第5話 おいでませ不帰の森!
さて、いきなり暗雲の立ち込めた出発であったが、何とか準備も終わって不帰の森へと辿り着いた。
森の中は巨大な樹木が生い茂っており、昼間だというのにほとんど日の光が入らない状態だった。
そのせいで地面は常にぬかるんでおり、一歩踏み出すごとに足首の辺りまで埋まる始末だ。いや、正確に言うと俺一人の重さならそこまで埋まることはない。
ならば、なぜそんな状態になっているかというと
「いやぁ、久しぶりに来たけど相変わらず陰鬱な場所だねぇ。こっちまで気分が沈んでくるよ」
「いや母さん、そんな感想はいいから何で俺が母さんを肩車してるのか、この状況を説明して!?」
そう、この森に入るやいなや母さんは目にもとまらぬ俊敏な動きで、俺の肩の上に座っていた。
そういえば俺も昔は母さんに肩車されてたなぁ…………じゃなくて、何で乗ってくるかな!?
「そんなもの、足が汚れるからに決まっているじゃないか」
はいそうですね、そんなことだろうと思いました。俺は足どころか脛の部分まで汚れてるんですが、ああ、どうでもいいですか、そうですね。
…………しまいにゃ泣くぞ。
「ほらほら、ぶつぶつ言ってないで進んだ進んだ。他の誰かに見つけられる前に金の成る木、じゃなかった極悪人を探すよ」
「母さんまったく誤魔化せてないからな?」
「さて、何のことやら」
なんて楽しげに会話をしているが、この森に入ってから明らかに人ではないものの気配がそこら中に感じられている。これがもし俺一人だったら、すでに俺は劇的に減量することになっていただろう。
え、何でかって? そりゃあほら、目の前で白く輝く白骨死体となった先輩冒険者の人が身をもって教えてくれてるもの。
片手剣にバックラーと皮鎧という軽装備から見るに、駆け出しの冒険者だったのかもしれない。初めて人の死体を見たが、あまりに綺麗に白骨化しているために気持ち悪さといったものは感じないな。
一人だったのか仲間がいたのかは分からないが、ここで会ったのも何かの縁だろう。ちょっと手を合わせて供養していこう。
「ん?どうしたんだい急に立ち止まったりして」
「いや、そこの先輩冒険者に手を合わせていこうかと思って」
「何を言ってるんだい、あんなもんはここじゃ珍しくもないし、しかもあれは…………いや、それはいい考えだね。あたしはここで待ってるから行ってくるといい」
「え、何だよその気になる言い方」
「まあ、いいからいいから。ほら、相手が待ってるよ」
母さんが何か気になることを言ってたが、本人はすでに俺の肩から手近にあった枝へ移動済みだ。しかも、何か含みのある笑顔を浮かべてやがる。
それだけ俺の行動が青臭いということなんだろうが、こちとら初冒険だ。怖いものなんてあんまりないぜ!むしろ、何が怖いかもよくわかってないぜ!
しかし、近くで見ると何か薄く汚れてるなこの骨先輩。森の住人が荒らしていくのかね。ま、今はそんなことより供養供養っと。確か二回拍手して一回おじぎを
ズビシッ!
その時、俺の後頭部に電撃走る…………ッ!!
じゃなくて、この感じはあれだ、母さんの指弾だ。そしてあれだ、母さんが俺の後頭部に木の実かなんかを飛ばしたんだろう。俺キレてもいいよね?
「おい、母さんさすがにこれは非道」
ヒュンッ
俺の敬虔な気持ちを冒涜した母親に怒りをぶつけようと振り向こうとした瞬間、俺の顔の横を何かが下から上へと通り過ぎていった。
それと、モミアゲ辺りの髪の毛が何本かハラリと落ちていった。目線を動かして確認すると、通り過ぎていったのはギラリと光るナイスガイな片手剣さん。
その片手剣さんがさっきまで俺の頭のあった空間を刺し貫いていた。もうちょっとでも頭を動かすのが遅ければ、俺は顎下から脳天までの風通しを良くされていただろう。代金は命でな!
で、その片手剣で俺の頭部をビフォーアフターしてくれようとしたのは、さっきまでの無表情が嘘の様に両眼孔に赤々と光を燈した骨先輩だった。
さっき怖いものあんまりないとか生意気なこと言ったけど、訂正する。
今とんでもなく怖いわ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回も頑張ります 壁|д゜)