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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第6章 光の試練
34/47

4.その一閃、魔を滅す

 ゴブリンマジシャンとは、ゴブリンの中でも特に知能が高く高度な魔法を操る魔物である。

 更に、その知能を活かした集団戦術も侮れない。


ゴブリンマジシャン

・HP13000/13000

・MP2400/2400


 やっぱりマジシャンなだけあってMPが高いなぁ……

 まだ倒しきれていないゴブリンも残っている。その数二十五体。

 祭壇の周りは今まで通ってきた通路より広い空間になっていて、壁に背を向けて置かれた光の精霊の石像が置かれている。

 龍をモチーフにした真っ白な石で形作られたその石像は、台座の上から私達を見下ろしていた。


「あの魔物はゴブリンマジシャンだな。まだこれだけのゴブリンが残っているとなると厄介だ」

「マジシャンの魔法は範囲が広く、威力も強いです! 魔法に気を付けながら、まずは周りのゴブリンから倒して行きましょう!」

「おう!」


 ゴブリンマジシャンは範囲系の攻撃魔法を得意とする。

 アーサーとルーガくんは左右から攻めて行き、単体で動くことで互いを巻き込まないように敵を殲滅していく。


「ウガァァ!」


 次々と倒されていくゴブリンに指示を出したマジシャンは、杖を振り回しながら魔法を発動させようとしていた。

 残ったゴブリン達はアーサーを取り囲み、逃げ場を失ってしまった。


「クソッ!」


 アーサーに魔法を当てる気だ!


「ルーガくん! 祭壇側のゴブリンにジャスティスレインを!」

「可愛いリンカちゃんの為ならお安い御用だよっ! 愛と正義の豪雨、ジャスティスレイン!」


 ルーガくんの『ジャスティスレイン』で三匹のゴブリンを纏めて撃破し、その隙にアーサーはそこから抜け出した。

 その刹那、詠唱を終えたマジシャンの爆発系魔法が炸裂する。

 爆風は周りに居たゴブリン達も吹き飛ばし、アーサーの長い赤髪も激しく揺れた。


「……っぶねぇ」


 少しでもタイミングが遅れていたら、アーサーはあの爆発の餌食になっていた。

 アーサーを狙って放たれた魔法のエネルギーは、石の床を大きく(えぐ)る程の威力だった。


「助かったぜルーガ! リンカ!」

「いやー、間に合って良かったッス! ……って、アーサーの旦那が今お礼言ってた!?」

「何かおかしいのかよ、ああ!? 礼も言えねぇ非常識な奴だと思ってやがったのか!」

「な、何でもないッス! 深い意味はありませーん!」


 いや、私も驚いたからルーガくんの反応は正しいと思うよ。

 ここ最近、アーサーはかなりフレンドリーになってきたような気がする。

 気がするだけで、それを確かめようにも信頼度が見れなくなっているから、本当に何と無くそう感じているだけなのだけれど。

 ……それは置いといて、次に取るべき行動はこれだ!


 私はテノジェさんとマルクスさんに振り返った。


「今の内に私達は祭壇に近付きましょう。早く結界を張れば、ゴブリン達の動きも攻撃力も落ちますから!」

「は、はい!」

「ならば、俺が先導しよう。ファイアアローならMP消費も抑えられる。立ちはだかるゴブリンを退けるくらいなら出来るだろう」

「お願いします、マルクスさん!」


マルクス・リッグ

LV.25

・HP1996/1996

・MP12/30


 今のマルクスさんのMPなら三回『ファイアアロー』が使える。

 これでゴブリンを牽制(けんせい)しつつ、祭壇でアーサーと合流して結界を張ることが出来れば……!


「ルフレンくんはこのまま回復に専念してね」

「はいっ!」

「行くぞ!」


 マルクスさんを先頭に、私とテノジェさんが続いて走り出す。

 すると、早速私達の動きに気付いたゴブリンが襲いかかって来た。


「邪魔だ! ファイアアロー!」


 ゴブリンの顔に命中した炎の矢は、上手くゴブリンを退けてくれた。

 ゴブリンの弱点は炎と氷属性だから、それほど威力が無い魔法でも効果は抜群なのだ。


「アーサー! 祭壇の前に来て!」

「始めるんだな! 待っててやるからさっさと来いよ!」


 ゴブリンを減らしながら祭壇に近付いていくアーサー。

 私達もあと少しで合流出来る、その時だった。


「グァァゴ!」


 ゴブリンマジシャンの狙いが私達に移ったのだ。

 やばっ!

 再び詠唱を始めたゴブリンマジシャンの狙いを逸らさなければ。

 でも、この短い時間で私に何が出来る?


「そうはさせないッスよ!」


 マジシャンを囲むように床に突き刺さったのは、ルーガくんのナイフだった。


五月雨(さみだれ)!」


 すると、ナイフで囲われた範囲だけが沼地に変化した。

 突然足場が悪くなったゴブリンマジシャンは詠唱を中断され、見事ピンチを回避することが出来た。

 ロンドとの戦いでも彼が使っていた技だ。


「今のうちに、リンカちゃん達は旦那の所へ!」

「ありがとうルーガくんっ!」


 戦況を把握する能力が高い彼のお陰で命拾いした。

 動けないマジシャンはゴブリン達を指揮することも出来ず、沼から抜け出そうとパニックになっている。

 その間に私達は祭壇前へ到着し、アーサーと合流出来た。


「アイツが動き出す前にとっととやる事やっちまおうぜ」

「うん。マルクスさんはちょっと離れていて下さい」

「ああ」


 テノジェさんは祈りの儀式の説明を始めた。


「アーサー様と聖霊リンカは祭壇の前に並んで下さい。そして、聖剣をそこに置いて祈るのです」

「それだけで良いのか?」


 あまりにも簡単な内容にアーサーがそう尋ねると、テノジェさんは素直に頷いた。


「聖剣の勇者とその聖霊の心に触れた光の精霊が、お二人を信じて力を授けて下さるのです。聖剣に力が宿れば、その光の波動を媒介にして結界を張れます!」

「とにかく祈れば良いんだな。やるぞ、リンカ」

「うん!」


 アーサーはエクスカリバーを置き、片膝をついて静かに目を閉じた。

 私も手を組んで、目を閉じて強く祈りを捧げた。

 この世界の闇を(はら)う力を、私達に下さい。少しだけ、あなたの力を貸して下さい……!

 すると、私とアーサーの祈りが届いたのか(まぶた)を閉じていてもわかる程のまばゆい光を感じた。

 目を開けると、その光はエクスカリバーから発せられているのだとわかった。

 祭壇の上で輝き、宙に浮いている。この光こそがテノジェさんの言っていた光の波動だ。


「アーサー様! 聖剣を掲げて下さい!」

「お、おう」


 剣が浮くとは想像もしていなかったアーサーは、戸惑いながらもテノジェさんの指示に従った。


「聖霊リンカ、ご協力をお願い致します」

「勿論です!」


 私はアーサーから少しMPを貰い、それを自分の中で特別な魔力に変換させた。

 その魔力を、編み物をするようなイメージでテノジェさんの魔力と織り交ぜていく。

 ゲームの頃はただのイベントシーンでしかなかったけれど、今は自分がどうすべきかがわかるのだ。

 きっと、これは聖霊の本能なのだろう。


 ここから先は巫女の仕事だ。

 紡ぎ合わせた魔力をエクスカリバーの波動に乗せて、神殿全体を覆うヴェールにする。

 普通の魔法を使う時より慎重に、そして集中して行われる。

 そして、遂に結界が完成した。

 この空間に光の波動が満ちていくのを肌で感じた。それと同時に、ゴブリン達の興奮が収まっていく。


「成功……したのか?」

「はい! これで世界の闇の気を少しは抑えられたと思います!」


 後は、このゴブリン達を倒すだけ!

 ルーガくんの『五月雨』の沼から這い出たゴブリンマジシャンが最後の大技を繰り出そうとしていた。


「猛る炎を司りし精霊達よ、その力を我らに貸し与え給え! 一気に攻めましょう!」

「おう!」

「いっちゃいますかー!」


 『聖炎付与』で攻撃に炎属性が加わった。

 アーサーとルーガくんは素早く残りのゴブリンを片付けて、最後はマジシャンのみとなった。


「あまり時間はありません。ゴブリンマジシャンに全力攻撃をお願いします!」


 ゴブリンマジシャンは全てのMPを消費し、エリア全体を巻き込む自爆とも言える攻撃魔法を使ってくる。それが今あいつが唱えている魔法だ。

 あの長い詠唱が終わる前に勝負を決めなければ、ここで全滅してしまう。


「天空割り!」

「ジャスティスレイン!」


ゴブリンマジシャン

・HP8415/13000

・MP2270/2400


 このペースだとギリギリかも……


「ぼ、僕だって……!」


 ルフレンくんの杖の先から野球ボールサイズの球が飛んで行く。

 これは初期のルフレンくんが使う無属性の攻撃魔法だ。今は私の付与で炎属性になったそれが幾つもマジシャン目掛けて飛んで行った。

 更に攻撃を浴びせていくアーサーとルーガくん。

 三人の戦闘を見守りながら、私はマルクスさんに言う。


「いけますか、マルクスさん」


 マルクスさんは感触を確かめるように杖を何度か振るうと、微笑を浮かべて頷いた。


「ありがとうリンカ。お前達のお陰で何とかなりそうだ」


 彼の笑顔に釣られて私も口角が上がる。

 その微笑は一瞬で真剣な表情に変わり、マルクスさんは詠唱を始めた。


「業火に焼かれろ……」


 光の精霊への祈りが届きエクスカリバーに力が宿った今、彼にかけられた呪いが綻び始めた。


マルクス・リッグ

LV.25

・HP1996/1996

・MP37/90


 それは、彼の魔力が解放され始めたことを意味している。


「バーニングトルネード!」


 激しい炎の竜巻がゴブリンマジシャンを襲った。


「グァッ! ゴグゥアァ!」

「マルクスの旦那! 魔力が戻ったんスね!」

「まだ完全に戻ったわけではないがな。さあ、まだ油断はするなよ!」


 マルクスさんはもう一度『バーニングトルネード』を発動して、マジシャンをどんどん追い詰めていく。

 『聖炎付与』は武器による攻撃のみならず、魔法攻撃にも影響を与えてくれる。炎の魔法を使えば、よりその威力が増すのだ。


ゴブリンマジシャン

・HP1241/13000

・MP2270/2400


「もう一押し! あと少しで倒せます!」

「決めてやれレオール!」


 マジシャンの魔法は完成間近だ。高く振り上げた杖の先に膨大なエネルギーの塊が形成されている。

 あれが出来上がるのが先か、アーサーがとどめをさすのが先か。


「お願いアーサー!!」

「うおぉぉぉぉ! 降魔斬滅剣(ごうまざんめつけん)!!」


 アーサーの新技が炸裂する。

 (まばゆ)い一閃がゴブリンマジシャンを切り裂いた。光の試練を乗り越えたアーサーが覚える光属性の剣技だ。

 ゴブリンマジシャンは小さな光の粒子となって消えていった。


「終わったな……」


 アーサーは深く息を吐いた後、私に振り返ってニヤリとした笑顔を向けた。


「どうだ、すげぇだろ今の技!」

「バッチリ決まってたね! さっすがアーサー!」


 私はアーサーの側まで飛んで行き、軽いハイタッチを交わした。

 心から嬉しそうに笑うアーサーは、普段より素直で可愛く感じてしまった。

 こうして、私の二度目の、アーサー達にとっては初めての光の試練が終わったのだった。



 

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