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Re:君と見る異世界景色  作者: 猫鼠真梧
第一章【死んで生き返って】
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【苦しめと神は言う】           九章

 急にガラスが割れて、危機一髪でよけた私は、部屋の外まで飛ばされてしまった。

 体の上に乗っかるがれき、城の一部が破壊されたのであろうと私は思う。

 さっきまで浴びていた太陽の光は見えず、さっきまで聞こえていた瑠璃様の声は聞こえず、ただただ血を流して、寝っ転がっていた。

 だが、私はがれきを腕の一振りで飛ばす。ーー目を瑠璃色に変え、牙、獣耳みたいなのを生やしていた。

 いつもとは違う耳だった。

「瑠璃様っ!」

 私は周りを見渡すが、誰もいなかった。いたはずの瑠璃は、いなくなっていたのだ。

 残っているのは、瑠璃様のだと思われる血痕だけだった。

「…奴らか。奴らがまた来やがったのかっ!」

 部屋に一人、悔し涙を流しながら怒る。ーー歯を食いしばり、今にも暴れだしそうだが、どうにか抑えた。

 瑠璃様と一緒に居た時は、真昼間だったのに今はもう夕方になっていた。

 何かが起こりそうな雰囲気を醸し出し、濃い茜色に染まった空。ーーカラスが数十匹飛び回っていた。

「殺すっ! あいつら全員殺すっ!」

 そう言って私は、城から鎖鎌を引きずりながら出た。ーー奴らに対する怒り。恨み。そして瑠璃様が誘拐されてしまった悔しさ。

「絶対に許さない。…あいつら全員殺してやる」

 あふれだしそうなほどの怒り、そして悔しさ。ーー最初は物でも壊して少しでも気を晴らそうとしていたが、先に瑠璃様を助けることを優先した。

 物を壊しても、瑠璃様は帰ってこない。だから気が晴れることがないと私は感じた。

 猛烈な怒りのせいか、頭が回らない。冷静になれない。落ち着こうにも落ち着けない。

「どこに行きやがった…?」

 城を出てからというもの、周りには人々の死体だらけ。ーー王都は静寂に包まれ、残るのは人の死体と飛び散った血痕。無残な姿だった。

 王都に一人歩いている私。生存者はいないと感じた。ーー私のこの耳は、遠くの方の音も聞こえる。だが、足音もしゃべる声も、何も聞こえない。静寂。空を飛んでいても、風を切る音でわかる。聞こえるのは自分の足音だけだ。

 歩いて、歩いて…ひたすら歩くが、瑠璃様が見つからない。ーー王都に残っているのは廃墟化した店と、死んでいる人たちだけだ。それに、妙な服をした人間もいた。

「精霊殺し…あいつら…………」

 精霊殺しの死体を見て、殺気より頭に血が上る。そして、目線を前に戻すも、先には誰もいなかった。

 私は歩き続けた。瑠璃様を取り戻すために。ーーだけど、私はこの時に一つ忘れていたことがあった。それは、アリア様の安否だった。

 私はもっもと近くにいて、最後に近くにいていた瑠璃様の心配をしていた。

 だから、頭の中にはアリア様の事なんてなかった。メイド失格。ーーでも、この時の私は怒りのパワーに満ち溢れていた。頭が回らなかった。

 ただただ瑠璃様が無事でいることを願っていた。

「待っていてください。すぐに…っーー」

 刹那、暗い路地から誰かが急に飛び出してきて、襲ってきた。

 少し距離があって、相手の走るスピードが遅かったため、すぐに正体は分かった。

「精霊殺しっ!」

 足を弓で射抜かれ、スピードが遅い精霊殺しの信者。ーー私は鎖鎌を操り、精霊殺しの首に向かって鎌の部分を当てた。

「お前ら全員殺してやる…殺す…殺すっ!」

 そう言って、私は矢で足を射抜かれた精霊殺し信者を殺したのを確認したのち、走って先へと向かって行く。

 道中精霊殺し信者が襲ってくることが多々あったが、すべて殺して走って先へと向かう。

 進むにつれ、信者たちの出てくる量も多くなってきている。ーーそれはだんだんと瑠璃様を誘拐した奴の近くに来ていると私は思っていた。

 だがしかし、私は走っている途中に精霊殺しの信者たちに囲まれた。その時だった。

「瑠璃様を…瑠璃様を返せーー!」

 信者たちの隙間から、引きずられて運ばれている瑠璃様を見かけた。ーー私は強い殺気を醸し出し、怒り狂った。

「はぁぁぁぁぁっ!」

 私は鎖鎌を操り、敵一人一人の首を割いていく。ーー飛び散る血。メイド服、そして顔、手までも赤く、血に染まっていた。

「さっさと瑠璃様を返しやがれっ!」

 そう叫んで、私は鎖鎌を振り続ける。

 そう言っても、精霊殺したちの信者がはいどうぞって、瑠璃様を渡すことはもちろんなかった。あいつらは瑠璃様を引きずりながら奥へ奥へとどこかへと持っていく。ーーだがしかし、私は一度瑠璃様の近くに来ると、少しの間だけどこに隠れても場所がわかるようになる。

「瑠璃様、今行きます」

 そう言って、私は先へと進もうと思いましたが、精霊殺しの信者がその行く手を阻む。

「お前らどけーーっ!」

 鎖鎌を振り、信者を殺して強制的に道を開ける。ーー鎖鎌は赤く染まり、大きい音を立てて地面へと落ちる。

 死体だらけの道を一人、目を瑠璃色に光らせて歩く。鳴り響く鎖鎌の引きずる音。

ーーその音が精霊殺しの信者たちの恐怖感をますますと上げていくが、奴らは一切しゃべらないし、逃げもしない。

 精霊殺しは、喉にナイフを刺されてしまい。声を失ってしまっている人が多数だ。

 刺されてしまい、声を失わなかった者、そして嫁を持っているという条件で精霊殺しの司教になれる。

 精霊殺しの司教は、自らが精霊になってしまう。だから、瑠璃のように戦闘性のない精霊、そして、予備精霊の場合は体を乗っ取ることができてしまう。

 そのことに気付いていた私は、先へ先へと急ぎたい気持ちだが、信者たちの手によって、何度か行く手を阻まれる。

 その急ごうという気持ちが裏目に出たのか、

「ーーっ!」

 走っている途中、横からの敵の攻撃に気付けず、避けれなかった。ーーだが、直前に攻撃魔法に気付けたため、何も持っていない手の方で防いだ。

 魔法から身を守るために、短時間で手から腕にかけて氷を張り巡らせた。ーー多少痛みがあり、その腕は当分使えなくなるが、守りにするのにはもってこい。

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 私は叫び、鎖鎌をさっきよりも素早く振っていく。ーー敵は私の鎖鎌によって瞬殺。

「おいっ! まだ出てきていない者がいるのなら出てきて戦えっ!」

 そう私は大声で叫ぶ。ーー声は王都中に響き渡った。

 その声を聞きつけた精霊殺しの信者たちのターゲットは、すべて私に向けられたのだ。

 にしても、信者たちがじゃんじゃんと出てきて、一体何百人という。

「くっ…」

 私はこの大勢の精霊殺しに立ち向かわないといけない。ーーこの風景を見ていると、過去を思い出す。あの、弱かった自分の、過去を…。


 私がアリア様に出会ったのは、幼い頃の事でした。

 アリア様はその頃、銀髪で活発な少女でした。ーー私は今も変わりなく、ショートヘアーでしたが、メイド服ではなかったです。

 小さな村の中、何十人のうちの二人が私とアリア様でした。

 そして、その村の住人の大人たちは謎の集団に入っていて、その集団の教えを私たちに教えていました。ーーその集団が、のちに私が全員を殺すと決めた集団だった。

 それから、私たちの同い年の人たちは謎の集団に入っていくことに。

 私とアリア様は、あの村を抜け出し、逃げてきたので謎の集団に入ることはなく今に至る。

 そして、その集団と戦う時、あの時遊んでいた相手だと思うと少し油断してしまう。

 私たちはその集団を憎む者。殺さなければ後悔する。ーーそれが、友人がその集団の信者だとしても殺す理由。

 どうしてそうなったか…。

 

 数年前。

 私は小さい村で生まれました。

 その前には、銀髪の少女が誕生しました。

 私は黒髪という、普通の少女でした。

 だが、銀髪の子は違った。

 銀髪の子は神の子言われ、裕福の家庭で育てられました。

「にしても、本当にアリアちゃんの家は大きいね」

 村では、『銀髪のアリア』と言われていた幼少期アリア。私はアリアの家を見ながら友達と話していた。

 アリアの家は、皆より一通り違う。ーー大きい塀に囲まれた家だった。

 村に一つ、大きい家で豪邸に近い。村の人が皆うらやましがるのは当たり前のことだった。ーーアリア様はお嬢様生活。私たちはいつも働かさせられる側で、貧困な生活。

 正直、結構苦しい生活をしていた。

 そんなある日だった。

 私が村から少し離れている森で遊んでいたら、

「ねぇ、リアちゃん。あそこに誰かいない?」

 そう言って、友達は指をさし、指の先に目をやると、銀髪の少女がいた。

「確かに、誰かいますね。遭難したのでしょうか? 私少し見てきます」

 私は、森の奥の方に走って行って、銀髪の少女の所にたどり着いた。ーー最初は、あの銀髪のアリアかと思ったが、いつの間にかそのことが頭の中からなくなっていた。

「あの~…」

 私がそう声をかける。

「ん? どうしたのですか?」

「いや、それはこっちのセリフですよ。あなたはこんな森奥で何をしているのですか? こんなところにいると、魔獣に殺されてしまいますよ。餌にされてしまいますよ?」

 そう私は注意をする。

「そんな危険な所なのね、ここは」

 そう言って、銀髪を輝かせながら上を向く少女。

 私はこの少女が何をしようとしているのか、何を考えているのかが分からなかった。

「あなた…ここ初めてなの?」

 私は見知らぬ相手とにそう問う。

 すると、少女はうなずく。

「えぇ、外に出たのが初めてっていうか、なんというか…」

 外に出るのが初めて…。

「初めて…なのですね。珍しい人がいるものですね。それじゃあ、あなたはどこから来たのか聞いていいですか? そこまで案内いたしますので」

 そう言って、私は笑みを浮かべる。

「どこから来たか…それは答えられないのよね。忘れたとかそんなのじゃなく、個人的な理由でね」

 そう言って、彼女は口を閉じた。

 私はなぜ話してくれないのか、何度も疑問に思うことがあったが、人のことに首を突っ込むのは少し気が引けた。

「そうですか。…でも、ここにいると魔獣の餌です。せめて、安全区域にでも」

「お気遣いはありがたいのだけど、私はいいの。どうせ…死ぬ身だから」

 彼女がそう言った刹那、私の脳裏に一つのことが過った。

 

 一つの事。ーーそれは神の子といわれた者は、殺せ。


 神の子を殺すと、幸運なことがあるといわれている。

 理不尽に押し付ける『神の子』という名。欲。それが自分の子も殺す理由になる。

 私が出会ったこの少女は銀髪。多分、彼女はアリアだろうと私の脳裏に過る。

「ねぇ、どうせ…私も死ぬんだ。この村から出ていかない?」

 私はそう銀髪の子に言った。

「それは一体どういうこと?」

 銀髪の子は、首を傾げて私に問う。

「実はね…神の子と理不尽に言われているは私も同じ。今はこうやって黒に染めているけど、私もね、あなたと同じ銀髪なの。昔の親から離れるために髪を隠している。でも親は騙せない。顔を見れば一発でわかる」

 親というものは、自分の子であればすぐにわかる。ーー私は、それが迷惑でしかなかったのだ。

「ほら、この森を走ってまっすぐに行くと、王都があるのです。そこまで耐えて戦って走っていけば、必ずいけるはずです。私もこの村からさっさと出ていきたいですからね」

 そう言って、私は銀髪の彼女に手を差し伸べた。

「あなたはいいの…? こんなことをしてまでこの村を離れて」

「いいのです。どうせ殺される身ですし、この村がやっている活動についても気に食わないので」

 村の人々は殺人集団と言われている。だから今、重要危険手配されている村でもある。村のありかは人々の記憶から消され、私たちの村にいる人も王都への道をも記憶から消された。

 だけど、私は冒険家にこの村の場所と引き換えに王都への道を教えてもらった。ーー王都という名前は皆知っていた。

 大人になったら襲撃する場所として覚えさせられていた王都。私は王都がどんな所かを知っていたため、王都に向かう恐怖などはなかった。

 だけど、この森には魔獣たちがたくさんうろついている。それは自分の目で確かめて知っていたことであった。

 知っているけど、私はこの森をどうやって抜けていくかを冒険家に教えてもらった。

 この限られた村から抜け出せる。そう思うと、私もその教えてもらったことを実際にやってみようと思うようになっていた。ーー魔法、魔獣の倒し方や道。

 この村を抜け出せるほどのことは教えてもらった。

 だけど、私にそれを教えてくれた冒険家の人は、私に村からの脱出方法を教えた数日後に、この世を去った。ーー年とかそんなのではなく、この村人が殺したのだ。

「それじゃあ、私とこの村から出ていきますか?」

 私は真剣な表情で銀髪の少女を見つめ、手を差し出す。

「…あなたがいいって言うなら、私は全力でついていく」

 そう言って、銀髪の少女は涙を零して私の手をつかんだ。

 涙を零す意味、それは一体何だったのだろうか…。

「それじゃあ、連れを先に村に返さないと、すぐにばれてしまうから」

 私はそう言って、友達がいた方を見るが、その友達の姿はない。ーーその後、私は友達の居た場所に行くと、

「まずい」

 私の友達は慌てた様子で村に戻って行っていた。ーー聞かれていたかもしれない。それか、この子の存在を思い出したのかもしれない。早く、この村から出ていかないと私まで殺されてしまう。

「…早く逃げますよ。走ってっ!」

 私は銀髪の子にそう言って、走り出す。

「急にどうしたの?」

 銀髪の子はそう私に問う。

「いろいろとバレたかもしれません。数秒後には村の奴らが襲ってきます」

「でも、それほどの力は持っていないでしょ?」

 そう銀髪の少女は言うが、この村の奴らは完全におかしくなっていて、魔法を使うのがうまい方だ。それはなぜか、精霊殺しの後を担う人たちの集まりだからだ。

「この村の人は少し変わっています。私たちじゃ手に負えないほどです」

「そうなんだ…にしても、あなたの走り方、少し変わっているね」

 私は、いつも走る時は腕を振らず、後ろに伸ばして風の抵抗を受けないようにしている。

「まっ、足だけで結構なスピードが出るので腕を振る必要がないのです」

「たぶん走りやすさとかそこら辺のことだと思うけど…とりあえず急がないといけない状況だとは分かったわ。さっ、急ぎましょうか」 

 銀髪の少女はそう言って、走るスピードを速める。

 その刹那だった。ーー私の後ろから異様な雰囲気を漂わせる何かが近づいてきている。

 ものすごい殺気に満ち溢れている。

「これはまずいかもしれませんね…」

 私は少ししてから殺気を放っている正体が分かった。

「それで、何がまずいの?」

「異様な雰囲気を漂わせているのは村人たちで、殺気を放っているのは魔獣です」

 そう言って、私は今まで隠していた鎖鎌を出す準備をした。

「あの村にいて、よく武器なんか手にしたわね」

 銀髪の少女は少し息を切らしてそう言う。

「この逃げ道を教えてくれた冒険者が殺される時、こっそりと盗ったのですよ」

 私は、死刑執行直前に冒険者から頼みごとをされた。

 それを果たすためにはこの鎖鎌が必要だった。ーー最初はどこの武器で何という武器名かが、わからなかったのですけど、鎖につながっている鎌というところから私は鎖鎌と言う名を付けました。

 すべてはあの冒険者の頼みをかなえるため。私は、今あの死んだ冒険者頼みをかなえるために、今を生きる。ーーそれが、あの時私に色々と教えてくれたお返しだから。

「すみません。話はまた後でなんでも話しますので、まっすぐ止まらず走ってください!」

 私は走るのをやめて、後ろに振り向き、慣れた手つきで鎖鎌を出す。

「さぁあ、かかってこいっ!」

 私は獣耳を出し、小さな牙を生やして眉間に眉を寄せた。

「あれは…一体…」

 銀髪の少女はまっすぐに走りながら後ろを向き、リアを見ていた。

 その後、私は鎖を操り、鎌を魔獣、襲ってくる村人を殺していく。

 

 私を殺そうと、魔獣、人々だけでも何百体、何百人といる。ーー今、瑠璃様を追いかけている今のように。


「あまりにも人が多い…」

 それでも、私は鎖を振り続ける。

「はぁぁぁぁぁっ!」

 私の叫びは、数十分、数時間に渡って、滅びた王都に響き、やがてその叫びは聞こえなくなっていた。

 敵は全員死んだ。ーーだけど、私は足に大怪我を負った。

 足を引きずりながら、滅んだ王都を歩き、瑠璃様をひたすら探した。

 歩いていると、まだ出てきていなかった敵と遭遇したり、王都で商売をしていて、知っている人の死体があったり、王都は血に染まっていた。

 そんな中、私以外に立っている人を見つけた。ーー私はその人影を見て、鎖鎌を構えた。

「おやおや…まだ生きている人がいたとは…私も疎かでしたね…」

「ーー誰だっ!」

 私はよ身構える。

 そして、突っ立っていた男は、ゆっくりと私の方を向いてきた。

「私ですか…名前を名乗るのを忘れていましたね。…ですが、今少し不愉快な気持でもある。事、言葉、思いがうまくまとまらず、おかしくなってしまうのですよ」

 男はそんなことを離しながら、一歩…一歩…また一歩と歩み寄ってくる。

 私は、後ろに少しずつ下がっていく。

「精霊殺しの一番上に立つ男、それがカゲロウという男、そう…つまり、私の事…デェスゥ」

 精霊殺しの一番上…七つの大罪司教を取り巻くもの…。

「それで、お前はなぜここにいる」

 私は強く、足を一歩踏み出し、そうカゲロウと名乗る男に問う。

「それはですね…金髪の少女と、その使用人と見られ、この世最高点の力っ! …『リフレイン』の力の持ち主を殺しっ! その死体を片付けていたところだったのですっ!」

 そう言って、思いっきり笑みを見せるカゲロウ。ーー私は、そのカゲロウという男が何やったのかが、わかった。

 すると、怒りや悲しみ、何もできなかった悔しさなどが込み上げてきて、あふれそうになった。

 そして、私はその場で崩れ落ちた。

「もう少し早く来ていれば…もう少し早く手を差し伸ばしていたら…」

 止まらない涙。何度止めようと思っても止まらない。ーーカゲロウはその姿を見て大きく声を出し、笑っていた。

「実に滑稽っ! …愛するものを救えなく、怠惰に生きていたのですねアナタ…。前言撤回。あなたは勤勉ではなく怠惰っ! まさしく怠惰っ! 本当にあなたはあのお方たちを救うために戦ってきたのなら、もう少し早くこれたのでは?」

 カゲロウという男は、私にどんどん近づいてくる。

「うるさいっ! うるさいうるさいっ! …私は精一杯頑張ったんだっ!」

 血を流し、骨を砕き、精神まで削った。なのに、何も成果も出せていない。

「でも、あなたがしようとしていたことは、あっけなく、すんなり、あっさりと終わってしまっていますよ。…最後にもがきつくしていたあの少年。実に…あなたよりも実に滑稽でしたよ…?」

 瑠璃様の事だろう。ーー私はそう思っていた。

「あの金髪の少女が助けに来るも、少女は圧倒的不利な状態にいたっ! 理不尽に襲い掛かるわたくしたちのしもべたちはさぞかし血の味を堪能したであろう。ですが、その後違うところに向かえば、帰ってこないことに。実に悲しい、実に怠惰」

 この、カゲロウとい男の話から、私はアリア様を守ろうとした瑠璃様がもがいていたと話を飲み込んだ。

「まっ、この少女はこのままにしても何もしゃべらないであろう。…この世は、氷結の世界へと変わる。すべて私の思惑通り、実に実に片腹痛いっ! 面白いっ! アハハハハハハハハッ!」

 カゲロウという男は、魔法で雪を降らせて、奇妙な笑い声と共に消えていった。

 そして、カゲロウという男が消えて、背後に誰か倒れていた。

 私は、立ち上がり、勇気を振り絞って、倒れている人物の確認をするため、足を前へ前へと動かす。

 そして、私はその倒れた死体の元へ来た。死体を見た時、誰かだと分かったと同時になぜか、ため息が出た。そしてーー、



「あぁ…また大切なものを失ってしまった…………」



 瑠璃様は、倒れているアリア様の死体と手を握ったまま、死んでいた。

 それから私は両ひざを地につけて、瑠璃様の死体をあおむけの状態から抱きあげて、顔を上に向かせた。ーー瑠璃様の顔は血だらけになっていて、苦しそうに死んでいた。そして、涙を零したような跡もあった。

 私は何もしゃべらない瑠璃様の死体を抱き寄せて、涙を零した。

 だんだんと強くなる吹雪、そしてカゲロウの魔法のせいか、私の足、膝が凍り始めていた。ーーその後、太ももから腹部とだんだんと凍っていった。

「最悪ですね・・私…」

 刹那、私の顔が凍った。ーー死体の瑠璃様を抱き寄せた状態で凍った私は、吹雪によって飛んできた小さな石が凍った私に当たり、顔にひびが入ってーー、



 割れた。



 その後は、私と、瑠璃様とアリア様の凍った死体に雪が積もり、だんだんと雪によって見えなくなっていった。

 そして、私たちは完全にーー、



 死んでしまったのだ。



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