1話 «他の勇者»
光が収まると、周囲の景色が変わっていた。
柱や床の絨毯、天井の明かりなど、全てが見るだけで高いと分かる。
また、周りには僕以外にも三人の人間が居た。
一人は20代後半の男性、後の二人は高校生位の少年と少女だ。
彼等も僕と同じ勇者だ。
女神様から貰った情報では、勇者は異世界からランダムで四人が召喚されるらしい。
俺達は互いに視線を向け、年長者の男性が最初に話出した。
「なあ、お前達も勇者って事で良いんだよな?」
「おう、その通り」
「は、はい、私も勇者です」
「うん、僕も勇者だよ」
互いが勇者だと確認する。
どうやら、皆勇者で間違いない様だ。
俺は他の四人に話しかける。
「あの、自己紹介でもしないかな?名前が分からなきゃ、不便だしね」
俺の言葉に皆頷いて、最初に年長者の男性が話始める。
「じゃあ、俺からだな。俺は霜狩 幸希、27歳の自衛隊隊員だ。今は元、になるのか。これから宜しくな!」
幸希さんは黒い髪を角刈りにしたいかついおじさんだ。
浅黒い頬に、大きな傷がついている。
それにしても、元自衛隊隊員か。
戦闘経験があるのはこの人だけだろうし、頼りになりそうだな。
「次は俺か。俺は鳴子 健也。高校二年生だった。宜しく頼む」
健也は頭を坊主にした、誠実そうな奴だ。
イケメンだし、モテたんだろうな。
いや、なんか真面目すぎてモテなかったかもしれない………。
「私は妃美奈 空、高校一年生です!アイドルやってました。あの、これから宜しくお願いします!」
妃美奈さんは黒髪をツインテールにした、可愛い系の美少女だ。
見た事あると思ったら、最近人気だったアイドルだった。
なんか守りたくなる様な微笑ましさを感じるな。
じゃあ、次は僕だね。
「僕は阿皇 律紀。高校二年生だったよ。皆、宜しくね」
僕は黒髪を長めに伸ばして、目元を隠している。
顔は整ってはいるらしいが、あまりモテたりはしなかった。
全員の自己紹介が終わったところで、幸希さんが話始める。
「じゃあ、まだこの国の人は来ないみたいだし、各自でステータスの確認でもしないか?早めに確認しといて、損は無いからな」
幸希さんの言葉に、全員が賛成して、それぞれ部屋の隅に移動して、ステータスを確認する。
俺も移動してステータスを開く。
ステータスは念じれば開けるらしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
«リツキ・アコウ»
«種族»
[人間<Lv1>]
«職業»
[勇者<Lv1>][創造師<Lv1>]
体力値 C
魔力値 B
筋力値 C
耐久値 C
敏捷値 C
知力値 B
精神値 A
SP:100
«スキル»
[固有スキル]
『創造<Lv1>』『英知<Lv1>』
[種族スキル]
『幸運<Lv1>』
[職業スキル]
『異世界言語理解』『経験値1/2』『成長』『予想図』
[通常スキル]
『計算<Lv1>』『理解<Lv1>』『鑑定<Lv1>』
«称号»
[異界の勇者][創造神の加護]
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(成る程、ステータスは情報通りみたいだな。念じれば詳しい説明が見れるんだっけ)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
[人間]
・特徴が無いのが特徴の種族。特別劣ってはいないが、特別秀でてもいない。
[勇者]
・異世界から世界を救う為に召喚された者。勇者召喚の術式によって、ステータスが強化されている。神から強力なスキルを与えられる。
『創造』
・様々なものを素材にして、様々なものを創る事が出来る。完成成功確率はLvに依存。創造時は魔力を消費する。Lvを越えるものを創る時には、過剰に魔力を消費する。スキルを創る場合は、SPを仕様する。
『英知』
・世界の記録に接続して、既存の情報を所持者に提供する。
『幸運』
・運が良くなる。
『異世界言語理解』
・ニーアルの言語を自動翻訳してくれる。
『経験値1/2』
・種族Lv、職業Lv、スキルLvのLvUPに必要な経験値を半分にする。
『成長』
・ステータスが通常よりも大きく成長する。
『予想図』
・予想図を立体映像として視覚化出来る。細かい予想まで視覚化される。
『計算』
・計算が速くなる。正確性が上がる。
『理解』
・あらゆる事を理解しやすくなる。
『鑑定』
・ステータスを見る事が出来る。
[異界の勇者]
・異世界からニーアルに召喚された勇者。精神面を強化する。
[創造神の加護]
・運が良くなる。ステータスが上昇する。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(創造……ヤバいやつなんじゃ………いや、自分で頼んだやつだけど、ここまでヤバいやつになるとは………)
他のスキルも凄そうだな。
接続………世界の記録って相当凄いんじゃ。
理解のスキルが良く分からないけど。
創造神の加護の効果は、多分こっちで生き残れる様にだろう。
精神的に追い詰められて自殺なんかされちゃ、女神様が困るからな。
さて、これで僕は確認し終わったけど、皆はどうなのかな?
皆を見ると、皆も確認し終わったみたいで、真ん中に集まっていた。
僕も急いで真ん中に戻る。
「ごめん、遅れちゃって」
「いや、別に構わないよ。大切な事だから時間がかかるのは仕方ないさ」
幸希さんが笑って許してくれて、二人も頷いてくれる。
良い人そうで良かったよ、本当に。
僕が安心していると、妃美奈さんが話始める。
「あの、私達っていつまでここに居れば良いんでしょうか?」
「ああ、それは俺も気になる」
「確かにな。どうすれば良いのか、全く分からん」
「ああ、それならきっともうすぐ人が来ますよ」
僕がそう言ってから直ぐに扉が開いて、綺麗な美少女を先頭にして、沢山の鎧を着た人達が入ってくる。
美少女は、僕達の前で止まって話始める。
「初めまして、勇者樣。私はシキャント王国の第二王女、アミーシャ・リィ・シキャントと申します。この度のご無礼、どうかお許し下さい」
あー、やっぱり王女だったんだ。
アミーシャ王女は俺と同じ位の歳の美少女だ。
黒髪を長く伸ばして髪飾りで結っていて、ピンク色の瞳がキラキラと輝いている。
頭を下げるその動作だけでも、自然な気品を感じさせる。
突然の謝罪に一瞬固まった僕達が元に戻ると、幸希さんが代表して返事を返す。
「あー、王女樣?でいいんですよね?謝罪は受け入れます。だから、頭を上げて下さい」
幸希さんがそう言った後に、僕達の方を向いて「これで良いよな?」と聞いてくる。
僕達も特に責めるつもりは無いので、直ぐに頷く。
アミーシャ王女は頭を上げて、僕達を見る。
「寛大なお心に感謝します、勇者樣。召喚して直ぐですみませんが、召喚した理由をお父様がお話になるので、王の間へと移動して頂いても宜しいでしょうか?」
これも、特に反論は無いので、頷く。
「では、私についてきて下さい。王の間へご案内致します」
そう言って部屋を出ていくアミーシャ王女の後ろを、幸希さんを先頭についていく。
僕は一番後ろだ。
僕は移動しながら、作るスキルについて考える。
(最初はどんなスキルを作ろうかなー。やっぱり偽装系のスキルかな?でも、それだと面倒な事になりそうだしなー)
偽装系のスキルを持つ主人公は、城から追い出されて強くなるけど、現実でそう上手くいくとは思えないんだよな。
だって現代で守られて育った人間が、こんな物騒な世界に放り出されて生き残れる訳無いじゃん。
幸希さんは自衛隊だったから、大丈夫かもしれないけどさ。
となると、別のスキルになるんだけど、一体どんなスキルだと平気なのかな?
(うーん、偽装系のスキルだけだと、城から追い出されちゃうかもしれないしなー。もう一つ何か作りたいな。強力なスキルを)
強力なスキル…………そう言えば、他の三人はどんなスキルを持ってるのかな?
ちょっと見せて貰おう。
俺は三人を鑑定する。
最初は幸希さん。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
«コウキ・シモカリ»
«種族»
[人間<Lv1>]
«職業»
[勇者<Lv1>][銃士<Lv1>]
体力値 C
魔力値 B
筋力値 C
耐久値 C
敏捷値 B
知力値 C
精神値 B
«スキル»
[固有スキル]
『拳銃生成・強化<Lv1>』
[種族スキル]
『探知<Lv1>』
[職業スキル]
『異世界言語理解』『経験値1/2』『成長』『予測線』
[通常スキル]
『射撃<Lv1>』『鷹の目<Lv1>』
«称号»
[異界の勇者][銃神の加護]
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(へぇー、幸希さんは銃のスキルを手に入れたんだ。もっと詳しくは……見れないみたいだな)
向こうで使い馴れてたから、このスキルにしたのかな?
まあ、分からないなら考えても仕方ないか。
じゃあ、次は健也!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
«タケナリ・ナルコ»
«種族»
[人間<Lv1>]
«職業»
[勇者<Lv1>][陰陽師<Lv1>]
体力値 B
魔力値 B
筋力値 C
耐久値 C
敏捷値 C
知力値 C
精神値 B
«スキル»
[固有スキル]
『昇華<Lv1>』
[種族スキル]
『念話<Lv1>』
[職業スキル]
『異世界言語理解』『経験値1/2』『成長』『契約』
[通常スキル]
『式神<Lv1>』『伝導<Lv1>』
«称号»
[異界の勇者][太陽神の加護]
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(陰陽師?陰陽師って、あの陰陽師だよな?通常スキルは多分、向こうで使えた事をスキルにしたんだと思うし………健也って陰陽師だったんだ………)
なんか凄い事知っちゃったな。
俺が知ってるのはおかしいし、口を滑らさない様に気を付けなくちゃだな。
さて、次は妃美奈さんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
«ソラ・ヒミナ»
«種族»
[人間<Lv1>]
«職業»
[勇者<Lv1>][天女<Lv1>]
体力値 B
魔力値 B
筋力値 C
耐久値 B
敏捷値 C
知力値 C
精神値 C
«スキル»
[固有スキル]
『羽衣』
[種族スキル]
『健康』
[職業スキル]
『異世界言語理解』『経験値1/2』『成長』『慈愛』
[通常スキル]
『歌唱<Lv1>』『消費魔力減少<Lv1>』
«称号»
[異界の勇者][治癒神の加護]
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(天女か……スキルもなんかアイドルっぽいなぁ。回復系のスキルかな、加護からすると)
回復系のスキルか………良いかもな。
でも、既にあるスキルを創るのももったいないなー。
既存スキルの確認とか、出来ないのかな?
『Q.回復系の既存スキルを確認しますか?』
「うわっ!?」
「あれ、阿皇君、どうかした?」
「あ、ううん、何でもないよ」
あぶなー、妃美奈さんに気づかれるところだったよ。
それにしても、さっきの声はなんなんだ?
『A.スキル『理解』の能力です。スキル『理解』はあらゆる事を理解し、応用する事が出来ます』
『Q.スキル『英知』を使用して、回復系の既存スキルを表示しますか?』
まただ、何々、理解?
あの意味不明なスキルか。
えー、じゃあ回復系の既存スキルを教えてくれる?
『A.了解しました、マスター。回復系既存スキルの一覧を表示します』
すると、ステータスと同じような透明な板が目の前に現れた。
(って、多くね?上位のスキルだけ表示とか出来ないのかな?)
あ、数が減った。
ある程度自由はきくみたいだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
«回復系既存スキル»
[最上位スキル]
『超速自己再生』『治癒魔術』
[固有スキル]
『羽衣』『完全再生』『治癒の真髄』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(かなり少なくなったな。本当にトップクラスのスキル、って訳か。僕が欲しいのは自己再生系のだから、完全再生より上のスキルになるのかな。完全再生の詳しい説明って分からないかな)
『A.スキル『完全再生』の詳細を表示します』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『完全再生』
・死なない限り、傷を一瞬で元通りに再生する。体力を傷の大きさに応じて消費する。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
これよりも上のスキルか…………。
このスキルのデメリットは、体力の消費だろうな。
死ぬ様な傷を再生したら、多分動けなくなるだろう。
じゃあ、何も消費せずに再生出来るスキルだな。
(なあ、そういうスキルは今あるSPで創れるのかな?)
『A.スキルはその効果は関係無く、一つ創造するのに100必要です』
じゃあ、これだけなら創れるのか。
あれ、そもそもどうやってスキルを創るんだ?
『A.創造したいスキルの名前、効果、パッシブorアクティブを念じながら、スキル『創造』を発動する事によって、スキルを創造出来ます』
成る程、じゃあやってみるか。
(僕が創りたいスキル………命ある限り、自らの身体を一瞬で再生する………何も消費しない………デメリット無し………パッシブスキル………その名前は………)
頭の中で、創りたいスキルを形創っていく。
これでスキルの形は創った……。
後は名前をつけるだけ………………。
(『絶対再生』!!!)
『A.スキル『創造』によるスキル創造を確認しました。«リツキ・アコウ»の所持スキルに、スキル『絶対再生』を追加します』
その言葉と同時に身体が淡い蒼い光に包まれた。
小さい光だったので、誰も気づかなかった様だ。
そこは一安心だな。
でも………これで創れたのかな?
ステータスを開いて、スキル欄を確認する。
(あ、あったあった。ちゃんと創造出来たみたいだ。詳細はどうなってるんだ?)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『絶対再生』
・死なない限り、自らの身体を一瞬で再生する。どんな傷でも何もなかったかの様に再生する事が出来る。何も消費せずに再生を行う。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(うん、ちゃんと思った通りに創れたみたいだ。これで、死ぬ可能性はかなり下がったな)
と、そんな風に考えていると、丁度王の間の前に着いたみたいだ。
扉の前に居た兵士が、アミーシャ王女と後ろの僕達を見て、扉を開ける。
僕達は緊張しながら、王の間に入った。