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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第3章 仲良くなりたい
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6.新たな仲間

 私の(精神的)危機を救ってくれたのは、口喧嘩をしながら食堂にやってきたアーサーとマルクスさんの二人だった。

 理由はさっぱり分からないが、奇跡的にアーサー、マルクスさん、ルーガくんの間で恋愛クロスイベントが発生してくれたお陰で密室でルーガくんにちゅーを強請られる危険性は無くなったのだ。


「旦那さん達……タイミング悪すぎッスよぉ」

「あ? 何のタイミングだよ」

「何ってそりゃ、俺様へのごほ……」

「き、気にしないで下さい! えーと、マルクスさんお水取りに来たんですよね? とりあえずそこに座って下さい!」

「あ、ああ……」

「私がコップ出すんでアーサーはお水をお願いします!」


 二人の前でとんでもない発言をしそうになったルーガくんの言葉を遮り、火照る頬を両手で扇ぎながら食器棚からガラスのコップを取り出した。

 何で俺が虫女に命令されなきゃなんねーんだよ、とぼそりと文句を吐いていたがそんな事は彼との旅では日常茶飯事なので私は特に気にしなかった。

 流石に水の入ったコップを運ぶのは腕力に自信の無い小さな聖霊の私には危ないので、マルクスさんとルーガくんが待つテーブルまでアーサーに運んでもらう。

 口も態度も悪いが根は良い奴なのがアーサー。まだ顔色の優れないマルクスさんにコップを差し出した。


「ほらよ」

「レオール、リンカ、感謝する。」


 そう言ってマルクスさんは水を喉に流し込んでいく。

 飲み込む度に動くマルクスさんの喉仏に見惚れていると、あっという間にコップの水を空にしてしまった。よほど喉が渇いていたのだろう。


「あれから体調はどうですか?」

「少しは落ち着いてきたが……あのロンドという男の仕掛けた魔法陣の影響で、存分に魔力を使えなくなってしまったようだ。今の俺の魔術では、キノコブリンを数体倒せるかどうか、という所だろう」

「魔導師封じか……敵さんもセコい事考えるもんッスねぇ」

「どうにかなんねぇのかよ。これ以上足手纏いが増えても邪魔になるだけだぜ」


 そう言いながらアーサーはちらりと私を見た。


 すみませんねぇ足手纏い第一号で!

 口に出したらどうなるか分からないので、心の中で言い返してやる事にした。


「マルクスの旦那さん、どうやったら魔力が元に戻るんスかね? アイテムとかでどうにかなったりしないんスか?」

「この類の魔法陣は、限りなく呪いの力に似たものだ。自力で解除するのは困難だろう」


 呪術は呪いをかけた本人がそれを解く。それが一番簡単な解決策だ。

 しかしロンドはそう簡単に魔法陣を解除したりはしないだろう。


「それじゃあこの先どうするんスか?」

「……方法はあります」


 私に三人の視線が集中する。


「どんな方法だ?」

「邪悪な呪いの力に打ち勝つには、聖なる光の力に頼るしかありません。エクスカリバー本来の力を取り戻していけば、マルクスさんにかかった魔法の力が弱まるはずです」

「それは本当なのか」

「はい、間違いありません」


 実は、私が最初聖剣の神殿でレベルを上げたかった理由はこれが関係していたのだ。

 ゲーム開始時、マルクスさんはアーサーの剣よりダメージが大きい魔法が使える。

 それはマルクスさんが稀代の魔導師であるという、『ストーリーの序盤は強い』キャラという設定によるステータス設定だったからなのだ。

 MPが高く十分に戦闘出来る序盤のうちにレベルアップしておけば、MP上限が下げられるロンド戦の後からはレベル上げ済みのアーサーが活躍してくれる寸法だった。

 それなのにこの世界では思うように事が運ばない。レベルを上げようにも神殿の敵が全く出現しなかったり、速すぎるロンドの登場でマルクスさんが弱体化してしまったり。


「エクスカリバーの力を取り戻すには、この世界アスタガイアに点在する七つの神殿を巡り、試練を乗り越える必要があるんです」

「神殿っていうとこの村の近くにもあるッスよね?」

「うん。大陸の中心にあるのが私とアーサー達が出会った【聖剣の神殿】で、そこを囲むように他の神殿があるんだよ」


 私の言葉にマルクスさんが顎に手をあてて考えるポーズをする。


「七つの神殿の内の一つが【聖剣の神殿】……となると、あの神殿の試練は何なんだ?」

「えっと……エクスカリバーの鞘を手に入れる事が試練だったと思います。でも……」

「鞘は変態野郎に持ってかれちまったからな」


 本来なら鞘がある隠し部屋でブラッディーウルフとの戦闘イベントが発生するはずだったのだが、代わりにそこで私達が戦ったのがアヴァロンのソナタ・リーアン・メランザーネ。通称ナス野郎だった。

 ソナタはアヴァロンからの命令でアーサーとエクスカリバーを手に入れる為に私達の前に現れ、鞘だけを持ち帰っていった。


「んー……そのアヴァロンってやつらがアーサーの旦那さんとエクスカリバーを狙ってて、俺様が戦ったのがアヴァロンのメンバーのロンドで……。そもそも何でアヴァロンは旦那さん方を襲って来るんスか?」


 ソナタの次に襲撃に来たロンド・シェルドンは、鞘を作る為に武器屋に預けていたエクスカリバーを強奪した。

 ソナタに痛手を与えたマルクスさんの魔法を制限し、アーサーを攫うつもりだったのだろうがイベント通りに助太刀に入ってくれたルーガくんのお陰でロンドを撃退出来た。

 一日に二度も襲って来るあたり、アヴァロンのメンバーが焦っているのだと推測出来る。


「多分アヴァロンは……」

「おい、言って良いのかよ。見ず知らずの野郎に余計な話ベラベラと……」


 アーサーはルーガくんを訝しそうに睨んで言った。


「マルクスさんがこんな状況だし、出来ればルーガくんに一緒に来てほしいと思ってるんだけど……ダメかな?」

「ああ?」


 何ほざいてんだてめぇ、とでも言いたげな目で睨まれるがここでルーガくんを仲間にしなければ後が大変な事になる。

 私は若干涙目になりながらも懸命にルーガくんのフォローに入った。


「ルーガくんの素早い攻撃とアーサーの剣があれば、絶対この先の旅に役立つと思うの! ロンドの時だってルーガくんが居なかったらどうなってたか分からないし……。マルクスさんもそう思いますよね?」

「……確かに、ルーチェは今後もアヴァロンからの使者が来る事を想定すると手放しがたい戦力だと言えるだろうな」

「リンカちゃんがそんなに俺様の腕を買ってくれてるなんてなぁー。俺様感激ッスよぉ!」


 ルーガくんは私やマルクスさんに褒められて嬉しそうだ。

 反対にアーサーはルーガくんばかりが褒められているのが気に入らないのか、さっきからテーブルを爪でトントントントンと叩いて不機嫌丸出しだった。


 こ、今度はアーサーをフォローしなきゃ……


「アーサーとルーガくんはタイプが違うから……ほら、空を飛ぶ敵にはルーガくんの弓が役に立つし、アーサーの剣は一撃が強いから大型の魔物向きでしょう? 仲間が増えれば戦闘の幅が広がるし、マルクスさんの力を取り戻す為にもルーガくんに協力してもらおうよ」


 私とマルクスさん、そしてルーガくんはアーサーに視線を集中させる。

 暫くするとアーサーは大きな溜め息を吐いて、椅子から立ち上がった。


「てめぇの実力は見せてもらったからな……俺達の旅の目的は明日にでも話してやる。鞘も完成したし夜も遅い。俺は先に休ませてもらうぜ」


 確かにアーサーの腰には真新しい鞘にエクスカリバーが収められていた。


「じゃあルーガくんも一緒に行って良いんだね!」

「役に立たねえと思ったらすぐに置いてくからな」

「俺様超役立っちゃうッスよー?」

「フン……」


 そうしてアーサーは一足先に部屋へ戻っていった。


「良かったねルーガくん!」

「これから宜しく頼む」

「こちらこそ宜しくッス!」


 こうして異世界アスタガイアでの初めての一日が終わりを迎えたのだった。



 

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