1.広がる病魔
異世界で初めての朝を迎え、宿屋で出された朝食を黙々と口に運ぶアーサー達。
私はマルクスさんに食べやすいようにと半分に千切ってもらったパンを食べながら、今後の予定について考えていた。
ルスク村から一番近い神殿は聖剣の神殿なのだが、それ以外の神殿となるとどこの神殿も同じくらい遠いのだ。
しかし、私は一度四つ目の神殿までは攻略しているしストーリーの流れも覚えている。この異世界がどこまでゲームに忠実に進行していくのかは、全く予想がつかないが。
アーサー、マルクスさん、ルーガくんともう一人。彼を仲間に加える事を優先して選ぶなら、王都キャメロットの神殿に向かえば良いはずだ。
キャメロットといえば、オリアーちゃんやファルータさん達も王都へ向かっていた。となると彼らのイベントも発生するのは確実だろう。
【幻のハーブを探して】というイベントで、私達がキャメロットに到着してすぐにファルータさんとシーチエさんに出会い、急に必要になったハーブを代わりに探してきてほしいと頼まれるのだ。
幻のハーブと呼ばれるフェグリス草はキャメロットの北にある洞窟に生えていてる。
イベントの内容を知っている私があらかじめフェグリス草を手に入れてからキャメロットに向かうように言えば、ファルータさん達もすぐに商品を用意出来るだろう。
朝食が終わったタイミングを見計らって、私は早速話を切り出した。
「キャメロットの神殿に向かいませんか?」
「キャメロットに?」
「何でキャメロットなんだ」
アーサーの反応が悪い。彼が王都に行きたくないのは知っているが、いつかは行かなければならない場所だ。
「王都なら人も多いですし、アヴァロンについて聞き込みをしてみる価値があると思います。敵について少しでも情報を得るべきです」
私は途中までしか攻略していないし、ネタバレを避ける為にコミカライズ版も途中までしか読んでいない。
アヴァロンのメンバーや苦手属性は分かっていても、彼らの本拠地や目的については全く知らない。
マルクスさんは私の言葉に頷くと、懐から地図を出してテーブルに広げた。
「リンカの言う通り、情報は何にも勝る力だ。キャメロットには大陸のあらゆる場所から人や物が集う。情報を得るには一番だろうな」
ルスク村は大陸の中央にあり、南東に進んだところに王都キャメロットがある。
「俺様はそれで構わないッスけど」
「俺も賛成だ。レオール、貴様はどうなんだ?」
「……チッ、仕方ねぇな」
特にキャメロット行きを反対する理由が見つからなかったアーサーは、渋々ながら了承してくれた。
さて、キャメロットに向かうのは確定したがフェグリス草の洞窟へ行くにはどうするべきか。それはまだ時間があるのでまた後で考えるとして……
「そうだ! まだルーガくんに説明してませんでしたよね」
「あ? 何をだよ」
「俺達の旅の目的だ。貴様が明日に説明すると言ったんだぞ。忘れたのか?」
「……んな事言ったか?」
「言ったッスよ!」
どうやらアーサーは本気で忘れているらしい。きっと最初から自分で説明する気がなかったせいだろう。
仕方が無いので私とマルクスさんがルーガくんに話す事にした。
「少し話が長くなるが……」
「大丈夫ッス」
「ならば初めに俺達が旅を始めた理由を説明しよう」
アーサーはログレス王国の国王、ユーサー・ペンドラゴンにエクスカリバーを入手するよう命じられた。
ユーサー王はアーサーの供として優秀な魔導師であるマルクスさんを呼び寄せて、二人は聖剣の神殿でエクスカリバーを手に入れた。
しかしエクスカリバーは聖なる光の力を失っており、本来の力を出せないでいる。
「エクスカリバーの光は世界の要とも言われている。どんな願いをも叶えるという聖杯を用い、病魔を祓う……それが王の、そして俺達の旅の目的だ」
「病魔って……」
「東の島、アルマクに蔓延している伝染病だね」
「致死率は百パーセント……。アルマク島全域に病が広がるのも時間の問題だろう。そして、いずれはこの大陸にも……」
「だから私達は神殿を回ってエクスカリバーに光を取り戻すんです」
アルマク島の伝染病の特効薬は完成していない。聖杯の奇跡の力に頼らなければならないほど、状況は緊迫しているのだ。
「じゃあ神殿を全部回ってエクスカリバーに力を取り戻して……」
「聖杯を見つけ出せば良い。しかし……」
「何か問題があるんスか?」
「神殿の場所に問題がある。七つの神殿の内の一つが、そのアルマク島にあるんだ」
「ええっ!? それヤバいッスよ!」
「それでも行くしかねぇんだよ。俺達が聖杯を見付けなきゃ世界が滅ぶ」
そう言ってアーサーはミルクを一気に飲み干した。
「責任重大すぎやしませんかそれ……」
「おまけにアヴァロンもエクスカリバーと聖杯を狙ってるみたいですしね」
「俺の命もな」
既にエクスカリバーの鞘はアヴァロンの手に渡っている。彼らの目的も聖杯なのだとすれば、私達が神殿を巡る事も分かっているだろう。
「アヴァロンが何を企んでんのか興味ねぇし知る気もねぇ。ただ病なんかで死ぬつもりはねぇから旅をするだけだ」
「話は分かったッス。世界中のかわいこちゃんの命がかかってるってんなら、協力するしか無いッスよね!」
「あはは……ありがとうルーガくん」
「さて、説明はこれくらいで良いだろう。アヴァロンに邪魔をされる前にキャメロットへ向かうぞ」
「はい!」
私達はキャメロット神殿に向けて出発した。