27話 パン屋
遅れました…まだまだ仕事?学業?の方が終わってませんが頑張ります
道も昼食をとるために講堂を出る。
廊下では真面目な学生が数人ほど教員に講義に関する質問をしていた。その集団の後ろをそっと通り過ぎて入り口に向かう。
年季の入った木製の扉をゆっくりと開けるとギギギと軋む音が聞こえた。新人類がこの東京を取り戻してから数百年が経過しているため、その初期に建てられたこの講堂はその分古い歴史を持つ。ただその歴史を守ろうと、建て替えを行わず補強ばかり続けてきたため所々にガタが来ているようだ。
そんな古臭い箱から外に出た道は外の暖かな空気に身を包まれる。4月に入り、美しく咲いていた桜の花がようやく散り始めた頃だった。花びらは妖精のように宙で踊っている。
道は学食とは逆の方向に向かっていく。この時間の学食は大混雑であろうし、何より途中で実践施設の近くを通らなくてはならない。そこで自慢の【捕食者】を発揮させて、道を捉えようとしていると思われる陽哉に捕まるのも馬鹿らしいと道は思った。
学校の敷地の端であるこの辺りは研究棟ばかりで、初等学生が足繁く通うような場所ではない。時々やつれた表情の若者や、公演前なのかキーボード型電子端末を持って颯爽と歩く教授らしき人とすれ違うくらいだ。しかし一人で学内を散策していた道はここを穴場のスポットとして探し当てていた。
数人白衣を着た人々がとあるワゴン車の横で固まっている。前から見るとそのワゴンのボンネットには、ステーキが表面がこんがりと焦げて湯気を漂わせている絵がどでかくプリントされている。近づいていくとその肉の表面の割れ目や油が滲み出る様子まで綺麗に描かれており、見ているだけで涎が垂れそうになる。
道はワゴンの中を覗くと、そこでは2人の男女がトングを片手に袋の中に個装されたパンを詰め込んでいた。お客に料金と引き換えにそれを渡し、「ありがとうございやす!」という快活な声が飛ぶ。
しばらく道が止まってその様子を見ていると、ワゴンの中の男の方が道と目が合う。刈り上がった頭と無精髭、何よりその大木のような太さの大腕を取り付けた逞しい肉体は威圧感がある。
男はその口元を大きく歪ませる。
「うぉうぉうぉう!今日も来たねえ
いつものでよいとか?」
そう言ってトングを大きく振る。男のその様子に、短髪で吊り目の女も道に気づく。
「うぉうぉうぉう!今日もアンタ一人か?ちったあ寂しくなかったとね」
「別に複数が寂しくないだなんて決まってないでしょう」
「確かにな。磁石みてぇにくっついてる奴は馬鹿と思んけど磁石みてぇに離れてる必要も無かね?」
女は顎に手を当てて唸る。男も「カカ!違いねえ!」と大きく首を縦に振る。
道は笑いながら男にお金を渡してパンを受け取った。道が最近通ってる店で、『ミートブレッド』、"パンに出会う"という意味で付けられた店名らしいが肉は関係ないらしい。
道は初めて見た時、2人のあまりの元気の良さに好印象は持たなかったが、試しに買って見たパンを食べてその考えは覆された。
歯が中に食い込んでいくもっちりとした食感とちぎった時にふわりと香ばしい穀物の香り、噛むほど口いっぱいに広がる優しい甘みまで、全てが完璧であったのだ。それから道は時間がある時はこの店に通うことにしている。
「和微さんたちはそれでいうとどっちに当たるんですか?」
「俺たちゃぁ1つの背中合わせのの磁石だな!それぞれ違った人を引きつけんのさ」
店を営んでいるのは和微夫妻だ。初めて会った人は、威勢が良すぎる彼らがまさかここまで繊細なパンを作れるとは思わないだろう。しかし、彼らはその威勢と共に相手への思いやりの心もちゃんと持ち合わせている。
細やかな工程も丁寧に仕上げてお客さんの為に最高のパンを提供する。それが隠れた名店たる所以なのかもしれない。
最初こそ道は彼らの語りに圧倒されるものかと思ったが、話してみると適度に気さくな人たちであった。客とのおしゃべりにまで思いやりがあるのだろうか。
「あっそういやあごめんねぇ〜
明日っから2日だけ休むんだぁ。間違って来んようにな?」
「ああ、大丈夫です。明日からはちょっと僕も用事があるので」
「そっか!そりゃタイミング良かったんだ!」
和微夫が満足そうに笑みを浮かべて頷く。そんな様子を見ながら少しだけ礼をして、道は少しばかり人が集まって来たワゴンから離れていった。