【逃げても死は免れぬ】 十一章
あの日、俺はアリアを助けられなかった。
おまけに、後から来たリアも死んでしまった。ーー黒い煙が、その後のことをすべて語ってくれた。
無力。ーーそれが俺を怒らせる。誰も助けられない。何もできない。それをすべて無力のせいにしてきた。
だけど、今回は無力のせいじゃない。すべては俺のせいだ。
少しでもしっかりとしていれば、守れたものを、俺は汚らわしく、怠惰に油断していた。
この世界がどういう世界か、何度も死んで、何度も生き返って、何度もそれを繰り返し、理解していたはずなのに、アリア、そして俺の持つ力、『リフレイン』の力を狙っている奴が数えられないほどいるっていうのに、俺は…。ーー少しの油断が、命取りになるこの世界。俺は、その世界の概念に押し潰されそうになっていた。
それでも、俺はまた生き返って彼女たちを守らないといけない。
たとえ、何があっても、自分の命が危なかろうと、たとえ火の中水の中、俺は彼女たちに手を差し伸ばさなければならない。
俺がこの世界に来て何度死のうが、神は笑ってもう一度というだけだろう。ーー俺の中の神は、何度も苦しめという。幸せになるなという。
異世界、神に押しつぶされそうになった俺は、何があっても立ち上がらないといけない。
それが俺の使命だと、勝手に思っていた。
「瑠璃様…瑠璃様…どうしたんですか? そんな魂が抜けたような顔をして?」
「ーーっ! …リア?」
一度、瞬きをした。そしたら、いつの間にか見覚えのある所にいた。
「はい…瑠璃様とアリア様のリアですが…どうされました?」
そう、俺がいたのは城のベランダだと思われる場所。ーーこの時の俺は、時間が戻ったのにまだ慣れていなくて、戸惑っていた。だから、見覚えのある場所すら、何度か疑うことがあった。
「いや、何でもない。…にしても、ここからだと遅いだろ。もう少し、戻す時間の所を前にしてほしかったな」
そう言って、俺は空を見上げた。
「どうしたんですか? 独り言なら、リアも入れてくださいっ!」
「それじゃあ独り言にはなんねぇよ」
俺は顔を寄せて頬を膨らましているリアの頭をなでた。
「んじゃあ、ちょっと城を開けて、買い物でも行こうかっ!」
俺はそう言って、立ち上がる。
「まぁあ、話は終わりましたし、質問は無いと思いますね。でも、今は主様がいないから行けないです」
「ーーよしっ! 行くぞリアっ!」
「ーー瑠璃様がそうおっしゃるならっ!」
リアはぱっと表情を変えて、俺についてくる。
そして、城の出入り口前。
「戸締りもできました! それでは行きましょうか!」
そう言って、リアは財布だと思われるものを手にもって笑顔で出入り口前の階段を下りてくる。
「あぁ、行くかっ! とりあえず王都の案内をよろしくっ!」
そう言って、俺は敬礼のポーズをとる。
「もちろんですっ! さっ、行きましょう~!」
そう言って、リアはスキップで先へ先へと行く。
俺は、のちに襲撃される俺の部屋を見ていた。ーー口をへの字にし、眉間にしわを寄せて、ひたすら見ていた。
「瑠璃様…?」
リアは立ち止まって、心配そうに俺を見ていた。
「あぁ、ごめん。さっ行こっか」
俺は一度目を閉じて『うん』とうなずき、リアの方に視線を戻す。ーー俺は早歩きでリアの方へと近づいた。
それはなぜか? ーーもうすぐ襲撃される時間だからだ。
俺はできるだけこの城から離れて、アリアを探そうと思っている。
もう少し前の時間に戻っていたら、アリアを引き留めて、すぐにここから脱出できたと思う。ーーだが、これは運命が決めたことだろう。今は前を向いて、アリアを探すのに集中しないと。
「さて、今日は何を買いましょうか~?」
俺は、いつもより声のトーンが上がっているリアを見る。
「リア、やけに嬉しそうだな…?」
「そりゃあ、こうやって男女と一緒に歩くのはあれと同じですし~」
リアは頬を緩ませて、そう言う。ーー大体、リアの言うことが読めたので、何かを問うのはここまでにしておこう。
「それじゃあ、王都は少し紹介してってくれっ!」
紹介中にアリアに出会えるかもしれない。
これも、作戦の内の一つというわけだ。
「そうでしたね。それでは、買い物をしていくついで、紹介していきますっ!」
リアは鼻歌を歌って、少しスキップして進んでいく。ーー俺は、腰に手を当てて、笑顔でリアを見ていた。
そして、足を一歩踏み出した刹那、心臓部分に激痛が走った。ーー激痛が走ったと同時に、俺の横を誰かが通り過ぎた。
「あぁぁぁぁぁぁっ!」
あまりの痛みに、俺は叫んだ。
周りには誰も居ず、リアすらもいなかった。ーー周りの雰囲気も暗くなって、俺の周りにはあの黒い煙。
俺はまた死んだのかと思っていたが、そんなことはあるはずもなかった。
そして、あまりの痛さに俺はその場に倒れこんだ。
「くっそ、一体何が起こってやがる…?」
俺は、過呼吸になりながらも、そう口に出す。ーー何か、一言でもいいから喋って、意識を保とうと必死になっている。
「あなたは少し、油断しすぎていたのです。アナタは本当に、学習しませんねぇ~」
聞き覚えのある声。それに、俺のことを知っている。まさかーー。
「どうやら、もうわたくしのことを知っておっしゃる。私も、少しばかりあなたに見覚えがあるもので。でも、あなたは力尽きましたね。それでは…」
刹那だった。ーー俺の心臓部がまた激痛に襲われた。
「カゲロぉぉぉぉぉぉぉっ!」
そして、俺は黒い煙に包まれ、首が飛んだ。
また死んでしまった。
だが、次こそは…。
「瑠璃様…瑠璃様っ! どうしたんですか? 明後日の方を見て?」
「…ん?」
俺は、気が付くと、城の前にいた。
「ん?」
声をする方を振り返ると、リアがいた。
「どうされました? 体調でも悪いのですか?」
心配そうに声をかけるリア。
「あぁ、ごめん。さっ、早く行くぞっ!」
そう言って俺は、リアの手を取って走った。
「あぁっ! ちょっ! 少しスピードを落としてくださいっ!」
そうリアに言われながらも、俺はスピードを緩めることなんてなかった。
できれば…いや、ここからさっさと離れないと。
また、カゲロウに出会ってしまう前に。
そして、俺は王都駆け巡って、城から随分と遠くの場所に来て、見覚えの或る裏路地に立ち止まった。
リアと俺は、息切れが酷く、喋れる状態ではなかった。
数分後、息が整った俺は両手でリアの肩を持った。
「どっどどどどうされました瑠璃様っ!?」
リアは少し顔を赤らめる。ーー俺はまだ少し息が整っていない状態で、リアに説明する。
「実は、もうすぐ…いや、今かもしれない。…精霊殺しがこの王都を襲撃するかもしれないっ!」
俺は少しずつ息を整え、そうリアに言う。
「瑠璃様、それは本当ですか?」
リアは急に真剣な顔をして、そう言うが…。
「リアごめん。少し…いや、また…」
俺の視界はだんだんと黒に染まっていった。そしてーー、
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ーー瑠璃様っ! 瑠璃様っ! どうされました」
リアの声が聞こえる。でも、俺は心臓、頭の痛みでただただ叫ぶことしかできなかった。
頭の中で大きい鐘を鳴らされているようなずきずきする痛み。そして、心臓を誰かに握りつぶされているような痛み。それが同時に来て、俺は意識を失いそうになる。
「リアっ! …リアっ!」
俺は、痛みを我慢し、名を呼ぶ。
「ーー俺はここで死ぬ。だから、アリアを救うんだ…」
俺はそう言って、苦しそうな顔をしてリアの目を見た。
「一体…何を言って・・?」
「いいから早くっ! 俺の目を見ろ、これじゃあこの先持たない。だから、早くアリアを探して…早くっ! 俺はリフーーっ!?」
俺は、『リフレイン』と口に出そうとした。だが、急に喋れなくなった。
そして、突然な出来事に、リアも俺も戸惑っている。
この後絶対に死ぬ。ーー今、俺の物語はループをするのではなく、生き返されるだろ。
だから…。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
人の喋り声が無くなっていることも気付かず。俺はただアリアを救えとリアに頼む。
「瑠璃様っ!?」
リアは急な出来事に、色々とテンパっている。俺が、しっかりと喋れる状態ならば、一度落ち着かせてやるのだが、この痛みじゃ普通になんていられない。
それに、落ち着かないといけないのは俺だ。
「いいから…俺はいいから行くんだっ!」
そう言って、俺はリアの肩を押した。
「なんで…一体…?」
リアは涙目になって、俺を見る。
「アリアの命が危ない。だから…だから行けっ! …大事な、家族なんだろ」
そう言って、俺は無理に笑みを作ってリアに見せる。
「わかりました。でも、アリア様を救ったら迎えに来ます。だから、それまで耐えてくださいね」
そう言って、リアは一度俺に近づく。
「だから、必ず来る約束だけ」
リアは俺の体抱きしめる。ーーきっと、リアは俺の考えを読んでいるかもしれない。
最初はそう思った。だって、リアが泣いているのだから…。
「…」
俺は、口の内側を噛み、悔しがる。ーー三人で生きることもできず、平穏な日々も過ごせず、俺の事にアリアとリアを巻き込んだこと。ーー今、俺はこの二人に出会った事を後悔している。
そして、リアは俺から離れて、走り出した。
その後ーー、
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺の声が王都に響き、やがてその叫び声はぴたりと止まった。
それから数分後。
俺の死体の近くに誰か来た。
「一人…あの屋敷にいた者は一人でしたか…? いや、違う。あと二人はどこに行ったんでしょうか?」
カゲロウが俺の死体を見て、そう言う。
「さぁあ、まだ襲撃は始まったばかり、行きますよっ!」
そう言って、カゲロウはすぐに俺の死体の所から離れた。
カゲロウがいつ現れるかわからない今、俺は不利な状況下にいる。このカゲロウという男を倒さないと先へと進めない。どうにかしないと。
俺はそんなことを思いながら、また深い眠りについた。ーー本当ならば、永遠の眠りだ。 だが、俺の場合は違う。俺は、永遠の眠りにつけないのだ。もう、人間じゃないのだ。
たとえ、力や考えることが人間でも、死ねない時点で人間ではない。
もう人間ではないんだ、俺は…。
そして、そんな事を考えているとーー、
「ーーっ!」
俺の体が、急に息を深く吸った。ーーそのせいか、地面にあった異物を吸い込んでむせる。
「あぁ…びっくりした~」
さっきまで死んでいたと思えないほどに俺は回復していた。
生き返りの力、『リフレイン』。これのせいでどれだけの人が争ったか、リアの話を聞いて色々と思った。この力は生き返るたびに何かを代償として俺は払っている。
つい最近気付いたのだが、過去の記憶がだんだんと薄れて言っている。
家族の名前すら覚えていない。俺をいじめていた奴の名前すら出てこない。
だんだんと記憶が無くなって言っている。俺からすると、もう恐怖しかない。
俺に与えられた力。良く解んねぇが、たぶんこれは誰かの仕業だろう。特にあの黒い煙。
「とっ、そんなことを考えている暇なんてない。さっさと剣聖団にーーっ!?」
俺は、隠れていた路地から出ようとするが、すぐに戻った。
「あんましここにいたくねぇんだが、とりあえずこの精霊殺しがうろちょろしている中に飛び込んでいったら飛んで火にいる夏の虫。俺は一体どうすれば?」
周りを見る限り、死体や血の跡はない。ーーたぶん、精霊殺しがこの王都の大通りに来てまだ間もないのだろう。
「ここをさっさと出て、アリアとリアを探さないと」
リアの泣いていた顔が何度も俺の脳に過り、悲しくなる。
生き返ることを言ったから、俺は一度死んだんだ。ただ痛みを負うのではなく、口に出すと死だ。
「今まで言えていたのに…そうか。そう言うことか」
俺は今まで、もしかしてと、確実にこの力を持っているとは言っていなかった。だが、今回は、俺はリアに生き返りの力を持っていると確実に言おうとした。
色々とわからないことだらけだが、この力を確実に持っているということは誰にも知られてはならないということだ。
もし、誰かに言おうと思って少しでもあの力の名を出すと死んでしまう。
「なんか、孤独感って嫌だな」
何かを言いたくても言い出せない。それは俺の過去に何度もあったことだが、俺の記憶はだんだんと無くなっていっている。だから、言いたかった内容は思い出せない。
「ってか、精霊殺しの奴ら、一体どこに行きやがった」
俺は、色々と考えた後、路地から顔を出して周りを見渡す。ーー周りを見渡しても、誰もいなかった。
「よし、このままこの大通りをまっすぐに行けば」
俺は一度、王都を出ることにした。
リアはアリアを探しに行ったが、きっと俺が倒れた場所に戻ってくることは不可能だろう。だから、俺は先に違う所に逃げて助けを求めようと考えていた。
「さっさとここから逃げないと」
そう思って、路地から出た刹那ーー、
「生存者を発見っ! 確保っ!」
「やべぇ、みつか…」
「生存者、それはまさかあのアリア様の使い、瑠璃様でしたか」
そう言って、俺に近づいてきたのはーー、
「はぁ~よかった~会えて、ベラトリックスさん」
そう言って、俺は一度緊張の鎖から解き放たれた。
「まぁ、詳しいことは後で。今はどうなって、アリア様はどこにいるかを教えてください」
ベラトリックスさんがそう聞いてくるので、俺は答えた。
「ここは今、精霊殺しに襲撃されていて、アリアの方はリアが探しに行ったのですが、今も行方不明です」
俺はこの時思った。ーーここで剣聖団が出てくるということは、死のルートに迷い込んでいた俺だが、別のルートに行けたんだと。
でも、今はまだ油断できない状況。気を張っていかないと。
「そうでしか、アリア様の安否の方が心配ですね。はい、とりあえず軽く説明してくれてどうも。後は私たちに任せてください。瑠璃様は一度、リージェル領の方へと避難してください」
そう言って、俺を馬車に案内するベラトリックス。だが、俺はアリア、リアの安否を誰よりも早く知りたい。だからーー、
「俺もついていきます。アリア様の使いとして、俺はここで逃げるわけにはいきません」
そう言って、俺はベラトリックスの目を見る。
「でも、ここで死んだら、アリア様が泣きますよ」
ベラトリックスはそう言うが、
「死ぬ覚悟で行きます」
俺は死んだりしない。この世界に来て、この力があると分かったからいえること。前の俺ならば、さっさとここから逃げているだろう。
だけど、アリアもリアも、俺の大切な人だ。だから、俺はここで逃げたりしない。
「そうですか。わかりました。一つ質問。瑠璃様、精霊殺しについてなにか知りませんか?」
そう俺は問われて、言って大丈夫かと思った。ーー精霊殺しの情報は、未来の物だった。だから、未来で知ったことを話していいのかと、俺は思っていた。
だが、今はそんなのに恐れている場合じゃない。死ぬ覚悟で話す。
「精霊殺しのトップ、カゲロウという男は、多数の手下を持っています。それに、カゲロウはいつ何時現れてもおかしくない」
急なタメ語、俺は心の中でベラトリックスさんに謝った。
「そうですか、手下は道中なん十人か倒しました。だが、そのカゲロウという男が色々と厄介なりそうですね。まっ、そんなことを考えているうちに何かあったら嫌ですね。先に進みましょうか」
そう言って、ベラトリックスさんは手で合図を送って馬車などに前に進むように命令した。
そして、俺は歩き始めるベラトリックスさんの後ろを歩き、アリアとリアを探すことに。
「にしても、この城だけは綺麗に残っていますね」
俺たちは、道中カゲロウの手下を殺しながら城までやってきた。
「この城が一番最初に襲われると思っていたのですが、こんなに綺麗に残っていると、少し違和感を感じます」
城は、ガラス一つすら割れていなかった。ーー以前、俺が異世界に来てあまり経っていない時に精霊殺しが襲ってきて割れたガラスは俺とリアで入れ替えた。だから、今は綺麗に元通りになっている。
「とりあえず、この城を拠点としましょう。それじゃないと、いつまでも歩き回って手下を殺してのループになってしまう」
そうベラトリックスさんが言う。ーー剣聖団の皆は、それに同意。
俺も、この城から何かを感じていなかったら同意していた。ーー今、アリアの城に入ると…嫌な予感しかない。
「ベラトリックスさん。なんか、この城から感じません? 殺気というか、なんか嫌な雰囲気がします」
俺がそう言うと、皆はうなずく。ーー同意はした。だが、この城から感じるものをまず何かを突き止め、それが精霊殺しならば、それを排除しなければならない。
この城での血戦を控えたい俺とベラトリックスさんだが、もしもの場合それは絶対に逃れられないことなる。
「城の門を通り過ぎたら、警戒態勢に入れ。それと、瑠璃様これ」
そう言って、ベラトリックスさんが渡してきたのは剣だった。
「いや、でもこれはーー」
「ここからは危ない。だから、瑠璃様も持っていてください。それと、ここからは、私と瑠璃様二人だけになる。この国のルールは絶対」
そう言って、ベラトリックスさんは歩き出し、門を通り過ぎた。ーー俺はその後を追う。
「ルールですか?」
俺は首をかしげて、そう問う。
「そう、ルール。この国では、領の支配者の城に入る時は、団を取り仕切る者と、使用人、または支配者本人だけだ。だから、アリア様の城に避難しろといっても、誰もこの国のルールは破れないため、聞かぬふりをする。…この世の最低なルールだ」
そう言って、ベラトリックスさんはため息をつく。
「そんなルールが。…そんなことを話しているうちに、城の出入り口前まで来ましたね」
俺はそう言って、ベラトリックスさんと肩を並べて、城の出入り口を見る。
「本当にやな雰囲気しかださねーなこの城は…」
突然のタメ語の独り言、本当に申し訳ないと思うが、俺は緊張するとタメ語になってしまう。それは直そうにも、直せない。
「瑠璃様。あなたはアリア様の所の使い、だから私たちよりも上の人になります。別に敬語を使わなくても大丈夫ですよ」
そう言って、真剣な顔で城を見つめるベラトリックスさん。
「悪い。そうさせてもらう。…俺は堅苦しいのは嫌いだ」
遠慮なく、俺はタメ語を使う。
だが、それのおかげか少し緊張が和らいだ。
「さっ、精霊殺しがいるなら上等だっ! おりゃあっ!」
俺は城のドアを思いっきり蹴った。ーーそれと同時にベラトリックスさんは剣を構える。
そして、ドアが歩いた刹那ーー、
「氷壁っ!」
「ん? あぁぁぁぁぁっ!」
俺は凍った。ーー今、氷の壁の中で凍っている。
「えっ? 瑠璃様っ!」
俺を凍らせた犯人が分かった。ーーリアだ。
「あぁぁわぁぁごめんなさいっ! すぐに溶かしますので!」
「ーー無用。はっ!」
ベラトリックスさんが、剣を振って俺の氷を真っ二つに割った。
「だはっ!」
氷の中から出てきた俺は、吸えなかった空気を吸う。
「ちょっ、この氷が俺の体の芯まで凍らせていたら俺まで真っ二つだぞっ! それにリア、しっかりと人を見て魔法を使えっ!」
「ごっ、ごめんなさい瑠璃様っ!」
「この男はそう簡単に死にやしない」
リアは謝って、ベラトリックスさんは腕を組む。
「でもベラトリックスさん。大事な剣が粉砕してしまっているのですが…大丈夫なんですか?」
俺はそうベラトリックスさんにそう問う。
すると、俺の方を見て腰のあたりに指をさす。
「あぁ~まぁ~そんなに剣があれば大丈夫ですね」
ベラトリックスさんの腰には何本もの剣が備えられていた。
「にしても、すぐに壊れましたね。氷を割るほどの強さは備えられているのに、すぐに壊れてしまったら意味ないんじゃあ?」
俺はそう言って、首をかしげる。
「これは普通の剣とは違います。この剣たちは精霊の力を借りています。今回の氷はあまりにもいろんな魔法が重なってできていたため、この剣の強さではでは一発で粉砕してしまいます」
そう言って、ベラトリックスさんは、粉々に散った剣の破片をつまんで手に乗せて、俺に見せてきた。
「精霊の剣は、粉々になった後にこうなります」
そうベラトリックスさんが言った刹那、剣はさらに粉砕して消えていった。
「それでは、話を戻しましょう。それでは、私たちはこれから精霊殺しの討伐に行ってきますが、この城に兵を何人か置いていきます。ご安ください…とは言えません。警戒を怠らず」
そう言って、ベラトリックスさんは肩に手を当てて頭を軽く下げる。
「はい。わかりました。瑠璃様、アリア様は二階に」
リアはそう言って、二階の方を向く。
「あぁ、少しだけ話をする。リア、すまないがついてきてくれ」
俺一人じゃあ何もできない。無力で馬鹿な俺には、誰かの力が必要だ。
「それでは、私はそろそろ」
そう言って、ベラトリックスさんは一度礼をして、城を出た。
「にしても、よく生きてくださりましたね」
リアは、胸から手をなでおろす。
「まぁあ、色々とあってな。とりあえずリアに話だけはしておこう。俺はこの後、ベラトリックスさんの後を追う」
俺は眉間にしわを寄せて、そうリアに伝える。すると、
「ダメですっ! 瑠璃様はこの城に居ててください」
リアはそう俺に言った。
「なぁあ、俺が死ぬかもしれない。大怪我を負うかもしれないと思っていないか? それなら、不要な心配だ。今は、アリアとお前、リアの命が一番大事だ。だから、ここはひとつ、俺にお前たちを守らせてくれ」
俺はそう言って、リアに微笑んで頼んだ。
リアはうつむき、少し考えてから、
「絶対に帰ってきてくれると約束してくれますか?」
リアの言葉に俺は少し驚く。ーーなぜ驚いたのかが、自分でもわかっていない。だけど、俺は疑問に思っていることがあった。それは、一体俺がなぜこんなにリアに大切がられるのはなぜだろうか。
ずっとそれが引っかかっていた。だが、そんなことは考えている暇はない。
「あぁ、もちろん。俺は必ず帰ってくるし死にやしない。約束だ」
俺はリアの前で、小指を立てる。
「…はい。約束ですよ」
そう言ってリアは笑みを浮かべ、小指を絡めてくる。
「ゆ~びきりげんまん嘘ついたらはりせんぼのーます。指きったっ!」
そう言って、俺はパッとリアの小指から指を離した。
そして、俺はこの約束を一生、死ぬまで忘れないだろう。
それから、この約束が俺を苦しめることになるかもしれないだろう…。




