35話 霹靂徹山
書くのが(下手になりそうで心配する)緊張する戦闘シーン…
下手に難しい単語入れすぎると逆に分かりにくくなりそうですよね…
同時刻、北グループ『霹靂徹山』の山中
「必ず2人組で当たれ!!先頭のものが怪我したら後方と交代!!
数削ったら一点突破だ!それまで粘れ!」
「ja!」
こちらも同様に戦闘が開始していた。
しかし道が"秋麒麟草"で索敵していた南グループとは違って、こちらは奇襲をかけられた形での幕開き。
そのため既に混戦に近い状態に陥っていた。
北の山は全体的になだらかな斜面を有する場所が多く、襲われたところも足場の心配は無い、平坦な曲道である。
その条件は相手にとっても同じだが。
「オッラアァァ!!」
上級生の1人が掛け声と共に両刃剣を敵の顔に向けて斜めに振り下げる。
型から全くブレのないその流れるような斬撃は軍事学生として相応しいもので、敵の防御を待つこともなく目標に達する。
そのまま頭蓋を割るものと思われた。が
ゴガンッ!!
激しい衝突音と共に、抗力で弾き返される剣。
それに腕を取られないよう踏ん張りながら敵を確認する。
敵の頭は頭蓋どころか皮膚にさえ傷一つ付いていない、全くの無傷。
「クソッ!!実戦用でもダメか!」
敵前から退却しようと地面を蹴って後ろに跳躍する。が、焦りによる足の滑りで勢いつかず、下がる前にがら空きの胴への接近を許した。
それに対して学生は汗で濡れたグリップをしっかり握り直し、自身の剣を盾するように前で構える。
「ガッ!!グッゴアァァァ!!」
振動するような声と共にその大きな口がひらかれ、手のひらからはみ出そうなほどの大きな鋭牙が学生の体を刺し通す直前
「させるかよっ!」
その間の距離が0となる前に間一髪の所で別の学生が牽制する。
彼は長槍を渾身の力でもって突き出す。
…しかし敵の眼球を狙って突いたその槍先は空。
既に敵は獲物を諦めて横に飛び、構え直して戦況を振り出しに戻す。
それだけでなく、その後ろから援軍のように次々と追加参戦してくる敵。
総数など数えていられる余裕のあるものは誰もいなかった。
「チィッ!犬っころの分際で!」
意味のない罵声を叫びながら、体に喝を入れて再度得物を振りかざす。
「…これが兄が言ってたやつか。ちょっとあたし携帯数足りないかも」
「はぁ…まあ道もこれは予想してなかったんでしょう。
ここまでの戦力だって知っていたら話していたはずよ」
曙と光は戦場の真ん中で愚痴を言いながら手を動かしていた。
しかし情報不足なのは仕方ないということを彼女らは理解している。前日のショッピング帰りに糸に呼び出され、そのあと帰って来てからもしばらく自分の部屋で何か思案していた道。今日のハイキングには別メニューが用意されている、と彼が教えてもらったのがあの時であろうことは容易に想像できた。
「光さん。予備とかある?」
「ええ。実戦用で2本持ってきてます」
「さすが」
健太郎の問いに顔を向けず準備をしながら答える光。
鋼鉄のように冷たく落ち着いた表情を見せる2人だが、その闘志は激しく奮い立っており年に相応しくない猛獣のようなオーラを携えている。
「はい、これです。
那月さんは大丈夫ですか?」
光は重さ20kg以上ある実戦用大剣を健太郎に放り投げながら那月に尋ねる。健太郎もその大剣を軽々とキャッチして手への馴染みを確認している。
「ああ。心配ありがとう。
だがあたしはこの程度の敵であれば自分の身は守れるから問題ない」
「…なるほど。了解しました」
「光さん、大丈夫だよ。那月の言葉は本当だから。
それにいざとなれば僕もいるしね。光さんは自由にやっちゃっていいよ」
那月の脚を心配する光であるが、那月自身も健太郎もそれを丁寧に断る。その事で光は彼らの強さを確信した。
敵の正体は犬型の魔獣の一種、"ゴロボウルヒ"。
その体長は年齢によって異なり、最大寿命の30歳ほどまでいくと3mにも達するものさえいる、極めて危険度の高い魔獣。
鋭い前牙と筋肉質な体ゆえの身体能力の高さも脅威であるが、最も人々が恐れるのは魔獣ゆえの特殊能力。
ゴルボウルヒの体毛は通常のケラチン繊維の他に体内でいらなくなった金属系統の排泄物を析出させている。そのため擬似的な合金繊維によって体を覆われており、攻撃がその中身まで到達するとこが困難となる。
そんな通常の学生では手に負えない凶悪な相手を"程度"といえるのはそれなりの実力故だろう。
「あたしも準備できたから行こっか」
曙がポーチを腰につけて身軽な格好で光たちの輪の中に入ってくる。
彼らの周囲では既に上級生、または武器を持ってきていた下級生が交代式方円陣を展開して戦闘を開始していた。
円形に組まれたその陣の中で、準備に時間がかかる光たちだけが出遅れた形である。
「すみません」
「ん?なんだ?」
光が近くにいた上級生に声を掛ける。
しかし彼もかなり切羽詰まっているのだろうか、少し怒気を孕んだ億劫そうな顔で応じる。
「大剣2名、補助1名が遊撃で戦闘に加わることを報告します」
「はぁ?
おっ、おいっ!ちょっと!!」
上級生の返事を待たずに光たちは全速力で駆け出した。
光と健太郎は正反対方向に、曙はそれと垂直方向に。
まず光と健太郎は跳躍で仲間の学生の遥か上を飛び越える。
飛び越えられた学生は皆唖然とし、彼らの姿をただ眺めている。しかし光たちの芸当はそれ自体他の者には真似できない見事なものかもしれないが、明らかに危険と言わざるを得ない。
光と健太郎が着地した場所は学生たちが戦闘を繰り広げている境界よりさらに奥、ゴロボウルヒの集団のど真ん中であった。
ザザザと地面を足で擦りながら急制動をかける。
「お久しぶりね、ワンちゃん」
純氷のように透き通る冷笑でゴロボウルヒに対面する光。戦火を凍りつかせるその余裕は、ゴロボウルヒの群れさえも寸秒浮き足立たせた。
しかし硬直が解けると、知性というものがあるのか。刹那の判断でもって自分たちが圧倒的有利に立っているはずの光に標的を移す。
野性の衝動に任せた攻撃が収束的に、獲物を互いに取り合うように光に向かってなだれ込む。
開かれたその無慈悲な口腔は、
「ハアアァァァァァァァッッ!!!」
……一筋の軌跡によって、永遠に開かれたままとなった。
ゴルボウルヒの下顎を切り落とした光の水平切りは遅れて衝撃波を伴い、切られた個体は勿論、その後ろの個体までも巻き込んで胴体を真っ二つに割る。
バンッと激しく空気を叩くような破裂音
吹き出す血飛沫と断末魔
数十匹の生命を同時に切り飛ばした光は、それらを鬱陶しそうに剣で振り払いながら林の中に身を潜めている増援部隊を一瞥する。
部隊のゴルボウルヒは目の前の戦場で怯えながらも、自分の欲動を抑えきれないようだ。ぞろぞろと考えもなしに新たな仲間を連れ出してくる。
「人間は狩るならもう少し頭が良くなってからにすればいいのに」
そう呟きながら光はまた走り出した。