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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第4章 立ち向かう勇気
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3.希代の天才魔導師

 急いで洞窟の奥へと進むと、予想通りフーウェン様とイェルトさんが魔物に襲われていた。

 その魔物というのが【太陽の貴公子を捜せ】で必ず現れるイベント限定モンスター、クイーンスカルスパイダーなのだが……


「あ……あれはっ……!」


 【虫嫌いのマルクス】が発生してしまった最悪のタイミング。

 理知的で聡明な金髪魔導師は、その凛々しい顔を冷や汗でじっとりとさせながら超巨大蜘蛛を見上げ顔面蒼白状態である。

 うん、マズい。色々な事が重なってとってもマズい状況だよこれは!


 クイーンスカルスパイダーとは、身体に大きな髑髏の模様が入ったスカルスパイダー達の女王だ。

 レシュルくんより先にフーウェン様を見付けた騎士のイェルトさんが今まで一人で相手をしていたようだが、クイーンというだけあって強いし子供もポンポン産んで敵の数がなかなか減らないのだ。

 子蜘蛛がウジャウジャ大量発生していく様はかなり気持ち悪い。マルクスさんほど酷くはないが、私も虫は得意な方ではない。

 クイーンから産み落とされる無数の子蜘蛛で辺り一面が埋め尽くされていく悪夢を毎晩見るくらいにはトラウマになる、とお姉ちゃんが言っていたが……これは私までトラウマになりそうだ。


「フーウェン様ー! イェルトー!」

「あっ! レシュル! 危ないから早く逃げて!」

「逃げるわけにいかないっスよ! そうっスよね、マルクスの旦那!」


 そう言ってルーガくんがマルクスさんに振り返った。

 しかし〈ファンキス〉ナンバーワンの虫嫌いの彼は……


「逃げたい……全速力でこの場から逃げ去ってしまいたい……虫がっ……あんなもに巨大な蜘蛛がっ!」


 百年の恋も冷めるヘタレっぷりを披露しているのだった。

 だがそんな風になってしまうのも無理もないだろう。

 今のマルクスさんは存分に魔法が使えない。クイーンスカルスパイダーの弱点である火属性魔法が出来ればまだマシだったはずだ。

 ひとまず敵とイェルトさんのステータスを確認しなきゃ!


イェルト・マイトス

・HP1050/1870

・MP72/180


 脳内でステータス画面を開き、孤軍奮闘していたイェルトさんのステータスを見てみるとHP1050と表示されていた。

 最大HPの1870からそこそこ減らされている。

 一方クイーンのHPは10000。HPは多いが弱点さえ突ければ一気にダメージを与えられるはずだ。

 今居るメンバーの中で炎属性が使えるのは……

 オリアーちゃんの時のように、一時的に仲間を示す青マーカーになったメンバーの技リストを確認する。

 アーサーは光、マルクスさんは雷、ルーガくんは土、イェルトさんは風系の技。レシュルくんは……


「……レシュルさん! バーンソードを使って下さい! 敵の弱点は炎属性です!」

「えっ、何でオレの技知ってるんですか?」

「聖霊の力です!」


 都合が悪い事があれば聖霊の力だと言ってしまえば、相手は何も言えない。

 私はレシュルくんがバーンソードを発動させるのを確認してから、続けて指示を出す。


「アーサーは子グモを蹴散らしながらイェルトさんの援護に回って!」

「蹴散らすっつってもこの数をか?」

「あの技覚えたじゃない! あれなら一気に倒せるはずだよ!」

「そうか、あの技だな……いいぜ! やってやるよ虫女!」


 バーンソードは剣に炎を纏わせる属性付与魔法の一種だ。

 自分が持つ属性なら魔導師でなくても付与出来る。レシュルくんが炎属性で本当に良かった。

 そしてアーサーがレベルアップで覚えた新技は、本来なら神殿でレベル上げをしてから手に入れたかった技だ。

 ザコなら一気に殲滅出来る広範囲技……その名も『微塵斬波(みじんざんは)』は敵を微塵切りにする衝撃波を生み出すこの戦闘にうってつけの剣技なのである。


「いくぜ! 微塵斬波!」


 わらわらと地面を歩く子蜘蛛達を一瞬で切り刻んでいくアーサー。


「レシュルさんはバーンソードを発動したままクイーンに集中攻撃して下さい! ルーガくんは弓でクイーンを狙って!」

「わかりました!」

「はいよっ!」


 これでひとまず安心だ。油断せずにいけば徐々にクイーンのHPは底を尽き、子供を産む体力もなくなっていくだろう。


クイーンスカルスパイダー

・HP7866/10000


 今もクイーンの残りHPは8000を下回り始めた。順調に戦闘をこなしている。

 しかしまだ問題が残っていた。私の後ろで青ざめて足が震えている魔導師……マルクスさんが機能停止状態なのだ。


「虫……蜘蛛……虫……蜘蛛……っ」


 ぶつぶつと虫、蜘蛛と呟き目が虚ろ。冷静沈着なマルクスさんはどこ行った。

 幸い敵の意識はこちらに向いていないからまだ良いものの、万が一この場にアヴァロンの連中が乱入してきた時には完全にマルクスさんが真っ先に殺られるだろう。


「マルクスさん! 気をしっかり持って下さい!」

「……はっ! そ、そうだ……今は戦闘の最中……敵…敵が虫……む、無理だ! 今の俺にはあの魔物と戦う力も度胸も無いっ」


 そう言ってマルクスさんは目を逸らし、固く目を瞑る。

 確かにあのクイーンは私だって気持ち悪いし怖い。だけど皆はフーウェン様を守ろうと必死に戦ってる。

 あの協調性の欠片も無かったアーサーが初対面のイェルトさんと協力してフーウェン様を守り、ルーガくんとレシュルくんは私達も守りながらクイーンと戦っている。


 虫が大嫌いなマルクスさんでも、いつかは苦手を克服してくれる。

 私も皆の仲間だもん。指示を出すだけの軍師の真似事以外にも出来る事があるはず!


 予想が正しければ、ここはゲームとリアルが入り混じった〈ファンキス〉の世界。

 トリップ初日からおかしな出来事の連続で、私の予想を超える異世界なのだ。

 やろうと思えば出来るかもしれない。


 試さないで後悔するなんて、私らしくないじゃない!


 ステータス画面を開き、アーサーのMPを確認する。


イドゥラアーサー・レオール

・HP2007/2560

・MP142/142


 MP142……どれだけの威力になるかも分からないけど、やるしかない!

 私はアーサーから魔力を吸収し、自分の中で特殊な魔力に変換出来る。

 試した事も無いし聞いた事も無いが、この奇妙な異世界でなら可能かもしれない。

 聖霊による攻撃、回復、防御、付与の魔法。

 本来の〈ファンキス〉では聖霊は神殿内の仕掛けを攻略する時ぐらいでしか魔力は使えない。

 しかし実際には誰も実行した事が無いだけで、本当は様々な魔法が使えるのかもしれない。私はその可能性を信じているのだ。


イドゥラアーサー・レオール

・HP2007/2560

・MP110/142


 私はアーサーから魔力を吸い出すイメージで集中すると、ステータス画面ではアーサーのMPが減少したのが確認出来た。

 魔力は入った。あの魔法が使えれば戦局が一気に有利になる。そうすればこの戦闘も早く終わって、マルクスさんも……

 術の詠唱をしようと口を開いたその時、死角から私の身体に何かが纏わりついて自由を奪われた。


「きゃあっ!」

「リンカちゃん!」


 どうやら私は知らぬ間に忍び寄ってきていた子蜘蛛に糸を吐かれたらしい。

 壁に固定され自由のきかない私に何匹もの子蜘蛛がにじり寄ってくる。

 迂闊だった……ちゃんとマップを確認してればこんな事にならなかったのに!


 この状況に気付いたルーガくんが助けに行こうとするも、クイーンが邪魔をして近付けない。

 他のメンバーもそれぞれ救援に来られない状況だ。

 どうしよう……聖霊は不死身じゃない……。私、ここで死んじゃうかも……


「リンカ!」


 諦めかけていたその時、鋭い叫びが洞窟内にこだまし、目の前の子蜘蛛達は炎に焼き尽くされた。


「彼女に……近付くな!」


 目を向けた先には、しっかりと前を向き凛々しく杖を構える稀代の天才魔導師マルクスの姿があった。



 

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