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COEXISTENCE  作者: medical staff
第2章
30/51

29話 デパート

やっと仕事が終わりましたー!

これからやっとゆっくり書けます!

「はー、いろいろと買えたね!」


「全く関係ないものがほとんどだけどな」



 曙に返答しながら、道は自身が持っている袋の中の料理関係の本やキッチン周りの消耗品を見ながら言った。


 道はメールにあった通り曙と光と共に北区のデパートまで買い物に来ていた。曙はハイキングのためなどと嘯いていたが実際のところは買いもの好きの彼女のための口実も含まれていたようだ。そして案の定、荷物持ちの役割も道は頂戴していた。




「別にいいじゃない。全部必要なものだし。

 あきちゃんだって好きなもの買いに来ている訳じゃないのよ」


「そーそー。兄のけちんぼ〜」



 道は光と曙の反感にはいはいと答えて受け流す。


 学校が終わったのが4時過ぎであったので、道たちが買い物が大方終わった現在は既に6時を回っていた。周囲の客足も少なく、この時間帯は地下の食品売り場が大混雑となっているはずだ。アウトドア用品の店員さんが暇そうにして綺麗に並んでいる商品をもう一度並べ直していたりする。




「ねえそういえば…

 "政府"の方はどうなったの?」


「"政府"…?

 …あああのことか。まだ何にも」



 光の突然の質問に戸惑った道だがすぐその言わんとするところを理解した。


 "政府"、つまり先日道だけが正式に所属することになった新人類政府の直属機関 "糸"。この世界の不条理を打開するための、ブラックホース。

 あの寄生虫事件を機に"糸"の拠点"桂基地(かつらきち)"へと足を運んだ道は、そこで"糸"への入隊を申し込んだ。道たちを誘っていた男はそれを快く承諾し、道の現在の所属は"第1糸 特務執行隊"という事になっている。




「はぁ…ほんとうによかったの?兄1人だけで。

 誘われていたのは3人だったのに」


「前にも言ったけどそれだとリスクが高すぎる。政府直属とはいえ情報の少ない組織なんだ。

 どんな事をやらされるかわかったもんじゃない」


「またそうやって重い荷物背負いたがって…それにしたって道が必ずやる必要はないでしょう。断る事だってできたのだから」



 2人の言う通り、"糸"への所属表明を出したのは道だけだった。道が相談した時は当然曙と光は自分たちも、と声を上げたが道がそれに待ったをかけた。



 道の中では一つの疑問があった。道たちを誘った謎の男。今でこそ、連絡を取った際に"糸"の総隊長という肩書きを知らされたため不信感は弱まっているが、彼にとって道たちを所属させるメリットがわからなかった。


 確かに道たちの能力は一般的とは言えない、使いようによっては情勢を揺るがすものとなり得る。道の記憶力は諜報員としての卓越した資質があり、光の爆発的な戦闘力はリムーザ工作局とでさえ張り合えるだろう。



 だが、所詮素人だ。"糸"として道たちを雇うメリットは少ない。

 単独で動くのとは違って組織として動くには、単純な力だけでは不十分である。敵情を知り、個人の能力を考えた上でそれが最大限活かせる配置をする。その為に部下の能力や癖を把握し、また部下の団結力を高める事は重要だ。


 それらを含めて、あろうことか総隊長が組織に、何の関係もない道たちを誘うにはあまりにリスキーであった。普通に考えれば(・・・・・・・)




『となると…別の理由があるのか?

 僕たちを入れなければならない何か理由が』



 それが曙や光に害の及ぶような類のものでなければよいが、保証はできない。

 そのような懸念を捨てきれなかった道は自分だけが入る(・・・・・・・)という選択をした。これによって万が一の場合にも曙と光が自由に動ける。




「けど結局私たちが入らなくても何も言わなかったり道にまだ情報さえ提示しなかったり…

 なんだか肩透かしだね…」


「ああ。すぐにでも任務を与えられると思っていたよ。

 釣った魚には餌をやらないのかもな」



 しかし実際は入ったっきり基地を追い出されてそのまま音信不通であった。わざわざ総隊長が出向いたのにも関わらずだ。




「まあ別に仕事が欲しいわけでもないし、今のところはいいだろう。給料だってやり高制じゃなくて固定給制で…」


「ああぁぁぁぁ!!」


「「どうした!?」の!?」



 曙が突然大声で叫んだため、道と光が彼女の方を向きながら確認を取る。顔が青ざめている曙の様子から何か深刻な事態が起きたと一瞬考え、気を抜いていた顔を引き締める。




「明日から全国料理研究 月花杯(つきかはい)争奪戦があるの忘れてた〜!!」



 ハイキングで生見れないじゃん!と叫ぶ曙を見て、2人ははあと息を吐いた。どうやら全く深刻な事態は無いらしい。曙以外にとっては。

 真面目な話をしていても彼女がブレないのは、他2人が考え過ぎる傾向の結城家では有り難いと言えるかもしれないが、もう少し時と場合を考えて欲しいと道たちは思った。







 ノロマな自動ドアの所為で向かいからやってきたお客とぶつかりそうになるのを、道は肩を逸らして避けながら外に出る。

 外では既に街灯が円錐状の光を放射して石畳を照らしていた。気温は数ヶ月前とは違って肌寒さを感じず、優しい風がデパート内の人温による熱気から3人を解放する。




 pppppppppppp


 ちょうどその時道が持っていた新しい端末(・・・・・)がけたたましい音を上げる。より正確には、道に対してのみに(・・・・・・・・)

 突然立ち止まった道を曙と光が振り返って声をかけようとするが、道は真っ直ぐ立てた人差し指を口元に当ててそれを制する。それだけで2人は事を把握した。


 周囲に人がいないことを確認してから、道はポケットの中に手を突っ込み、端末のボタンを押す。




「こちら、(シルク)、番外」


『前回のカフェの前に来い』



 それだけの音声を残して通信が切れる。ブチッ、という切断音がそのメッセージの素っ気なさを冗長する。

 対個集音集聴機能のため他の2人には全く聞こえておらず、道がすぐに話を辞めたのを見て首を傾げている。



「どうだったの?」


「ああちょっと餌を食べに行ってくる。

 先に帰っていてくれ。」



 そう言って道は北区3番地へと歩いていった。

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