却下だ
真面目に説明してくれているレキサには悪かったのだが、シヴァは説明開始十秒で聞く気が失せ、隣を歩いているレーネを何となく観察した。
腰まで伸びた金色の髪。よほど丁寧に手入れされているのだろう。驚くほどサラサラで綺麗だ。服もそうだ。所々破れているが、パッと見るだけで高級品と分かる。肌は雪のように白い。
道行く人が振り返る。「きれい」とか「可愛い」とか。そういう声がこそこそ聞こえる。
注目されているのはレーネだけじゃない。
レキサもだ。
王宮騎士団の面々は揃いも揃ってエリート中のエリートだが、レキサもその例に漏れず天才だ。いや、ちょっと違うかな。‘万能’と言った方が正しいか。
総合科、そして学年全体のテストで全て一位を獲得したのが三か月前の話。学校全体が大騒ぎになった。
で、想像つくと思うが、レキサはイケメンである。具体的に言うと、絵本の中の王子様をそのまま引っ張り出してきた感じ。
それだけでも歓声モノだというのに、レキサは誰に対しても必要以上に関わらない。それが女子達には『冷静沈着』『クール』だと大評判。
「で、王宮騎士団。王宮騎士団は……」
お、そうこうしている内にレキサの説明は王宮騎士団のことまで進んだようだ。
そろそろ王宮に入って、すぐに騎士団宿舎に着く。説明はもうすぐで終わりかな。
と、一際黄色い歓声が上がった。レキサかレーネか。男女混じり会ってたから両方? なんて思っていると、あからさまに嫌悪のこもった視線が突き刺さった。「何でこいつが」という声と舌打ちとともに。
レキサは説明を続けながらボソッと。本当にボソッと、シヴァにだけ聞こえる声で、
「……エリート中のエリート。君除いて」
そう言った。
返す言葉もなかった。
だってオレ自身が分かっていないのだから。何でオレが『王宮騎士団』に入っているのか。
エリートがあつまるこの学校。
そこでオレは‘落ちこぼれ’と呼ばれていた。
「ここまでいいか。説明以上」
オレの暗い雰囲気に気付いたのか、レキサは努めて明るく締めくくった。
___________
王宮騎士団宿舎。
御大層なレンガ造りの王宮の中にポツンと木の小屋が建っている。
「……これが?」
「そう」
「ああ」
正真正銘、王宮騎士団宿舎である。
レキサはつかつか歩き、迷いなく戸を開ける。『王宮騎士団』と手書きで書かれた木のプレートがカコンと音を立てる。
……うん。
エリート中のエリートが集まる宿舎とは到底思えないよな。
レキサに続きシヴァも中に入る。
奥にベットが五台。現在のメンバー分だ。
他はちょっとした物置と長机、人数分の椅子。少し大きい本棚。ちなみに全て木製。
椅子に座って一人本を読みふけっている男の向かい側に座る。
奥から順にレキサ、シヴァ、レーネ。
「あの、副隊長。ちょっと相談があ」
「却下だ」
「まだ何も言ってないんですが!」