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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第8章 先代勇者の末裔
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幕間 覚醒(アーサー)

 突然、暴風に襲われた。

 魔物か何かの攻撃……いや、これはまた時間が飛ばされる前兆なんだろう。

 俺とマルクスを巻き込んだ激しい風に、最早目を開けていられない。


「くっ……、何なんだよいきなり!」

「このような現象、風の精霊の暴走並だぞ……!」


 風はどんどん威力を増し、俺達の身体が吹き飛ばされた。

 無様な格好で着地したかと思うと、それを合図にでもしていたかのように、ピタリと暴風が止んだ。

 ったく、何だったんだよ……!

 ワケのわからねぇ妙な力に振り回されて、さっきからストレスが溜まりっぱなしだ。

 身体を起こして、ふるふると頭を振って目を開けた。


「……はぁ?」


 俺の目に映る景色は、またしても見覚えのあるものだった。

 木が生い茂る森の中に、確かな存在感を放つ石造りの建築物。

 ここを見るのは、もう何度目だったか。随分前にも来たことがあるような……。

 しかし、ここはつい最近にも訪れていたはずの場所だ。


「ここは……あの場所、なんだよな?」

「ああ……間違いねぇ。聖剣の神殿だ」


 この場所で、俺とマルクスはリンカに出会ったんだ。

 エクスカリバーを抜いて、リンカが現れて、鞘のある隠し部屋に案内させて……。

 神殿での出来事が、明確に脳裏に思い浮かぶ。


「……どうして、二つの光景が思い浮かんでんだよ」

「まさか、貴様もか?」


 それを思い出そうとすると、何故か二通りの記憶が蘇ってきた。

 それはどうやらマルクスの野郎も同じらしい。

 俺は屋敷を出て、一人で湖の側にあるマルクスの家にまで行ってやって、そこから二人で旅をしてここに来た。

 神殿には魔物がうろついていて、それを倒しながらエクスカリバーがある奥の方まで行った。ここまでは間違いねぇ。おかしいのはここからだ。

 俺はすぐにマルクスと話し合う。

 すると、これまた奇妙なモンだが、俺達が体験をしたはずのその記憶は、二人揃って聖剣を抜いた直後から分岐しているらしい。


「何故、突然こんな事を思い出したのか……。これが正しい記憶だとも、間違ったものだとも断言出来ないが……。いや、ここでいつまでも議論をしている訳にもいかないな」


 俺達の記憶に残る一つ目の分岐先は、聖剣を抜いた後、エクスカリバーの鞘をナス野郎に持っていかれた方。

 もう一方は、聖剣を抜いた後、でけぇ魔物とやりあった記憶だ。

 そのどちらもが、俺達が本当に『経験したはずの』記憶だと直感していた。

 どうして今まで綺麗さっぱり忘れてたんだ?

 何でこんなにも似通った、それでいて全く違う記憶が二通りもあるんだ?


「……アイツに会えば、何かがわかる気がする」


 自然と、俺の口からそんな言葉が零れ落ちた。

 普段なら、見ず知らずの女に名前を呼び捨てにさせようなんて思わねぇのに。

 アイツに初めて会ったあの時、古い知り合いみてぇな懐かしさを感じたのは、何故なんだ……?

 アイツなら、この胸につっかえている感情が何なのか、わかるはずだ。


「マルクス! 雑魚どもをさっさと蹴散らして、奥まで突っ切るぞ!」

「ああ! この胸の内の違和感……巨大なパズルに足りない1ピースを、はめ込む為に……!」


 俺達は一気に駆け出した。

 俺の手には、聖剣でも何でもない、ごくありふれた剣。

 それを振るって邪魔する魔物を薙ぎ払い、魔力の枷が()められていない、マルクスの多彩な魔法攻撃が炸裂する。

 以前にも、俺とマルクスはこうやって神殿へと突入していた。

 俺の記憶が、そのどれもが現実だとしか思えないほどに、魂の地層から鮮明に掘り起こされていく。

 そうだ。そうだったんだ。

 俺は……マルクスは、ルーガは、ルフレンは、この世界で誰よりも深いところでアイツと繋がっていたんだ。


 聖剣が眠る、荒廃した内壁と植物に覆われた神聖な場所。

 もう周囲に魔物が居ないことを確認して、俺はエクスカリバーを引き抜いた。

 その瞬間、まばゆい光が発生したかと思うと、その光の中から、背中に蝶の羽が生えた小さな女が現れる。


「は、はじめまして! 私は聖剣エクスカリバーの聖霊、リンカと申します。こうして聖剣を引き抜くことが出来る勇者様の到来を、今か今かと待ち望んでおりました!」


 一番新しい記憶とは微妙に違う、自己紹介。

 だが、間違いなく聞き覚えがある。


「うわー……! やっぱりVRの乙女ゲーはクオリティ高いわ……!」


 小声でそう言った、『この記憶』でのアイツとの最後の思い出。

 水の神殿へと向かう途中に立ち寄った、サイリファの宿屋。

 あの日の夜までを、全て思い出した。


「えっと……聖剣の鞘なんですが、ここから少し離れた部屋に隠されているんです。これも勇者様に課せられた試練の一つでして……」


 初めて俺とマルクスとアイツの3人で戦った時に感じた、まるで何度も一緒に戦っていたかのような、あの一体感。

 それもそのはずだ。俺達は二度も、こうして巡り会っていたんだからな。


「……ですので、是非私にお二人の旅のお手伝いをさせていただきたいんです! 一生懸命頑張りますので、どうか宜しくお願い致します!」


 いつもいつも、馬鹿みてぇに張り切って。

 困ってるヤツが居たら、ほっとくなんて真似も出来やしねぇお人好しで。

 新しい技を覚えたら、まるで自分のことみてぇに喜んで。

 そして、人一倍落ち込みやすい。

 そんなアイツと一緒に居るのが、いつからか心地良くなっていた。

 この世の誰よりも守ってやりたい、大切にしたいと思える相手。それがリンカ……アンタだったんだよな。

 そんな大切な事を忘れて、俺はアンタをビビらせちまって……


「もう忘れねぇよ。絶対に」

「ああ……。もう二度と、忘れるものか」


 そう呟いた次の瞬間、俺は激しい眠気に襲われた。

 長い夢から覚めようと、覚醒への眠りに就こうとしているのか。

 ちゃんと元通りの時間に戻れたら、アイツと話したいことが色々ある。

 まずは、何から話そうか……?

 そう考えるのも難しいほど、重たい眠気に飲み込まれた。



 

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