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全自動外堀埋め機

【周囲の様子】

主人公の家と、アベル君の修行場になっていた祠以外は延々と続く樹海。

ただ、元の地形がなだらかな丘陵地帯であるため、所々に川が流れていたり開けた丘があったりする。

一本の獣道だけが外界に続いている。


アベル君が快適に過ごせるよう家の改装に取り掛かった結果www




「ママー、これどこに置けばいいのー」


母親になりましたwww


題名をつけるとしたら。

『【意味不明】家の改装をしたら急に子供生まれたwwwwwww【カワイイ】』

という感じ。


どういうことなの。


ちょっと人手が欲しいと思って、久しぶりに体の一部を分離させて分身したら、自我を持っちゃったのですけど。

しかも私のことをママとか言い出すし。


凄く可愛いし、アベル君がいなくなった今としてはその存在にとても助けられているのは事実なのですが、解せぬ。

どうして突然自我を持つ分身が産まれたのでしょうか。

見たところ、普通の分身と違って私を幼くした見た目をしていて確かに私の子供といった感じですが、普通に分身しただけで何か特別なことをしたわけではありません。

あえて言えば、そろそろ分身したいなーと少し思ったぐらいでしょうか。

まったくもって意味不明です。

スライムって、元々こういうものなのかな?


でも可愛いからまあいいか。

特に目つきとかアベル君みたいで、いい感じだし。

「ねえママー聞いてる?」

「聞いてるよ。ママがイヨのことを無視するわけないじゃない。その木の実は、そこの隙間に詰め込んでおいて」

「はーい!」


新しく生まれたこの子は、イヨと名付けました。

イヨは可愛いだけではなく、腕っぷしがよく、頭もいいです。

戦闘経験が少ないためまだまだですが、生まれてまだ1ヶ月にしては魔獣を狩る力はかなりモノです。

なので、一緒に狩りに出かけたり、家具の材料になりそうなものを捕りに行ったりしています。

そして頭もいいため、私の教えたことをどんどん覚えていきます。


「強い魔獣や怖い人間が襲ってきたら、この祠に隠れること。入り口が狭いから大きな魔獣は入ってこれないし、体の形を変えたら岩の隙間に隠れることも可能よ。お腹が空いても、さっき詰め込んだ木の実を食べて、できる限り外には出ないでね」

「わかったー」

「それと、そこにある宝玉に触ると地下に続く階段が現れるけど、その先はママも修行場になっているということ以外はどうなっているか知らないの。だけど、ここでも危ないと思った時は逃げ込むこと」

「はーい」

イヨの頭の良さは、こうして一度教えたことは二度説明しなくても大丈夫なぐらいです。

可愛くて強くて頭もいい、絵に描いたようないい子のイヨとの生活はとても素晴らしいものですが、実は一つだけ問題があります。


「ねえママ、今日もパパのこともっと教えて?」

「え、えーとね」

アベル君のマントを嬉しそうに羽織りながら聞くイヨに、安直に嘘を教えるんじゃなかったと、私は心底後悔しました。

イヨは頭がいいため、魔獣の番を見て、自分にも父親がいるはずだと考えてしまいました。

父親はどんな人だろう、優しいママの番になった人だから、きっと素敵な人なんだろうなとイヨは想像の翼をはためかせていきました。

そんなイヨに「あなたがどうして生まれたのか分からないの。多分、分身が偶然自我を持っただけなの」なんて残酷なことは言えませんでした。

言えないので、イヨの「パパはどんな人だったの?」という質問に沈黙で返答していたのですが、イヨが「どうしてママは黙っているの、まさか私は望まれて生まれて来たんじゃなかったの」と泣き始めてしまいました。

産まれて初めて泣き出したイヨの姿に慌てた私は、思わず即興で考えた嘘をイヨに教えてしまいました。



パパは、人間の騎士。

馴れ初めは、ママが料理をしていたところお腹を空かしたパパがやって着て、ご飯を食べさせてあげたこと。

その後パパとママは共同生活を始め、その中でお互い惹かれ合うようになった。

余談だけど、イヨが気に入って身に着けているマントとネックレスは、愛するパパがママにプレゼントしてくれたもの。

お互い惹かれ合っていたけど、実は森の外では人間と魔族は戦争になっていて、人間のパパと魔族のママが愛し合うことは許されなかった。

特に人間は魔族のことを嫌悪していて、愛し合っていることが人間にバレれば、パパは最悪の場合殺されてしまう。

だから、ママはパパへの気持ちをずっと秘密にしていた。

パパのママへの気持ちはバレバレだったけど。

そうして何年か時が過ぎたある日、パパがママと一緒に暮らせる世界を作るために戦争を終わらせると言って、人間の国に帰ってしまった。

ママは、そんなことはできるわけがない、このまま一緒に居てくれればいいと思ったけど、人間であるパパは人間の国に帰った方がいい、このままここにいてもいずれ他の人間に見つかって殺されてしまうと思い直し、パパを見送った。

こうしてパパが人間の国に帰った後に、イヨが産まれた。

お互いの気持ちは秘密にしていたけど、パパとママは間違いなく愛し合っていて、その間に産まれたイヨも、間違いなくパパとママが愛し合ってできた子供。

望まれていないなんてことは絶対にないけど、愛し合った(意味深)のがパパが人間の国に帰る直前だったので、パパはママがイヨを妊娠したことを知らない。

でも、イヨのことをパパに教えることはつもりはないし、パパの名前をイヨに教えるつもりもない。

それがパパのためだから。

もしも、イヨがいることをパパが知ったら、優しいパパは無理をしてでもママとイヨと一緒に暮らそうとする。

そんなことをすれば、パパは魔族の間に子供を作った裏切り者として殺されてしまう。

パパに危険が及ぶことを考えたら、パパに会えないことぐらいママは平気。

それに、ママなんて魔族の女より、同じ人間の女の人と家庭を作った方がきっとパパが幸せになると思うから…

ごめんね、ママの我儘にイヨを巻き込んじゃって。

駄目なママでごめんね。



前世のファンタジーRPGや小説を下書きにした架空ストーリーを説明したところ、イヨは納得してくれました。

最初はこんなに長々と説明する気はなかったのですが、イヨのご機嫌を取ろうと必死になっている間にどんどん説明が伸びていく事態になってしまいました。

しかも、その後もパパの話をもっと聞きたいと、せがまれることが増えて更に墓穴を掘りまくっている状況です。

それはとにかく、このパパは誰かに似ているような気がしますが、気のせいです。



嘘です。

だって仕方がないじゃないですか。

私の貧相な想像力では、即興で一から架空の人物を作り上げるなんて無理だったんです。

むしろ、ここまで即興で作り上げたことを褒めてもらいたいです。

名前は秘密にしたし、存在も秘密で娘だと言ってはいけないということにしたから、イヨからアベル君にばれることはきっと無いはず。

万が一アベル君が聞いても、アベル君にとっては私は恋人ではなく姉ですから、自分のことだとは思わず「おめでとうマユお姉さん、まさか一生を誓いあいたいと思うような人がいたなんて知らなかったよ。突然姪っ子ができて驚いたけど、自分のことのように嬉しいよ」とちょっとぐらい驚きながらも、祝福してくれるでしょう。


いやいや、まずそういう事態になったら、事情を説明すべきですね。

こんな、三文芝居のようなストーリーなんて、生まれたばかりのイヨならとにかく、アベル君ならすぐに作り話だって気が付くでしょうし。


「ママ?さっきからどうしたの?疲れたの、それともパパのこと思い出して寂しくなっちゃったの?」

「もう、イヨったらそんな気遣いまでできるなんて、本当にママ自慢の娘ね。でもママは大丈夫だから安心してね。えっとパパのことよね、そうねそれじゃパパと釣りをした時の話をしましょうか。ママが釣竿を振ったら、針がパパのズボンに……」

アベル君にしっかりと事情さえ説明しておけば、こうやってどこかで聞いたような話が増えても、きっと何とかなるでしょう。


ーーーーー


小高い山に、棚田のようなものが幾つも作り上げられていた。

あれらが棚田であれば牧歌的な景色だっただろうが、残念ながら棚田ではなかった。

岩で補強されたそれは、頂上にある砦を守るために作り上げられた防御施設だ。

僕は、そこで自らが行う恐ろしい行為を想像して、憂鬱な気分になった。

「どうしたんだい、浮かない顔をして」

どこか女性を思わせるような口調と、まるで女性のような髪型をした優男が僕の横に並んだ。

「ネス…やらなくてはいけないこととはいえ、これから沢山殺すのだと思うと、胸が締め付けられる思いだよ」

「なるほど、でも魔王を倒すためにはここを突破するしかない、そうしなければ愛しの君も守れないのは分かっているのだろ」

「ば、馬鹿。愛しの君とか…マユお姉さんは、僕の大切な人だけど…そんな恥ずかしいいことはっきりと言うなよ」

「恥ずかしがるアベルは可愛いな、それを独占できるマユオネエサンは羨ましいよ、まったくね、本当に…」

「ネス?」

「どうかしたかい?」

「いや、何でも」

またこの気配だ。

ネスから立ち上がった黒い気配に、嫌な想像がよぎった。

ネスは僕の理解者であり、親友だ。

男のくせに僕を可愛いいとか言ったり、妙にベタベタしてきたりと変なところがあるが、魔族への考え方の違いで孤立していた僕に手を差し伸べてくれた人だ。

だけど…妙だ。

今の僕は、戦いの中で勇者としての能力が次々に強化され、敵意や邪悪な気配を敏感に察知できるようになった。

例えば、これから攻める砦の方からは、敵や悪意、そして恐怖といった負の感情がごちゃ混ぜになった気配が漂ってくるのを感じることができる。

また逆に、2か月程前に数年ぶりに会うことができたマユお姉さんからは、とても暖かい気配を感じ取ることができた。

親友であるネスも、マユお姉さん程ではないものの、暖かい気配がしていた。

していたのだが、最近ネスから黒く禍々しい気配が流れ出てくることが多い。

まるで負の感情を壺に入れドロドロに煮込んだような気配だ。

僕の力が上がって、巧妙に隠されていたものを読み取れるようになったのか、それともネスが変わってしまったのかは分からない。

どちらにしても、とても嫌な感じがする。

「急に黙り込んで、体がどこか悪いのかい?」

「あ、いや、考え事をしていたんだ」

「マユオネエサンのことを考えていたんだね?」

「ま、まあそうだね、心配だからね」

咄嗟に嘘を言って誤魔化す。

だけど、マユお姉さんが心配なのは事実。

万が一人間に見つかったらと思うと、とても心配で夜も眠れなくなる。

「大丈夫さ、あんな森の奥に隠れているんだ、誰かに見つかる心配なんてないさ」

そうだな、僕しか知らないあそこなら、きっと大丈夫なはず。


え?


「そんなことより、まずは自分の心配をしないと。明日はいよいよ砦攻めだ、勇者の力を持ってすれば万が一はないだろうけど、しっかりと休んで万全の体制を整えるんだ、いいね」

ネスは僕の肩をポンと叩くと、そう言い残して去って行った。

彼の僕を心配する態度いつも通りだったが、今の僕にとっては何もかも胡散臭かった。


どうしてネスは、マユお姉さんが森の中に隠れていると知っていたんだ。

マユお姉さんの居場所について僕はネスであっても知らせないようにしていたのに。

言いようがない不安が心の中に駆け巡った。


まさか!

不安に後押しされるままに剣を取ると、僕はそのまま野営地を飛び出した。

研ぎ澄まされた勇者の直感が、激しく警報を鳴らしていた。


ーーーーー


イヨが産まれて2ヶ月程経ったある日。

私はイヨの勉強机に使えそうな木を探していました。

闇雲に森を歩いても仕方がないので、何度か背の高い木を登って加工しやすそうな木を探していたところ、谷川を渉っている人達が見えました。


「アベル君とは違う、どうしてこんなところに人が」

何者か分かりませんが、彼らがこのまままっすぐ進むと私達の家にたどり着いてしまいます。

もしもあれが悪意のある人間なら、家にたどり着かせる訳にはいきません。

家にはイヨが居るからです。

だから私は思い切ってあの人達と接触し、何者であるか調べることにしました。

ですが、直接接触するのは危険なので、久しぶりに分身を使うことにします。

イヨ以来、また自我を持ってしまうことを恐れて控えていましたが、仕方ありません。


「わーい、ワタシ分身ちゃんだよ、コンゴトモよろしくぅ」

出てきた分身は私の思う通りに喋り、動きました。

よかった、昔の分身と同じ、自害のない普通の分身のようです。

早速分身を件の人間達のところに向かわせると、分身と共有している視界には、人の良さそうな顔をした小太りのおじさんと、その部下らしき痩せたおじさんの二人が映し出されました。

二人とも旅の商人といった雰囲気を醸し出しています。

はてさて、いったい何をしにここに来たのでしょうか。

ここには、商売をする相手など居ないはずなのですが。


「その出で立ちは、まさかあたなは、マユオネエサンではありませんか?」

小太りのおじさんの発言に私は驚きます。

私の名を知っていることもそうですが、その名を知っているということは、おじさん達はアベル君の関係ということになるからです。

「そうですけど?」

「これはこれは、今日は幸運に恵まれていますねぇ。森が思った以上に深いのでどうなるか心配していたのですが、いやあ~良かった良かった」

「あの、それで私にどういったご用でしょうか」

「おっと失礼。実は私達は手紙を預かっていまして。こちらです。勇者様からのお手紙です、どうぞお納めください」

わーい、アベル君からの手紙だーーーー……って勇者って誰だぁ!!!!

私は勇者の知り合いなんて居ないし!

てゆうか勇者から私宛に手紙来るとか、どう考えてもヤバい状況でしょ!

これってやっぱり、知らない間に勇者に目をつけられたってことだよね!

人間にとっては勇者はヒーローですけど、私達から見たら絶対に会いたくない相手です。

そんな人からの手紙なんて絶対に読みたくない。

きっと書かれている内容は『お前で、2400人目だ!』といった感じで、私の殺害予告とか書いてあるに決まっています。

今すぐ逃げねば。


「おやぁ?どうかしましたか?」

私の焦りを反映して、思わず後じさってしまった分身を不審に思ったのか、小太りのおじさんが声をかけてきます。

しかし私はそれを無視しました。

申し訳ないのですが相手をしている場合ではありません。

それじゃ、名前も知らないおじさん達さようなら。

心の中で手紙を持ってきてくれたおじさん達に謝り、踵を返して逃げようとしたその時、私は違和感を感じました。

おじさんは二人いたはずです、なのに分身の目の前にいるおじさんは小太りのおじさんのみ。

もう一人の痩せたおじさんはいったいどこに?


その答えは、激痛と共にすぐに分かりました。

「痛い!」

何これ、やばい!


背中に走った鋭い痛みに、私は思わず分身のコントロールを手放しかけました。

私は慌てて背中を確認しますが、そこには何もありません。


ならばこれは、分身が受けている痛みってこと!?

そう気が付いた私は、慌てて痛覚の共有を遮断し、分身に周囲を確認させます。

分身はコントロールを手放しかけた際に転倒したようですが、すぐに何が起きたのか分かりました。

なぜなら、赤く怪しく光るナイフを持った痩せたおじさんが、倒れた分身をのぞき込んでいたからです。


「いい声だぜ。兄貴、この女も楽しみながら殺してもいいんだよな?いい体してやがるからさ、俺もう我慢できないぜ」

「いけませんねえ竜神様の教えにも『仕事は真面目にすべし』とあるじゃありませんか。ですが、私も勇者様を篭絡した体には興味がありますねぇ」

「流石兄貴分かってる。魔族の女など汚らわしくて触るのすら嫌だと言う、あの副騎士団長殿とは違うぜ」

「こらこら、直属の上官ではないとはいえ、大切な依頼主様なのですから、そのように言うのはいけませんよ。それと一つ訂正しておきますが、あの方は人間の女も触れるのが嫌だとか、おかげで今回の仕事は稼がせてもらいました」

「ははっ、なるほど流石兄貴だ。仕事の内容のわりに商売敵が誰もいなくて変だと思ったが、それをネタに独占契約を結んだってことですか!」

「褒めても何も出ませんよ、さあ依頼主様に感謝して仕事の続きをしましょう。魔族の仕業のように工作するまでが仕事ですからね、先は長いですよ」

「金がもらえて、女も抱き殺せるんだ、副騎士団長には感謝しておりますよっと」

私が痛みで起き上がれないと勘違いしているのか、おじさん達は何事か軽口を言い合っています。

軽口の内容は聞き逃してしまいましたが、軽口に時間を取ってくれたおかげで、その間に冷静さを取り戻すことができました。


「マユオネエサン、体を使って勇者様を篭絡するとは、魔王軍にしてはなかなか頭が切れるようですね。ですが、それが原因で私達に依頼が来るとは運が無かったですねぇ。天国を味わいながら天国に連れて行ってあげますので、それで勘弁してください。おっといけない。天国ではなく、女としては生まれてきたことを後悔するほどの地獄の間違いでしたか」

ニタニタとした気持ち悪い笑顔をしながら、小太りのおじさんが私に冥途の土産か何かを言っていますが、私はそれを聞き流します。

なぜなら、そんなことを聞くより、今はどうやってこの場を切り抜けるか考える方が大切だからです。

私を刺した赤く光るナイフは、恐らく何か特別な力があるナイフ。

そして、それを扱うおじさん達も相当の腕利き。

まともに戦ったら勝てそうにありません。


しかし、幸いなことに彼らはあれが分身だとは知りません。

適当に分身を逃げ回らせて、時間を稼いだうえで彼らに倒されればいいのです。

本体である私は、その間に逃げればいいわけですので。


「捕まらないだからー」

「ばかな、『激痛のナイフ』で切られたのに!」

突然逃げ始めた分身におじさん達は呆気にとられたようですが、すぐに追いかけ始めました。

おじさん達が家とは別方向に誘導されるのを確認すると、私は家へと向かいます。

何故ならそこにイヨがいるからです。

家に着いたらイヨを連れ出し、祠へと逃げます。

あそこは岩の杉間が多くて、スライムが隠れるには絶好の場所ですから。


祠に逃げる計画を立てていた私ですが、家についた時点で愕然としました。

家の中にイヨがいません。

壁に掛けてあるアベル君のマントもありません。

どうやら、どこかに遊びに行ってしまったみたいです。

「この大事な時に、いったいどこにいっちゃったの!?イヨ!!どこなのー!!返事してー!!」

私の声は虚しく森の中に響くだけでした。

「どうしよう…」

私が絶望しかけたその時です。

不幸なのか幸運なのか判断に迷う状況ですが、なんと分身と共有している視界にイヨの姿を捕らえました。

木登りをして遊んでいたらしく、おじさん達から逃げる私を木の上から驚いた様子で見ています。

駆け寄りたくなりますが、駆け寄ることも声をかける訳にもいきません。

何故ならイヨの存在がバレてしまうからです。


私は一か八かの賭けに出ました。

「くそーこんな奴ら、隙間かどっかに隠れれば、簡単にやり過ごせるのにー」

あえてイヨに聞こえるように大声で言った独り言は、確かにイヨの耳に届いたようでした。

視界の端で、イヨが頷くのが見えました。

イヨは祠に逃げろという私のメッセージを理解したようです。

流石イヨ、私の娘です。


後は、このまま分身を遠隔操作しておじさん達を明後日の方向に誘導しながら、私は祠に向かえば解決です。

一時はどうなるかと思いましたが、これで何とかなりますね。


ーーーーー


「止めて、酷いことしないで」

「おらっ暴れるんじゃねえ」

暴れる分身を、痩せたおじさんが馬乗りになりながら取り押さえます。

祠に逃げるまで分身には頑張ってもらいたかったのですが、おじさん達の方が一枚上手だったらしく捕まってしまいました。

そして、おじさん達は下半身の一部をむき出しにし、R18的な展開が始まろうとしています。


分身とはいえ見るのは辛い状況ですが、いきなり分身が倒されてしまうより好都合です。

逃げるために分身には少しでも時間を稼いでもらわないといけませんから。


「エロ同人みたいなことをするのね!そんな嫌、許して」

「訳の分かんないこと言ってるんじゃねえ!」


私は必死に分身を演技させます。

そうこうして数十分、やっと祠にたどり着きました。

そのころには分身の方はR18からその後ろにGが付くような展開になりつつあり、ちょっと精神的に辛いです。

ですがそんなこと言っている場合じゃありません。


イヨの姿がどこにもありません。


「イヨ、どこかに隠れているの??」

遠隔操作のため所々で立ち止まりながら祠に向かっていた私より、イヨの方が先に到着しているはずです。

それなのに見当たらないということは…


「まさか、この下にいるの?」

私は、まさかとは思い宝玉に触れます。

すると、アベル君が修行していたという秘密の場所につながる下りの階段が出現しました。


「イヨ、ここに隠れているんでしょ、ママだよ、返事して!」

返事はありませんでしたが、イヨを探すために階段に飛び込み、転がるように下って行きます。

訂正します。

途中で躓いて、本当に転がりながら階段を下って行きました。

体中が階段に当たって痛いですが、スライムの体が衝撃を吸収してくれるので、なんとか痛みだけで済みます。

そして、階段を下りきったところにある扉を転がったまま突き破り、その先にある小部屋にたどり着きました。


『ワガシレンヲコエヨ』

すると、頭の中に重苦しい声が響きました。

「誰!?」

私は声の主を探しますが、誰もいません。

代わりに、私の足元に魔方陣が現れ…



いかにも異空間といった感じの場所に転送されてしまいました。

『イチノシレン、モンバンヲウチタオセ、サスレバ、ニノシレント、ソトヘノミチハヒラカレン』


あ、間違ったかな?

…………

………

……

って、大間違いだよこれ!!

ここって、アベル君が通っていた修行場の中だよね。

どう見てもイヨは来てなさそうだし、門番倒さないと出れなさそうだし。

どうしよう!!!

こうなったら、分身をなんとか離脱させて、分身にイヨを見つけさせて、それからアベル君に助けを求めて…

って、『圏外』になってるよこれ!?

分身との接続切れてるじゃない。

これじゃコントロールどころか、分身解除されちゃってるよ!


落ち着け、こういう時こそ落ち着かないと。

門番を倒せば出れると声は言いました。

それ以外の脱出方法は今のところは無い。

ならば今できることは、全力で門番を倒すのみ!

待っててイヨ、すぐにママが迎えに行くからね!


マユお姉さんの攻撃!

会心の一撃!

門番に0のダメージ!


…アカン。

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