2話 {創造・理解}検証
王の間は、玉座の横に一人、玉座に座っているのが一人の二人だけだった。
アミーシャ王女についていき、玉座の前まで進む。
「お父様、勇者樣をお連れ致しました」
「うむ、ご苦労だったな、アミー」
アミーシャ王女は玉座の横に移動するが、僕達はそこで立ち止まって、玉座を見上げる。
普通ならそこで「無礼なっ!」とか言われるんだろうけど、ここに居る人は僕達を無理矢理召喚した事に罪悪感を抱いているのか、何も言われる事はなかった。
そのまま立っていると、玉座に座っていた人が話始めた。
「勇者殿、私はシキャント王国の国王、アムントル・リゥ・シキャントと申す。この度は、勇者殿をこちらの都合で召喚してしまった事、どうかお許し頂きたい」
国王が玉座から立ち上がって、頭を下げてきた。
僕達は一国の主が頭を下げた事に驚くが、アミーシャ王女と玉座の横の人は、そうでもない様だ。
アミーシャ王女は笑みを浮かべながら見ていて、玉座の横の人は諦めた様に溜め息をついている。
この王様は、こんな事が日常茶飯事なのだろうか?
今回もまた、幸希さんが話して頭を上げさせる。
「国王樣、我々はその事は気にしておりません。頭を上げて下さい」
「うむ、勇者殿、お許し頂き感謝する。して、勇者殿。そなた達の名を教えては頂けないだろうか」
「それぐらいの事でしたら」
国王の言葉に、幸希さんから順番に名前を伝えていく。
最後に僕が名前を言った後、国王は玉座に座り、僕達を見て言ってきた。
「ふむ、では幸希殿、これから勇者殿を召喚した理由を説明したいのだが、宜しいだろうか?」
王様がそう言ってきたが、別に構わないので幸希さんに頷いて伝える。
全員の意見が一致したので、幸希さんが国王に伝える。
「そうか、では。勇者殿を呼んだのは他でもない、世界の危機を救って貰う為、諸国の話し合いの場で決まった事なのだ。この国が召喚の場に選ばれたのは、この国が初代勇者樣が作った国だからだ」
へー、そうやって決められたんだ。
国王やアミーシャ王女の髪が黒いのも、初代勇者の血をひいているからなのかな?
と、気になる事は別にあった。
僕は国王樣に直接話しかける。
「国王、ちょっと良いかな?」
「うむ、構わん。申してみよ」
「じゃあ、世界の危機ってなんなの?その為に僕達が召喚されたんでしょ?」
「それはだな……………分からん」
「「「「は?」」」」
国王の言葉に、僕達は全員口を開けてしまう。
だってそうだろう?
世界の危機ってのがなんなのか分からなきゃ、僕達は何をすれば良いか分からないじゃないか。
「じ、じゃあ、僕達は何をすれば良いのかな?何かする事はあるでしょ?」
「うむ、今までの前例からして、何か邪悪な者が現れるのは間違い無い。勇者殿にはそれと戦う為に、この城で訓練を受けて欲しいのだ」
成る程、まあ、当然だね。
いくら力があっても、素人じゃ足手まといになるし。
皆も同じ意見みたいで、幸希さんが是非にと返事を返している。
「おお、そうか!ご協力に感謝する。今日は流石に訓練は無い。勇者殿の部屋へと案内させるから、各自自由に行動してもらって構わない。城の中なら出歩いて貰って平気だ。既に城の者には話は通してある」
そう国王が言うと、国王の横に居た人が小さなベルを鳴らす。
すると、横にあった小さな扉からメイドさんが出てきた。
メイドさん達は僕達の前に並び、国王の横に居た人………ああ、もう宰相で良いや。
宰相が話始める。
「勇者樣には、それぞれ専属メイドをつけさせて頂きます。では、今回はこの者が案内致しますので、明日までゆっくりとお休み下さい」
宰相がそう言うと、僕達はメイドを先頭に、王の間から出る。
それから十分程移動すると、庭に出て、立派な一つの塔に案内された。
メイドさんに連れられ、塔の中に入る。
中はとても広かった。
一階は広間の様で、両脇にある階段を上がった先に、僕達の部屋はあるみたいだ。
高級なシェアハウスみたいだな。
「ここが、勇者樣に暮らして頂く、勇者の塔で御座います。部屋はご自由にお決め頂いて結構です。夕食の時間になりましたら、専属メイドを遣いによこしますので、それまでは自由にお過ごし下さい」
メイドさんはそう言うと、扉から出ていった。
ここに取り残された僕達は、顔を見合わせて、話始める。
「じゃあ、皆。国王樣とメイドさんが言ってた通り、部屋を決めた後は自由行動で良いか?」
「おう、それで構わない」
「はい、それで大丈夫です」
「良いんじゃないですか?」
「じゃあ、各自自由行動という事で。解散!」
幸希さんの号令で、皆が行動を始める。
なんか軍隊っぽいな、この行動。
と、僕の部屋は右の階段を上がった奥の部屋になったみたいだ。
扉を開けて中に入る。
中はやっぱり広かった。
綺麗に片付けられていて、豪華かだがゴテゴテしてはいない。
「凄い部屋だなー。さて、僕は何をしようか」
僕はベッドに座り、考える。
でも、やる事って大体決まってるんだよな。
「やっぱり創造を試すしかないよなー」
今回試すのは、スキルの創造じゃなくて、物の創造だ。
試すとしたらこの学生服かな。
これくらいしか試せる物が無いし。
確か創造の詳細によると、素材を用意しなきゃいけない筈だ。
て事は、もう一つ何かが必要なんだが……。
「なんかないかなー………これでいっか」
俺が素材に選んだのは、何故か引き出しに入っていた、鉄のインゴットだ。
……………本当になんで入ってたんだ?
まあ、考えても仕方ない、始めるか。
やり方は、さっきスキルを創ったので大体分かる。
僕は学生服を脱いでワイシャツとパンツだけになり、学生服と鉄のインゴットをベッドの上に並べる。
そして、その上に手をかざしながら念じる。
素材を、魔力を、完成型を。
(素材………学生服、鉄のインゴット………魔力………必要量丁度………完成型………スーツ、真っ黒なスーツ………)
『Q.スキル『予想図』を使用しますか?』
「ああ、そんなのもあったな……使用する」
『A.スキル『予想図』を発動します』
その声が聴こえると同時に、目の前に向こう側が透けた、イメージ通り……いや、ちょっとサイズが違うな。
理解で自分の身体を理解して、サイズを調整し完成型を決める。
「よし、これで大丈夫な筈だ……創造!」
すると、かざしていた手から二つの素材に魔力が注がれ、素材が蒼い強烈な光に包まれる。
体から何かがごっそり抜ける様な感覚がして、光が収まってから目を開けると、ベッドの上には、イメージした通りのスーツがあった。
「成功かな。さて、このスーツはどんな出来になっているかなー。見た目も重さも、普通のスーツと変わらないんだけど……」
鑑定を使ってスーツを見てみる。
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«鉄布のスーツ・上下»
・スキル『創造』によって創られたスーツ。学生服と鉄から創られており、変質した鉄と布が混ざった、鉄布で出来たスーツ。見た目や重さは普通のスーツだが、その強度は鉄以上。触ると、ちょっとひんやりしている。
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「うわ、防御力は鉄以上って……。感触や重さは変わらないのにそれって、凄すぎだろ」
まあ、便利には違いないので、直ぐに着る。
理解を使ってサイズを調整したから、妙にしっくりくる。
残りの鉄を使い靴も同じ様に、防御力を上げておく。
「後は………ワイシャツを強化して、それにネクタイとグローブも創っておこうかな」
一旦上を脱いで、ワイシャツを強化する。
その後は箪笥の中にあったハンカチと革のベストを頂いて、ネクタイとグローブを創った。
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«鉄布のシャツ»
・スキル『創造』によって創られたワイシャツ。ワイシャツと鉄から創られており、変質した鉄と布が混ざった、鉄布で出来たワイシャツ。見た目や重さは普通のワイシャツだが、その強度は鉄以上。触ると、ちょっとひんやりしている。
«鉄布のネクタイ»
・スキル『創造』によって創られたスーツ。絹のハンカチと鉄から創られており、変質した鉄と絹が混ざった、鉄布で出来たネクタイ。見た目や重さは普通のネクタイだが、その強度は鉄以上。触ると、ちょっとひんやりしている。
«鉄革のグローブ»
・スキル『創造によって創られたグローブ。革のベストと鉄から創られており、変質した鉄と革が混ざった、鉄革で出来たグローブ。見た目や重さは普通のグローブだが、その強度は鉄以上。触ると、ちょっとひんやりしている。
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創った装備を全て身に付け、思う。
「これでかなり防御力は上がってるんだよな。当分は防具は要らないかな?まあ、くれるんなら貰っておくけど」
素材として、だけどね。
さて、これで本当にやる事がなくなった。
なんか身体もだるいな。
「あ、もしかして、残りの魔力が少ないのかな?創造には魔力を使うみたいだし………」
なら、今日の創造はもう終わりだな。
じゃあ、夕食に呼びに来るまで何をしようかなー。
訓練は今日は無いから、情報収集かな。
書庫にでも行ってみるか。
流石に禁書とかは読めないだろうけど。
僕は部屋を出て、塔から出る。
城の中に入って直ぐにメイドさんを見つけた。
丁度良いな、書庫の場所を聞こう。
「ねぇ、ちょっと良いかな」
「?ああ、なんでしょうか、勇者樣?」
「書庫に行きたいんだけど、場所が分からないんだ。教えてくれないかな?」
「それでしたら、案内をさせて頂きます。こちらへ………」
案内までしてもらうつもりは、無かったんだけどな…………。
それより、さっきこのメイドさん、僕の頭を見て勇者だって判断してたな。
やっぱり黒髪は勇者しか居ないんだろうか?
勇者の血をひくシキャント王族は別として。
まあ、別に良いか。
まだ何か不便がある訳でも無いし。
と、いつの間にか書庫に着いたみたいだ。
僕は扉を開けて中に入る。
さっきのメイドさんはお辞儀をして去っていった。
「うわぁ………凄いな、これ…………」
僕は書庫に入って、直ぐに驚いた。
とてつもない数の本棚と、数えきれない程の本がところ狭しと並んでいたのだ。
中には、今は人は居ないみたいだな。
「これじゃあ、目当ての本が見つかるか分からないな………」
『A.スキル『理解』をこの書庫に使用する事を推奨します』
理解を書庫に?よく分からないが、やってみるか。
僕は対象を書庫だと認識して、理解を発動する。
すると、このこの書庫のどこに何があるのかが、こと細かに分かった。
「うわ、凄いな、理解…………なんでこのスキル、通常スキルなんだろう………」
本当に不思議だよ。
まあ、分かったんだから良いとするか。
僕は目当ての本がある本棚まで移動する。
そこの本棚だけでも、本は数えきれない程になっていた。
本棚から本を抜き取ろうとして、止まる。
「もしかして………この本棚の本に理解を使えば、内容も理解出来るんじゃ………」
早速、本棚の本を対象に理解を使う。
すると、女神様に一般常識を覚えさせられた時よりも、大きな痛みが襲ってきた。
「がぁっっっっつぅ!!?!?!!!?」
声はなんとか堪えるが、気が狂いそうな程の情報量が、一気に頭に流れ込んでくる。
その痛みはあの時よりも長く続いたが、次第に痛みはなかったかの様に消えていった。
「っ!………ハァ、ハァ、ハァ……簡単に、ハァハァ、やるもんじゃ、無い、な」
確かに本の内容は理解出来たが、あんな痛みは出来るだけ味わいたくない。
「と、今のでなんかステータスに変化とか無いよな?」
僕は念のため、ステータスを開いて確認する。
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«リツキ・アコウ»
«種族»
[人間<Lv1>]
«職業»
[勇者<Lv1>][創造士<Lv1>]
体力値 C
魔力値 B
筋力値 C
耐久値 C
敏捷値 C
知力値 B
精神値 A
«スキル»
[固有スキル]
『創造<Lv1>』『英知<Lv1』
[種族スキル]
『幸運<Lv1>』
[職業スキル>]
『異世界言語理解』『経験値1/2』『成長』『予想図』
[通常スキル]
『計算<Lv5>』『理解<Lv2>』『鑑定<Lv1>』『思考加速<Lv1>』
«称号»
[異界の勇者][創造神の加護]
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「スキルLvが上がってるな。新しいスキルも覚えてるし」
新しいスキルの詳細はー、っと。
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『思考加速』
・思考速度を上昇させる。加速した思考に身体がついていく様になる。
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「これは、戦闘以外でも役に立ちそうだな。これから重宝するかも」
さて、それで一番の疑問は計算がなんでこんなにLvUPしているのか、なんだよ。
理解はあんだけの量を理解したから分かるけど、計算はさっぱり分からないんだよねー。
「で、どういう事なのかな?」
『A.スキル『理解』によって得た膨大な情報を、『計算』を使い一度に大量に整理した事が原因です』
打てば響く様に返ってくるなー、この声。
しかし、あの情報量を整理出来たのは、計算のお蔭だったのか。
計算って役に立つスキルだったんだなー。
「と、もうすぐ部屋にメイドさんが来ちゃうかな。かなり時間が経ってたみたいだし」
僕は急いで書庫から出て、塔に向かった。
遅れなきゃ良いんだが………。