4話 訓練と刀
現在、僕は修練場でヒューアムさんと武器を構えています。
まあ、あっちは熟練の構えで隙は見つからない。
僕は素人丸出しの構えだが、まあ、なんとかやってみるしかない。
「さあ、どこからでもかかってきて下さい、アコウ様」
「じゃあ、お言葉に甘え、てっ!」
僕はヒューアムさんに向かって走り、剣を突き出した。
当然、これは軽く避けられる。
僕は突きの体勢のまま身体を捻り、剣を横に振る。
「ほう、中々筋が良いですな、アコウ様。ですが、これで終わりですかな?」
「さあ、どうでしょう?」
僕は一旦体勢を整える為に、後ろに下がる。
すると、ヒューアムさんは剣を構えて追いかけてきた。
ここで、僕は急停止してヒューアムさんに斬りかかる。
「むっ!」
僕の渾身の一撃は、ヒューアムさんにあっさりと避けられた。
ヒューアムさんはそのまま僕の後ろに回り、僕の首に剣を当てた。
完敗だね、まあ当然なんだけど。
「参りました」
僕がそう言うと、ヒューアムさんは剣をひいた。
僕は立ち上がって、ヒューアムさんに向き直る。
「ぼろ負けだったね、僕」
「いや、構えは素人でしたが、咄嗟の行動は中々のものでしたよ。訓練を続ければ、かなり成長するのではないでしょうか」
「そう言って貰えると嬉しいよ、ヒューアムさん」
いやー、ヒューアムさん良い人だなー。
まあ、成長するんならこれからも訓練を頑張ってみようかな。
あ、そうだ。
「ヒューアムさん、この剣、貰っても良いかな?」
「ええ、別に構いませんよ」
「そう、ありがとう、じゃあ次の人に交代だね」
僕は城の通路に戻る。
次は妃美奈さんがやるみたいだ。
武器は………なんだ、あれ?
「よう、律紀。お前、結構戦えてたじゃないか。どっかで習ってたのか?」
「いや、習ってませんよ。それより幸希さん、妃美奈さんの武器。あれって何ですか?」
「ああ、あれは鎖鎌だな。扱いが難しいんだが、何であれを選んだんだか」
鎖鎌か………もしかして、羽衣って回復以外にも使えるのかな?
硬くして武器にしたり?
まあ、それでも今はそう上手く使えないだろう。
その予想通り、妃美奈さんは鎖鎌を上手く使う事が出来ず、直ぐに負けた。
健也と入れ替わりに、妃美奈さんが戻ってくる。
「妃美奈さん、お疲れ様」
「妃美奈、お疲れ」
「阿皇君、霜狩さん。ありがとう」
「妃美奈さん、何で鎖鎌なんて使いづらそうな武器にしたの?さっきだって、ちゃんと使えてなかったし」
「実は、私が持ってるスキルに、一番近い形の武器がこれだったんだ。まあ、今は使えてないけど、直ぐに使える様になってみせるよ!」
やっぱりそうだったか。
と、それよりも、今は健也が戦ってるんだったな。
健也が選んだ武器は、木の杖だった。
どう戦うんだろうな?陰陽師の戦い方はどんなんなんだか。
戦いが始まった。
健也が木の杖を地面に突き刺すと、健也の目の前に太極図が現れ、そこから人型の何かが出てきた。
「あれは………狐?」
「ああ、狐だな」
「狐だね」
そう、出てきたのは、平安時代の人が着ていた様な服を着た、狐だった。
頭には烏帽子を被っている。
あれが、健也の式神か?
健也が何か言うと、狐は尻尾の先に炎の球を出して、ヒューアムさんに放った。
ヒューアムさんはそれを……………斬った。
健也と狐もそれは予想していなかったのか、口を開けて呆然としている。
ヒューアムさんはその隙をついて一気に近寄り、狐を切り裂く。
狐は斬られると、煙の様に消えていった。
健也はそこで我に帰るが、その時には既にヒューアムさんに剣を突きつけられていた。
終わったので、皆でヒューアムさんと健也のところに行く。
「健也!お前、なんだ今の!」
「そうだよ、あれは何なのかな?」
「何か凄かったよ!」
健也は僕達の言葉に苦笑いをして、少し息を整える様にしてから、話出す。
健也の家は、向こうの世界ではそんなに有名じゃない陰陽師一族だったらしい。
だが、健也は産まれながらに強力な霊力(魔力と同じものらしい)を持っていて、小さい頃から訓練ばかりの日々を送っていたみたいだ。
さっきの式神も、九尾とか言う有名な式神で、今は健也と契約しているらしい。
まだ、健也が未熟で力を完全には引き出せない様だが。
成る程なぁ、しかし、健也の家は大丈夫なのかな?
大事な跡取りが居なくなった訳だし。
それに、九尾もこっちに来ちゃったしなぁ。
その後は、ヒューアムさんから今日はこれでお仕舞いだと伝えられ、朝ご飯を食べたあとは自由行動になった。
僕は自分の部屋に入って、一息つく。
「うーん、今日の訓練はそんなに疲れなかったなぁ。一回戦っただけだし」
せっかくなので、夜にやるつもりだった、創造をやってしまう事にした。
僕は貰った剣を机の上に置いて、その上に手をかざして、創造を使う。
(素材………鉄の剣………魔力………必要量丁度………完成型………刀、全てが鉄で出来た刀………)
『Q.スキル『予想図』を使用しますか?』
「勿論」
『A.スキル『予想図』を発動します』
目の前に半透明な刀が現れる。
うーん、ちょっと僕には長すぎるかな。
少し短くして、柄も僕の手に合わせて……………よし。
「いくぞ………創造!」
スーツと同じ様に、身体から魔力が抜ける感覚がして、剣が蒼く強烈に光る。
光が収まり剣を見てみると、ちゃんとイメージ通りの刀がそこにあった。
持ち上げてみるが、重さも問題ない。
鑑定結果は、と。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
«鉄の刀»
・スキル『創造』によって創られた刀。鉄の剣から創られており、鉄が変質している。刃が少し蒼っぽく染まっていて、普通の鉄の刀よりもかなり軽い。強度もかなり上がっている。切れ味もかなり良い。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うん、結構良く出来たな。外に出て振ってみるか」
僕は刀を持って部屋から出て、塔の外に出て、人に見つからない様に、塔の裏に回る。
「よし、誰も居ないな。じゃあ、英知を使って、刀の使い方の基礎とか分からないかな」
『A.可能です』
『Q.実行しますか?』
勿論、実行するに決まっている。
『A.了解しました。スキル『英知』で刀術の基礎を検索……発見』
『Q.スキル『理解』を刀術の基礎に発動しますか?』
「発動する」
『A.了解しました。スキル『理解』を発動します』
それと同時に、頭に情報が流れ込んでくる。
思考加速と計算のお蔭か、痛みは無い。
得た情報の通りに刀を握り、構えて振っていく。
鋭く、速く、正確に。
だだひたすらに刀を振る。
不思議と飽きは来ない。
そのまま続けていくと、少しだがコツを掴んでくる。
途中から自分の身体に理解を使って、更に動きを最適化していく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして一時間後。
一旦止めて、休憩にする。
「ステータスはどうなったかな?スキルが手に入ってれば良いんだけど」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
«リツキ・アコウ»
«種族»
[人間<Lv1>]
«職業»
[勇者<Lv1>][創造士<Lv1>]
体力値 C
魔力値 B
筋力値 C
耐久値 C
敏捷値 C
知力値 B
精神値 A
«スキル»
[固有スキル]
『創造<Lv1>』『英知<Lv1>』
[種族スキル]
『幸運<Lv1>』
[職業スキル]
『異世界言語理解』『経験値1/2』『成長』『予想図』
[通常スキル]
『計算<Lv5>』『理解<Lv2>』『鑑定<Lv1>』『刀術<Lv1>』
«称号»
[異界の勇者][創造神の加護]
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おお、増えてる!他は変化無し、か」
まあ、当然かな、こんな少しで上がる訳無いし。
上がったら、この世界は勇者必要無くなるしな。
「休憩が終わったら何しようかなー。昼食までまだ時間があるし、また書庫にでも行こうかな?でも、刀術の訓練を続けるのも………」
うーん、どっちも魅力的だなー。
「よし、決めた!次も訓練!休憩終わり!」
昼食まで訓練を続ける事にした。
早く強くなって、損はしないしな。
とりあえず、一週間は基礎の訓練を続ける事にした。
その後は仮想の敵相手に、刀術を使った戦闘訓練だ。
予想図を使えば、簡単に出来る。
まあ、今は基礎を完全に自分のものにする。
僕はまた、刀を黙々と振り始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数時間後、僕は訓練を終えて、自室に戻ってきた。
って、あぶなっ。
やっぱり、鞘が必要だな。
刀だけだと、斬ってしまいそうで危ない。
「でも、素材が無いんだよなぁ。あ、そうだ」
僕は机の引き出しから小さなベルを取り出す。
これは魔法が込められた道具、魔道具と言うものらしく、このベルは簡単な信号を送れるらしい。
使うと、対の魔道具を持っている人の頭に小さな音がする、とメリカさんが言っていた。
使い方は、魔力を流しながら小さく鳴らすだけらしい。
早速使ってみる。
それから数分後、扉からノックが聴こえた。
「アコウ様、メリカで御座います。お呼びでしょうか」
「うん、入って良いよー」
僕の言葉に、メリカさんが部屋に入り、僕の前で止まる。
「アコウ様、ご用件は何でしょうか」
「実は、木材が欲しいんだよね。これぐらいで良いから」
「木材、ですか?承知致しました。至急ご用意します」
「ありがとう、宜しくねー」
メリカさんは部屋から出ていった。
僕は部屋から離れる訳にもいかないので、何か暇潰しを探す。
「と言っても、何もやる事が無いんだよな。暇潰しか………創造で何か創るかな」
そうと決まったら、即行動に移す。
まずは何を創るか、だが。
「うーん、あ、そう言えば、ベルトは創造で変えてなかったな。素材は、確か鉄がまだ残ってた筈………あった」
じゃあ、始めるか。
ベルトと鉄を机の上に置いて、その上に手をかざす。
(素材………ベルト、鉄………魔力………必要量丁度………完成型………剣帯、黒い剣帯………)
魔力を流し、予想図を見て調整する。
「よし、これで………創造!」
魔力が減り、蒼く光る。
光が収まると、そこにはイメージした通りの剣帯があった。
金具部分は鉄で、他は黒い鉄革で出来ている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
«鉄革の剣帯»
・スキル『創造』によって創られた剣帯。ベルトと鉄から創られており、変質した鉄と革が混ざった、鉄革で出来ている。見た目や重さは普通の剣帯だが、強度は鉄以上。触ると、ちょっとひんやりしている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うん、上出来だな。とりあえず、創造はこれで終わりにしておくかな。鞘を創る為にも、魔力をとっておきたいし」
剣帯を腰につけて、ベッドに横になる。
あー、暇だ、暇で暇でしょうがない。
そんな事を考えていると、扉からノックの音が聴こえてきた。
「アコウ様、メリカで御座います。ご要望の木材をご用意しました」
「入って入って」
メリカさんが、木材を浮かべながら、部屋に入ってきた…………え?
メリカさんは、木材を壁に立て掛ける。
「ご要望の、木材で御座います」
「あ、うん、ありがとね」
「いえ、専属のメイドとして、当然の事ですので。……?あの、失礼ですが、その腰のものはどうされたのでしょうか?」
あー、やっぱり気になるよね。
さっきは無かったのに、短い間に変わってるんだし。
「これ?秘密だよ、秘密」
「畏まりました、差し出がましい事を」
「別に良いよ、じゃあ、また昼食の時間になったら教えてね」
「はい、では失礼させて頂きます」
そう言って、メリカさんは部屋から出ていった。
僕は直ぐに創造の準備を始める。
壁から木材を一つ取って、ベッドの上に置く。
「うーん、後は鉄を使うかな」
鉄も追加でベッドの上に置いて、その上に手をかざす。
予想図は自動で発動する様に、設定してある。
(素材………木、鉄………魔力………必要量丁度………完成型………鞘、真っ黒な鞘………)
予想図を見ながら、刀に合う様に調整していく。
「………創造!」
魔力が減り、蒼く強烈に光る。
光が収まると、そこには真っ黒な鞘が置かれていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
«鉄木の鞘»
・スキル«創造»によって創られた鞘。木と鉄から創られており、変質した鉄と木が混ざった、鉄木で出来ている。見た目や重さは普通の鞘だが、強度は鉄以上。触ると、ちょっとひんやりしている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
鞘は両端が鉄で少し装飾されていて、シンプルだが、格好いい。
鞘を剣帯に止め、刀を差す。
よし、ちゃんとぴったりだ。
「っと、少しだるくなってきたな。創造はもうおしまいにして、書庫にでも行くかな」
僕は腰に刀をぶら下げたまま、部屋から出て書庫に向かった。