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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第2章 森を抜けて
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2.森の迷い子

 【聖剣の神殿】を出た私達は、鞘を奪われて仕舞うに仕舞えなくなってしまったアーサーのエクスカリバーを収める仮の鞘を調達する為、一番近くにある村へ向かっていた。


「またこの森を抜けなきゃならねえのかよ……だりぃな」


 鬱蒼とする森の中、げんなりとしているアーサー。

 彼とマルクスさんは神殿に向かう途中で既にこの森に来た事がある為、同じ道のりを進むのにうんざりしているのだった。

 ぶっちゃけ私もゲームで訪れた場所なのでアーサーと同じ様な気持ちなのだが、私まで彼の様にオープンに文句を言えない。


「レオール、口を動かしている暇があるなら脚を動かせ」


 マルクスさんが無表情でそう言うと、アーサーは本日何度目か分からない舌打ちをした。

 愚痴を零せば、マルクスさんはすかさずそれを叱るのだ。

 しかし、私はだりぃと言ってしまうアーサーの心情はよく分かる。

 何故ならマルクスさんは魔導師である。

 軽くて動きやすい紺のローブを着ているのに対し、剣士のアーサーは重い金属の鎧を身に纏っているからだ。疲れるに決まっているだろう。

 だから私はそんな彼の気持ちはよく分かるし、頑張って歩いているアーサーを心の中で応援している。

 口に出しても、今の彼にはストレスになるだけだろう。

 それに、ナス野郎ソナタとの戦闘でのダメージも残っているから余計に辛そうだった。

 早く彼を村で休ませてあげないと。

 そう思いながら森を進んでいると、マルクスさんがこんな事を言った。


「彼女を見てみろ。あんなに小さくか細い身体なのに、弱音を吐かずに羽ばたいているではないか。少しはリンカを見習ったらどうだ」


 な、何て事を言ってるんですかマルクスさん!

 私は顔を青くしてアーサーの方をちらりと見ると、彼は眉間に深い皺を寄せてマルクスさんを睨んでいた。


「マルクスてめぇ……!」


 ほらやっぱりアーサー怒ったよ!

 初期からパーティとなるこの二人、実はそれ程仲が良い訳ではないのだ。

 神殿での口喧嘩から戦闘に発展しそうになるし、もしあの時ソナタが笑いをこらえていたとしたら大変な事になっていただろう。

 ソナタの出現であの時の喧嘩はうやむやになったのだから、それについては奴に感謝しなければならないのかもしれない。


「ちょ、ちょっと二人共、喧嘩は良くないですよ」

「喧嘩などではない。俺は当然の事を言ったまでだ」


 平然とそう言いのけたマルクスさん。更に皺を深くするアーサー。

 エクスカリバーを強く握り締めたかと思うと、アーサーは何か悪戯を閃いた悪ガキのような笑みを浮かべた。


「……マルクス、てめぇそのチビ女を肩にでも乗せてやったらどうなんだ?」


 意味が分からない、といった表情のマルクスさん。

 アーサーは続けて言う。


「ソイツがか弱い生き物だと思ってんなら、気を遣ってやったらどうなんだって言ってんだよ」

「何……?」

「俺はさっき歩くのがだりぃとは言ったがへばってるワケじゃねえ。体力があるからな。だがソイツはどうだ? んなちっこいヤツに持久力があると思ってんのか?」


 勘違いしてはいけない。彼のこの言葉は私を心配して言っている訳ではない。

 これはただの、マルクスさんへの嫌がらせだ。


「……言いたい事はそれだけか」

「ハッ、単なる気紛れで言っただけだ」

「…………」


 それきりアーサーは何も言わず、鳥のさえずりや木の葉が風に揺れる心地良い音だけが私達を包み込んでいた。

 少しだけ後ろを飛ぶ私の方を、一瞬だけマルクスさんが振り返る。

 その表情からは彼の心の葛藤が窺えた。

 私自身はそこまで飛ぶのが辛い訳ではないのだが、アーサーの言うようにずっと飛び続けていられる程の持久力は無かった。

 仲間に気配りの出来る優しいマルクスさん。彼にはアーサーの言うそれを実行出来ない理由があるのだ。


 森の中心に差し掛かった頃、運良く一度も魔物に襲われなかった私達は順調に森を進んでいた。

 定期的にマップを確認し、周囲に魔物が居ないかチェックしていたその時、画面の端に緑色のマーカーを一つ発見した。

 緑色はNPC──ノンプレイヤーキャラクターを示す印である。

 NPCとは文字通りプレイヤーが操作出来ないキャラクターを意味していて、アーサーやマルクスさん、ソナタなんかも含まれるのだ。

 まあ、ここがVRゲームの中なのか異世界なのか曖昧なんだけどね。


「あの、そこの木の影に誰か居るみたいです」


 私がそう言って指差した先に二人も目を向ける。

 すると、木の影から一人の男が姿を現した。

 その男は、暗く深い紫に近いピンク色の髪で、後ろに流した短めの前髪が少し垂れ下がり、三つ編みにした両サイドのもみあげを風に揺らした。

 透き通った藤色の眼の彼は、薄めの素材の動きやすそうな服に身を包んだ少し野性的な青年だった。


「何者だ」


 マルクスさんと負けず劣らずの無表情の彼は、何か考えるように目を伏せた後、真っ直ぐこちらに視線を戻した。


「……俺は、オリアー。オリアー・ソーネット」

「それで、どうしてアンタはそんな所に隠れていやがったんだ?」


 彼の名はオリアー・ソーネット。


「……俺はここで、人を待っていた。俺は、道に迷っている」


 通称〈迷子のオリアーちゃん〉である。



 

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