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COEXISTENCE  作者: medical staff
第2章
43/51

42話 契約

やっと更新できました、、そろそろ登場人物だとかストーリーを纏めていくべきですね

 星は、視界から溢れ出すように眼前に広がっている。


 人工光がない山の中、闇夜を照らす数多(あまた)の恒星と、太陽の光を借りる月。地球から見れば一次元の情報でしかないのかもしれないが、その星一つ一つはきっと膨大な反応エネルギーを撒き散らしているのだ。最も、地球まで届くのは遥か昔の光ではあるが。



 そんなご高齢の光を見ながら、道は奥多摩中央碑部公園より少し登った所にある小広場で寝転がっていた。一応、そこもキャンプ場の一部ではある。しかし宿泊小屋や花々がある大広場とは違って、偶然開けてしまったような謙虚な広さと侘しさがある所だ。

 広場の中央には、一本の大きな椎の木が佇んでいる。その雑巾を捻ったような太い幹に背を掛けつつ、道は比較的枝葉で遮られていない方角を向いている。


 手をまっすぐ、空へ伸ばす。




『…手を伸ばしても届きそうなのにな』



 すぐ側にあるように見えるのに、実際は一生かけても辿り着けない場所にある星々。いや、調べたことがないだけで、あの星々の近くからやってきた生命もいるのだから辿り着くことはできるのかもしれない。


 すぐ近くにいるのに、実際は一生かけても隣に座ることが出来ない種族。前例すらない、完全なる未知。単純な比べっこなら、ほかの星に行くよりもこちらの方がより大変そうだ。



 広場の端からくしゃっ、と草を踏みつける音が聞こえた。

 その音は一旦止んだ後、またくしゃっ、くしゃ、と一定のリズムで道の方に向かってくる。道は確認しなくとも、その足運びだけで来た人物については推測がついた。


 何年も前から、この足跡を聞いてきた。




「こんな所で寝っ転がって、風邪引くわよ」



 光は呆れたように道に忠告した。

 そこでやっと道は光の方を向いて、彼女の顔を見る。そこには安心70、不安30の分量で感情が載っかっている。光の心情はわかりやすくて便利だな、と道は思った。




「眠れなくってな…あきは?」


「あきちゃんは料理大会の結果見てるみたいよ。パン部門が終わったんだって」


「パン?」



 はっと気がつくように道は呟いた。


 そういえば、和微夫妻が営むパン屋『ミートブレッド』も確か営業を休むと言っていた。もしかしたらその大会に出るためなのかもしれない。

 道は彼らの健闘を祈りつつも、有名になったらパンが買いにくくなるのでは、という意地悪な危惧を抱いた。そこそこに頑張ってほしい。


 光はおもむろに道に近づく。




「隣に座っても?」


「別にここは僕の私有地じゃないよ」


「"いいよ"って意味を伝えるのに、なんでそんなに文が長くなるの?」



 また一段と、呆れを増幅したため息をついて光は彼の隣に座る。両膝を立てて、それを両腕で抱え込む。

 性格は虎かヒョウのような彼女だが、こうして小さくなるとうさぎのようであった。小さな身体に、小さな頭。もちろんそんな事を言えば殴られるか、小言を増やされるだけなので道は口を閉じたままだ。


 彼女は頰をその膝の上に載せるようにして道の方を見ている。





「…ねえ、本当にあんなこと頼んじゃって良かったの?私たちとは関係ないのに…」


「……僕たちの過去まで話したのは、あくまで情報の不確かさを無くすためだよ。


 それに最近エチルの動きが露骨すぎる気がする。僕らのため、というより新人類のために共有しておいた方がいいこともあるだろう」



 呼吸するように嘘を吐く。


 道は自分の心が曇った窓ガラスのように見通しがつかなくなっていくのを感じていた。"同情"という醜い打算を隠し、正当性を主張したがるその心。

 彼は、"仲間"という概念も、その接し方も知らなかった。




『僕は…利用しただけだな、彼らの良心を…』





















「…これが僕ら結城家の事情だ」



 道が事の顛末をそう締めくくると、予想通りと言うべきか、話を聞いていた皆の全ての動きが止まっていた。


 母の死、逃亡、光との出会い、その後の山での生活。それらを一通り説明し終えた所だった。

 よくある、では到底片付けられない出来事。悲惨と驚愕を混ぜたカフェオレ色のストーリーは、彼らの中に何かを芽生えさせるには十分な内容だった。




「そんな…ことが…」


「……思った以上っすね…」



 那月と陽哉が顔を歪めながら絞り出すように呟く。

 お通夜のように、その場から目を逸らしたいのに出来ない、といった暗黙の制限が皆の間に張り詰める。パチパチと跳ねる焚き火だけが変わっていない。


 ただ彼らの視線は、まだ含む様に言葉を切った道に集まっている。その視線で、ここまで内輪の話をどうしてこの場で取り出してきたのか、その解を求める。



 実際、道もこれから話を進めようとしていた。寧ろここからこそが、正念場かもしれない。




「で、これを踏まえて僕たちから一つの契約を提案したい」


「契約?」



 健太郎が意外そうな反応をする。


 これからの話は他の者にまだ伝えていなかった。曙と光さえぽかんと口を開いて、事態の突然の変わり様に追いつけていない様子だ。



 ただ陽哉だけは逆に、悪戯が成功した子供のような、してやったり顔を浮かべている。優を連れてきた時点で、こうなる事は彼にとっては想定内だった。しかし彼も当然その内容までは知らない。




「契約って言うのも大げさかもしれないが…双方に利益があるもの、という意味だ。


 僕らからの提供物は主に情報……

 それも国家レベルでの調査による、エチル政府やリムーザの動向だ」


「っな!」



 突かれた蛇のように各々が驚きの色を示した。道の言葉は様々な推測と疑問の渦を巻き起こすものだった。




「ちょっと待ってくれ!

 それはつまり、新人類政府がエチルに反抗…いや、それどころじゃないな。諜報戦において出し抜いているということか?」


「那月、落ち着きなよ」


「ああ、それと声が大きい」



 健太郎と道の窘めに、那月はハッと自分の行動の危険性を理解して、「すまない」と謝る。万が一ここの会話が外に漏れると、エチルは言わずもがな、新人類であっても結果的に情報漏洩のリスクが高まる。慎重に越したことはない。


 道はさりげなく他のグループを確認するが、残っている焚き火は道たちからは十分遠い上、そちらはそちらで話が盛り上がってそうなので胸をなでおろす。地獄耳を3つくらいつけていない限り聞こえることはないだろう。




「けど那月ちゃんの言う通りっすよ。まずその情報元はなんなんすか?」


「"糸"という、エチルとの和平交渉の為作られた組織を知っているか?」


「糸?」



 道はその場の全員に問いかける。


 軍事学校生といえども、流石に出来たばかりで活動もそこまで表立っていない組織の存在は頭に浮かんでこないようだった。目の間に川の字を載せて首を捻っている。


 生活に四苦八苦している中で新人類が政府に求めることなど、現状況の緩和に過ぎない。遠い未来を見越したエチルとの和平を目的とする組織など、気にする余裕もないのかもしれない。



 しかしここで返答したのは、意外な人物であった。




「…んあぁ、知ってるよ」



 気怠そうに、耳を掻きながら優が答えた。

 皆が目を見開く。




「…どれくらい?」


「あ?……まあ、さっき言った組織目標と構成員がちょいと特殊っつうことくらいなぁ

 だったら?」


「いえ、十分です」



 道は少し掘り下げた質問で優の様子を伺い、すぐに退く。これである程度彼女に関して推測する材料を得た。




『新人類政府と、もしくは糸そのものと繋がりがあるのか』



 優は学校に入る前から、何処かしらである程度の訓練を受けているのだ。その過程で軍などと繋がりを持つことになるのは不自然ではない。

 ただ、それを考える後回しだ。別に彼女が糸のことを知っていようとマイナス要素にはなり得ない。それどころか、軍とのパイプという点で情報の整合性を取ることも可能かもしれない。


 聞きたいことで脳を揉まれるような不快感を我慢して言葉を紡ぐ。




「とにかく…さっき僕が説明した結城家の事情から、僕はその組織に所属している。

 その為一応、公式な情報を提供できる」


「でもいいんすか?そんなこと打ち明けて。

 守秘義務とか無いんすか?」


「ああ、不思議なことに僕だけはそれが無いら(・・・・・・・・・・)しくてな(・・・・)



 陽哉に同意するように、道が言う。

 その顔は、呆れ。


 何を血迷ったのか道が糸に電子登録する際に、端末画面に表示されていた義務項目には"守秘義務"が一片たりとも載っていなかった。わざわざ登録する時受付の人に確認もしてもらったが、「それで正しい」と押し返されただけだった。


 勿論道はそこで得た情報を無闇に漏らしたり、かつての叔父のようにエチルに売りさばく、と言うこともない。だがそれを、いくら調べ上げたとはいえ組織に入れたばかりの人間に自由にするのは、一体どんな意図があるのか…




「勿論僕の情報の不信感があるのならその都度確認してもいいし、信じなくともいい

 そこはみんなに任せる」



 道は一度言葉を切り、息を大きく吸う。




「その情報の提供と引き換えに、皆から返してもらうのはーーー
















「…お手伝い、ね」



 道が立ちあがって小屋に戻ろうとする時、光は目を伏せながらそう噛みしめるように言った。




『それは、本当に手伝いなの?』



 光は、何と言葉にすればいいのかわからなかった。

 エチルであることを明かした事で、自分の憂いの一つは消えた。

 しかしそれとはまた別に、他人が自分にかける過ぎた思いやりや履き違った同情が生じてような気がしなくもない。




『それを生み出した…生み出させたのは…自分ね…』



 光は道の表情を観察する。

 彼は、落ち着いている。いつでも、彼は落ち着いている。まるで菩薩のように、光の思慮の遥か先から手招くように、落ち着いている。


 しかし、その落ち着きは針山の上の泡のように、崩れそうな要素を含んでいた。彼女にはそれが分かった。




「ああ、手伝いだ。ただのな」



 そう言って、道は踵を返した。





 その背中を見送りながら、光は自分の血を呪った。

 彼に不幸を、業を背負わせてきた種族と同じように流れているそれを呪って、自分の周りの人々さえ巻き込んで狂わせていくそれを呪って、深く息を吐いた。

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