7話 スキル融合と観光
次の日、僕は朝食を手早く済ませ、部屋に戻ってきていた。
何故そんなに急いでいたかと言うと………………まあ、今までと同じく、創造をする為だ。
ただ、今回やるのは今までとは違う。
創造は、スキルを創るのにはSPを使い、物を創るのには材料が必要になる。
だが、僕は考えたのだ。
スキルを創るのにSPを使うのは、形の無いものを最初から創るからじゃないのか、と。
スキル同士を創造で混ぜたら、新しいスキルに変化するんじゃないか、と。
「じゃあ、早速やってみますか!」
何にするかなー、出来そうなのは……………気配察知と魔力感知、時間魔法と空間魔法かな。
最初は気配察知と魔力感知だ。
ステータスを開いて、気配察知と魔力感知が混ざる様にイメージする。
(スキル………気配察知、魔力感知………魔力………必要量丁度………完成型………融合、時間と空間を操る魔法………)
「………『創造』」
魔力が一気に抜けて、僕の身体が蒼く輝く。
ステータスも一瞬光り、スキルの項目が変化していた。
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«時空魔法»
・スキル『創造』によって変化したスキル。時間魔法と空間魔法が融合した。元々のスキルよりも効果、威力が強くなっている。
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「よし!ちゃんと出来たみたいだ。使える魔法は……………」
時空魔法のLv1で使える魔法は、<インベントリ>だけみたいだ。
インベントリは、空間魔法の<アイテムボックス>の強化版、中の時間が止まってるみたいだ。
生きたものは入れられないのは、変わらないみたいだけど。
「じゃあ、次もやっちゃうか!」
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«周辺探知»
・スキル『創造』によって変化したスキル。気配察知と魔力感知が融合した。効果範囲が広がっており、性能も上がっている。
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このスキルは常時発動型のスキルの様で、創った瞬間、創造する前とは比べ物にならない程の情報を感じる事が出来た。
詳しく言うと、今居る城を全て覆う範囲まで広がった。
「うーん、整理があるから平気だけど、普通ならこの状態で何かを考えるなんて、出来ないだろうなぁ」
つまり、僕だけの専用スキルって訳だ。
まあ、創造で創ったスキルは全部そうなっちゃうんだけどね。
「でも、これでもうやることは無くなったな。今日は訓練は無いし、魔力もさっきので半分以上使っちゃったし」
なんかないかなー、こっちに来てやってないこと……………あ、そうだ!
「まだ城下町に行ってないじゃん」
実は、何日か前に国王から城下町に行ってもいいとは言われてたんだけど、僕は訓練とか創造を試すのに熱中してて、まだ行ってなかったのだ。
他の皆は何回か行ってるみたいだし、妃美奈さんから誘われた事もあったけど、その時も断ったんだよなー。
そうと決まったら直ぐに準備だ。
ベルを鳴らして、メリカさんを呼ぶ。
「リツキ様、何か御用がありましたでしょうか?」
「うん、実は城下町に行こうかと思ってさ。何を持っていったら良いのか分からないし、メリカさんも一緒に行かないかなー、って」
「っ、わ、私もですか?」
「うん、嫌だったら別に良いんだけど」
「い、いえ、滅相も御座いません!直ぐにご用意致しますので、城門でお待ち下さい!」
メリカさんは、笑顔を浮かべながらそう言うと、何故か嬉しそうに部屋から走って出ていった。
「と、それよりも早めに移動しとこうかな。確か城門だっけ」
装備を確認して、直ぐに部屋から出て城門に向かう。
城の仕組みは、理解を使ったら簡単に分かったから、城門まではあっという間に行ける。
…………知っちゃいけない様な道やら部屋やらも分かっちゃったけど………。
「あれ、阿皇君、どこに行くの?」
「あ、妃美奈さん」
城門に向かって廊下を歩いていると、前から妃美奈さんが歩いてきた。
皆も、今は王国から渡された高そうな、かなり防御力の高い服を着ている。
僕はこの服の方が性能が高かったから、遠慮させてもらったけど。
「これから城下町に行ってみるんだ」
「え、ホントに!?今まで城から出なかったじゃん!」
「……まあ、そうだけど。やる事が無くなったんだよね。だから城下町にでも行ってみようか、と思って」
しかし、そんなに驚かなくてもいいだろう。
僕は引きこもりな訳じゃないぞ。
………………確かに城からは一回も出た事なんか無いけどさぁ。
「………よし、決めた!ねぇ、阿皇君、私も一緒に行っても良いかな?」
「え、何で?今塔に戻るところだったんじゃないの?」
「えーっと、それは、その……。もう!良いの、悪いの、どっちなの!?」
「べ、別に良いよ。でも、荷物は?」
「大丈夫だよ、武器はちゃんと訓練用のだけど持ってるし」
武器だけで良いんだ。
女の子は、荷物とかを色々持ってくと思ったんだけど。
それにしても、何で一緒に行くとか言い出したんだろうなー、なんか顔が赤くなってた様な気がするけど。
そんな事を考えている内に、城門に着いた。
そこには、既にさっき妃美奈さんが呼んでいたヒーリアさんが待っていた。
「お待ちしておりました、ヒミナ様、アコウ様。ご用意は既に整っております」
「いつもありがとう、ヒーリア」
「いえ、従者として当然の事をしただけですので」
ヒーリアさんは、妃美奈さんの専属メイドだ。
二人は、笑い合いながら仲良く話している。
この二人も、打ち解けてるみたいだな。
「ねー、阿皇君、そろそろ行こー」
「あ、ちょっと待って。まだ来るから」
「え、それってどういう…………」
と、丁度メリカさんが城門にやってきた。
メリカさんは、いつものメイド服とは違い、ファンタジー感溢れる、高そうな私服を着ていた。
メリカさんが僕の視線に気づいて、恥ずかしそうに聞いてくる。
「あ、あの、リツキ様、この服は変ではないでしょうか?」
「うん、凄い似合ってるよ。いつも以上に綺麗だし」
「そ、そうですか!」
僕の返事に、メリカさんは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
僕に言われたぐらいで、そんなに嬉しいかなー?
「ちょっと待って!」
「ん?どうしたの、妃美奈さん?」
妃美奈さんが大声を出して、いきなり話に割って入ってきた。
「えっと、阿皇君。どうしてメリカさんがここに居るのかな?」
「ああ、メリカさんに城下町を案内して貰おうと思ったんだよ。僕は城下町には行った事が無いからね」
怖い顔してどうしたんだろう?
何か怒る様な事、言ったかなー?身に覚えが無いんだけど。
「……あの、リツキ様。何故ヒミナ様が居られるのでしょうか?」
「さっき廊下で偶然会ってさ。僕が城下町に行くって言ったら、一緒に行く事になったんだ」
「へぇ、そうなんですか。……それって、本当に偶然なんですかねぇ?」
「うっ!な、何言ってるの、メリカ。偶然に決まってるじゃない」
「なら良いのですが」
妃美奈さんとメリカさんは、また険悪な空気をかもしだしている。
この二人、仲が悪いんだよなー。
(最初は仲良さそうだったんだけど、急に仲が悪くなっちゃたし、何が原因なんだか)
理由が全く分からないから、どうしようもない。
「あら、メリカ、その格好はどうしたの?」
「ヒーリアさん!?何でここに!?」
「何言ってるのよ。私はヒミナ様の専属メイドよ?ヒミナ様の側に居るのは、当然じゃない」
「それはそうですけど……」
なんだ、二人共知り合いだったのか。
まあ、同じ城に仕えてるんだから、おかしくはないよな。
「それよりその格好。………ふーん、メリカにも春が来たのねぇ」
「な、何を言っているのですか、ヒーリアさん!」
「あのさ、そろそろ行かないかな?城門で話し込んでるのも、邪魔になるだろうし」
「そ、そうですね!早く行きましょう!」
僕達は、城門から大通りに移動する。
馬車とかも使えるみたいだが、目立つのは出来る限り避けたいので、徒歩にした。
まあ、連れてる三人が美人だから、否応なく目立ってるんだけど………。
四人で話ながら、大通りを進む。
「それで、リツキ様。今日はどこに行かれるのでしょうか?」
「うーん、特に決めてないんだよね。メリカさん、案内頼める?」
「はい、お任せを!リツキ様を楽しませてみせます!」
「なっ、阿皇君、私も案内するからね。何回も来てるから、お気に入りのケーキ屋さんがあるんだー!」
「ヒミナ様、そう慌てずともよろしいかと」
こんな風に、賑やかにメリカさんの案内で王都をまわっていく。
一日だから全ては行けないだろうが、噴水広場や武器屋、防具屋に服屋、妃美奈さんおすすめのケーキ屋など、色んなところに行けた。
結構歩いたけど、楽しかったなー。
皆も楽しそうだったし、良かった良かった。
あ、お金は国王の私的な貯金から払われる様だ。
ヒーリアさんはなんの躊躇いも無く、腰のポーチからお金を払っていた。
…………国王の権威って………。
なんとなくガッカリしながら、大通りを歩いていく。
「それより、リツキ様。何も買われませんでしたが、よろしかったのですか?」
「そうだよ、せっかく初めての王都なんだからさー」
「あはは、なんか絶対欲しいなー、ってやつが無かったんだよね。でも楽しかったよ」
いやー、本当に楽しかったね。
久々に遊んだー、って感じだよ。
最近は訓練か部屋で創造したり、書庫に籠ったりだけだったからな。
王都も大体は理解を使えたし、これからは一人で来ようかな、あ、お金持ってないから、メリカさんと二人か。
そんな事を考えながら、鑑定を使って露店の品物を見ながら城に向かって歩いていると。
一つの露店に目が惹き付けられた。
正確には、その露店に置かれている品物に。
近づいて露店のおじさんに話しかける。
「ねぇ、おじさん。ここの商品は触っても平気なのかな?」
「おう、触るぐらい大丈夫だぜ、坊主。一つぐらい買っていってほしいがな!」
気さくなおじさんだなー。
僕はおじさんに確認してから、気になった品物を手にとって、もう一度確認する。
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«境界結晶の指輪»
・境界結晶が使われた指輪。完全に装飾品として作られていて、境界結晶の効果を全く使えない。
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と、これが鑑定の結果だ。
更に境界結晶に鑑定をすると…………。
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«境界結晶»
・紫紺の結晶の中に、金色の光の粒子が留まっている不思議な結晶。遥か昔に消滅した結晶で、現存するのはこの結晶だけ。かつて魔界の断絶峡谷から掘れた結晶で、どんな魔法でも無詠唱で発動出来て、魔法に大幅に補正がかかる。魔力の伝導率がかなり高い。
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凄いよね?こんな貴重なやつが道端の露店で乱雑に売られてるんだよ?
おじさんには少し悪い気もするけど、これは絶対手に入れておきたい。
「ねぇ、この指輪っていくらなのかな?」
「ん?その指輪を買うのか?タダで良いよ、タダで。もうボロボロだし、家の屋根裏の奥の方に転がってたやつだしな」
世界に一つしかない結晶が、そんなところにあったのか………………。
壊れなくて良かったよ、本当に。
「じゃあ、貰ってくよ。ありがとう、おじさん」
「おう、じゃあな、坊主」
いやー、良い買い物、いや、貰い物?をしたな。
指輪をインベントリに仕舞って、ホクホク顔で皆のところに戻る。
「その顔、何か良いのが買えたの?」
「うん、凄い物がね!今日は城下町に降りて良かったよ」
「楽しんで頂けて良かったです、リツキ様」
僕は皆と一緒に、少し暗くなってきた大通りを城に向かって歩いていった。