究極のサイバー・テロ
この物語が現実でないこと、現実にならないことを祈ります。
201×年×月××日、A国核ミサイル基地。警報が鳴り響き、担当官がモニターをのぞき凍りついた……。
「大統領、大変です! 」と、秘書官が言った。
「どうした? ソ連が核ミサイルを撃ってきたか? 」と、黒人大統領。
「大統領! 冗談を言っている場合でありません……。現実はそれより悪いかも知れません。我々の核ミサイルが拉致されました! 」
「どう言う意味だ! 」黒人大統領がようやく本気になった。
「我が国の全核ミサイルをコントロールできなくなりました。何者かのサイバー・テロによってコントロール権を奪われてしまったのです。ミサイルは我が国にありますが実質的に他人の物、テロリストの物になってしまったのです! これに比べたら、日本のソニーに対するサイバー・テロなんて“屁みたい”なものです」
「でも、非常に危険です! 」
「どう言うことだ? 」
「メールが来ました。宛名は『A国大統領へ』。文面は『私は……』」
「『私』? テロリストは集団でなく、個人ということか? 」
「判りません……」
「『私は貴国の核ミサイルのコントロール権を握った。もし、あなたが無駄な抵抗をした場合は、ただちに核ミサイルが○シント×DCに向けて発射されることになる。自らの核によって、自らが滅ぶことになるのだ。冗談だと思うのなら、やってみろ! ただし、責任はそちらにある』 私の要求はただ一つ、“ただちに全ての戦闘行為を止めろ”」
「そんな言葉、信じられるか! テロリストを特定しろ」
三十分後、秘書官が頭を抱えて大統領執務室に入ってきた。
「テロリストを特定しようとした途端、カウント・ダウンが始まりました。が、幸いな事に十秒前で止まりました。 で、メールがまた来ました。“次のカウント・ダウンは最後までいく”」
A国最初の黒人大統領は事態の酷さに身動き一つ出来なかった。
「幸いに……」と秘書官が言った。「幸いにと言っていいか疑問ですが、核を拉致されたのは我が国だけではないようです。全ての核保有国が同じような状態のなったようです……」
極東の島国の地方都市の郊外の小さな一軒屋の二階の一室で、男がPCのモニターをのぞき満足そうな笑みを浮べた。まるで自分が“神”になったような気がした。世界を支配しているような気がした。
でも、それは長くは続かなかった。
「あんた! 」と、階下で彼の妻が怒鳴った。「何時まで起きているの? 電気代が勿体無いわ! さっさと寝なさい! 」
「すぐに寝るよ」と、男は言った。
「僅かな年金で生活しているのよ! 無駄使いは止めてよ! 」
「判っているよ」
男は肩をすくめ呟いた。「世界を支配しているのは俺じゃない。あの女だ……」