表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

8話 イレギュラーと犠牲


 城下町に降りてから、数週間が経ちました。

 今、僕達勇者は王都の外で、馬車に乗って森に向かっています。

 何故そんな事になっているのかていうと……………。


 「なあ、リツ。お前は……平気そうだな。鼻唄とか歌ってるし」

 「当たり前だよ、タケ。僕は今日をずっと楽しみにしてたんだから。初めての実戦なんだから」

 「ふっ、だな。要らぬ心配だったな。リツは平気だし俺は実戦は向こうで経験済み、あとは……」

 「おい、リツ坊、タケ坊。何話してんだ?今日は王都から出て、森で魔物と実際に戦うんだぞ。あまり気は抜くな」


 そう、僕達はこれから初めて魔物と戦うのだ。

 僕は流石に生き物を殺した事はないので、少し緊張してるけど、僕は案外順応しちゃうと思う。

 因みに、僕と健也は互いをリツとタケと呼び合い、幸希さんは僕達をリツ坊とタケ坊と呼んでいる。

 幸希さんはそのまま幸希さんだ。

 妃美奈さんだけは今までと変わらない。


 「この後の実戦で戦えるか話してたんだよ。僕とタケは平気だったけど、幸希は大丈夫?」

 「幸希さんは、訓練は受けた事はあっても、実戦はした事が無いだろう?」

 「なんだ、そんな事を考えてたのか。心配要らねぇぞ、俺は勇者の中で一番の年長者だからな。覚悟はその時からしてある」


 幸希さん…………そんな事を考えてたんだ。

 やっぱり幸希さんは良い人だな、安心して頼りに出来る。

 ただ心配なのはもう一人…………………。


 「やっぱり駄目かなぁ」

 「あれは流石に…………」

 「俺達にはどうしようもない」


 妃美奈さんは、膝を抱えて顔を青ざめさせて震えていた。

 この反応が当然なのだろう。

 彼女は向こうではアイドルをやっていた、ただの女の子だったのだ。

 殺しなんて、直ぐに出来る訳がない。

 僕達の方が異常なんだ。


 「どうしようか?」

 「まあ、妃美奈だからな。お前が行けば大丈夫だろ」

 「だな。リツ坊、さっさと行って、励ましてこい」

 「ええー、何で僕なのさ」


 まあ、行くけどさ、心配なのは事実だし。

 妃美奈さんに近づいて、肩にそっと手を置いて話しかける。


 「妃美奈さん、大丈夫?」

 「阿皇君、大丈夫だよ、私だって勇者だもん」


 そんな震えながら言われても、説得力がまるで無いんだけどな。


 「妃美奈さん、怖いなら戦わなくても良いよ?あの国王なら簡単に許してくれるだろうし」


 実際、あの国王なら直ぐにOKするだろう。


 「阿皇君………大丈夫、私は戦うよ。一度自分で決めた事だもん。でも………」

 「ん?何?」

 「わ、私が危ない時は、助けてくれる?」


 妃美奈さんが、さっきとは全く違う、頬を赤らめて瞳をうるませて僕を見てくる。

 僕の答えは……………。


 「うん、当たり前だよ、助けるに決まってるよ」

 「あ、阿皇君!」

 「だって、妃美奈さんは僕の大事な………」

 「私は……?」

 「大事な仲間だからね!」


 そう言った途端、ギャグ漫画の様に妃美奈さんと、後ろの二人もずっこける。

 なんだ?何か変な事言ったっけ?

 妃美奈さんが頭をさすりながら、顔を上げる。


 「フフフ、そうだよね、阿皇君だもんね。そんな簡単に気づいてくれる訳ないじゃん。アハハハ」

 「ひ、妃美奈さん?おーい、戻ってこーい」


 妃美奈さんは視線を定まらせずに、ブツブツとなにかを呟いている。

 目の前で手を振っても、声をかけても全く反応が無い。


 「ねえ、幸希さん、リツって何であんなに鈍いんですかね?」

 「さあな、まあリツ坊のアレは一生直らないだろ、ソラ嬢も大変だなぁ」


 二人を見守る勇者二人は、その光景を見ながら、先の事を考えて溜め息をついた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それから数時間後、僕達は遺跡の前で休憩をとっていた。

 結果的に言えば、実戦は問題なく終わった。

 戦闘は連携攻撃が上手くいき順調に進み、僕とタケ、幸希さんはあっさりと魔物を殺せて、妃美奈さんもなんとか魔物を殺せた。

 そのままヒューアムさんに連れられて来た、遺跡の前で昼食を食べている。


 「幸希さん、凄かったね、二丁拳銃で魔物の頭を撃ち抜いてさ」

 「そう言うリツだって凄かったじゃないか。なんだよあの動きは?いくらなんでも戦い方が上手くなりすぎだぞ」

 「健也君だって人の事を言えないよ。九尾さんの尻尾の数が三本になってたじゃん。あの狐火の威力は反則だよ」

 「ソラ嬢だって凄かったじゃねぇか。羽衣を大鎌の刃みたいに硬くして、鎖鎌みたいに後方から攻撃するんだもんよ」

 「……………皆さん、全員が異常なんですけど…………(歴代の勇者でも、Lv1ではこんなに強くなかった筈じゃ?)……まあ、言っても無駄ですか」


 とまあ、一人だけ疲れた顔をしていたが、昼食を食べ終え、装備の確認をしてヒューアムさんの前に集まる。


 「皆さん、準備は宜しいですね?では行きましょう!」


 ヒューアムさんを一番後ろにして、僕達は遺跡の地下に進んでいく。

 そう、実戦は森だけではなかったのだ。

 寧ろ、こっちの方が本命らしい。

 この遺跡はダンジョンと呼ばれるものみたいだ。

 迷宮とは、魔物が涌き出る場所で階層によって出現する魔物が違い、一番奥にあるダンジョンコアを壊せば迷宮は消滅するらしい。

 迷宮は二種類あって、突如現れるもの、元からあった場所がダンジョンになったものの二つに別れる様だ。

 この遺跡は後者らしい。

 ヒューアムさんの話では、ここは元々王国の研究者達が特に危険な事をしていた実験場で、研究者達がその研究の危険性に気づき、放置したものが、それから数百年後、ダンジョンになっていたのが発見されたそうだ。

 このダンジョンは王国が完全に管理していて、主に新兵の訓練に使っているらしい。

 そのお蔭で、ダンジョンはすっかり育ち、今では階層がどこまで続いているか分からないが、100層は越えているらしい。

 僕達は、魔物を倒しながらダンジョンを進んでいく。

 まだ浅い階層なので、魔物も弱く危機的な場面は無い。

 あ、そうそう、いい忘れていたが、ダンジョンには十階層ごとに階層主が大部屋に配置されているらしい。

 で、少し時間はかかったが、無事に階層主の部屋の前に着いた。

 階層主と戦う前に、一回休憩を挟む。

 各々覚悟を決めて、大きな扉の前に、集まる。


 「皆さん、朝も言った通り、よほどの危険がない限り私は加勢しません。頑張って階層主に挑んで下さい(どうせ、直ぐに倒せるとは思いますが)」

 「「「「はい!」」」」


 扉に触れると、扉は静かに開いていく。

 ここから見る限り、部屋の中には何も居ない様に見える。

 五人が部屋の中に入ると、扉が先程と同じ様に静かに閉まった。

 それと同時に、部屋の中心に黒いもや…………………視覚化する程の魔力が集まって階層主が産み出される。

 皆武器を構え、体勢を整える。

 このダンジョンの十階層の魔物はオーガロードの筈だけど、あの魔物は………………蜘蛛?

 かなりでかい、僕達よりも何倍も大きい蜘蛛だ。


 「な、アレは鋼鉄女王蜘蛛(アイアン・クイーンスパイダー)!?一体どういう事だ!?今すぐ助けなくては、と、くっ!<守護聖壁>!」


 鋼鉄女王蜘蛛?どうやらそんな名前の魔物みたいだ。良く見てみると、確かに書庫の魔物図鑑に書かれていた魔物の特徴を備えている。

 まあ、ヒューアムさんの助力は期待出来なさそうだ。

 ヒューアムさんがこっちに来ようとした瞬間、ヒューアムさんの後方から、小さな、と言ってもかなり大きい蜘蛛が数えきれない程湧きだしてきた。

 ヒューアムさんが使ったスキルの影響か、小?蜘蛛は全てヒューアムさんに集まっていく。

 その光景に、幸希さんが思わず声をかける。


 「ヒューアム!大丈夫なのか!?」

 「私は大丈夫です、コウキ殿!この子蜘蛛達は私が請け負います!勇者様はあの親蜘蛛をお願い致します!」


 僕達は、その言葉に意識を切り替えて、大蜘蛛に向き合う。


 「リツ坊、あいつはどんな奴だ!?」

 「鋼鉄女王蜘蛛、王級魔物、巨大な身体を持ち、自ら産み出した子蜘蛛を指揮して戦う、本体の戦闘力も凄まじく、尻から出る糸や、体当たり、鋭い八つの脚による攻撃に注意!」

 「「「了解!」」」


 最初は、タケが九尾を呼び出して、特大の狐火を親蜘蛛にぶつける。

 蜘蛛だから火に弱いのか、それに大きな悲鳴をあげる。

 その隙に、僕が接近して親蜘蛛の脚を斬りつける。

 親蜘蛛の脚は、刀のお陰か、技量が上がったからか、根元から完全に断ち切れた。

 親蜘蛛は、更に大きい悲鳴を響かせる。

 親蜘蛛は暴れるが、僕は無理せずに一旦下がり、避ける。


 「幸希さん、頼みます!」

 「おうよ、任せとけ!<フレイムキャノン>!!」


 幸希さんの持っている二つの拳銃の銃口から、巨大な熱エネルギーが撃ち出される。

 それは親蜘蛛の左右の脚の付け根を正確に撃ち抜き、親蜘蛛から全ての脚が無くなる。

 親蜘蛛は、悲鳴をあげながら地面に落ち、大きな揺れを起こす。


 「チャンスだ!タケ坊、特大の狐火をかましてやれ!ソラ嬢、タケ坊の後に俺と一緒に遠距離から攻撃を加えろ!リツ坊、お前は上から胴体に攻撃しろ!」

 「「「了解!」」」


 即時、行動に移り、僕は攻撃に備えて移動する。

 タケは直ぐに九尾に命じて、最初よりも大きい狐火を出して、杭の様な形に変えて、斜め上から親蜘蛛に突き刺す。

 これでも、親蜘蛛はまだ死なない。

 妃美奈さんが羽衣を何十mもの大きさの大鎌に変えて、横に振り抜き、親蜘蛛の顔を二つに分ける。

 幸希さんはさっきと同じ技を放つが、今度は二つの弾丸が一つになって、回転しながら親蜘蛛の額を撃ち抜く。

 これでも死なない。


 「でも…………流石にこれなら!」


 僕は親蜘蛛の身体を登って、胴体と頭の付け根を飛び降りながら、オーラ魔法<氣纏>でオーラを刀に纏わせて、刀身を伸ばして断ち切る。

 親蜘蛛は悲鳴をあげることなく沈黙した。


 「「「「や、やっったぁぁぁ!!」」」」


 僕達は、格上を倒した喜びを歓声で表す。

 ヒューアムさんも子蜘蛛を倒し終わった様で、こちらを向いてくる。


 「どうやら終わった様ですね。まさか倒してしまうとは…………ん、あれは!?皆さん、直ぐにそこから離れて下さい!」


 ん?ヒューアムさんが何か叫んでいる?

 僕はヒューアムさんの視線を辿り、気づいてしまった。

 親蜘蛛はまだ動いていた。

 いや、もう直ぐ死ぬのだろう、最後に一撃くらわそうと、こちらに尻を向けている。

 あれは、もしかして糸か!?

 あの大きさの蜘蛛の糸を当てられたりしたら!

 くそっ、もう避ける時間は無い!


 「ごめん、皆!」


 僕はオーラを身体に纏って、皆をヒューアムさんに向けて弾き飛ばす。

 その瞬間、糸は解き放たれ、階層に大きな穴をあけながら僕を呑み込み、僕の意識はそこで途絶えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ