オレは信じたい
「君が?」
清潔感溢れる白一色に囲まれた医務室の一室の端のベットに少女は腰かけていた。腕や足、さまざまな所に巻かれている包帯が何とも痛々しい。
少女はシーツを抱きかかえ怯えたようにレキサを見ていた。
仕方ないか、と思う。
「えーっと……レキサって言います。君は?」
「………」
無言。
レキサも無言。
シヴァは「はははは」と乾いた笑いをしながら割り込む。
「しょ、紹介するな。こいつはレキサ。オレの親友。で、彼女がレーネ。さっきも言った通り記憶喪失なんだって」
ぺこり。レーネは小さくだが会釈した。
レキサも会釈を返す。まだまだではあるが『挨拶』という第一問題は突破に成功したようだ。
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ふぅ。レキサはため息をこぼす。
「どう?」
「どうって?」
「レーネのこと」
あれからレキサは何個かの質問を彼女にした。「この国のことは覚えているか」
とか「ここがどこか分かるか」とか「些細なことでいい。名前以外で何か覚えていることはあるか」とか。
答えは全部ノーコメント。
レキサの提案でとりあえずレーネには待ってもらって、別室にて作戦会議中というわけである。
「情報が少なすぎるな。今のところは何も言えない。レーネ自身も……信用はできない。記憶喪失が嘘だという可能性も……」
「あるかもって!? ない! 絶対!」
思わず叫ぶ。
レキサの目がじっとシヴァを見た。
「根拠は?」
「ない、けど。レーネは怖がってた。何かに。初めてオレを見たとき、泣きそうな目してた。助けてって……言ってた。手が震えてた。それは嘘じゃないと思うし、オレは信じたい」
思い出す。
レーネの目。綺麗な金色の目。
「まぁ、記憶喪失自体は信じていいか」
「本当かっ!」
「だ、抱きつくな! うっとうしい!」
レキサが照れてる。
オレのクラスの女子が見たら「可愛い!」って大騒ぎになるんだろうなぁ。最も、学校にいるときのレキサは基本的に仏頂面だけど。
「で!? これからどうするつもりなわけ?」
「相談、する。できれば世話してもらえるとこがいい」
「あるわけねーだろ。そんな訳あり人間二つ返事で引き受けるとこなんか……」
オレは笑顔でレキサをみた。
レキサは無言で天井を見た。気付いたらしい。
「……あったな。一応」
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王宮騎士団。
王族と直接繋がる特別組織。
ここなら国の上層部に知られることなく、内々に解決することができる。
シヴァも。そしてレキサも、所属している。
幸いにして今の隊長は器大きく、それこそ二つ返事で引き受けるだろう。 授業でいないが、シヴァとレキサの友達もいいやつだ。困った少女をほっとくことはしない。
……一人除いて。
シヴァとレキサはこれから会いに行かねばならない、その一人『王宮騎士団一怖い副隊長』を思い出して、顔を見合わせると二人してため息をこぼした。