女の子、拾いました
「と、言うことで、女の子を拾いました」
シヴァはできうる限りの笑顔を心掛けて告げた。
対して、シヴァの目の前の少年は見事なまでに無表情である。
「なるほど。理解した」
「分かってくれたか、レキサ!」
『レキサ』と呼ばれた少年はクルリと踵を返すと、医務室の出入口に向かって歩き出
「帰る」
「帰んな!」
せなかった。
シヴァがレキサの腰にしがみついたからだ。
「離せ! 僕を厄介ごとに巻き込むな! 一人でやれ!」
レキサはどうにかしてシヴァをひっぺがそうと試みてみたもののシヴァの力は強く離れない。約一分間の攻防のすえ、さきに折れたのはレキサだった。
「で? 何だって?」
「聞いてくれるのかっ!?」
「聞くだけならな。もう一回言っとくぞ。聞くだけならな」
なぜかコバルトブルーの瞳を細めて二回繰り返した親友にシヴァは「もちろん分かっているさ!」という意味を込めてグッドサインを送る。
ため息をつかれた。
こほん。咳払いを一つして、シヴァは真剣な顔をした。
「散歩してたらさ。あ、サボりじゃなくて、昼休み。正確には昼休みちょっと前だけど、大丈夫! 授業は終わってたから! 先生には怒られたけど。怖いんだ、オレの担任の先生。レキサの方は美人の先生だったよね。いいなぁ。で、学校の噴水広場で……噴水広場分かる? オレの寮の部屋から左曲がって真っ直ぐ行ったら教室着くけど、その前に曲がり角があってそこを右に」
「長い長い長い長い! 道案内とかいいからさっさと本題話せよ、うっとうしい!」
「でもレキサ、寮違うし」
「寮違っても噴水広場くらいは分かるわ! 大体同じ学校だ!」
「でもレキサ、引きこもりだし」
「引きこもりは今関係ないだろ!」
シヴァとしては親切心のつもりだったのだが意外に短気な親友には逆効果だったようだ。
「それで、倒れてた女の子を見つけて」
「やっと本題か。で?」
疲れたような顔を見せるレキサに首を傾げながらシヴァは微笑んだ。
「拾いました」
「ごめん。前後の文脈がおかしいって感じているのは僕だけか?」
「ここにはオレとレキサしかいないぞ!」
「確認しておきたいんだけど女の子って表現するからには人間だよな? 実は‘メス’っていうオチじゃないよな?」
何を失礼なことを。
「あのね、レキサ。いくらオレでも人間の女の子を‘メス’とは言わないよ」
シヴァは少し怒る。
さすがに心外だ。
「じゃあさっきからなんだ! その『捨て猫でも拾いました』的ノリの軽さは!」
「だって拾ったんだもん」
事実しか言ってない。
拾ってしまったのだからしょうがない。
「……お前と話してても埒あかねぇな。その女の子はどこだ?」
「あ、いるよ。隣の部屋に」
「近っ! 先言えよ! 激しく時間の無駄だったじゃねーか!」
叫ぶとレキサはさっきとは別の扉に向かう。
どうやら直接話を聞くつもりらしい。
自分も一緒に行こうとしてシヴァはふとあることを思い出した。
「待ってレキサ」
「なんだよ」
かなりご立腹の様子。
本当は落ち着いてからゆっくり話そうと思っていたのだけど、彼女に会うならやはり予備知識は必要だろう。刺激はできるだけしたくないし。
「その子ね、‘記憶喪失’なんだって」
「……は?」