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COEXISTENCE  作者: medical staff
第2章
27/51

26話 メール

 タンタンと、端末画面を叩く音が絶える事なく聞こえる。

 学生たちの前で説明している教員がスライドに載っていないような事をぽろっと言うと、その音は激しくなる。こういった講義の枠組みから脱線した話にこそ、教員方が半生で培ってきた経験や考え方が詰まっているのだ。そのため知っておくだけで即戦力になりやすい。



 道は戦術理論学部の1号館大講堂にいた。ここでは今、"地形学論"の講義が行われている。

 大講堂は前方の大きな電子投影空間と教壇から階段状に広がる座席、そして席ごとの小端末がついた長机が設備されている。その電子投影空間には授業スライドが映っており、教員はその一枚一枚のグラフや図を熱心に話している。



 正面に向かって右側の最前列を自分の定位置と決めている道は、今日もその席に座り頭を働かせていた。教員が誘導しようとしている話の内容を先読みして頭の中で理解を終える。そして聞いて確認する。


 そうして情報を得た道は、瞬間的に自分の脳の中の神経回路を意識する。膨大な数の神経興奮を感じ取り、その中でランダムに発火した電気信号を読み取り、その回路と得た情報を、手がかり記憶と共にマッチさせて記憶の定着を終える。





 そんな事を繰り返しているうちに、




「えーではこれから本日の講義のまとめに入る。地形学というのは3つの戦術基礎概念のうち、戦闘陣を決める上で重要な要素であり…」



 どうやら講義も終盤に差し掛かったようだ。教員は個々に説明していた内容を統合し、まとまりのある知識として整理していく。


 既に自身の脳内に講義スライドの全ピクセルを記憶として植え込んだ道は、そんな俯瞰的な説明を聞き流しながら明日に控えたハイキングについて考えていた。




『それにしても…西区5番地か…』



 参加人数は初学年の学生の大半とその付き添いとして上級生が幾人か、ということだった。


 上級生も同伴する理由は現場でのトラブルに対処するためだろう。都心から離れているとはいえ、危険がないとは言えない。巡回中の管理局や魔獣との遭遇はその最たるものだ。




 魔獣。それはエチル、新人類と同じく特殊な能力を持ちうる生物として他の動物とは区別される。

 エチルによる侵攻があった時期から出現するようになったとされるがその起源は不明な世界7大未知生物の一つ。説によればエチルによって地球外から持ち込まれただとか、侵攻による自然淘汰を受けて人類同様進化したとも言われている。


 魔獣は主に山岳部や森林部、海洋に生息していて人の居住地域に現れることは少ない。しかしこちらから向かう場合には異なる。毎年林業や鉱物業などに従事する新人類の何人かは魔獣が原因で帰らぬ人となる。




『あそこは今まで一度も魔獣が現れたことが無かったから生息地からは外れていると考えられているが…』



 上級生かいるとは言え、念を入れるに越したことはない。後で光たちにも注意しておこうと道は思った。







 講義を終えて、学生たちがいそいそと講堂を出て行く。時計の短針は真上を指しており、食べ盛りの若者にとっては至福のひと時の始まりである。


 道が講義内容が記録された媒体を抜き取りながら片付けを始める。講義内容を頭とは別におっておくのは、万が一レポートが出されてもすぐにデータを載せることが出来るようという為だけである。



 自分の電子端末を見ると2通メールが来ていた。差出人は曙と、陽哉。




『うへぇ…またあいつか』



 あの事件で協力して仲良くなった陽哉は、以前に増して道に構うようになっていた。全ては説明していないが、結城家の複雑さを知って彼なりに世話を焼きたくなったのだろう。しかし、そのお節介は静かに暮らしていたい道にとっては全く救いになっていないのが現状ではあるが。



 嫌なことを後回しにして、道はまず曙のメールを開いた。




[明日のハイキングで必要なものを買いに今日の放課後出かけようと思いまーす

 北門で待ち合わせで!]



 内容は買い物の誘いだった。いや、買い物付き添いの強制連行に関する通告であった。


 結城家での買い物はほとんど曙と光が仕切っている。というのも道がどんなに買うものに意見しようと2人のセンスがない!との意見で片付けられてしまうからであった。それなのに道が買い物に行かなければならない理由は荷物持ち、かつ護衛である。最も、護衛に関しては光に劣るので荷物持ちが主要な任務だ。




「こっちも面倒くさい内容だったか…」



 道は一人で呟きながら、もう片方のメールを開こうか悩む。どうせ面倒くさい内容なのは分かりきっているが、緊急性の高いメールであったら、後から後悔するのもなんだか損なような気がした。道は大きく息を吸って決心し、陽哉の方も開く。




[うーっす!!

 お・さ・む・chan!あけおめ!じゃなかったこんにちは!


 なんかこんにちはって他人行儀な感じがするっすよね〜。けどこれがお昼の挨拶って決まっちゃってるっすから仕方なく使わせてもらうっす!

 SO★NO★KA★WA★RI、俺たちの友情分、上乗せして挨拶するっす!

 こんにちは!こんにちは!こん…]



 道は素早く戻るボタンを押して、そのメールをゴミ箱に放り込む。世界でも類を見ない速度のボタン操作を実行できた気がした。

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