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Re:君と見る異世界景色  作者: 猫鼠真梧
第一章【死んで生き返って】
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【幸せになるなと神はいう】        十章

 刹那の事だった。

 リアと話をしている最中に、部屋のガラスが割れて壁が壊れ、砕かれた壁が俺の足の骨を砕き、血に染めた。ーー歩けなくなった俺は、気を失う直前に見えた人影の正体が気になっていた。

 一体、あの人影の正体は…。



「にしても、起きない方ですね。一度死んだ者を運んできたつもりが、いつの間にか生き返っている。これはもしかすると、あのお方の力を持ったもの…実に運がいいですねワタシは…」



 最後に、気味の悪い笑い方をして、誰かが俺に話しかけている。

 聞こえてくる声、どこかで聞いたことがある声だった。ーーだけど、前の記憶をたどっても、重要なところだけがもやがかかり、うまいこと思い出せない。

 俺はただただ、闇雲に記憶を探っていた。ーー何も考えずに記憶を探っていた。少しぐらい冷静になって記憶を探っていたら出てきたかもしれない。

 でも、この時の俺は慌てていてゆっくりと考える余裕もなかった。

「いい加減に目を覚ましてはどうでしょうかっ!」

 怒鳴り散らすような声と共に足に激痛が走る。

「ーーあぁぁぁぁぁぁっ!」

 響き渡る俺の声。ーーその声は痛々しかつた。

「やっと目を覚ましましたか…」

 俺は足に手を当てて、ゆっくりと目を開ける。

「クソ…いてぇ……」

「ーー目を覚まして、発した言葉はそれですか…なんとも不愉快」

 誰かが俺の顔を覗き込むようにして、目の前でそう言ってくる。ーー顔はあまりにも近すぎて、よく見えなかった。ーーただ唾が物凄く飛んでくる。

「一体誰だ?」

 喉が痛くて、喋りにくい状況下で、俺は誰だと問う。

「私は、精霊殺しの頂点にして支配者。カゲロウと申します。どうかお見知りおきを」

 即急に後ろに下がり、自己紹介をして頭を下げたのは、精霊殺しの支配者、カゲロウと名乗る男だった。ーーその後再び俺に近づいてくる。

「あなたの名前は…ん~知らなくてもいいですね。のちに殺すことになるのですから。ただ…あなたは死んでいるはずなのに生きていた。あの城の使用人にして人間だったあなたが…それはもしかすると、あの方の力を受け継いだのかとわたくしは睨んでおります」

 カゲロウという男は、顔を近づけて俺にそう言う。ーー顔を後ろに下げようとすると、何かゴツゴツした硬いものに後頭部が当たる。

「にしてもあなたは今、どういう状況でいらっしゃるのかがわかっていないそうですね…意識もまだ朦朧としていますし、眼球の挙動がおかしいでぃすぅ。まっ、所詮あなたは、人質にしか過ぎないのでぇす」

 俺の意識は、このカゲロウという男が言った通り、朦朧としていた。視界はなぜか合わずで、一人の男が二重に見えていた。

 そして、俺の意識はまた深くて暗い淵へと落ちていった。


 意識が薄れていったとたん。急に過去の事が俺の頭の中を過った。ーー思い出さなくてもいい過去も含めて、すべてが蘇った。ただし、異世界に来てからの、もやがかかった記憶を除いてだ。


 突然だが、中学生の頃、俺には友達がいた。

 絶対に裏切らないと思っていた友達だった。ーー一人の友達は、他の子に裏切られて、裏切られるつらさをよく知っていた友達だった。

 だから、俺と他の友達はよく遊んでいた。ーー仲良く。喧嘩もすることもなく。一緒に。

 だが、そんな平和な日々は突然として終わった。

「ん? メールか」

 俺は無料のメールアプリを開いた。すると、自分の顔を何かの画像と合成するように作られた素材をグループ内で、しかも俺がいることを知っていた他の友達に配布していた。

 それに憤りを感じた俺は、友達にメールをした。

『人の顔を勝手に素材にして使うなよ。それに配布するって、どういうことだよ?』

 と、俺は友達に送った。すると、

『別にいいじゃん。お前の顔なんて皆使うわけがないしさ!』

 友達は、逆切れしてきた。ーーその後、他の友達も乱入してきた。ーーハッキリ言って、スマホの中の会話。相手がどういう思いで言葉を入力しているのかがわからない。

『ってか、お前語彙力なさすぎだろ。お前も本ノと同じほどの語彙力だなワロタ』

 本ノ。ーーその名前を出してきたのは、以前その本ノに裏切られた友達だった。

『マジ同感w』

 二対一、俺は勝ち目すらなかった。

 裏切られた人と同じと友は言い、自分勝手でその後も俺を批判した。

 裏切り。自分勝手。ーー一人の友達に限って、いつもそうだった。

 つくづくと俺は呆れ果てていった。そして、慣れもあった。

『もういい、話を噛み合わん』

 その後、何度か俺は反発した。だけど、俺がメールを送ると別の話題を出してきて、その話をやめさせようとしてきた。ーー俺は頭に血が上っていた。

 一度はグループから退却しようとした。だけど、逃げたと思われるのに、すごく抵抗を感じた。

 だがその後、裏切られた友達、今は俺を裏切った友達が、グループに『じゃーな』と残して退却した。

 その後、俺は堪忍袋の緒が切れて、すぐにグループから退却した。

 正直、落ち込んだ。正直…悲しかった。

 友達だと思っていたのに、信頼していたのに…。

「こんな形で終わってしまうなんて」

 友達がきっといなくなる。それは前々から予想していた。

 だって、自分はほとんどの友達を見放してきた。いつかは自分にも帰ってくるだろうと思っていた。ーーそれが中学三年生の十一月のことだった。

 そして、その後。

 少し時間をおいて、そのメールの喧嘩に入ってこなかった一人の友達にメールを送った。

『少しの間。学校では一人にしてくれ。これはお前にしか頼めないことなんだ。頼んだ』

 そう俺はメールして、無料メールアプリ内にいる同級生全員の連絡先を削除した。

 きっと誰か、俺裏切る。そう思うと、勝手に手が動いていた。仲が良かった友達も、好きだった人のアカウントさえ、削除したのだ。

 そして、学校が始まって、俺は…ロンリネス少年へと変わった。

 それから、俺は友達とも話すことなく。授業の合間などは誰もいない校舎の端にある階段で過ごし、昼休みは図書室で一人、小説を読んでいた。ーーいつも持参でラノベを読んでいた。

 そんなことが中学卒業まで続いた。

 友達との関係は崩壊。おまけに家族も崩壊した。ーー俺の心は腐り始め、だんだんと狂気にさらされていった。

 そんな俺は毎日眠れず、一人、部屋の端でいつも泣いていた。

 親はついに離婚。俺は親父に引き取られたが、親父も少し心の整理がつかなくて、俺と同様、狂い始めていた。

 その時、俺はもう深くて暗い海の底に沈んだようだった。ーーこの海から顔を出せばもう一度昔のようになれる。だけど、俺は海の底に寝たまま、上へとは上がらなかった。

 それはなぜか。ーーまた裏切られるのが怖かったからだ。

 まっ、この時の俺はまだよかったとしよう。酷いのはこれからだった。

 本当にロンリネス化した俺は、友達として裏切った奴に復讐を考えていた。ーー復讐は、裏切った友達のメール履歴、同級生に対する愚痴を拡散することだった。

 最近の子は、今の状況を文章にしてネットにあげるサイトを使っているらしい。ーー自分のアカウントは二つ。そのうちの一つは何かあった時に使おうとしていたアカウント。

 俺は裏アカを使い、同級生に対する友の愚痴を送った。

 その後、俺のアカウントは運営から凍結させられ、学校では、どこに行っても裏切った友の噂が耳に入った。

 仕返しはこれで成功した。だが、罪悪感を感じ始めていた。ーーそんな俺は同級生一人一人に誤解だと話そうとしたが、もう遅かった。

「あぁっ! やめてくれっ! なんでもするからっ!」

 授業終了後、俺はいつも通り校舎端の階段にいていた。すると、下の階で誰かが叫んでいた。

 俺は聞き覚えのある声だったので、声がする方へと物音をたてずに近づいていった。

 そして、壁がある所から顔を少しだし、覗き込んだ。するとーー、

「悪いっ! 僕が悪かったっ!」

「ーーんだよっ! あんなことを愚痴ってイキっていたくせに、このありさまかよ」

「ほんと、だせぇな」

 裏切った友達が、同級生にいじめられていた。ーー俺はその光景を見た瞬間。怖くなってすぐに上階へと逃げた。

 口を押え、涙を零し、過呼吸になって、急に力が抜けて、崩れた。

 自分が少しでも仕返しにやったことが、軽い気持ちでやったことが、ここまで深刻な状況になってしまった。

 俺は、怖くて怖くて、その友達に触れることすらなくなった。

 そして、そのまま俺たちは中学校を卒業した。ーー卒業式後。校門前に俺はまっすぐと立って、裏切りの友が帰っていくのを眺めていた。

 友の背中はどこか寂しく、暗い感じだった。

 俺はその友の背中を、黙々と見ていた。友が見えなくなるまで…。

 そして、俺は高校生となった。

 中学生との友達全員との連絡手段を絶ち、完全一人になった俺は、友達作りをゼロから始めることにした。

 そして高校を入学し、友達作りに失敗した。

 高校生活が始まってすぐ、神は俺に天罰を下した。

 そう、それが…俺が自殺する理由の一つになり、絶対にあってはならないことーー、


 いじめだった。


 そして、俺は自殺した。

 それからというもの、まさかの異世界転生。

 普通じゃああり得ないことだ。なのに、それが現実となってしまった。

 転生後、色々とあって今に至る。


「おやおや、意識が再び戻ったようですね。…それでは、始めましょうっ!」

 そして、再び俺の足に激痛が走る。

「ーーあぁぁぁぁぁぁっ!」

 声が再び見知らぬ場所に響き渡る。

「それでは、目を覚まされたところで、あなたに一つ質問があります」

 俺は歯を食いしばり、カゲロウを睨む。

「さてさて、あなたは銀色の少女。または…金髪の少女の居場所を知りませんか?」

 カゲロウが探している相手が、髪の色だけで誰かが、分かった。


 ーーこいつが探しているのはアリアだ。


 絶対に話さない。

「にしても、あなたもいらだたしい人ですね。質問をされたらイエスかノーを答えるのが礼儀では? それに、あなたは元々が悪いのか…顔に出ない答えが出ない人ですね?現在不愉快っ! 不満っ!」

 カゲロウはより不満になり始めていた。

「知るかっ!」

 俺はとっさにそう言う。

「…ん~そうですか。なら仕方がない。君はあの金髪の少女の屋敷で働いていた。なら、あなたを人質に取っていれば向こうから寄ってくる袋の鼠っ! 愉快愉快愉快愉快愉快っ! きっとこの手で捕まえて、あの少女を殺してみせる。あの少女を殺すためならなんだって犠牲にするっ! …私のやり方には変わりがないのですっ! アッハハハハハッ! アッハハハハハッ!」

 カゲロウの気味の悪い笑い声が暗い場所に響き渡る。

「うっせねーなその笑い声。いッ!」

 俺は立ち上がろうとしたが、急に走ってきた激痛のせいで体の力が一気に抜けて地面に倒れこむ。

「あらあら、今自分の体がボロボロになっていることを忘れていませんか? それと、鎖でアナタの手、足を動かすことすらできませぇーん。もがき、苦しみ、怒りに満ち溢れたパワーっ! …をっ、感じますぅ」

 明らかにカゲロウという人物がキチガイだということは分かった。

 だけど、キチガイでも頭の回転は良いそうだ。ーー鎖で拘束するのは誰も思いつくことだが、足を何度も踏みつけて傷口を開け、歩けないようにするのは誰も思いつかないだろう。ーーただし、サイコパスな奴は除く。

「たとえ…こうしても」

 刹那、カゲロウは俺の顔をなめ回し始めた。ーーザラザラとする舌。残った唾液が異臭を放ち、顔についたつばと血が共に地面に落ちていく。

「きたねぇもん顔につけるんじゃね…」

 俺はそう小声で言う。でも、なめ回すのに集中していたカゲロウは、その声を聞き逃していた。

 その刹那だった。

「ん? 手下が帰ってきましたね」

 カゲロウは顔を離し、背筋を伸ばして綺麗に立つ。ーーそして後ろを向き、手下だと思われる人物に話しかけている。

 にしても、少し顔を見ていると、怒っている様子だった。ーーそして、手下の顔を思いっきり殴り、地面に寝かせて顔を踏みつぶして殺した。

「本当に不愉快不満。わたくしの手下も弱くなったものです。これからの方針の方もしっかりとしなければ」

 そして、またくるりと体の向きを変えて、俺の方へとやってくる。

 カゲロウは咳払いをして、話を始める。

「実はですね。さっき私の手下から聞いたのですが…あなたと一緒に働いていた使用人のもう一人がこちらに向かってきているようです。それを殺し損ねた手下が知らせに来たんですよね。話を聞いた私は、より不満になり、頭に血が上って手下を殺しました」

「ーー一体人の命をなんだと思っているっ!?」

 本当はどうでもいいことだった。それに、俺がそんなことを言える立場でもなかった。

 今は考える時間が欲しい。ただそれだけのために…。

「人の命…別に失おうが知ったこっちゃない。私の手下の命は私が決める。生か死、決めるのは私ですっ! 頂点にして支配者の私がっ! 手下の生と死を決めなくてはどうするのですかっ!? 私がいなくなったら、この教団は終わりですよ」

 カゲロウはそう言って、また一歩一歩と近づいてきた。

「…」

 俺は、痛みを抑えるだけでも精一杯で、痛みがまたあぶりかえってきて、喋れなくなる。

「おやおや、もう薬の効き目が…実にあの薬は成功していたのですねぇ。喜ばしいことです」

 そう言って、カゲロウは手のひらに収まるほどの大きさのガラスの瓶を人さし指と親指でつまんで俺に見せていた。

 小さな瓶に入っていたのは、白い粉だった。

「まぁあ、これを何かを説明するのはよしておきましょう。あのお方の力を受け継いでいたらたまったもんじゃないですからね」

 そう言って、服の胸ポケットにその瓶をしまった。

「嘘だろ…また…?」

 また俺は意識を失った。


「…一体、ここはどこだ?」

 俺は、見知らぬ草原のど真ん中に立っていた。ーー程よく風が吹いており、見覚えのある木が一本だけあった。ーーそして、その木の前に一人、木の方を見てまっすぐに立っている金髪の少女がいた。

「ーーアリアっ!」

 俺はとっさに名前を叫んだ。

 すると、彼女は体をこちらに向けた。

 その刹那だった。

「ーーッ!」

 木の後ろから、精霊殺しだと思われる人物がアリアをナイフで殺害しようとしていた。

「アリアっ! こっちに来いっ!」

 そう叫ぶが、俺はもうアリアの方へと向かって走っていた。

 間に合わない。ーーアリアを見て、俺は最初にそう思っていた。

 距離の差。ーー向こうは少しアリアから近かった。

「アリア走れっ!」

 そう叫ぶが、アリアは動かず、喋らず。ただ笑みを作り、腕を伸ばして手のひらを俺に見せていた。

 あの手をつかめ…つかんで引き寄せるっ!

「アリアっ!」

 アリアの手が届きそうになった。ーーだが、ほんの数秒差で精霊殺しがアリアの背中をナイフ刺した。

「ーーッ! …あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 アリアの手を握った瞬間、アリアが俺の方に倒れてきた。ーー俺は、ナイフで刺されたアリアの体を抱いて、叫んだ。

 異常なほど早く体が冷たくなっていた。

 そして、

「えっ!?」

 泣いていたら、急に地面が全て崩れ落ち、薄暗い海に落ちた。ーーアリアの冷たい体は粉々になって、消えていった。

 そして、俺は底の見えない海に落ちた。

 泡の音しか聞こえない。ーー力が入らなくて、手や足は浮こうとしているが、体が沈んでいく。

 やがて泡の音はなくなり、水中の音が聞こえてくる。ーー静かで、俺の口から出てくる少しの泡の音。

 そして、俺は閉じていた目をゆっくりと開けた。

 水面はほとんど見えず、僅かな光がさしていた。ーー僅かな光は、僅かな希望を表している。ーー俺はいつもそうだ。中二病チックな事ばっか言って…でも、本当にこの光が俺の希望なら…。

 

 光、それは希望を表している。その光が見えなくなるということは、希望すら見えなくなるということだ。

 希望が見えなくなった者は、もう一度前を向き、手を伸ばし、自分の手で希望の光をつかめ。

 諦めたらそこで終わりだ。


 昔、そんなことを誰かに言ったような…。

 希望とか何とか言っていた俺は今、自殺をして、謎に異世界に飛ばされ、アニメやラノベのように最強主人公になるのかと思えば、殺されて、生き返って、殺されての繰り返し。

 俺が思っていた以上に異世界は酷くて理不尽な世界だと分かった。


 でもまぁあ、前いた世界よりはマシか…。


 そして、俺は再び目を覚ます。

「あれぇ~…? 私は死ぬほどに強い毒をこの男の体内に入れたはずなのに、生き返っている。…それはやはり、あの方の力を受け継いだ者だということですか。非常に汚らわしい」

 カゲロウは顔を両手で覆い、うつむく。

「普通ならば、私がその力を持つ者となるはず。しかし、私にはその力を与えられずこの男に…非常に不愉快っ! 不満っ!」

 そう言って、両手を急に顔から離し、俺を睨んでくる。

「さてさて、この者に力を持たれていては少し困ります。さて、あなたを殺して、肉や血を私の体内に入れ、その力をもらうとしましょうか」

 カゲロウはどこからか、ナイフのようなものを出してきた。

「ーーッ!」

 俺は、そのナイフを見て意識が失っている時に見たものを思い出した。ーーあの木の下で、アリアを殺した奴が持っていたナイフだった。

 そして、俺は殺される恐怖に襲われ、逃げようとするが、足は怪我して動けず、それになぜか体が動かない。

「にしても、あなたは不思議ですね。殺されようとされているのに、表情を一つも変えず、逃げようとしない。面白いですね」

 そう言って、ナイフの先を俺の方に向け、カゲロウはナイフを俺の心臓をめがけて振った。

 刹那ーー、

「どうしてですか? 何ですかこの氷は? 手が動きません。これじゃあこの男を殺せません。一体誰ですか? 一体誰ですか殺す邪魔をしたのはっ!」

「ーーそこまでです。これからあなたを捕まえて剣聖団に引き渡します」

 そう言って、カゲロウの後ろから姿を現したのは、手のひらをこっちに向けたアリアだった。ーー俺は、アリアを見て、ついさっき気を失っていた時の夢? が、再び頭の中で蘇る。

来るな…来るな…。ーーそうアリアに言いたい。でも、声が出ない。

「にしても、あなたはよくここまで来られましたね。私の手下がいたはずなんですが、まぁあそれはおいておきましょう。まず、あなたは少し油断していたそうですねぇ~」

 その時だった。ーー俺も後から気付いたのだが、カゲロウの手下が後ろから来ていた。その手下に、アリアは気付いていなかった。

「ーーアリア後ろっ!」

 あぁ、やっと声が出た。

 アリアはナイフの先が、少し当たったが、殺されずには済んだ。

「声を出せないよう、喉を少しあれこれしたのですが、簡単に溶けちゃいましたか。まぁあそれはしょうがないことです。どうせすぐになくなってしまう魔法でしたから。それじゃあ、この女から始末することにしようかっ! それに、探していた者が向こうからやってくるとは、飛んで火に入る夏の虫とは、こういうことですかっ!」

 カゲロウは頭をかきむしる。

「あぁあぁあぁぁぁぁぁぁっ! 面白いさてさて、ここから勝負としましょう! 勝負っ!」

 カゲロウは頭をかきむしった後、髪の毛を抜いた。

 正直、禿げないのかと思うところだが、今はそんな場合じゃないっ!

「このままじゃあ…アイスストーンっ!」

 アリアは氷の石をカゲロウ、または俺の方に向けて飛ばしてきた。

「おっとぉ危ないのですっ!」

 そう言って、避けるカゲロウだが、カゲロウは一つ見落としていた。

 それはーー、

「るりっ! 逃げてリアを連れてきてっ!」

 そう、俺につながれた鎖に氷が何度も当たって、砕け散った。

「これにも、魔法が施されていたということか…」

 砕け散った鎖を見て、俺はぼそりとつぶやく。

 そして俺は、足の痛みを我慢し、壁に手をついて立ち上がる。

「そうですか。これも作戦の内ということですか。私はそれにまんまとはめられたと。私も私で、馬鹿ですが…この男が今どういう状況下にいるかもわからず。あなたは馬鹿ですね。鬼畜ですねっ!」

 そうカゲロウが言うと、地面から出てきた岩がアリアに牙をむいた。ーー岩は、棘のように尖がっていて、これが当たると即お亡くなりだ。

 そして、アリアは散々岩を避けた末、岩に当たって宙を舞い、地面にたたき落とされた。

「本当に魔法とは便利なもの。…あなたは歩いても、この洞窟を出ることができないでしょう。それでは、私は一度手下達の様子を見てくるとしよう。さっき勝負に協力してくれた手下は私の魔法に巻き込まれて死にましたし、私一人で向かうとしましょうか」

 そして、カゲロウは消えた。

 俺は、ピクリとも動かないアリアの近くに行った。ーーアリアの血だまりを見て、俺はアリアの手を握った。ーーアリアの手はもう冷たくなっていた。だが、俺の手をしっかりと握り返してくれた。

 そして、俺も力尽き、アリアの横で倒れた。

 血反吐を出し、眼球は動かずずっと開きっぱなし、そして体から出てくる止まらぬ血。

 結局は、夢の通りになった…。ーーアリアを助けることすらできなかった。

 それが、俺の中での一番の苦だった。


「やはり力尽きたようですね。…転移」

 そして、俺たちの死体は、いつの間にか戻ってきたカゲロウと共に王都へと転移させられ、俺とアリアは死んだまま、リアと死んだ形で再開することができた。

 それから、俺の死体はリアに抱き寄せられ、体が凍ってーー、



 リア、アリアと共に死んだ。



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