3.甘い疼きは恋の始まり
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「てめぇはもう前に出るな! 絶対にだ!!」
「す、すみませんアーサー殿……」
シーチエさんの魔法で残りのウルフは倒せたけれど、彼のサンダーボムの爆風によって焦げた木々や葉の煤を浴びたアーサーは、深夜の山中で怒りに任せて怒鳴っていた。
実は、シーチエさんの魔法の腕はかなり悪い。
明かりを灯すくらいの簡単なものなら問題は無いが、先程のように攻撃魔法を出すと魔力が暴走し、あんなことになってしまうのだ。
「シーチエ、あなたの薬師としての腕は一流と言える。だが、魔法のコントロールは絶望的に下手だ。もしあなたが大量のエリクサーを用意して、王都のあちこちで魔法を使ったとしたら……キャメロットはあっという間に壊滅するだろう」
「うっ……」
「それほどあなたは魔力を操る能力が低いんだ。さっきの戦いだって、アーサー様とルーガ様が運良く巻き添えを喰らわなかったから良かったものの……」
「てめぇのせいでこっちは危うく死ぬとこだったんだぞ!? それ分かってんのか! ああ!?」
「は、はいっ……」
山頂の神殿へ向かいながら、しょんぼりとするシーチエさんにアーサーとファルータさんが言葉の暴力を浴びせ続ける。
ああやってアーサーが怒る気持ちも分かるけど……流石にシーチエさんが可哀想過ぎるよね。
この騒動は【白き巫女の病】の途中に起きるから、こうなる事を知っていた私はシーチエさんを止めようとした。
アーサーは短気な性格だし、このことだって命に関わる危険があったのだから、怒るのも仕方ないと思う。
しかし、この光景はVRの頃でも、加害者であるシーチエさんが可哀想にしか見えなかったのだ。
背の低いシーチエさんを挟む、鋭く睨むアーサーと冷淡なファルータさん。
私がシーチエさんの立場だったら、今頃涙が頬を伝っていることだろう。
「レオール、イーロン。その辺にしてやれ」
私を肩に乗せるマルクスさんが助け船を出してくれた。
「ルータを責めたところで、今すぐ改善されるような問題でもないんだ。役に立てない俺がとやかく言えた立場ではないが、今は一刻も早く神殿へ向かうことを優先すべきだろう」
「そっスよー! 早く薬を持っていかないと、巫女さんが苦しいままなんスから!」
「マルクスさんとルーガくんの言う通りです。確かにシーチエさんは危なっかしいところもありますけど、この暗闇を照らしてもらわないと移動もままならないですし!」
「……そうですね」
「戦闘はアーサーとファルータさん、ルーガくんにお願いして、私達は薬を守ることに専念しましょう?」
私がそう言うと、皆納得してくれたようだった。
……アーサーを除いて、ではあるが。
落ち込むシーチエさんを気遣って、ルーガくんとマルクスさんは彼の得意分野である薬草の話で気分を変えようと話し掛けに行った。
その話を聞いているのか聞き流しているのか分からないが、ファルータさんも三人の側に付いている。
そして、未だ不機嫌なままのアーサーは一人で先頭を歩いていた。
アーサーは思った事を思ったままに口に出す、良くも悪くも素直な人物だ。
顔は笑顔で心では何を考えているか分からない人より、ずっと扱いやすいタイプだと思う。それが誰とは言わないけど。
私はアーサーの隣へ飛んでいく。
「アーサー、怪我とかない?」
アーサーは煩わしそうに私をちらりと見る。
「別に。ただ、アイツのせいで鎧やら何やら汚れちまったからな。くそっ、手入れがめんどくせぇっつーのによ」
「怪我が無いなら良かったよ。鎧のお手入れだったら、私も出来ることは手伝うよ」
「てめぇなんかに任せられっかよ。んなちっこいくせに、下敷きになったらどうすんだ」
「ええぇ!?」
あ、あのアーサーが……私を心配してくれてる……!?
「……んな驚くような事か?」
「そ、そりゃあまあ……」
虫女と呼んできたアーサーが、いきなりこんな優しさを見せるなんて……予測出来ない。
「ほ、ほら! 私ってアーサーみたいに魔物と戦えるわけでもないし、あんまり貢献出来ることがないから……。だから、他の事で皆の役に立てたら良いなって……!」
「……そこまで役立たずでもねぇよ。洞窟で馬鹿デカい蜘蛛とやりあった時、アンタの付与魔法に助けられた。あの戦いがあれ以上長引いてたら、結果も多少は変わってただろうぜ」
わ、私、アーサーに褒められてる……!?
さっきから予想出来ない発言の連続で、私の頭がパンクしてしまいそうだ。
「俺が思ってたより、案外役に立ってんだぜ? てめぇは今のままで充分だ。余計なことされて、何かあったらこっちが迷惑だしな」
そう言って、アーサーは小さく微笑んだ。
「小せえなりに、そこそこ頑張ってんだ。もう少し自信持ってやってみろよ。何せ、この俺が認めてやったんだからな」
彼のその少年の面影が残る笑顔に、私の胸が高鳴った。
風に揺れる、束ねた紅の髪。鋭くても、笑うと優しげに細められる目元。
いつもは手のかかる大きな子供のように思っていたアーサーが、今この瞬間は別人のように感じた。
アーサーが……やけにカッコ良く見える!
その後、私との会話で機嫌を直したアーサーは、途中で襲って来る魔物を華麗な剣捌きで倒していった。
私も、魔物に気付いたら皆に位置や数を伝えたり、指示を出したりもした。
ただ、あの時のアーサーの笑顔が目に焼き付いていて、それを思い出す度に胸が甘く疼くのだ。
お姉ちゃん、今なら私もアーサーの良さがよくわかるよ……!!
今まで紳士なマルクスさんにときめいていた私だっだけれど、ちょっとアーサーも気になり始めてしまった。
流石は乙女ゲー……いつどんな沼にハマるか分からない。
そうしている間に、私達は順調にキャメロット神殿へと近付いていった。




