16話 確信
道は学校の図書館にいた。
視点を画面に固定させたままその手はキーボードを絶えず叩いている。
学術試験の前には席が詰め尽くされる図書館も、新年度始まったばかりでは人もまばらであった。
「そうか…」
「何がそうなの?」
「っ!」
道が後ろを振り向くと光がいた。どうやら集中しすぎて近づいて来たのを気付かなかったようだ。
「一言くらい声掛けてくれ。びっくりするじゃないか」
「道がそんなに周りを警戒しないなんて珍しいわね。それともほんとにおじいちゃんになっちゃったの?」
光は笑いながら道に絡む。
「はぁ違うよ…あの事件について調べておきたかったんだ。集中していただけだ」
「そんなに気になることでも?」
そう言いながら光は屈んで端末の画面を見る。その時光の青い髪が道の耳に触れてドキッとした。
「これって…心療内科?ってもしかして…」
「おい。僕が診てもらう訳じゃないからな」
若干本気で心配してきたので道は即否定する。
「いま考えている説はあるんだけどちょっとまだ足りなくてな…決め手がないんだ」
「フーン。私たちに何にも相談せずにまた勝手に話を進めてるんだあ〜」
「別に話の外にしている訳じゃない」
「なら教えてくれてもいいじゃない!」
「別に教えるのはいいんだけど…光は何でここに?」
道は質問を投げかけた。
授業が終わって間もないこの時間に光が道を見つけられた事が不思議だった。
「ええと…その、あきちゃんから道を探すように頼まれたの。今週のお薬の作る量はどうするか聞いてきてって」
光は少し顔を赤らめながら答えた。どうやらそれだけが理由というわけではないらしい。
光の言っているお薬とは曙が作る化学物質のことである。
【独製術】
曙の能力である。
曙は自身の体内で好きな物質を作る事ができる。それは自身の身体に存在する物質を材料とするという制限はあるものの、それさえ満たせば有機物、無機物、生体分子関わらず生成が可能となる。
その物質は眼の上にある副涙腺と呼ばれる器官から液体とともに涙のように排出できるため、それらを精製することで薬剤として売り出すことにしている。
曙が言っている作る量とは、道がその経営を担当しているためそれに関する相談である。
「そうだった。こないだまであきが風邪気味だったから少し待っていたんだ」
曙が作る化学物質は、曙の栄養が元となっている点で病気の時にその話をするのは躊躇われるのだ。道はそのまま事件のことに気を取られてしまったため生成量の連絡を忘れていた。
「じゃああきにそれを伝えるついでに今考えている事件の流れを……」
道はそれを言いかけて自分の考えに沈む。
「…道?」
光はどうしたのと声をかけようとするが辞めた。道の顔には彼女を、曙を導いてきた笑みが浮かんでいたから。