが剣を地面に刺した刹那、周りに冷たいような鉄の音が響き渡る。
「瑠璃殿、耳を伏せてください」
俺は、言われた通りに耳を伏せた。
すると、レルスの剣から爆風のようなものが出てきて、俺は飛ばされそうになる。
どうにか踏ん張ったが、体力の半分は持ってかれた。
「一体今のは何だったんだ?」
やがて爆風は収まり、俺は耳から手を離した。
「この剣の高い音で、精霊殺しの耳をつぶして爆風と共に散った精霊たちで排除いたしました」
そう笑って言うレルスに俺は、
「パネェなおい」
と言って唖然としていた。
「良く解らないが、どうも。それより、先を急ぎましょうか」
本当にこいつはなんでも笑顔で済ませていこうとしやがる。
「にしても、俺は一体どうやってベラトリックスさんと合流しようとしていたんだっけ?」
俺はそう言って、首をかしげる。ーー頭をフル回転させて考えるも、出てこない。
つまり、考えていなかった。ただ、近くにいるはずだろうと思っていて考える必要ないと思ったことを思い出した。
「まっ、そこら辺のことについてはお任せを。団長の居る所なんてすぐにわかりますから」
と、レルスが言った刹那に爆発音が聞こえた。
「あんな感じで戦うのは団長以外ありませんね。それじゃあ行きましょうか」
そう言って、レルスは爆発音がした方へと向かう。
走っているレルスは俺より少し速く、俺はもうバテバテだ。
「本当に足が速いな、レルスは」
俺はぜーはーと荒い呼吸をしながら走り、レルスに喋りかける。
「こんなのまだ、序の口です」
レルスはそう言って、笑みを浮かべる。
「そんな言葉、一度でもいいから行ってみたいぜ」
呼吸を荒くして、俺はそう言う。
一応、現世でも筋トレはしていたがここまで来るのにものすごい体力を使った。
こりゃあ明日か今日かに筋肉痛になるだろう。
「瑠璃殿、団長の姿が見えました。…結構苦戦していますね。これは早くいかないと」
そうレルスが言うので、俺は少し考えて、
「レルス、行ってこい」
「ーー承知」
俺がそう言うと、レルスは流れ星のようにスピードで精霊殺しの手下を倒していった。
少ししてから俺もベラトリックスさんの近くまでやってきた。
「瑠璃様、姫との話はもう終わったのですか?」
ベラトリックスさんが剣を振りながら俺に聞いてくる。
「あぁ、話はいましがた…少し前に終わった。とりあえず、今はこいつらをぶっ倒すだけだ。少し踏ん張るぞ」
俺はそう言って、ベラトリックスさんからもらった剣を構える。
「俺だって、少しぐらいならっ!」
そう言って、俺は精霊殺しの奴らに牙をむく。ーー無我夢中になって剣を振り続けていると、精霊殺しの何人かを倒していた。だがしかし、
「結構グロいな、少し酔ってきた」
なぜか、頭の中で今の状況以上のグロさを連想させてしまい、気分が悪くなった。
「瑠璃殿、別のことを考えてください」
ベラトリックスさんがそう言う。ーー俺は必死に頭の中を別のことで埋め尽くそうとするが、何かが邪魔をする。
まさかーー、
「あぁぁぁぁぁぁっ!」
急に頭の中が痛くなった。
「ーー瑠璃様っ!」
「ーー瑠璃殿っ!」
ベラトリックさんとレルスが俺を見て名を呼ぶ。だが、俺はものすごい頭痛に襲われていて、聞こえているのに反応ができない状況。
「精霊殺しの魔法のうちの一つだったな。瑠璃様、早く別のことを考えてくださいっ!」
ベラトリックスさんがそう言うが、何もできない。
そして、レルスがーー、
「姫の事、リア様のことを考えることをおすすめします。大切な人たちでしょうし」
レルスは精霊殺しが投げてくるナイフを剣で防ぐ。
レルスが言ってくれた、大切な人たちのことを考えると、少しずつと頭痛が収まっていった。
「少しマシになってきたようですね。団長、もうそろそろ来るかもしれません」
レルスはベラトリックスさんの顔を見てそう言う。
「あぁ、もうそろそろ来るかもしれんな。警戒をしておこう」
ベラトリックスさんはそう言って眉間にしわを寄せる。
そして、俺は少し難しい顔をして周りを見渡す。
「どうしたんですか? そんなにきょろきょろして、何か見つけましたか瑠璃殿?」
レルスは首をかしげて、俺を見る。
「いや、なんかきっきから視線と殺気、そして、やな予感した」
俺はそう言って、腕を組んで周りを見渡す。
この時の俺の目は、何かを見て恐怖している顔だっただろう。手の震えは止まらず、ヅキヅキと来る頭痛。
嫌な予感しかなかった。
「もうそろそろの確率が高い。精霊殺しの手下が周りにいるのは確かだが、皆どこかへと向かっている。こちらの存在に気付いているから襲いに来ると思いきや、誰もが襲いに来ず、どこかへと向かっている?」
そして、レルスは周りを見渡した後、一度目を閉じてうつむく。そして、顔を上げると、
「まずい。瑠璃殿、今すぐに城に戻りますよっ!」
レルスはそう言って、走り出した。
「そういうことか、これはまずい状況になったな。瑠璃様、行きますよ」
そう言ってベラトリックスさんも走り出した。俺はその二人を追うようについていった。
明らかに普通の人間じゃ出せないほどのスピード。
「異世界恐るべしだな」
そう言いながら息を切らし、スピードは前の二人と違ってこっちはマラソン程度。
異世界人と同じ力が欲しいと改めて思った自分であった。
普通の異世界転生、転移ものは主人公が最強でハーレムで~とかだろう。なのに、異世界転生、無力の主人公最弱、ただ与えられた力は生き返りの力、『リフレイン』の力だと思われるもの。それにその力のせいで人が争い殺し合っている。
はっきり言って、この力はほしくなかった。でも、今は違う。ーー今は守るものができた。命を懸けてでも守り通さないといけない人ができた。
いつ、俺はどうやってあの二人を守らないとと思ったのかは覚えていない。もう、異世界に来てからの記憶に支障が出始めていた。
だが、今はそんなことを考えている暇なんてない。今はとりあえず二人に追いつくように走らないと。
そして、俺は二人の後を追い続けた。
それからたどり着いたところは、
「アリアの城…」
レルスとベラトリックスさんは、門の前で立ち止まって城を眺めていた。
「レルス、一体どうしたんだ? 急に走り出したりして、俺はいまいち理解できん」
本当は、少し理解している。ーーこの城の方に走っていく二人を見て、もしかすると…と思っていた。
俺は、何もないことを願うばかり。
城の前、集団で何かをしている人たちがいた。
移動用の馬車はなくなっていて、この城は誰もいない状況。ーーそれを見た時、俺は安堵する。
「本当に、こいつらは嫌いだ。さっさと倒しに行くぞ。こいつら、服装から見て精霊殺しどもだ」
「えぇ、団長の言う通り、精霊殺しです。瑠璃殿、行きますよ」
「あぁ」
この城には、プレアデス団の姿はなく、三人だけで挑むことになる。
「こいつら、全員殺す」
俺は眉間にしわを寄せ、いつもより目つきを悪くし、こぶしを強く握った。
そして、俺とベラトリックスさん、レルスだけで精霊殺しの集団と戦うことになった。
「必ず、勝って見せるっ!」




