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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第8章 先代勇者の末裔
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2.奥手女子の考え事

 その日の夜、私達はサイリファに到着した。

 部屋にまだ空きがある宿屋を探し、そこで受付を済ませて一息つく。

 そういえばここの宿屋、ゲームの頃最後に泊まった宿屋だったな……


 丁度三人部屋が空いていたので、三つのベッドを入り口から見て左からアーサー、マルクスさん、ルフレンくんの順で使うことになった。

 私はルフレンくんのベッドのスペースを少しだけ貸してもらい、そこで眠る。

 まあそれは今は置いておこう。きちんと考えておかないといけないことがあるのだから。


 日中、キラーフォックスを倒した後のこと。

 何故だか私はアーサーとまともに目を合わせられなくなってしまったのだ。

 ちょっと向こうから話し掛けられただけでも変に意識してしまうし、彼がマルクスさんやルフレンくんと話している横顔を見てぼーっとしてしまう。

 まるで恋する乙女にでもなったようだ。

 アーサーやマルクスさん達は〈ファンキス〉というファンタジー乙女ゲームの攻略キャラクターだ。恋するのは当たり前と言っても過言ではないだろう。

 だけど、こんないきなりアーサーのことが気になって仕方なくなるなんて……!


 いや、確かにアーサーのことは好きだ。

 魔物に果敢に立ち向かっていくその姿は勇者そのものだし、ぶっきらぼうなところはあるけど自分が認めた相手とは対等に接してくれる。

 敵の攻撃から守ってくれた。私に笑顔を向けてくれた。私を、リンカと呼んでくれた。

 凛々しく鋭く、それでいて優しい一面を持つアーサーは間違い無くかっこいい。

 だけど、これは本当に恋なのだろうか。


 私には恥ずかしながら異性とのお付き合いをした経験が無い。二次元の男性とは結婚までこぎつけたお相手さんは居るけれど、リアルな恋愛経験は皆無なのだ。

 一応アーサーもゲームのキャラクターではあるけれど、ゲームが現実となったこの世界ではちょっと違う。

 相手は生身の人間で、私は本物の聖霊なのだから。

 あれ? 私って聖霊なんだから、もし好きな人が出来てもお付き合いとか出来るの?

 そもそも私のような聖霊を他に見たことがないし、光の神殿で祈りを捧げた光の精霊の姿を見ていない。

 人間と魔物以外の生命体である私は、男性にとって恋愛対象になるのだろうか。

 いや、ならなかったらこんな乙女ゲーム作ってないか。なら大丈夫……なのかな。何か不安だけど。

 まあ、当たり前のように魔法がある世界だから、人間の姿に変身する魔法なんていうのもあるのかもしれない。そこの心配はまた後でだ。

 今はとにかく、私はアーサーに惚れているのか否か。それを真剣に考えてみよう。


 アーサーは勿論、マルクスさんもルフレンくんも好きだ。この感情は多分恋愛感情ではなく、仲間として、人として好きという意味の方だ。

 虫嫌いを克服して……まあ、いきなり飛んできた虫にはまだビックリしてしまうけれど、虫型の魔物にも問題無く攻撃が出来るようになって、私のピンチを救ってくれた。あの時のマルクスさんはとびきりかっこよかった!

 マルクスさんから魔法を教わっている時、一生懸命魔力をコントロールして防御魔法を使えるようになった時。あの時見せてくれたルフレンくんの喜びの表情は、もう可愛くて仕方がなかった。

 ルフレンくんはまだ子供だから可愛いと思うことが多い。でも大人の魅力溢れるマルクスさんにはときめくことが多々あった。


 このときめきと、アーサーに対するこの気持ちは……ちょっと別の種類だと思う。

 マルクスさんの方は、尊敬とか感動とか、そういう感情が強い「好き」で、アーサーへのそれはかっこいいとか可愛いとか男らしいとか、一人の男性としての「好き」という感情が強いのだ。

 ということは……やっぱり、私はアーサーに惚れているんだ。ひゃー!


「どうかしましたか? 何か悩み事ですか?」


 頭を抱えたり、口元をおさえたりと挙動不審だった私を見て、ルフレンくんが心配して声を掛けてくれた。


「あっ、えっと、だ、大丈夫! いやー、お腹空いちゃったなー! あ、そろそろご飯の時間だよね! そろそろ食堂へ行ってみよう! おー!」


 自分でも不自然すぎるごまかし方だとは思うけど、気持ちを自覚してしまった今はもう落ち着いていられない。


「そうだな。俺達も食堂へ向かうとするか」

「だな。さっさと飯食って、ゆっくり休もうぜ」


 良かった。あんなごまかし方でもどうにかなったらしい。

 どうしても皆にこの気持ちを知られたくない。リアルな、生身の男の人を好きになったのなんて生まれて初めてのことだから、私がアーサーを好きだと知られた途端恥ずかしさで蒸発すると思う。もしくは爆発する。

 今日の夕飯は何だろうねー、なんてルフレンくんと話しながら、皆で食堂へ向かった。



 

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