5.愛と悲しみと茸と筍
「……アレが助っ人か、虫女」
「は、はい」
「地獄絵図だな」
私が引き連れて来たタケノコブリン軍は、キノコブリン軍と激しい戦いを繰り広げていた。
カラフルなキノコ兜は紅の血に染まり、尖ったタケノコ兜がキノコブリン軍を襲う。
負けじとキノコブリン軍も毒の粉を撒き散らし、タケノコブリン軍を苦しめている。
お姉ちゃんから聞いてはいたけど、これは……
キノコもタケノコも私達には目もくれず、目の前の敵を倒す事だけを考えて血みどろの戦いに臨んでいる。
初めて見た血生臭い魔物同士の殺し合い──正しく〈キノコタケノコ戦争〉と言えるだろう。
この争いの原因を作ったのは私だが、これ以外にこの場を切り抜ける方法を思い付けなかったのだから仕方無い。
見ていて気分の良いものではないが、アーサーやマルクスさん、オリアーちゃんも勝敗の行方を静かに見守った。
「きのー!」
「たけー!」
体を貫かれ絶命するキノコブリン。毒で喘ぎ苦しみ地に伏せるタケノコブリン。
何百と居たはずのキノコとタケノコ達は、見る見るうちにその数を減らしていく。
そして、遂にキノコ・タケノコ両軍は一対一にまで追い詰められた。
どちらかが相手にとどめをさせば、この戦争の勝者が決まる。
「きの……!」
「たけ、たっけー!」
両軍大将、激突!
「アーサー、お願いします!」
「任せろ! てやぁっ!」
その瞬間、キノコとタケノコをエクスカリバーが切り裂いた。
「きのぉっ!」
「たけぇっ!」
森に二匹のゴブリンの断末魔の叫びが響き渡り、鮮やかな光と共に消滅していった。
「終わった、のか?」
「はい、これでもう暫くはゴブリンには襲われないと思いますよ。とどめの一撃、良かったですよアーサー!」
「ハッ、あんなザコ二匹軽すぎるぜ」
剣に付着した血を振り払い、戦場と化していた周囲を見回すアーサー。
「……じゃ、ドロップアイテムを回収するか」
魔物を倒すとアイテムを落としたり、お金を落とす事がある。
その為、今私達の足元には大量のゴブリンが落としたアイテム達が散らばっているのだった。
四人で全てのドロップアイテムとお金を回収すると、薬草やゴブリンの牙を大量に獲得出来た。お金も序盤にしてはそれなりの大金を手に入れた。
「ざっと見たところ、一万スピリットは集まったようだな」
マルクスさんの手には少し大きな青い石が握られている。
この石は魂石──〈スピリットストーン〉といって、魔物が倒された所に翳すと自動で〈スピリット〉というお金の役割を果たすエネルギーのようなものを吸収する特別な石で、〈スピリット〉を吸収すればする程その色が濃くなっていくのだ。
スピリットは魔物を倒す以外にも、仕事をしてATMの役割をする巨大なストーンからお金を引き出すようにして魂石にスピリットを移す事だって出来る。
簡単に言うと、ファンタジー世界の電子マネーだ。
色の濃さで大体の金額は把握出来るのだが、正確な所持金額を知りたい場合は店などで確認出来る。
私達のお財布管理担当のマルクスさんの魂石はサファイアのようなブルーだが、アーサーの魂石は燃えるような深紅の石だ。
魂石には色や形が様々あり、この世界の人々は皆自分好みの魂石を持ち歩いているのだ。
私は聖霊だから持ってないんだけどね……
「これだけのスピリットがあれば、貴様の鞘も買えるだろう」
「また面倒な魔物に襲われる前にさっさと行くぞ」
「そうしましょう! 村まで後少しです」
「俺、腹減った……」
ぎゅるるるる、とオリアーちゃんのお腹が空腹を主張した。
そういえば彼は、キノコブリンは食べられるのかと訊ねていた。怖いもの知らずなだけかと思っていたのだが、ただ単にお腹が減っていただけだったようだ。
「すげぇ音鳴ったぞコイツの腹……」
「そんなにお腹が空いていたんですか?」
コクンと頷くオリアーちゃん。何となくだが困ったような顔をしている気がする。
「俺、迷ったら動くなと言われたから、何も食べずに座っていた……」
「極端すぎんだろが!」
まさか彼は飲まず食わずで体育座りをキープしていたと言うのか。
「腹、減った……」
「それなら尚更村へ急ぐぞ。昼食を済ませてから武器屋へ向かう。良いなレオール」
「ああ、構わねえ」
こうしてオリアーちゃんのご飯を最優先にして森を抜け、歴史ある村【ルスク】に到着したのだった。
ルスク村は穏やかな時間の流れる農村で、プレイヤーが初めて訪れる事になる集落である。
近くに聖剣の神殿がある事から、古くからの様々な言い伝えが残っているらしい。
久し振りに訪れたのだから少し見て回りたいとも思うけど、今はオリアーちゃんに何か食べさせてあげないと危険だ。
どれだけ空腹なのか分からないけど、オリアーちゃんはふらふらしながらも私達の後をついてきている。
どうしてオリアーちゃんの仲間はきちんと彼に気を配っておかなかったのだろう。
下手をしたら彼は、あの森の中で飢え死にしていたかもしれないのに……




