幕間 不穏な依頼 (アーサー)
光の試練をクリアした俺達は、アヴァロンのゴキブリ野郎だのゴブリン共との連戦で疲労が溜まっていたから、午後まで休むことにした。
地下の祭壇から出て来ると、東の空から太陽が顔を出し始めていた。
巫女のテノジェが神殿の来客用の部屋を貸すとか言うから、宿代の節約になるからさっさと寝ちまおう。飯は起きてからだ。今はとにかくねみぃ。
俺、マルクス、ルフレン、ルーガの順でそれぞれのベッドで寝ていたんだが、ふと目が覚めるとルーガが消えていた。
ああ、リンカはルフレンの隣でぐっすり寝てたぜ。
トイレにでも行ったのかと結論付けて、俺もベッドを抜け出した。
「……ったく、この神殿似たような通路ばっかでどこがどこだか分からなくなりそうだ」
結界を張ったから神殿のどこにも魔物は出て来なくなった。
今日の昼にはここに派遣されたエルザ達キャメロット騎士団の連中は引き上げる。久々に会ったアイツ変貌ぶりには驚かされちまった。
何とか目的の場所に辿り着き用を済ませた俺は、軽く身体を動かそうと祭壇の方の丘に向かうことにした。ゴキブリ野郎とやりあった場所だ。
丘への扉に向かう途中、偶然エルザに出会した。
「おはよう。気分転換に剣を振るいに行くのか?」
「おう、まあな」
鞘を用意してもらう為に武器屋に預けていたら、ロンドの野郎にエクスカリバーを奪われた。
あれ以来、肌身離さず側に置くように心掛けている。
「稽古なら私が付き合うがどうする?」
エルザは昔より背も伸びて、今なら女と間違えられないぐらいに体格も男らしくなったと思う。
まあ、女顔なのは変わらねぇけど。
コイツは子供の頃からレイピアを習っていた。今ならあの頃よりキレのある動きが出来るようになっているはずだろう。
なんたって部隊を率いる隊長さんだからな。強いに決まってる。
「頼むぜエルザ。アンタがどれだけ強くなったか、見せてもらおうじゃねぇか!」
「それはこちらの台詞だ。聖剣の勇者の実力、見せてもらおう」
自然と口元に笑みが浮かぶ。
エルザと双子の兄ヴァン、そして妹のウィラ。アイツらと毎日のように遊んでたあの頃が少し懐かしく感じた。
意気揚々と丘へと向かうと、誰かの話し声が聞こえてきた。
「アイツは……ルーガか?」
すっかり明るくなった空の下、ルーガは見知らぬ男と話し込んでいるようだった。
「……という訳なんだけど、お願い出来ますかね?」
「んー……」
相手の男は白髪の若い男だ。
二人は俺とエルザには気付いていない。
……って、ちょっと待てよ! あの白髪野郎が着てるコート、あれアヴァロンの奴と同じじゃねぇか!?
ソナタ、ロンド、ソディ……あの三人と同じ黒いコート。あれだけ見てきて見間違えるはずがねぇ。
アヴァロンがルーガに何の話があるってんだ。
「難しいお願いなのは分かってるよ。だけどこっちも色々大変でさ……お仕置きされたくないし」
「まあ……ねぇ」
「報酬は弾みますから考えておいて下さい。良いお返事、お待ちしてますよ」
そう言い残して白髪野郎は闇の中に消えていった。
「イドゥラアーサー、今の男は……」
「新しいアヴァロンだろうな……」
あの白髪が、ルーガに何かを依頼した……?
「後でアイツに言っとくか……」
ルーガに気付かれない内に、俺達は神殿に戻ることにした。




