第8話 特に理不尽な暴力が賞金首を襲う
「おじゃましまーす。あ、邪魔だったら言ってください。すぐ帰りますんでー」
…………よし、どこからも反応が返ってくる様子はない。
にしても、外からは只の洞窟にしか見えなかったのに中は結構入り組んでるんだな。もしかして、隠れ家とするためにわざわざ掘ったのか?
人攫いってそんなに儲かんのかよ。仕入れた商品を売りさばける市場があるってことだもんな………知らない世界だ。出来るならずっと知らずにいたい世界だけどな。
さてと、母さんはどこに向かったんだろうか。とりあえず、壁や通路が抉れてたり騒がしい方向に進んではいるんだけども。途中で地面があり得ないくらい陥没してた時はどうやって渡ろうか悩んだけどな。…………っと、どうやら追いついたみたいだ。
洞窟の一番奥にある広間の様になった場所で悪そうな面をした男十数人と母さんは対峙していた。男たちの一番後ろの方で手配書に載っていた男が何か騒いでいる。状況だけみれば素手の母さんよりも剣や槍を構えた男たちの方が優勢になりそうなもんだが、明らかに母さんの方が追いつめていた。
何故なら、母さんの背後には男たちの仲間であろう十数人が気絶した状態で積み上げられていたからだ。
「さあ、いい加減に諦めて捕まったらどうなんだい。なぁに、痛くはしないよ。一瞬で終わらせてやるからさ」
「だ、誰がてめぇみたいな化け物の言うことなんざ信用するか! 俺の手下達を雑草かなんかのようにポンポン放り投げやがって!」
「お前さん達と比べるなんて雑草に失礼だろうに。それより、そっちから来ないんならこっちから行くよ」
「ヒ、ヒィッ……て、てめぇら、一斉に囲んじまえ! やつも腕は二本しかねぇんだ、数で押しつぶしちまえ!」
おお、あの状態からまだ戦う意志が残ってんのか。悪党のプライドってやつなんだろうけど、無駄に怪我してどうするんだろうなぁ。
ん? 戦ってんのは手下だけで賞金首のやつは一人だけこっちに近づいてきてるな。まさか、俺がいるのがばれた!? とかじゃなくて、一人だけで逃げるつもりだな。手下を見捨てて。おいおい、悪党のプライドはどこにいったんだ。俺が勝手に言ってただけだって? ごもっともです。
「あ、どうも」
「な、なんだてめぇ!あの女の仲間か!?」
でまぁ、一つしかない通路に隠れてる俺と、一つしかない通路から逃げようとする賞金首がいれば当然鉢合わせするわけですよ。
さっさと逃げろよって?はっはっは、戦いの観戦に夢中になって気が付くのが遅れたのさ!
「へへっ、しかしよく見たら只のガキじゃねぇか。子連れで賞金首狩りにくるなんざ、俺も嘗められたもんだなぁ、おい」
「いえいえ、私はただの通りすがりのものですので、あそこで暴れている人とは全く関係ありません」
「そんだけそっくりな顔して他人な訳があるか!あの化け物は無理でも、その娘くらいは冥土に送ってやらぁ!」
うわぁ、一瞬で俺の巧妙な嘘がバレター! こうなったら撤退てった…………ちょっと待てよ。今、こいつ何つった? 娘つったか? 俺のことを?
「誰が娘だこのふしあな野郎! 俺は歴とした男だっつの!! てめぇと同じもんが付いてるわ!!!」
「男だと………?」
「怪訝そうな顔してんじゃねぇよ! よし決めた、てめぇはぶっ倒す!!」
人には誰だって触れられたくない部分があることをこいつに教えてやろう!骨の一本や二本は覚悟しやがれこの野郎!!
男としての尊厳を掛けた戦いが今ここに始ま
「あがぎゃがぐが、く、首が抜け、頭が潰れ…………!!!」
「あんたは何を遊んでるんだい。珍しくやる気になったとこ悪いけど、終わったから帰るよ」
ると思ったが、その前に終わった。手下達をいつの間にかサクッと倒した母さんが、背後から賞金首の頭を鷲掴みにした状態で釣り上げていたからだ。釣り上げられた方は、痛すぎて気絶もできない地獄の苦しみを味わうという恐ろしい技だ。経験者が語るんだから間違いない。ウッ、頭が。
その後は、やっと気絶させてもらえた賞金首と既に気絶していた手下達を縄で縛り上げ、目覚めるのを待って休憩となった。
今回こそ俺の見せ場かと思ったが、そんなことは無かったぜ。
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