29
「あたし、凛が好き。大好き。ねぇ、凛。お願い。あたしに一生懸命になってよ。凛に嫌われるなんてイヤだよ。そんなの耐えられないよ。お願い、凛。嫌わないで。好きになって。なんでもするから。あたしも一生懸命になるから。ねぇ、凛。お願い。お願いだから、大嫌いなんていわないでよ……」
そこで理子は栓が外れたように声を上げて泣いた。
溢れるその声と泪に、私を堰き止めていた何かが、一気に押し流されていった。
そっと理子を抱きしめて、いうはずだった言葉を口にする。
「もういわないよ。ごめんね」
幼い頃、目の前でなんども積み木が崩れていくのを見て以来、私はいつかやって来る崩壊を恐れてしまった。喧嘩もいじめもつまりは関係の崩壊で、だからそんないつかの来ない永遠を、崩壊とは無縁の完璧を、私は求めていた。望んでいた。追いかけていた。
でもそれは手に入れることではなくて、今あるものをきれいに整えることでも、ましてや新しく創り上げることでもなかった。
ただ傷つけたくないだけだった。
無傷なままでいられるものを、私は求めていたのだ。
それこそが永遠であって、完璧であって。