第20話 破滅は天使の姿をして現れる
会話文多め(当社比)
「ア…ス殿!目を覚……で……るよ、アリ…殿!」
「まだ、目…覚まさ……かい?」
「ど…しま…ょう、私命の恩……殺してし……ました……」
うーん、五月蝿いなぁ。もう少し寝かせてくれよ……
「仕方ない、少し荒療治でござるが。忍法・雷獣吼(弱)」
バヂヂッ
「うぎゃす!?」
掛け声とともに俺の腹部に置かれた疾風の手から、髪が逆立つ程度の衝撃と痛みが放射された。
いや、意識の半分以上が夢の世界に旅立っていた俺を引き戻すためとはいえ、ちょっとやりすぎじゃありませんかね?
「おお、目覚めたでござるかアリス殿」
「目覚めた瞬間にまた気絶するところだったけどな!」
あー、びっくりした。今、絶対全身の骨透けて見えてたろ。
「あ、あの大丈夫ですか……?すみません、私のせいで……」
「すまなかった。君たちは私の客人の上にマナの恩人だったんだね。本当に申し訳ない」
疾風の隣で娘さんと黒ローブが心配そうに平謝りしてるところをみると、どうやら誤解は解けたみたいだな。
「うん、まぁ、体中痛いけど生きてるからいいや。それと、その様子だと俺たちの要件は伝わってんのか?」
「ああ。ルシアからの手紙は確かに受け取ったよ。それにしても……あの魔術が直撃したというのに、もう動けるとは驚きだな」
「諸事情により身体の丈夫さには定評があるからな」
諸事情:母さんとの格闘訓練・母さん特製の罠地獄からの脱出訓練などなど
「にしても、気絶する直前に物凄い衝撃を喰らった気がしたんだけどあれは何だったんだ?」
「すみません、それは私のせいです……」
「もしかして、最後の水壁を放ったのは?」
「はい……私です。目が覚めたらアリスさんに炎が迫ってるのが見えて、慌ててしまって……」
「この子は生まれつき魔力量が多くてね。そのせいで、細かい魔力の調整や操作が苦手なんだ」
俺みたいにほとんど無いのも困るけど、多すぎるのも困るんだろうなぁ。にしても、あれだけの水を生じさせるなんて、どれだけの量なんだろうか。
「ふぅむ。あれだけの魔術を扱えるとなれば、とてつもない魔力量でござるな」
「ほんとうだよなぁ。そういえば母さんからの手紙には、何て書いてあったんだ?」
「簡単なことさ。君が16の誕生日を迎えたから、何かプレゼントをして欲しいんだそうだ」
「それを俺自身に取りにこさせるって、母さんは何を考えてるんだ……」
「ちなみに、この事を君にバラしたら殺す、とも書かれているから内密に頼むよ」
いよいよもって、何を考えてるんだ母さん……。祝いの品をもらう方が相手を脅すって、どんだけ常識知らずだよ。
いや、これは照れ隠しってやつか?これをネタにすれば、母さんに反撃……する前に存在ごと塵と消されるな。やめとこう。
「ああ、そういえば」
「ん、なんだい?」
「バレンティノって真っ赤なドレス着た女性から、グリモアさんに会いたいっていう伝言をあずかってるんだった」
バレンティノという名前を聞いた黒ローブ改めグリモアの反応は劇的だった。
「それはどこだ!どこでやつに会った!?」
「え、いや、マナが捕まってた廃墟で会って、ってちょ、力すっごい強い!肩砕けるくだける!」
え、さっきまでの冷静そうなグリモアさんはどこへ!?
しかも、魔術師だからひ弱だと勝手に思ってたけど半端じゃなく力が強い!
そして、息遣いが聞こえる距離に顔がある筈なのに、黒ローブのせいで全く見えない!不思議!
「あ、ああ、すまない。少し取り乱した。で、その女はバレンティノで間違いないのか?」
「いや、本人が言ってただけだからな、本当かどうかは分からない」
「それもそうか……」
で、今度は何かを考え始めたのか黙りこくるグリモアさん。さっきからやけに情緒が不安定な様子なんだけども、普段からこうなのか?
「なぁ、マナさん。あんたの師匠はいっつもあんなに騒がしのか?」
「いえ、いつもはとても物静かな人なんですけど……。あ、それと私の呼び方はマナで良いですよ。同い年なので」
「とてもそうは見えないんだが……。ああ、今のはマナが同い年に見えないってことじゃないからな?」
「ふふ、分かってますよ。疾風さんが言ってた通りの方みたいですね」
「拙者は本当のことしか言わないでござる」
「待て、俺が気絶してる間に何を吹き込んだ」
「何って、アリス殿の人狼討伐の武勇伝でござるよ?」
「とても活躍されたそうですね」
おおう、俺が気絶している間に俺の武勇伝がねつ造されてやがる。
ワーウルフ討伐したのは明らかに疾風だったように記憶してるんだけど。
そして、グリモアさんはいつまで悩んでるんだろうか。
「……マナ」
「はい。何でしょうか師匠」
「私は少し家を空けるから、留守を……ああいや、そこのアリス君と疾風君とともに少し旅をしてきなさい」
「はい、分かりました」
考えがまとまったのかと思ったら、とんでもない発言しおったでこの黒ローブ!
そして、マナも何で即答で了承してるのかな!?
「ちょーっと待った!話の展開が急すぎてついていけてない!説明を求める!」
「む、意外と細かいな君は」
「ごく普通の反応だと思うんだが」
俺はあんたが意外と大雑把で驚いてるけどな!
「いいかい。君の要件は誕生日祝いの品を受け取ることだね?」
「改めて言われると、情けなくなるがその通りだ」
「私は君に役立ちそうな研究の一部を送ろうと思っている」
「なるほど」
「しかし、私はすぐに出なければいけないので時間がない」
「さっき言ってたな」
「弟子のマナには研究成果のほとんどを伝授している」
「おお、すごいな」
「つまり、そういうことだ」
「どういうことだ!」
「簡単に言うと、マナから君に伝授させるから少しの間同行させてくれないか」
うーん、分かったような分からないような?
「では、マナのことを頼んだよ」
「いや、了承した覚えはないんだけど」
「ああそれと、私の弟子を傷物にした場合は存在ごと消滅させるから。では、頼んだよ」
…………あれだな、あの位の人になると呪文詠唱すら必要なく場所移動できるんだな。ピカッと光ったかと思ったら、もう居なかった。
そしてあれか、俺は何かをしくじった瞬間に存在ごと抹殺されるのか。
とんだ誕生日祝いだな!もうこれ呪いだろ!
「あー……アリス殿。生きてれば良いことがあるでござるよ」
「アリスさん、元気出してください」
「ああ、うん、ありがとう二人とも。でも、マナももう少し悩んでもよかったんじゃないか?」
「何故ですか。何も悩むことはないです」
「いや、ほら、見知らぬ男二人と一緒に旅をしろって危険だなと思わないか?」
「お二人ほどお強い方たちとなら、危険なことなんてないと思います」
おおう、そんなに真っ直ぐな瞳で俺を見つめないでくれ、まるで俺が間違っているみたいじゃないか。
あれ、俺の考え間違ってる?
「アリス殿」
「なんだよ」
「人生、諦めが肝心なことが多いでござるよ」
「俺の場合、諦めたら存在が消えるんだけどな」
いや。結果だけ見れば、魔術の才能がある可愛い女の子が一緒になってるから悪いことでもないのか?
ただ単に、俺が何も間違いを犯さなければいい話だしな。うん。
そう自分に言い聞かせておこう……
「そういえば、グリモアさんが言ってた研究てどんなのなんだ?」
「簡単に言えば、どんな人にでも魔術が使えるようにする研究……でしょうか」
な、なんだと……?誰にでも魔術が使えるようになる……だと?
それはつまり、俺のような魔術に対する才能が下に突き抜けてるやつでも大丈夫ということか……?
「そ、それはすぐに出来るもんなのか!?」
「準備が必要なので、すぐにとはいきませんけど」
「な、なるほど」
「二人とも、どうでござろう。今日はもう日が暮れるでござるから、続きは明日にしては?」
「もうそんな時間か」
「でもどうしましょう。そうすると、お二人が寝る場所がありません」
「ああ、それなら問題ない。疾風が俺の家まで飛ばしてくれるから」
「すぐに飛べるでござるが、忘れ物はないでござるか?」
「俺は大丈夫。マナは?」
「はい。私も大丈夫です」
「御意。それでは飛ぶでござる。忍法・風渡り!」
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