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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第7章 夜空の岐路
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1.その手を離さないように

 お昼に目が覚めた私は、まだ眠っていたルフレンくんを起こして神殿の人達が用意してくれたご飯を食べに食堂へ向かった。

 アーサーとマルクスさん、ルーガくんはもう先に食べ終わっていたようで、私達もすぐに食事を済ませる。


「ごちそうさまでした」

「食べ終わったか。さて、これから北のリーカミュに向かう訳だが……」


 先代の勇者が生まれ育ったという街、リーカミュ。

 彼が旅に出た理由が私達と同じだったとしたら、アルマク島の伝染病を止められる方法が見付かるかもしれない。

 アルマク島に行く方法が無ければ、全ての神殿を巡れず聖杯が手に入らない。

 でもおかしいんだよね。伝染病の問題を解決する為に聖杯を手に入れようとしてるのに、伝染病をどうにかしないと島の神殿に行けないだなんて……

 伝染病が無くなれば、聖杯はどうしたら良いのだろうか。

 聖杯を手に入れるにはエクスカリバーに元通り光の力を宿していけば良い。そうすれば光と闇のバランスが保たれ、今までと同じ平和を取り戻せる。

 そうなると、折角手に入れた聖杯を使う理由が無いのだ。どんな願いも叶える力を持った奇跡のアイテムなのに……


 もしかして、私が願えば……元の世界に戻れるかもしれない!?

 本来〈ファンキス〉の主人公が聖杯をどう使うのか知らないけれど、聖霊になってしまった私が浦鈴歌としての生活を取り戻す唯一の手段となるだろう。


「……つまり、ここからリーカミュに行くにはまずイゲイルを目指すってことッスね?」

「ああ。そこからサイリファを経由して行こう。それで良いな?」

「おう」


 私が考え込んでいる間に話が進んでいた。

 私……皆に本当のことを言わないまま、元の世界に帰るのかな。

 聖杯に使い道が無いからといって、アーサー達と命をかけて旅をして手に入れる力を自分勝手な願いに使ってしまっても良いのだろうか。


「そういえば、もう頼んでおいた薬が出来上がっている頃だな。受け取りに行くついでに買い出しを済ませるか」

「ドロップアイテムも売れるモンは売っとこうぜ」

「あ、イゲイルに行くまでの食料も必要ですよね?」


 ……今はとにかく、私の役割を果たさなきゃ!

 気持ちを切り替えて、私は皆に指示を出した。


「それじゃあ、ルフレンくんとルーガくんは食料の買い出しをお願いします。私とマルクスさんはイゲイル薬品に薬の受け取りに、アーサーにはドロップアイテムの売却をお願い出来ますか?」

「はいよっ! じゃ、集合場所は時計塔ってことで良いッスか?」

「わかりやすくて良いと思いますよ、ルーガさん」


 こうして私達は巫女のテノジェさんに挨拶を済ませ、光の神殿キャメロットを後にした。

 山を降りて、夜とは打って変わって賑やかな王都の大通りをマルクスさんと進んで行く。

 ポーション等を受け取って他に必要になりそうな薬品も購入し、皆と集合する予定の時計塔へと向かおうと店を出た。

 すると、店の前にはアーサーが居た。


「どうしたのアーサー、アイテムの売却は済んだの?」

「そりゃもう終わらせた。マルクス、魂石出せよ」

「ああ」


 パーティー全体に使うお金の管理者であるマルクスさんの青い魂石に、アーサーの赤い魂石から売却分のスピリットを注ぎ込んだ。

 アーサーがこんなに早く頼み事を済ませてくれたのは珍しい。それに、何だか表情が暗い気がする。


「……何かあった?」

「ああ……マルクスにもついでだから言っといた方が良いな」

「何の話だ」

「ルーガの事なんだけどよ……アイツ、アヴァロンのヤツと繋がってるかもしれねぇ」

「何だと……!?」


 どうやら、私達が眠っている間にルーガくんとアヴァロンのメンバーが接触していたらしい。

 恐らくはいつも通りアーサーとエクスカリバーを狙った作戦だろう。

 やっぱりこのイベントは残ってたんだ……


「そ、それで……ルーガくんに何かを依頼してたっていうアヴァロンは、どんな人だったの?」

「白髪の男だった。草食系の爽やか野郎って感じのヤツだな」

「また別のアヴァロンか……」


 白髪の爽やか草食系……カノン・パルマか。

 彼にもゲーム時代にあった事がある。ソディと並ぶアヴァロンのアイドル系ポジションのキャラクターだ。

 基本的に善人で、どうしてアヴァロンに所属しているのかわからない程良い人だった。

 カノンはソナタやロンドのような戦闘狂いではなく、出来るだけ相手に危害を加えない方法を使う。今回のルーガくんへの依頼も、私達の仲間を利用することで目的を果たすつもりなのだろう。


「……その件は私に任せて下さい」

「お前一人にだけ負担はかけられない」

「俺達だってやれる事があんなら手伝うぜ」


 アーサーとマルクスさんは、本気でそう言ってくれているのだと感じた。

 けれど、これは私がやらなければいけない。

 ルーガくんが私達の仲間で居続けるか、裏切ってアヴァロンにつくかを左右する特殊イベント【夜空の岐路】。

 いつ始まってもおかしくはなかったし、アーサーが気付いて私に教えてくれたからイベントの発生を知ることが出来た。

 ゲームの頃はレベル上げに長い時間をかけていたから、信頼度を上げるには充分時間があった。

 しかし今回は思わぬタイミングでパーティーに加入し、短い期間で【夜空の岐路】が始まってしまった。

 ルーガくんとの信頼度が確認出来ない今、彼が離れてしまうかどうかの目安もわからない。

 だけど……やっぱり皆一緒に旅をしたい。ルーガくんは、アヴァロンには渡さないんだから!


「……そうだよね。アーサーもマルクスさんも居てくれるんだもんね」


 この世界は……この世界の人達はゲームじゃない。生きた人間なんだ。


「そうだぞリンカ。俺とレオールとルーチェ、そしてティジェロ。俺達を引き合わせたのはお前なんだ」

「仲間っつーのは何か気恥ずかしいけどよ……それでもやっぱ、俺はこのメンバーで最後まで旅がしてぇ。このままあの白髪野郎の思い通りになっちまったら、アイツはここに戻れなくなる。だから……」

「俺達でルーチェの居場所を守ろう。あの男が後悔しない道を進めるように」


 頑張ろう。私には、この世界にも大切な人達が居るんだから。



 

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