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アーサー・リンカ  作者: 由岐
プロローグ
1/47

甘いキスの幻想

 私は後衛のマルクスさんの肩に乗せてもらう。

 彼の肩から敵味方を観察していると、後ろで防御魔法を詠唱していたルフレンくん目掛けて、すばしっこいキツネの魔物が飛びかかろうとしていた。


「ルーガくん!」

「はいよっ!」


 私の指示に従って、ルーガくんがルフレンくんの援護に入る。

 間一髪でルーガくんの放ったナイフが魔物にヒットし、無傷で済んだルフレンくんの詠唱が終わりパーティメンバーに防御膜が張られた。


「あ、ありがとう、ございます……」

「いいっていいって!」


 攻撃の邪魔をされたことに怒ったらしい。敵の狙いがルーガくんに集中してしまった。


「マルクスさん!」

「分かっている。レオール、いくぞ!」

「纏めて片付けてやるよ!」


 身軽に魔物達からの攻撃を回避して敵を引き付けるルーガくん。

 その隙にマルクスさんは武器に属性を付与する魔法の詠唱を開始し、すぐに魔物の弱点である炎の力が剣に宿った。


「喰らえっ! 猛火剣!」


 彼が炎を纏った剣を勢い良く振るうと、横一線に炎が飛んでいく。

 炎は魔物を焼き尽くし、巻き込まれそうになったルーガくんは抜群のジャンプ力でそれを避けていた。

 ルーガくんは苦笑いで彼に言う。


「ちょ、ちょっと危なかったッスよ! 俺様じゃなきゃ一緒に焼かれてましたよー?」

「ハッ、結果的に無事なら問題ねぇだろうが」

「酷いッスよぉ……」


 確かにルーガくんは無事だったが、万が一ということもある。

 私は眉を八の字にしてへこんでいるルーガくんを励ました。

 ありがと、と短い返事をした彼はいつもの笑顔に戻っていた。元気を取り戻してくれたようで何よりだ。

 一方、ルーガくんに暴言を吐いた彼はというと剣を鞘に収めて何食わぬ顔で地図を眺めていた。

 私達はそんな傍若無人な彼、イドゥラアーサー・レオールと共にこの世界を旅している。

 そして私は、彼の持つ聖剣エクスカリバーの聖霊だ。

 そう、彼はアーサー。エクスカリバーに選ばれし英雄である。私は彼を導く聖霊として生まれてきたのだ。


 このゲームの設定ではね。


 数年前に発売したVRRPG〈FANTASY OF SWEET KISS〉は、女性向けファンタジー恋愛ゲームだ。

 何故私が今更このゲームをプレイする気になったのか。

 私が借りた漫画を返そうと姉の部屋に入ると、テーブルの上に見慣れない一冊の単行本が目に入った。

 表紙のイラストがとても綺麗で、私は思わずそれを手に取っていた。


「お姉ちゃん、こんな漫画いつ買ったの? 凄いイケメンなんですけど」

「フッフッフ……流石我が妹ね。彼の良さが分かるなんて! 良いでしょアーサー様!」

「アーサー様?」


 自分が描いたわけでもないのに物凄いドヤ顔のお姉ちゃん。

 じっくり表紙を見てみると、そこに描かれたキャラクターに見覚えがあった。

 確かお姉ちゃんのスマホに、こんな赤い髪のキャラのラバーストラップが付いていたような気がする。

 その予想は当たっていたようで、私がこの作品に興味を持った途端お姉ちゃんは部屋中のありとあらゆるキャラクターグッズを目の前に並べ始めた。


「その漫画ね、私が大好きなVRゲームのコミカライズなのよ!」

「へぇ……。ねえ、この金髪の人も仲間なの?」

「そうなの! 彼はマルクスって言うんだけど、稀代の天才魔導師でね……!」


 それから私は、あっという間に〈FANTASY OF SWEET KISS〉の虜になったのだ。

 今日も私、浦鈴歌(うら りんか)はアーサーとその一行を導く聖霊になりきってVRの世界に浸っていた。

 〈FANTASY OF SWEET KISS〉略して〈ファンキス〉は、ヒロインが聖剣エクスカリバーの聖霊としてアーサー達と共に旅をして、お目当ての攻略対象の好感度を上げていき最後にはその彼と結ばれるという恋愛ゲームである。

 恋愛ゲームだけどRPGでもあるから、さっき倒したような魔物とも闘う。

 それに、女性向けにしてはちょっとグロテスクな敵だって登場する。そんな気持ち悪い敵から守ってもらう、というのもなかなかキュンとくるものだ。そこはもう慣れだね、慣れ。


 主人公であるエクスカリバーの聖霊は、蝶のような羽根が生えた小さな姿で、強力な魔法が使えたり仲間を回復したりすることは出来ない。

 その代わりに魔物の気配を感じ取って、仲間達に危険を知らせるサポート役として彼らの力になる。


 攻略対象となるキャラクターは全部で四人。それぞれ性格も戦闘手段にも特徴がある。

 お姉ちゃんは人気投票トップのイドゥラアーサー推しだったけど、私はこの四人の中から一番を決められない。

 最近のVRゲームやAI──ヴァーチャルリアリティーの技術や人工知能が進化しているせいだと思うが、まるで〈ファンキス〉の世界で生きる彼らが三次元の人間のように感じられてしまうのだ。

 彼らは決まったセリフ、決まった行動、決まったイベントをこなしているだけなのに、私の心はすっかり彼らの虜になっている。それ程このゲームは私にとって神ゲーだったのだ。


「おいリンカ。次はどこに行けば良い」


 地図を眺めていたアーサーの側に飛んでいき、プレイヤーの私にしか見えないマーカーが表示されている箇所を指差した。


「次の目的地はここなんだけど、そろそろ暗くなってきちゃうから近くの街で休んだ方が良いと思うよ」

「ここから一番近い街となると……サイリファだな。また魔物が襲ってこないとも限らない。善は急げだ」

「はいよー」

「歩くのだりぃな」

「あ……お、置いて行かないで下さい……!」


 途中何度か魔物の群れに遭遇したものの、無事にサイリファに到着した。

 宿屋に着いたところで区切りをつけて、ここでセーブしてまた後で旅を再開しよう。



 

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