始まりの目録
2058年4月9日
桜が舞うこの季節、とある学校の入学式が行われていた。
『ーーーであるからして本校生徒には十分に・・・・・・』
月島学園高等部体育館。
今年の入学生は327人、その中で黒髪の眼鏡をかけた冴えない顔をした男の子がいた。
その人物こそ主人公、楠木涼である。
(・・・なんかつまんないな・・・)
涼はピタリと動かずに考え事をしていた。
今、彼の頭にあるのは昨晩の戦闘だった。
(・・・しかし、百人相手は大変だったなぁ・・・)
『ティエンタ』
それは女性アバターを指す名前だが、そのアバターには秘密があった。
そう、プレイヤーは彼、楠木涼なのである。
(・・・まぁ、結果的に損害なかったしいいか)
昨晩の討伐レイドとの対戦時、一切の攻撃も受け付けなかった『ティエンタ』。
(・・・さて、今日も潜るか)
こうして彼の高校初日は幕を閉じる。
本当にこれだけだ。
STで何かあるわけでもなく、授業もまだ始まらない。
帰り道。
入学式だったので昼頃には終わり、帰路につく。
その時
「よっ、涼!」
後ろから声をかけられた。
「・・・ケン・・・」
やや赤めの茶髪、スラッとした顔立ちのこの好青年は清水 健司。
僕と同い年のゲーム仲間。
「おうおう、聞いたぜぇ。今度は100人斬りしたんだってぇ?」
ちょっぴりSだが、基本仲間思いのイイヤツだ。
「まぁ・・・向こうから攻めてくるから・・・迎え撃つしかなかった。しかも大軍で」
仕方なさげにため息つくと、ケンはヤレヤレと手を振った。
「お前も少しは落ち着いた行動出来ねぇのかよ・・・」
「・・・お前が言うなよ」
コイツとは幼稚園からの繋がりだ。
小学校も中学校も、そして高校も同じだ。
「で?今日も潜るんだろ?」
「当たり前。今日もレアアイテムがほしいから」
僕はそう簡潔に締めくくり、スマホの画面を開いた。
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アストラレイブス・ザ・オンライン。
今人気の大規模VRMMOである。
サーバー開設当初はたったの数百人程度しかいなかったプレイヤーも、開設三周年を迎えた今日、その数を300万にまで延ばしていた。
僕もそのプレイヤーの中の一人。
家に帰ってきた僕はカバンをベッドにほかり、バイトして貯めた金を注ぎ込んだデスクトップパソコン四台を同時に点ける。
「・・・新着メール5件か」
僕はメールフォルダを開き、来たメールを確認する。
「・・・夏津子からメールが来てる・・・」
夏津子は僕の中学校の友達で、唯一の女の子。
結構おとなしい性格で、僕がゲームの話を持ちかけたら意気投合したんだ。
「・・・『今日18:00から新イベントが始まるね!私も早く涼君みたいに強くなりたいなぁ・・・』・・・相変わらずだね、夏津子は」
僕はクスクス笑いながらメールを見た。
さて、そろそろ新イベントの時間だ。
「・・・さて、今日は何人襲ってくるかな」
僕はベッドに横たわり、目を覆うような形で作られたヘッドギアのスライドを下ろした。
そして・・・
時刻は18:00を示した。
「・・・『バーチャルイン・スタート』!」
僕の意識は現実から引き剥がされ、仮初の世界へ・・・
髪の毛が伸び金色に、体は女の子のそれとなり、全身に近未来風な鎧が合わさってゆく。
最後に右手に光る紫色の光剣が握られて・・・
「・・・ふふ、イベント開始よ!」
『ティエンタ』がアストラレイブス・ザ・オンラインに降臨した。
はい、高宮秀作です。
第2話、如何だったでしょうか。
全体的に文字数が少ないのはご愛嬌、僕の実力不足であります・・・ごめんなさい。
因みに本編の補足を少しだけ。
なぜ涼がパソコンを四台つけたのかと言うと、パソコンのサーバーから直接バイザー型ヘッドギアにリンクさせてログインするシステムだからです。
まぁ、四台付けないとリンクに時間がかかり、かつ負荷がやばい事になると思ってくれればいいかと。
では、今回はこのあたりで。
また次回、お会いしましょう!