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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第5章 ときめきは乙女の原動力
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1.王都キャメロット

 フーウェン様達と別れた私達は、すっかり陽が暮れた頃にキャメロットに到着した。

 ログレス王国の王都というだけあって、街に入る為の門は見上げるだけで首が疲れるような高さで、強固な壁に囲まれた場所だ。

 最初の神殿の近くにあったルスク村は、小さな村だということもあり、魔物の侵入を阻むようなものは無い。

 それに対して、このキャメロットや他の大きな街にはこの壁のように、魔物対策が施されていたりするのだ。


「やっぱり王都は立派ッスねー!」

「そりゃ王都だからな」


 冷たくあしらうアーサーに、ルーガくんは唇を尖らせる。


「そりゃあ……そう言われたらそうなんスけどぉ……」


 その時、街の中心にそびえる時計塔の鐘が鳴り響いた。

 見上げたその時計塔は、街の家々や街灯の明かりに照らされてロマンチックな雰囲気を醸し出している。

 こんなところを好きな人と歩いたりとか……


「……素敵だけど、非リアの私には縁の無い話だよね」

「……? 何の話だリンカ?」

「えっ、あっ、いえ! ただの独り言です!」

「そうか」


 肩に乗せた私にマルクスさんが控え目に微笑む。


「……何か悩みがあれば、いつでも相談に乗るぞ」


 そう、遂に! マルクスさんが!

 虫嫌いを克服したマルクスさんが、私を肩に乗せられるようになったのだ!


「はいっ、ありがとうございます!」


 抑えきれないニヤニヤを解放して、私も笑顔を返す。

 あー……マルクスさんのこの笑顔! これを間近で見られるのがミニサイズになった聖霊の特権だよねぇ!!


 【虫嫌いのマルクス】をクリアしたメリットがこれだ。マルクスさんの肩乗り。

 ぶっちゃけるとわざわざ虫が苦手なマルクスさんにこだわらなくても、ルーガくんならノリノリで乗せてくれるだろうし、今くらいの好感度ならアーサーにも乗せてもらえるはずだ。

 しかし、私がマルクスさんにこだわる理由がちゃんとある。

 何故なら彼は魔法職。敵との戦闘で距離を空けて戦うマルクスさんの側に居れば、敵と味方の状況を見渡せる。

 仮に私がアーサーの肩に乗っていたとして、戦闘が始まってしまえばアーサーは最前線で敵と戦う事になる。

 そうなると剣を振るい攻撃を避けるアーサーは、私の事を気にしながら戦っていかなければならなくなる。

 ルーガくんの場合、彼のスピードを活かした攻撃をする際、私が振り落とされる危険があるのだ。

 そして、私がマルクスさんを選んだ一番の決め手となったもの。それは──匂い。

 マルクスさんはとても良い匂いがする。それはもう、ずっと嗅いでいたい程良い香りなのだ。

 変態と言われればそれまでかもしれない。だがマルクスさんはとんでもなく良い香りがするのだから仕方が無い。

 今のように、ゲームからログアウト出来ない状況では尚更この匂いが私を癒してくれる。ゲームの頃よりリアルに感じる落ち着いた香りは最高の癒しポイントなのだ。

 加えてマルクスさんは紳士だ。お人形サイズの聖霊の私にでさえ、彼は女性として丁寧に扱ってくれる。これに関してはもう少しアーサーにも見習ってほしいものだ。仮にも乙女ゲーのキャラクターなのだから。

 そんなこんなで私はマルクスさんの匂いと戦略面から彼の肩を選んだのだ。

 うーん、やっぱり変態の血は争えないものなのね……


 以前、お姉ちゃんが好きな乙女ゲーのキャラクターをイメージしたフレグランスを購入した時は恐ろしかった。

 お姉ちゃんがリビングのソファーでSNSに、無表情で「げへっ! これがルシアン様の香りかぁ~!! ぐっふふふ!!!」と書き込んでいるのを見た私は、お姉ちゃんが嫁に行く日はまだまだ先だと確信した。

 でも私も内心ではお姉ちゃんに負けず劣らずの匂いフェチだ。

 マルクスさんが良い匂いなのが悪い! そう! きっとそう!!


 宿屋を目指して進んでいると、予想通りの二人に遭遇した。ファルータさんとシーチエさんだ。


「数日ぶりですね、イドゥラアーサー殿」

「アーサーでいい。確か、アンタらはシーチエとファルータだったか」

「はい」

「お知り合いっスか?」


 ルーガくんは人当たりの良い笑顔を浮かべ、シーチエさんとファルータさんと握手を交わす。

 簡単な自己紹介を済ませたところで、シーチエさんがあの話を切り出してきた。


「いきなりで申し訳ないのですが......もし宜しければハーブ探しをお願い出来ないでしょうか?」

「ハーブ?」

「フェグリス草という珍しいハーブです。ここから北にある洞窟に僅かに自生しているそうなのですが……」

「それならあるぞ」


 フーウェン様から貰った袋をマルクスさんが取り出し、シーチエさんが受け取った。

 中身を確認したシーチエさんは眼鏡の奥の瞳を丸くさせている。


「こ、これは確かにフェグリス草です! 凄いですね……」

「人助けをしてな。その礼として貰ったものだ。必要なら貴様にやろう」

「宜しいのですか?こんな貴重なものを……」

「それを探させようとしてたくせに何言ってんだよ」

「では、有難く頂戴致します。さあ、あなたは早く仕事に戻りなさい」


 シーチエさんは深く頭を下げて、石畳の道を走り去っていった。

 ファルータさんに聞いてみたところ、イゲイル薬品の王都支店で働く薬師の育成でキャメロットを訪れたところ、急遽特別な薬が必要な患者が現れたらしい。

 その患者を助けなければ、キャメロットでのメインシナリオが進まないのだ。


「頼み事ついでに、もう一つあなた方にお願いしたい事がございます」

「はい、何でしょうか?」


 【幻のハーブを探して】の連動イベント。


「キャメロット神殿までの護衛をお願い致します」


 【白き巫女の病】イベント。エクスカリバーに光を宿す為に攻略必須の、ちょっと面倒なイベントである。


 

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