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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第8章 先代勇者の末裔
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幕間 湖のほとり(アーサー)

 宿屋の食堂で適当に夕飯を済ませて、装備の手入れなんかをしてからベッドに潜り込んだ。

 そして、俺の奇妙な体験が始まった。


 眠りについた記憶はあるんだが、俺は何故かサイリファの宿屋じゃなく、レオール家の俺の部屋に居た。

 夢にしては妙にリアルだ。意識ははっきりしているし、俺が寝ていたベッドも、家具の感触も、全てが現実そのものなんだ。


「何なんだよ……」


 まさか、アヴァロンの連中におかしな魔法でもかけられたか?

 そうだったとしたら、どうにか元の場所に……この夢みてぇなもんから覚めねぇと。

 ひとまず、何が起きているのか確かめないことには仕方がない。

 部屋から出ると、使用人のグリアナが通りかかった。


「イドゥラアーサー様……? まだお部屋にいらっしゃったのですか?」

「はぁ?」

「もうじき出発予定時刻だったかと思うのですが……」


 グリアナはレオール家に代々仕えてきた家の出身で、まだ新人なのに他の使用人達より気がきく女だ。

 そんなコイツが、心配そうに俺の顔を見上げている。


「出発って、どこにだよ」

「えっ……と、レシーリアの湖に行くよう、ユーサー国王陛下からの勅命をお受けした、と伺っておりますが……間違っていましたか?」

「レシーリアの湖って……」


 俺が国王から頼まれた、聖杯を探す為の旅。

 その旅で、まず向かうように命令されたのが、王都キャメロットにあるこの屋敷から、丁度大陸の反対側にある湖だった。

 だが、そこにはとっくに行ってるはずだ。それなのにグリアナは、まるで俺が初めてレシーリアに向かうみてぇな口振りをしやがる。


「旅支度は整っていますが、本当に護衛の者を連れて行かれないのですか? いくらイドゥラアーサー様の剣の腕があっても、かなりの長旅になるのですし……。旦那様も奥様も、とても心配なさっているのですよ?」


 ……おい、待てよ。

 この言葉、聞き覚えがある。


「いくらアルマク島の病を鎮める為とはいえ……実在するかもわからない伝説を頼るなんて。聖杯なんて、そんなものどこにもないかもしれないじゃないですか……」


 俺がレシーリアへ向かう日の朝、これと全く同じセリフをコイツの口から聞いた。

 自分の過去を体験する、そんな魔法でもかけられたのか?

 疑問は消えないままだ。


「……王命に背くワケにもいかねぇだろうが。護衛はいらねぇ。適当に馬車を乗り継いで、途中で魔物に襲われたら、全部俺が叩っ斬る。父さんと母さんにも、余計な心配すんなって言っとけ」


 俺の記憶通りに物事が運ぶのなら、ここは大人しく湖に向かう方が良い。


「……承知いたしました。どうか、お気を付けて」


 使い慣れた剣と鎧。そして、レシーリアまでの旅費なんかに使う金を魂石に入れて、ポーションやらのアイテムが詰まった道具袋を持って、俺はキャメロットを発った。


 王都から出る馬車を捕まえて、陽が暮れるまでに到着出来る町で降りた。やっぱり、ここには来た記憶がある。

 妙な違和感はずっと消えないが、手頃な宿屋をとってその日は眠りについた。

 そして、朝、目を覚ますと……


「……何で目の前に湖が見えてんだ?」


 何故か、大きな湖の前に立っていた。

 何なんだよ。何でこんな所に居るんだよ俺は。

 向こうに見えるのはレシーリアの街だろう。そして、湖のほとりに建つあの家こそが、俺の目的地。


「マルクスの家……だよな?」


 ますますワケがわからねぇことになってきたが、これはこれで良しとしてやろう。

 この奇妙な体験が魔法によるものだったとしたら、マルクスに訊けば何かしら解決策があるかもしれない。

 俺は早速マルクスの家のドアを叩いた。


「レオール……!?」


 ドアを開けたマルクスは、目を見開いて驚いた。


「何故貴様がここに居るんだ!」

「それはこっちのセリフだ! てめぇこそ何でここに居んだよ!」

「ふと目を覚ましたら、ここに居た……!」

「俺だって目が覚めたらうちの屋敷のベッドの上で、また目が覚めたらここに来てたんだよ! ワケわかんねぇ!」


 とりあえずマルクスも俺と同じ状況だったらしい。

 まさかマルクスもこれの原因わかってねぇとか……言わねぇよな……。

 嫌な予感はするが、とにかく互いの身に何が起きているのか、状況を整理する。

 マルクスの家は、俺にはよくわからねぇ魔法やら薬草やら、古い本で溢れかえっている。

 といっても、別に部屋がとっ散らかってるとかってんじゃなく、全部本棚に綺麗に並べられているし、掃除も小まめにやってある。

 二階建ての小さな家に一人で暮らしているマルクスは、この大陸では名の知れた魔導師の一人。

 だからこそ、俺がこんな遠く離れた湖までやって来たんだ。


「つまり、過去に飛ばされる魔法をアヴァロンに使われたのではないか……と、貴様は言いたいんだな?」

「ああ。うちの使用人や、途中で立ち寄った町の連中も、まるで過去をそのまま再現したように行動してたからな。普通ありえねぇだろ、こんなの」

「それはそうだが……」


 天才と言われるマルクスだったら、珍しい魔法の一つや二つ知ってて当たり前だろう。


「過去を見せる魔法は、あるにはある。だが、ここまで高度な再現度、そして複数の人間に同時に発動可能なものは俺でも知らんぞ」

「マジかよ……」

「俺達はこうして合流出来たが……リンカやティジェロがどうなっているか心配だな」


 マルクスでも知らねぇとは……。

 アイツらの無事を確かめる為にも、さっさと二人を探しに行かねぇと。



 

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