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「やめてっ!」
知らず出た大声は、けれども風に吹き飛ばされるほどに軽かった。どこから落ちてきたのか、くしゃくしゃになった枯葉が足もとをすべっていく。
それまで鳴り響いていた鈴虫の音が、わずかに弱まった。
「凛はあたしのこと嫌いなの?」
「そう。嫌い。大っ嫌いよ」
今度は飛ばされないように、声を張っていう。
大っ嫌い、と強く。
「どういうところが嫌い?」
「そうやって訊いてくるところが嫌い。空気読めないところが嫌い。本当はわかってるくせにわからない振りしてるのも嫌い」
「それだけ?」
「そうやって動じないところが嫌い。まっすぐなところが嫌い。いつもへらへらしてるところが嫌い。私を呼ぶ声が嫌い。私を見るその瞳が嫌い。理子の何もかもが全部、嫌い。嫌い。嫌い。大っっっっっっ嫌い!」