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COEXISTENCE  作者: medical staff
第1章
14/51

14話 尾行

 道たち3人と陽哉は店の前の街路を少し進んだところで別れた。陽哉はこの後また学校に戻るらしい。

 一方、道たちは入学式を終えてすることもないのでそのまま揃って家に帰ることにした。






 西門前から東区4番地へ向かうバスを見つけるために西区の中心街へ足を運んでいる最中




「道」

「どうした」

「つけられてる」



 光の言葉に道と曙は振り返らずに顔を引き締めた。


 光は昔からであるが勘が鋭い。それがエチル側で生活していた頃に身に付いた物なのかどうかはわからないが、尾行や人の視線に関しては強みであった。




「どんな類か分かるか?」


「…敵意って感じじゃない。興味かな…

 もしかしたら前の強盗の時と同じ人かも」



 強盗事件の冤罪を防ぐために"しのぶ"を追いかける前の店内で、道たちに何度か視線を送っていた人物がいたと言うことは事件後光から聞かされていた。


 あの時はまだこちらに被害があった訳でもなく、単に美形の曙と光に目を取られていたなどの可能性もあったため気にしないでいたが、こう尾行までされると流石に不審である。




「ここで返り討ちにしちゃうのはどう?」

「まだここは人通りが多いしそれはまずい」



 曙の提案だと管理局に目をつけられる。また相手の正体も分かっていないため、安易にこちらから攻撃もできない。




『…連続自殺と関連があるかどうか』



 道はそのことが気にかかっていた。



 もしその人物が今回の事件に関して何か情報を持つものだとしたら、掬いこぼす訳にはいかない。無闇にエチルを刺激するような事件は早急に解決する必要がある。




「3手に分かれる。つけてこられた人の所に他の2人がフォローして路地裏で話を聞く。

 こちらからの攻撃は攻撃された時のみ。これでいいか?」



 道が作戦を言い渡して2人も頷く。



 それと同時に光と曙が、それぞれ街路の角を左と右へ曲がった。








 道は暫く真っ直ぐ街路を歩く。


 とっくに西区の中心部は過ぎてしまい、人影は疎らとなった。このままいくと南区に突入する。

 道が控えめに振り返ると、灰色のポンチョを着た大柄の人物が付いて来ていた。ゆっくりとした足取りではあるが、道をターゲットとして睨んでいるようで迷いがない。




『尾行がバレてても問題ないってか?』



 道たちの不自然な別れ方から奴も気づかれている事は分かっているのだろう。そうでなければ相当間抜けな奴かだ。



 道は出来れば後者である事を祈りながら路地裏へ入る。それと同時に周囲に殺糸で罠を巡らせる。



 暫くしてポンチョの人物も路地裏へ入ってきた。道は既に向かい合って立っている。



 カツ、カツ、という足で地面を叩く音が壁を反響し、やけに大きく聞こえる。そのポンチョの灰色は周りに溶け込んで不気味さが増している。




「僕に何の用だ?」



 道は単刀直入に尋ねながら相手を観察する。



 第一印象で感じたのは、大きい。とにかく大きい。道の身長も178cmと新人類平均と比べたら高い方であるが、ポンチョはそれを遥かに上回り190cmはあるように見える。


 そしてポンチョから覗く顔も不自然である。顔、があるのは認識出来るのだがそれが一定に保たれていない。壊れたテレビのように一時一時どこかが欠けたり、膨らんだりと変化がある。おそらく能力の一部だろう。




「………」



 相手は口を閉ざしたままだ。



 道は緊張感を保ったまま、壁に留まって上から様子を眺めている光の位置を確認する。今戦闘となってもおそらく出て来られるよう、その体には力がこもっている。




「君たちは、」



 ポンチョの人物が低い声で口を切った。道たちを複数形で読んでいることから、道の作戦も全て読まれているが分かる。



 道は唾を飲み込み次の言葉を待った。







「新人類とエチル、どちら側につくのだろうか?」




 その発言は、道たちにとって最も予期しないものであった。




『こいつ……僕たちの事情を知って(・・・・・・・・・・)いる(・・)…!』



 道は確信した。



 道たちの様子を少し探れば新人類のそれであることは簡単に分かるだろう。それでいてわざわざ新人類とエチルのどちらかなどという問いかけは、光の事情を知っていなければ思い付かない。



 声が届いたであろう光も、緊張は解いてはいないもののその表情を少し歪ませていた。



 道は今日という日を呪った。入学式に手荒い歓迎に自殺事件、さらに結城兄姉妹の事情を知る謎の男。イベントのフルコースである。




「どういうことだ」



 道は一度呆けてみる。




「新人類とエチルによる共同生活、を実現している君たちは最後どちらにつくのか、という話だ」



 ポンチョ男は当たり前のように答えた。やはり相当深くまで道たちのことを調べ上げたようだ。




「別にどちらにつくという事もない。僕らは僕らのまま、生きていくだけだ。」


「それは出来ない」



 道の解答を、ポンチョ男は即否定した。




「何故だ?」


「ただ単に呼吸と心拍を繰り返すだけでは生きているとは言えない。それは世界に生かされているだけだ」


「………」



 道は言葉に詰まる。まるで目の前の相手に心の中を覗かれたかのような、そんな気分だった。道の最も痛い部分を突いてくる。




「間違えたり迷ったりする事は生きることの一部であるが、何もせずに立ち止まる(・・・・・・・・・・)事は生きることではな(・・・・・・・・・・)()



 男は宗教勧誘のような文句を続けている。




「それと、あんたが僕をつけてくる理由に何の関係がある?」



 初めて、表情ではない変化を続けていた男の顔が微笑したように感じた。




「私は、君たちに生きることを提案しに来たのだ。

 新人類とエチルの現状を断ち切り、共生の実現を目的として掲げる政府直属機関…


 彼らの間に結び目を作るという意味で名付けられた……通称"糸"への勧誘のために。」

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