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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第2章 森を抜けて
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6.イゲイルコンビ

 次々と空になり積み上げられていく皿。

 注文した全ての料理を平らげたオリアーちゃんは、満足そうに、分かりにくいもののうっすらと微笑んでいる。

 反対に私達はというと、何品もの料理の代金の事を考えて頭を抱えていた。


「……この料理代誰が支払うんだよ」


 オリアーちゃんには聞こえないように、アーサーがぼそりと呟いた。


「払えない事はないが……」

「鞘を買うお金、残りますか?」


 先程のゴブリン戦争でそこそこの収入はあったものの、オリアーちゃんがここまでの大食いだとは知らなかったし、エクスカリバーに合う鞘を買う為にどれだけの金が必要なのか私には分からない。

 純粋なゲームとしてプレイしていた時には、鞘単品で武器を購入するなんて事はなかったからだ。


「……ゴブリンの牙を売ればそれなりの金額にはなるだろう。問題無い」

「万が一金が足りなかったとしても、その辺で適当に魔物を倒せばどうにかなんだろ」

「そうですね」


 ひとまずお金の心配はしなくても良いらしい。

 ほっと一息吐いてオリアーちゃんを見やると、しっかりと両手を合わせて「ごちそうさまでした」と言っていた。


「腹はもう大丈夫か?」


 マルクスさんがそう問いかけると、彼はこくんと頷いた。

 会計を済ませて店を出ると、突然オリアーちゃんが走り出していったではないか。

 あれだけ食べた後によく走れるな……


「シーチエ! ファルータ!」


 村の一本道を全速力で走っていった彼は、向こう側から歩いて来ていた二人の男性にタックルするような勢いで飛び付いく。

 男性にしては少し小柄な、深い緑色の髪が肩まで届きそうな丸い眼鏡をかけた魔術師風の男性が尻餅をついてしまった。

 そんな勢いのあるタックルをひらりと避けたもう一人。スラリとした金髪の剣士風の男性は、オリアーちゃんに抱きつかれている男性に哀れむような視線を送っていた。

 私達は何が起きたのかいまいち状況が掴めなかったが、とりあえず彼らの下へ駆け付ける。


「痛いじゃないですか! もう、早く退きなさい!」

「ごめん、シーチエ」

「全く……何度もはぐれるようならついてくるなと何回言えば良いんだろうね」

「ごめん、ファルータ」


 シーチエと呼ばれた眼鏡の男性の上からオリアーちゃんが退き、立ち上がろうとするシーチエさんにマルクスさんが手を貸した。


「俺はマルクス・リッグだ。貴様らはオリアーの知り合いか?」

「ええ……。彼と共に、私達はキャメロットへ向かう途中です」


 立ち上がったシーチエさんはローブについた土を払い、ファルータと呼ばれた彼は相変わらず無表情のオリアーちゃんの頭をガシッと掴み、三人揃って私達に頭を下げてきた。


「見たところ、今回はあなた方にこの愚鈍が御迷惑をお掛けしてしまったようで申し訳ありませんでした」

「オリアーは気が付くとすぐにどこかへ行ってしまって……。毎回毎回彼を探すのにも苦労しますよ」

「そんな事はどうだって良い。それよりソイツが食った食事代、アンタらが払ってくれんだろうな?」


 顔を上げたシーチエさん達にアーサーが睨みを利かせる。

 うわぁ……よく初対面の人にそんな事言えるなぁ。

 ただ、私はやけにこの二人の顔に見覚えがあるような気がするのだ。


「勿論ですとも。それで、この方向音痴が貪った金額はおいくらなのですか?」

「6700スピリットだ」

「食い過ぎだ愚鈍っ」


 表情一つ変えずに、怒りを込めたファルータさんの拳がオリアーちゃんの頭に振り落とされた。

 余程痛かったのか、オリアーちゃんは涙目だった。


「では、その金額と迷惑料を纏めてお支払い致します。本当に申し訳ありませんでした」


 シーチエさんは懐から緑色のスピリットストーンを取り出し、マルクスさんのスピリットストーンにコツンと当てた。

 するとすぅっと緑の色が薄くなっていき、マルクスさんの石はその濃さを増していく。

 これは自分の所持スピリットを相手に譲渡する魂石の使い方の一つである。


「私はイゲイルで薬師をしているシーチエ・ルータと申します」

「俺はファルータ・イーロン。シーチエと同じくイゲイルの出身で、彼の働く薬品店の警備を担当しておりました」

「ほう、イゲイル薬品といえばログレス王国内で有名な店だな」

「おや、イゲイル薬品をご存知とは嬉しいですね。私達はこれから得意先へ商品をお届けに行くところだったのですよ」


 そうか、思い出した。

 イゲイル薬品のシーチエとファルータはキャメロットで出会うイベントキャラクターだった!

 薬師シーチエ、剣士ファルータのコンビはファンキスファンの間でそこそこ人気がある。

 身長がコンプレックスであるシーチエさんは、周りにからかわれるのが嫌であまり外に出ない生活をしていた為、大人になった今でも色白なガリ勉君。

 家に閉じ籠もって勉強ばかりしていた彼は女性と話す事が苦手で、未だ恋愛経験が無い。

 女性にちょっと褒められたり感謝されたりするだけで赤面してしまう、そんなところが可愛いのだと言われている。

 ファルータさんは比較的裕福な家庭で育ったものの、四男である為家を継げず、自分の力を必要としてくれる人を探していたところ強盗に襲われたイゲイル薬品から店の警備員として雇われた。

 幼い頃から培ってきた剣術の腕を生かす仕事に就き、職場で一人で居る事の多かったシーチエさんを哀れに思った彼が声を掛け、そこから友情を育んでいったのだ。

 このエピソードは漫画版で描かれているのだが、美形のファルータさんの方がファンが多いらしい。


「ええと……先程から気になっていたのですが、そちらの蝶の羽根の生えた小さな女性は何者なのですか?」

「ああ、彼女か。彼女は聖霊だ」

「聖霊、ですか?」

「はい! 私はエクスカリバーの聖霊、リンカと申します!」


 彼らは悪い人ではないので堂々と名乗る。

 シーチエさんもファルータさんも、それぞれ顎に手を当てて私を観察していた。


「エクスカリバーの聖霊……このルスク村に伝わる聖剣伝説に登場する、あの聖霊ですか?」

「ああ」

「……では、あなたの持つ剣がエクスカリバーで間違いありませんね?」

「そうだ。俺がコイツを抜いた。エクスカリバーは俺の物だ」

「でも、鞘無い……」


 ぽつりと呟いたオリアーちゃんのその一言に、アーサーは瞬時に顔を歪めた。


「奪われてしまったんです。アヴァロンという組織を聞いた事はありませんか?」

「いえ、そんな組織は知りませんね」

「俺もです。そのアヴァロンという連中に、鞘を強奪されたのですね」

「はい……」


 アヴァロン幹部の一人、ソナタ・リーアン・メランザーネ。

 本来登場しないはずのダンジョンで彼は私達の前に現れ、エクスカリバーの鞘を持ち去ったのだ。


「……そういえば、鞘が保管されていたあの隠し部屋へはリンカの力が無ければ入れないのではないのか?」

「……言われてみりゃそうだよな。おい虫女、何でアイツはあそこに居たんだよ」

「多分、彼らのもつ特殊な能力のせいだと思います。ソナタは私達の目の前で消えてしまいました。恐らくあの方法を使って侵入したんだと思います」


 あの黒く甘い香りの霧。

 あれが彼らの移動手段なのだろう。


「それじゃあどっからヤツらが来るか分からねえじゃねぇか!」

「常に気を張っていれば済む事だ」

「はい。彼らの気配なら私も察知出来ますから、気が付いたらすぐに言います」

「頼りにしているぞ、リンカ」

「はい、マルクスさん!」


 少しだけ微笑んでそう言ってくれたマルクスさん。

 私も自然と笑顔で答えていた。


「この愚鈍を拾って頂いた御礼も兼ねて、俺達も何かアヴァロンについて情報を入手したらお知らせします」

「そうか、それは有り難い。俺達も奴らについては分からない事だらけで困っていた。こちらも薬が入り用になればイゲイル薬品のものを買わせてもらおう」


 マルクスさんとシーチエさん、ファルータさんと渋々ながらアーサーも魂石を取り出し互いの石をぶつけ合った。

 これは互いの石を接触させる事により音声通信を可能にさせる機能で、現代でいう電話と同じようなものだ。

 魂石を使った通信は互いの石に登録した相手にしか出来ない。

 これで私達はシーチエさん達といつでも連絡を取れるようになったのだ。


「ところで、エクスカリバーの所有者である貴方のお名前をまだ伺っていませんでしたね」

「……イドゥラアーサー・レオール」

「レオール家……まさか貴方はっ」


 大声を上げそうになったシーチエさんを肘で注意したファルータさん。


「あなたがあのイドゥラアーサー・レオール様でしたか。こんなところでお会い出来るとは光栄です」

「…………」

「聖剣の新たな所持者があなたで良かった……。これでこの国は安泰ですね」

「ハッ、どうだかな。アヴァロンの連中は、どうやら俺の邪魔をするつもりらしいぜ」


 そう、彼らはアーサーの命を狙っているのだ。


「俺達はこれから行かなきゃならねえ場所がある。この話はこれで終いだ」


 一方的に会話を終了させたアーサーは、一人で先に武器屋へ向かってしまった。


「……では、私達はこれで失礼致します」

「この愚鈍が御世話になりました。道中お気をつけて」

「ああ、そちらもな」

「助けてくれて、ありがとう」

「また会えると良いですね」


 オリアーちゃん達に手を振ると、控え目ながら彼も手を振り返してくれた。

 こうしてオリアーちゃんとの短い旅は幕を閉じたのだった。



 

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