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COEXISTENCE  作者: medical staff
第1章
13/51

13話 隠された自殺

 店の中にいた客たちが皆、音源の方へ視線を向ける。



 店の街路に面した壁は開放感を与えるガラス張りの造りになっており、それを隔てて外の様子が伺える。

 そこには一人の男性が横たわっていた。その服装は一見しただけで高級であることが分かるような綺麗な縫い目と、鮮やかな色に富んでいる。

 …もっとも今は鮮赤色が大半を占めているだろうが。



 男性の頭から流れ出ている血液によって辺り一面に赤い海を形成していた。割れたガラスの破片が、その海に沈んでキラキラ光っている。




「「「きゃあああああああああ!?」」」



 悲鳴が走った。










「えー それがですね、気がついたらガラスが割れた音と一緒に…」



『西伊太利亜料理店』の客及び従業員は、事件から十数分後にやって来たリムーザ管理局による事情聴取にあまり多様性のない説明を繰り返していた。

 当然道たちもそれを受けたが、新人類であることを明かすと名前や所在地、この店へ来た理由をエチルの客よりかは詳しく答えさせられた。




「それにしてもこの連続自殺はなんなんすかね?」



 事情聴取の続く店内の様子を見ていた道たちに、陽哉はその眉の間にしわを寄せながら言った。




「連続自殺?」


「あれ?知らないっすか?大学校だと有名な話でここ数ヶ月のうちにエチルの重要人物が次々と()()()()()()()()()()()()()()らしいんすよ。しかも全部転落死か交通事故っすね」



 その情報が初耳であった道たちは言葉を失った。

 こんな重大事件が世間のニュースで発表されておらず、更に自殺者が加速している。それはつまり、管理局がこの事件を完全に内密に調査しているということになる。



 陽哉によると亡くなったのは大手工業メーカーの社長、銀行の取締役、大臣の息子など幅広い分野ではあるが、どの人も業界の立役者と言って差し支えない人物である。

 人の特徴、死因まで共通する自殺がただの自殺などと管理局は考えてはないだろう。誰かしら又は団体によって引き起こされた殺人と考えているはずだ。



 しかし、そうだとしたらその事実で新人類を捕まえにこないのは不自然だ。




『いや…それもそうか』



 道は少し考えて腑に落ちた。

 死んでいるのはエチルの上流階級であり適当な新人類を処刑したところでその殺人は止まらないし、上の人の安心にも繋がらないためだろう。そんな無駄な労力を使っている暇が無いほど管理局は焦っているとも言える。




 しかしだからと言って他人事にも出来ない。

 この事態が続けばなんらかの形で新人類への圧制が強められることは明白だ。




「それに検死でもその人の体から異常が見つからないってのがミソっすね。あともちろん突き飛ばしなんてのも全然無いっす。死んだ人の中には自分で自動車に突っ込んで行ったのを目撃されてる例もあるっす。

 つまり他殺には出来ないんすよ」


「何かに操られてるというのは無いのですか?催眠術とか」



 光が陽哉に尋ねた。




「催眠術って…

 確かに古来の日本にはいわゆる"古術"を操る奴もいたって話もあるっすけど、新人類への進化に近づいていた個人なんじゃないかって説が有力っすし…

 大体他人の行動を操るなんて何かの能力でも難しいっすよ。脳みそはそんな単純じゃないっす」



 彼の意見に、道も首肯した。



 人は何かを認識するにも、体を動かすにも司令塔である脳からの電気的な通信を必要とする。仮に自殺するという一行動を操るだけでも、車が来ていることを認識してそこに飛び込む過程には多くの脳の神経を使わなくてはならない。



 更に言えば、道が能力によってようやく自分の脳をギリギリ制御出来てはいるのに、他人の脳など自分と同じような構造であるとは限らないのだからそれを制御するなどほぼ不可能に近い。




「それに今回死んだ奴も周りには誰もいなかったっすしね…」


「ん?なんでそんなことわかるんだ?」

 


 道は陽哉に疑問を呈した。

 今回死んだ男性は、道たちがいた『西伊太利亜料理店』と同じビルの5階からガラスを割って転落死したという話は陽哉も聞いていたが、それで他に誰も居なかったなどと断定できる筈もなかった。



 聞かれた方である陽哉はしまった、という字を顔に貼り付けている。その様子は彼の口が滑ったことを如実に物語っていた。




「何?この期に及んで隠し事?」

「知っていることがあるなら教えて下さい」



 曙と光も詰め寄る。




「陽哉、この事態がいずれ僕たちに不利になるのは明らかだ。

 気づいたことがあるなら共有したい」



 陽哉はしばし顎に手を当てて沈黙した。彼なりに様々な打算を巡らしているのだろう。そしてその口を開く。




「わかったっす!確かに今は出し惜しみしてる場合でもないっすね。

 結論から言うと、俺の能力が磁場感知、【捕食者(ラプチア)】なんす」




捕食者(ラプチア)

 それは比較的珍しい能力である。

 本来人体にはない感覚器である"磁定"が体中に分布しており、周囲の磁場を感知できる。



 しかし、道たちはそれを聞いてもあまりピンとこなかった。【捕食者】によって地球による磁場を感知して目を瞑っても方向を見失わないなどの利点はある。しかし、それでも陽哉の言動には説明がつかない。



 それを察した陽哉が再び説明する。




「俺の磁場感知は少々特殊っす。

 普通よりも精密に磁場を感知できるんす。それも人体の電気的活動から(・・・・・・・・・・)生じる磁場の変化さえ(・・・・・・・・・・)読み取れる(・・・・・)くらいっす」



 陽哉のとんでもない発言に、3人が戦慄する。

 それはつまり神経活動によって生じた電流がどこを流れているかがわかると言うことになる。

 陽哉が新入生歓迎試合で見せた異常な反射神経も説明がつく。彼は相手の動きを見て反応していたわけではなく、相手の筋肉を動かす神(・・・・・・・・・・)経の電流を感じて相手(・・・・・・・・・・)が動く前に(・・・・・)反応していたということだ。




「それは4つも上の階の人の動きを感じ取れるほどなのか?」


「まさか。

 距離的には集中すれば出来ないこともないっすけど何枚も天井で隔たれてるっすしむずいっすよ。

 ただぼーっとしてても人の位置くらいはわかるっす」


「……」



 彼が嘘をついているように見えない道は提供された情報から考察する。

 死ぬ人はエチルの上流階級、死因は転落死か交通事故死、検死では異常はない、自分から死に向かう、周りでそれに干渉する人物もいない……







 管理局による事情聴取が終わったようだ。3名の下兵が店の外に出て、事故現場で調査中の下兵たちに話しかける。




「そろそろ出るっすか」



 陽哉の言葉を尻切れに4人は店の外に出た。


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