第2話 ちょっとした依頼(当社比)
思った通り、朝食のメニューは昨日俺が作った熊肉のシチューに川魚の香草焼きと野草のサラダだった。
まぁ、熊と魚を狩ってきたのは母さんだけどね。「食材かってくる」っていうから、商店でも行ったのかと思ったらあっという間に帰ってきたもんなぁ。
手ぶらで出掛けたからおかしいとは思ったけど、素手で狩ってくるとは。
我が母の事ながら恐ろ頼もしい。
「ほら、ちんたら食べてないでちゃっちゃと片付けちまいな。ちょっと準備もあるんだからね」
「そういえば、何か用事があるみたいな事言ってたけど何するんだよ」
「なぁに、あんたも今日で16歳だろ? 立派な大人の仲間入りを祝して一緒にちょっとした依頼にでも行こうかと思ってね」
と、俺の問いかけに対しそれはそれは楽しそうな笑みを浮かべて、母さんはそう答えた。
いや、確かに俺は今日で16歳になったし、世間では大人と見なされる年齢ではあるけど、それと依頼との繋がりが分からない。というよりも、分かりたくない!
俺の長年の経験(物心ついてから大体13年くらい)からして、母さんの言う「ちょっと」とか「少し」てのは全くあてにならないからな。
「ちなみに、その依頼って言うのは? また、村長さんとこの家畜を襲う害獣の退治?」
「いやいや、そんな依頼よりももっと心躍る依頼さ」
そう言いながら母さんが一枚の紙を手渡してきた。何やら人相の悪い男の顔が描かれ、細々した字やたくさん数字が書かれている。
そして一番目を引くのが、男の顔を横断するように書いてある「生死を問わず」の大きな文字。
「……最近の捜索願はだいぶ物騒な物言いをするんだなー。まるで賞金首の手配書みたいだー」
そうだ、これはこの男性の捜索願に違いない。生死を問わずって言うのもきっと、探し出して欲しいという依頼主の意志を反映しただけのものだよ。
どこの世界に、息子の誕生日祝いに賞金首狩りを計画する母親が居ると
「いいや。それはれっきとした手配書だよ」
ここに居ましたー!
「いや、おかしいだろ! 何が悲しくて誕生日に賞金首捜さなきゃならないんだよ!?」
「そいつは、最近王都の方で噂になってる人攫いの黒幕らしくてね。見てみな、懸賞金も大したもんじゃないか」
はい訴え全無視いただきましたー。しかも、懸賞金が高いってつまり危険ってことじゃね?
「そしてね、どうやら風の噂によると最近この辺りの森で、こいつと似た人相のやつを見たって人がいるらしいのさ」
「あー、はいはい。つまり、その森にこの男を捜しに行こうと。あわよくば捕まえようって?」
「ふふ、その通りさ。どうだい、心が躍るだろう?」
いいえ、全く躍りません。なんなら、俺の心は五体投地してます。しかし、何でこいつもこんな辺境の森なんかに………ん? この辺りの森?
「時に母さんつかぬことをお伺いしますが」
「何だい、その妙にかしこまった気持ちの悪いしゃべり方は」
「今のでだいぶ心が傷ついたけど、それは今はいいや。さっき言ってたこの辺りの森って、俺の記憶が間違ってなかったらあそこしかないよな?」
「そこで間違ってないよ。今からあんたと私で行くのは」
天然ダンジョン、人食い、現世の地獄など等、色んな名前で呼ばれてはいるけど、本来の名前は一つ
「不帰の森さ」