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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第3章 仲良くなりたい
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2.馬鹿犬のワルツ

 マルクスさんが放ったファイアアローは敵の武器によって掻き消され、ハイテンションな笑い声を響かせながら屋根の上の男は得物を振り下ろしてきた。


「ヒャッハァー!」

「下がって下さい!」


 私の指示を受ける前に身体が反射的に動いていたマルクスさんは、間一髪相手の攻撃を華麗なバックステップで避けた。

 そこまで高さのある屋根ではないものの、飛び降りた衝撃が脚に来たのか男は暫くうずくまり、その隙にマルクスさんはもう一度杖を構え、武器も無く鎧を脱いだ軽装のままのアーサーは体術で対抗するらしい。

 ゲームの頃の〈ファンキス〉でも武器を装備させていない場合、素手で戦う事も可能だったのだから出来なくはないのだろう。


「……ちっ、若干足捻ったかァ?」


 男の右手には武器屋から強奪したアーサーのエクスカリバーが、左手には彼の得意武器であるバルディッシュが握られている。

 ゆっくりと立ち上がった彼は、硬質そうな銀糸の髪を風に揺らし、ラピスラズリのように美しく煌めく切れ長の瞳をこちらに向けた。

 アーサーやマルクスさんに負けず劣らずの美男子。彼が纏う衣服はアヴァロンの幹部のみが身に着ける事が許された、ソナタと同じ黒のコート。

 アーサーとマルクスさんは瞬時にそれに気付き、さらに彼を警戒した。


「てめぇが俺のエクスカリバーをぶん取ってった犯人だな!」

「そのコート……貴様もアヴァロンの一味だな。その剣をこちらに返してもらおうか」


 二人の言葉に、男はニタリと笑ってこう返した。


「どうして俺様がァ、お前らの言う事なんか聞かなきゃならねェんだァ?」

「てんめぇ! 舐めた口きいてんじゃねえぞコラァ!!」


 間違い無い。この男にも見覚えがある。


「俺様はロンド・シェルドン! イメラ・ジロードの命によりィ、イドゥラアーサー・レオール及びエクスカリバーをいただきにきてやったぜェ! ヒャッハァ!!」

「……っ、速い!」


 いきなりマルクスさんを狙って再び武器を振り下ろしてきたロンドの攻撃。

 マルクスさんは予め詠唱保持しておいたファイアアローで威力を殺し、何とかその一撃に耐えた。


「今日一日だけで、何回襲いに来りゃ気が済むんだよっ!」


 続いてアーサーがロンドの背後に回り込み、何とかエクスカリバーを取り返そうとするもののそれはロンドの瞬発力により失敗に終わった。

 ロンド・シェルドン、通称犬野郎は〈ファンキス〉において人気投票ワースト二位を記録した、ソナタに次ぐ不人気キャラクターである。

 彼の武器バルディッシュは、東ヨーロッパからロシアで使用されたという長柄武器の一種。

 槍であるハルバードと同じ様に使えるものでもあるが、バルディッシュの刃は三日月形になっており、槍と斧の両面を併せ持った武器だ。

 斧のように簡単な装備の人間ならあっという間に両断してしまえるような、強力な一撃を浴びせる事が出来る。

 そんなロンドのバルディッシュの一撃は確実に大ダメージを与えてくる。

 普段は重く頑丈な鎧を身に纏っているアーサーだが、宿屋で休んでいる最中に起きた盗難事件だ。急いで部屋を飛び出したアーサーは通常より防御力が低い。

 下手したら、全滅する……!


 勿論以前のデータではルスク村でこんなイベントは経験していないし、紙装甲の魔導師であるマルクスさんと同じく紙で武器も無いアーサー達に勝ち目があるのかと問われたら、かなり絶望的な状況だ。


「ソナタから聞いたぜェ? お前らの事をなァ」

「それがどうしたってんだ!」

「そこの金髪のお前にィ、こっぴどくやられたらしいじゃねェかァ」


 このセリフ……やっぱりそうだ。あの子が出現する時のイベントと同じ!


「お前のその邪魔臭い魔術をさァ……使えなくしてやるよォ!」

「マルクスさん、逃げて!」


 ロンドの叫び声と共に、マルクスさんの足下に巨大な魔法陣が出現し重力に押さえ込まれるようにして膝をつく。


「間に合わなかった……」

「な……何だ、この魔法陣はッ……!」


 呼吸する事すら苦しいのか、マルクスさんはローブの胸元を強く握り締めて顔を歪ませ荒く息をしている。


「マルクスに何をしやがった!」

「俺様が仕掛けた罠にまんまと引っかかってくれてェ、一気に戦いが楽になりそうだぜェ」


 恐らくロンドは初めからマルクスさんを魔法陣に触れさせるように誘導して、彼を追い込むように攻撃していたのだろう。


「その魔法陣はとっくべつな魔法陣でよォ、相手の魔力を極限まで押さえ込む力があるんだぜェ? どうだァ? 無理矢理魔力を制限されるって気分はよォ!」

「くっ……」


マルクス・リッグ

・MP30/30


 マルクスさんのステータス画面を開くと、確かに彼のMP上限が30に激減していた。

 これではまともにロンドと渡り合う事など不可能だ。

 こうなる事が分かっていたのに、止められなかった……


 このロンド出現イベントは、ルスク村では発生しないはずだった。

 ただし、このイベントによく似たイベントが存在しているのだ。ここではない別の街で、ロンドにエクスカリバーを盗まれマルクスさんの魔力が封じられてしまう特殊イベント【大盗賊の円舞】。


「調子に乗ってるところ悪いッスけど、これはあっちの旦那さんに返してもらいますよ」


 ロンドが持っていたはずのエクスカリバーは、突然現れたミルクティー色の髪の青年の手によっていきなりの出来事に呆然としているアーサーの元へ戻された。


「うえっ、いつの間にィ!?」

「それ、大事な剣なんスよね?」

「お、おう」

「大事なもんなら簡単に無くしちゃだめッスよ。ああいう悪いやつに盗まれちゃうッスから」


 彼の名はルーガ・ルーチェ。

 人気投票四位の攻略対象であり、パーティメンバーの一人である。

 彼こそが【大盗賊の円舞】イベントにて登場する、ピンチに駆け付ける助っ人だ。


「さぁてと……小さなお姫様と絶体絶命の旦那さん方をお助けしちゃうッスよ! あいつに勝ったらご褒美にちゅーして下さい!」


 ルーガ・ルーチェ。

 彼は腕の良い戦闘要員であると同時に、〈ファンキス〉で一、二を争うチャラ男である……



 

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