スライム娘大地に立つ
※サブタイトル変更しました
読み直したら読みにくい場所や説明不足の場所があったので修正しました
悪いことをした人にはバチが当たります。
そして私は、悪いことをしました。
しましたけど、あの程度のことでこれは無いんじゃないかな。
自転車を暴走させるという悪いことをした結果、異世界にスライムとして転生させられ、滅びる魔族を救うために勇者を倒せとか無茶ぶりもいいところです。
理由は覚えていませんけど、とにかく急いでいて、その結果自転車がカーブを曲がり切れず、電信柱に当たって死んじゃいました。
自分でも驚くぐらい間抜けな死に方です。
そんな間抜けな私ですが、世の中には蓼食う虫も好き好きというか、私に価値を見出した人?がいます。
それが目の前でふんぞり返っている、太ったカバのような見た目の人、魔王です。
魔王曰く、この世界は竜神という神様が天地を創造した後、人間と魔族を生み出し、それぞれに土地を分け与えることによって始まったそうです。
この二つの種族は反目しあっていましたが力が拮抗していたため、小競り合いは起きるものの大きな争いにはならず、世の中はそれなりに平和だったそうです。
たぶん、抑止力とかいう奴が効いていた状況だったのだと思います。
ところが、人間のとある娘にムラムラした竜神がその娘との間に子供を作ってしまったことで、パワーバランスが人間側に傾き平和が終わってしまったそうです。
しかも最悪なことに、竜神はその後世界を放置してしまったというのです。
学者によると奥様に子供の存在がバレて逃げ出したとか。
竜神って最悪ですね。
竜神の浮気はとにかく、これ以後竜神の血を引く子孫達の中から、竜神の血が強く発現した存在が生まれるようになりました。
人間達はそういった存在に英才教育を施し竜神の血を覚醒させると、勇者として次々に戦場に投入してきたそうです。
こうして生まれた勇者によって、魔族は土地と命を奪われていくことになります。
そして今や、魔族の命運は風前の灯なのだそうです。
そこで魔王は、起死回生の策に打って出ることにします。
異世界の魂を呼び寄せるという大魔法を使い、勇者を倒せる者を召喚することにしたのです。
その大魔法は見事成功し、魔王が用意したスライムという新しい体に、私の魂が召喚されという訳です。
どう考えても馬鹿です。
この魔王。
勇者倒すためにただの一般人の魂を脆弱なスライムの体に召喚するとか、いったい何を考えているのですか!
異世界の魂=強いという魔王の主張には何の根拠もありませんし、そもそも召喚というアイデア自体、異世界から流れ着いたという文献(明らかに異世界召喚もののライトノベル)を参考にしていたり…
これまた異世界の文献(すごく古いゲームの攻略本)を参考に実はスライムは育てればレベル99になって最強だからと私にスライムの体を与えたり…
「勇者を倒せなかったら、俺様激おこでお前をぶっ殺してしまいそうだぞガハハハ」と私を脅す?だけ脅す一方で、最近の勇者に関する情報については何も調べていないとか、突っ込みどころが多すぎます。
竜神の血筋が発現した勇者がどうとかが原因じゃなくて、魔王が馬鹿で魔族は風前の灯なんじゃないかと真剣に思います。
魔王の横にいる中間管理職っぽい見た目の人が、頭の痛そうな顔をしつつ、こちらに向けて申し訳なさそうな顔をするという、とても器用なことをずっとしているので、あながち間違っていないはずです。
とにかく、こんな酷い状況で勇者討伐に出発したら、魔族が滅ぶ前に私自身が死んでしまいます。
だからといって、この場で断ったら目の前の馬鹿魔王に殺されゲームオーバーです。
なので私は…
「魔王様、それでは勇者討伐に行ってまいります」
「おう、せいぜい俺様を楽させてくれガハハハ」
と素直に出発することにしました。
魔王と勇者から逃亡するために!
誰が素直に勇者と戦うもんですか、私はこのままどこかに隠れて平穏に暮らすんです!
こうして、魔王との謁見を無事やり過ごし、魔王城から脱出することができた私は、意気揚々と魔王城の入り口となっている禍々しいデザインの門を潜り、その先に広がる石造りの都市へと足を踏み入れたのですが…
「ちょっとお待ちを、お待ちを!待ってください!」
背後から突然呼び止められました。
逃亡することを魔王に感づかれたのかと思いましたが、呼び止めてきた人は魔王の横で申し訳なさそうな顔をしていた人でした。
改めて自己紹介をすると、この方は大魔導士イッツ・ウモーチさんという方で、なんと魔族でナンバー2の方でした。
人は見かけによらないとはよく言ったものです。
きっと、馬鹿な魔王の面倒を見ているせいで毎日苦労ばかりして、こんな中間管理職のようなくたびれた見た目になってしまったのだと思います。
それはとにかく、一体何の話をしに来たのかと聞いてみたら、いきなり頭を下げて私への謝罪を始めました。
その謝罪の内容は、端的にまとめると次のようなものでした。
魔王が文献を参考にして、旅立つ私のために用意した品があるが、それは棒切れと1000ギィン(お金のこと)だけで、しかも渡し忘れている。
本当に魔王がアレで申し訳ない。
本来こういうことにならない様に私達(イッツさん達)がフォローすべきだが、私達も含め魔王以外は誰も成功しないと思っていた召喚魔法だったので、召喚に成功した時にどうするか考えていなかった。
なので、私のポケットマネーから100万ギィンを用意したのでこれで我慢してほしい。
異世界から召喚されたとはいえ、ごく普通のスライムとして召喚されたので、見たところ何か特別な力は一切感じられない。
ただし、スライム特有の能力が使えるようになったり、魂が体に引っ張られて、スライムらしいお気楽でおバカな性格に変わってしまっているかもしれない。
何か特別な力は感じないと言ったが、どうして言葉が通じるのかはよく分からない。
スライムの体のせいなのか、それとも偶然魔族の言葉と異世界の言葉が同じなのか、とにかくこれに関してはよくわからない。
魔王はバカだか戦闘力がとても高く、気に入らないことがあったら相手が誰だろうと殺してしまう危ないバカなので、申し訳ないが匿ってあげることはできない。
私にも妻と娘と家のローンと(ry
勇者は魔王より危ない存在で、スライムでは逆立ちしても勝てる相手ではない。
しかも3人いる。
だから生き残るためには、勇者を倒しに行くふりをして行方をくらまし、先ほどの100万ギィンを使い切る前に魔界のどこかで仕事を見つけて、普通のスライムとして暮らしていってほしい。
そうすれば、魔王はバカだから、そのうち召喚したことを忘れるだろう。
勝手に召喚したうえ、こんな滅茶苦茶なことになってしまい本当に申し訳ない。
イッツさんは、何度も何度も頭を下げていました。
人によれば怒ってもおかしくなかったのかもしれませんが、謝り続けるイッツさんを見ているとなんだか可哀そうになってきましたし、よくよく考えれば死んだのに新しい命を貰えたなんてとてもラッキーです。
住み心地の方も、魔界という名前とは裏腹に、見る限り自然豊かな綺麗な土地が広がっているようなのでとても良さそうです。
それに…
「まあ、何とかなるでしょ」
多分何とかなると根拠のない自信があった私は「心配無用です、心配してくれてありがとうございます」とイッツさんに礼を言うと、謝り足らなかったのか、私を再度呼び止めるイッツさんの声を振り切って、走り出したのでした。
因みに、イッツさんから周辺の地理とか、おすすめの働き場所とか教えてもらえばよかったとか、最後に呼び止めていたのはそれを伝えようとしていたのではと気が付いたのは、魔王城がある魔都を飛び出した後でした。
私のおバカー!!
ーーーーー
奥深い森の中にひっそりと佇む、築うん十年の廃屋。
それがなんということでしょう、まるで新築のような美しさを取り戻したではありませんか。
そして、そこに住むのは、この世のものとは思えないほどの美しさを持ったスライム…
恥ずかしいからやめましょう。
魔王から逃亡した私は、各地を回りまわった果てに森の中に廃屋を見つけて住み着くことができました。
ここに至るまで、本当に大変でした。
まずお金ですが、100万ギィン全て無くなってしまいました。
大事なことなので二回言います。
全て無くなって一文無しです。
魔都から旅立った後、とある地方都市にたどり着いた私は「景気づけじゃー」と、夕食後にお酒飲んだところ、たった一杯で泥酔しました。
よく覚えていませんが、まともに動くこともできず、地面を這いずるようにして宿に戻ったようです。
そして翌日の夕方に目が覚めたら、お金を入れた袋が破れていました。
中身もすっからかんでした。
原因は私の体から出される溶解液と、地面を這いずり回ったことです。
スライムとして未熟なうえに、酔っぱらった私は溶解液を出してしまい、袋をクラッシュ。
あとは地面を這いずり回る過程で、中身を全て路上にバラまいてしまいました。
そして夕方になって事態に気が付いた時には、お金は綺麗に拾われてしまった後でした。
「これはもう駄目ですね。ご愁傷さまです」
日本での警察兼自衛隊に当たる騎士団の所に行ったものの、落し物がしっかりと届けられる日本とは違いまったくダメでした。
ショックで倒れそうになりましたが、田舎の町や村で働きながら隠れ住むことは予定の内だと考えなおし、早速行動を開始しました。
いつまでも塞ぎこんでいる場合じゃないですからね。
「頑張って仕事を探すぞ!おー!」
「そこのスライムの君、今仕事探していると言ったよね?俺達は魔王軍っていう死んでも昇進と保証金が出る素晴らしい職場で働いているんだ。一緒に働こう。じゃなくて働け、俺達の徴兵ノルマの足しになれ!」
しかし魔王軍が強引に徴兵をしているらしく、何度か危うく連れて行かれそうになりました。
そのため、今度は森に隠れ住んだのですが、別の問題にぶつかってしまいました。
森にはどこもかしこも凶暴な魔獣のナワバリになっていたのです。
魔獣とは魔族とは違い所謂モンスターで、話しが通じない猛獣です。
当初は「所詮は言葉を解さない獣、現代知識というチートがある私には楽勝!」などと言いながら魔獣に戦いを挑んだのですが…
私の攻撃!
魔獣Aはひらりと攻撃をかわした!
魔獣Aの攻撃!
私に8のダメージ!
私は文明の利器(松明)を使った!
「これで勝つる!」
魔獣Aはひらりと攻撃をかわした!
「ワオーン」
魔獣Aは仲間を呼んだ!
魔獣Bが現れた!魔獣Cが現れた!魔獣Dが現れた!……………魔獣Yが現れた!魔獣Zが現れた!
「なんでもしますから許してください」
私の命乞い!
しかし魔獣には言葉が通じなかった!
リアルお前それサバンナでも同じこと言えんの?状態で、自然界の恐ろしさというものを嫌という程味わいました。
よく死ななかったと自分でも思います。
その後も、そんな奴らとのナワバリ争いに勝てるわけがなく、森を転々とすること数ヶ月、今からちょうど1年前に森の中で廃屋を見つけ、やっと雨風凌げる場所に住み着くことができました。
廃屋があったことから、近くに誰かが住んでいるのではと心配したのですが、幸いなことにこの森には他に誰も住んでいなうえ、何故か弱い魔獣しか生息していないらしく無事平穏に暮らせています。
1年前はまさに廃屋といった状態でしたが、前世のテレビ番組の知識とスライムの体を使って、廃屋の劇的リフォームに成功したので、今は快適です。
すみません嘘です。
廃屋なのですが、随分と状態が良くて掃除したら十分そのまま住めるぐらいしっかりしていました。
スライムの体は埃を吸収分解したり少しだけ溶解液を出して汚れを取るといった芸当もできるので、水回りとか汚い場所以外は体も使って掃除したらあっという間にピッカピカです。
それと余談なのですが、掃除中に隠し扉が床にあるのを見つけました。
鍵がかかっていましたが、スライムの体をフル活用して鍵穴に体を滑り込ませる芸当を発明し、強引に解錠したところ、その先には地下室があり、武器や防具、魔法で鮮度が保たれていると思われる保存食と調味料がありました。
保存食美味しかったです。
「今日もいい天気!」
こうして住めるようになった家に、私は人間の姿で生活しています。
廃屋の掃除のため、触手状に体を伸ばしてハタキのように埃を取っていた時に気が付いたのです。
触手が作れるなら人間の姿になれるのではないかと。
おかげで、私は人間の姿を取り戻しました。
青いプルプルとした半透明のゼリー状ではありますが、優しく明るそうな女子高生ぐらいの顔をしつつも、ムチムチとした長い脚と、メロンのような巨乳を持った女らしいメリハリの効いた体は生前を正確に再現しています。
ごめんなさい、また嘘です。
実は自分が電信柱に突っ込んで死んだことや、日本で生まれ育った日本人ということは覚えているのですが、自分に関することやその周辺のことはさっぱり覚えていません。
容姿どころか名前や性別も覚えていませんし、家族構成や年齢、急いで自転車を走らせていたそもそもの理由も分かりません。
なんとなくですが疲れていたような気がしますし、女子高生ぐらいの顔に、こんな大きなおっぱいを作ってしまうあたりエロおやじだったのではとも思いますが、女性の姿にしかなれないので女性だったのかもしれません。
分からないことだらけですが、前世での性別が判明したところで何かある訳ではありませんし、どうせ女性しかなれないのなら可愛くなろうということで、見た目が気に入った今の容姿で日々を過ごしています。
それにしても、この世界に来た当初はどうなるかと思いましたが、今ではすっかり馴染みましたね。
スローライフというのでしょうか、日が昇ると同時に起き、森を駆け巡って獲物である魔獣を見つけ、捕まえた獲物を持って帰り調理して食べる。
後は寝たいときに寝て、気が向けば木を切り倒して家具を作ったり、陶芸にチャレンジしたり、ショートボブの髪型をロングに変えたり戻したりと、好き勝手に生きています。
大自然の中で生きるとなると、人間の体なら病気になったり怪我をしたりといった心配がありますが、スライムの体なので素っ裸で生活しても何も問題ありません。
というか実は私、素っ裸です。
一応服も作ってみたのですが、スライムのためか油断すると服が濡れたりしてしまい不便なので諦めました。
よくよく考えればスライムなので元から素っ裸で問題ないですし、何より素っ裸の方が大自然を堪能出来て楽しいです。
それに、何となく前世も休日は家の中で素っ裸で生活していたような気がするので、こっちのほうが私的には自然な気がします。
さて、今日の狩りは大物が捕れました。
牛によく似た魔獣で、私は牛と呼んでいるのですが、こいつがおいしいのです。
焼肉にすると塩だけでもとてもいけます。
当初は魔獣とはいえ殺すことに忌避感がありましたが、スライム化したせいか慣れましたので、今はちょちょいのちょいで解体できます。
解体もなかなか重労働なのですが、魔獣を狩っている間に段々レベルアップしたらしく、最近は結構簡単に作業ができます。
焼肉、楽しみです。
ーーーーー
さあ、焼肉パーティの開催です。
家の前にちょうどいい大きさの石を並べ、その上に隠し部屋で見つけたアイアンシールドを置き、同じく隠し部屋にあった火打石で火を起こします。
アイアンシールドが熱されてくると、その上に油をひいて、更に塩を振ったお肉と森で見つけた野菜?を並べれば後は焼けるのを待つだけです。
おっといけない、家族を呼ばないと。
「1号2号おいでー」
私の声に応えるように家から出てきたの二人のスライム。
「わあおいしそう」
「すごーい」
私と同じ容姿に同じ声をした二人は私の大切な家族です。
……
…
止め止め、止めましょう。
私が溜息を吐くと、1号と2号の姿はただのスライムに戻り、私の体に吸収されました。
だからと言って共食いじゃありません。
1号と2号は私の体を分離させて作り出した分身です。
ただの分身なので、自我などは無く遠隔操作できるだけです。
先ほどの発言も所謂腹話術です。
なぜこんなことをしているかというと…
「春だからってどいつもこいつも子供作りやがって…魔獣のくせに、家族団欒で幸せそうだなんて…悔しい…寂しい…」
スローライフ万歳!
という気持ちは嘘偽りない気持ちです。
その一方で、私は家族団欒というものに強い憧れを持っていたようです。
どうして憧れを持っているのかと聞かれても、原因は分かりません。
可能性があるとすれば前世からの性なのですが、前世の自分に関することはよくわかりらないので、何ともかんとも。
前世はとにかく、単純に寂しいというのもあります。
前世の日本では、常識的に考えて1年間以上も人っ子一人会わないというのは異常な状況だと思います。
引きこもっていても、ドアを挟んで家族との会話がありますし、ネットの海の向こうには人がいます。
なのに今の私は、本当に人っ子一人会っていません。
会うのはいつも魔獣ばかりです。
「寂しいけど、スローライフ楽しいし!自由だし!」
そう自分に言い聞かせてこれまで強がっていましたが、春の時期になって魔獣達が家族団欒している姿を嫌という程見せ付けられたら、我慢の限界を超えてしまいました。
だから、先ほどのようなプレイを始めてしまったのですが、思い返すと赤面してしまうような行動ですね。
まあ、私スライムだし、おっぱい大きいからこれぐらいノーカウントだよね!
でもやっぱり、寂しいな…
ガサガサ!
あれ?木の陰から音が…何だろう??