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「理子」
私はそっと身体を離して、理子と向き合った。暗がりの中でも理子がまっすぐ私を見ていることははっきりわかった。
「本当に今までごめんね。もう理子のこと嫌いだなんていわないよ。私、今日から理子に一生懸命になるから。本当に一生、理子にまっすぐになるから」
「本当に? 本当にあたしのこと嫌いにならない? あたし、凛のこと好きなんだよ? 友達としてじゃないんだよ?」
「今さらでしょ、そんなこと。私のいったこと信じられない?」
そっと頭に手をやっていう。
「それとも態度で示せばいい?」
理子は何も答えなかった。その代わり心持ち顔を後ろに傾けて、そして静かに瞼を下ろした。その瞳が私をまっすぐに見てくれないことにちょっとだけ寂しさを覚えながら、私も目を閉じてゆっくりと顔を傾けた。
そうして私たちは、ちょうど真上にある止まったままの時計の針のように。
わずかなズレも、少しの誤差もなく――。
お互いの唇をぴったりと重ね合わせた。 <了>




